主人公がパーティから追放されて「戻ってこいって言われてももう遅い」をしてざまぁってする話 作:うみじゃけ
オリジナル:ファンタジー/冒険・バトル
タグ:R-15 AI本文利用 シリアス 人外 魔族 追放 もう遅い ざまぁ 曇らせ
安宿の狭い一室には、斜陽の橙色が痛々しいほど差し込んでいた。
テーブルの向こうに立つリーダー——カイゼルは、伏せられた瞳を頑なにこちらへ向けようとしない。背の低い木製テーブルを隔てたわずかな距離が、まるで底のない断崖のように感じられた。
すでに旅の荷物をすべて鞄に詰め終えている僕——カゲツの姿を、彼は一度だけ薄目で見つめ、絞り出すような低音で告げた。
「お前をパーティから追放する」
その言葉は、部屋に漂う埃すら凍りつかせるほど冷たく響いた。けれど僕は落胆も驚きもなく、小さく息を吐き出して受け止める。
「……わかった」
あまりにも静かな返答に、カイゼルの肩がぴくりと跳ねた。彼は耐えかねたように顔を上げ、すがりつくような、それでいて己の卑怯さを責めるような目で僕を射抜く。
「本当にそれでいいのか?」
「みんなに話したでしょ? 僕が魔族の血を引いている、魔族と人間のハーフだって」
「ああ。魔族は人間と敵対している種族……本来ならばハーフなんてあり得ないことだが、例外があったのだろう」
僕は視線を落として己の手をそっと見つめた。爪が黒く染まっている……あの時から抑えられない、かろうじて押し留めている異形の血が如実に現れていた。
「普段は人間とおんなじなんだけどね。本気を出すとどうにも魔族の部分が出ちゃうんだ。魔族の力を使わないのは意外と窮屈だから、誰の目にも入らないソロでのダンジョン攻略は楽しくって……そんな中、ランクが上がって君たちからパーティに誘われた」
「そうだ。話も合うし、連携もすぐうまく行った。楽しかった……楽しかったんだ……」
カイゼルの声がかすかに上擦る。彼は固く握りしめた拳を拳骨ごと叩きつけるようにテーブルに押し当て、歯を食いしばっていた。
「そしてこの前、いつものダンジョンに向かって……イレギュラーな敵が現れたんだよね」
「明らかに格上だった。誰か1人が逃げることも敵わずに全滅する……そう思っていた。そんな時、お前は……!」
「僕は隠していた魔族の力を使って、なんとかそいつを倒した。みんな怪我はあったけど、後遺症が残るほどの重症はなかった。そして……僕は今まで隠していた、魔族の血を引いていることをみんなに伝えた」
嘘をついて仲間で居続けることの恐ろしさに、耐えきれなくなったからだ。命を預け合った彼らにだけは、誠実でありたかった。
カイゼルは顔を歪め、己の無力さを打ち砕くように苦しく喘いだ。
「……本当なら、こんなこと言いたくない。エリナだって『カゲツが魔族だろうと関係ない、今まで通り一緒にご飯を食べよう』って泣きながら俺に噛みついたんだ。ルークだって『カゲツさんは僕らの命の恩人です、追放なんて間違してます』って、あんなに気気弱な奴が最後まで俺に食ってかかってきた」
脳裏に怒りで瞳を濡らしていた少女の顔や、必死に自分の袖を引っ張っていた少年の姿が浮かぶ。
胸の奥がぎゅっと締め付けられるように痛む。誰も僕を嫌っていない。誰の心にも悪意なんてない。それが、どれほど残酷か。
「カゲツ……俺たちはみんな、お前を仲間として受け入れたい……だが、魔族をパーティに迎えたままでは今後俺たちのパーティが、家族が、どうなるかわからないんだ……政治的にも、法律的にも、世間的にも」
「わかってる。強くなったとしても僕らはただの冒険者だ。勝てないものもあるし、逃げられないものもある」
そう。世間の偏見や法律という巨大な仕組みの前では、僕らが積み重ねてきた絆などあまりにも脆い。僕をかばえば、彼らが築いてきた居場所も、街に残した家族の暮らしもすべて破滅する。
「このことは絶対に公言しないと誓う。契約魔法は痕がつくため使わないが、絶対に言わないと誓う! これは全員の、パーティの総意だ! ……だから改めて言わせてくれ。お前を、パーティから追放する」
カイゼルの決意を秘めた言葉に僕は頷くしかできなかった。
「うん。元気でね……楽しかったよ、毎日ずっと」
「俺たちもだ」
二人の間に、冷たくも温かい時間が重く沈んでいく。僕は泣きそうになるのを押し殺し、作り物の笑顔を浮かべて見せた。
「それなら良かった……ねえ、カイゼル」
「なんだよ」
「……泣かないでよ。僕がパーティに入って、いなくなる……ただそれだけなんだから」
その一言が、カイゼルの耐えていた境界線を決壊させた。
「そんな……それだけなわけあるか! 何度お前と冒険を共にした! 何度お前と飯を共にした! 何度お前と……お前と…………行かないでくれ! 戻ってきてくれ!!」
カイゼルがテーブルを蹴倒す勢いで身を乗り出し、僕の肩を激しく掴んだ。
大粒の涙が彼の頬を伝い、僕の服の胸元にぽたぽたと染み込んでいく。肩に伝わるその手の震えとぬくもりが、痛いほど僕の心を揺さぶる。
嬉しいと思ってしまった。これほどまでに自分を求めてくれる人がいたことが。
だからこそ――僕はこの手を離さなければならない。
僕は彼の腕にそっと手を添え、人間離れした膂力で、静かに、けれど二度と戻らない意思を込めてその腕を解いた。
「……もう遅いんだよ」
背を向け、宿屋を出た。街はすっかり夜の闇に包まれている。
明日からどう生きていけばいいのか、どこへ向かえばいいのか、何一つ決まっていない。恨むこともできず、自分を責めることもできず、胸の奥に渦巻く黒く重い「やりきれなさ」が体を内側から焼き焦がしていくようだった。
気づけば足は、人間たちの領域を外れたダンジョンの入り口へと向かっていた。
地下の暗闇へ足を踏み入れ、僕は人間としての仮面を剥ぎ取った。
全身が硬質化した青い肌に変化して、過剰な魔力が周囲の空気を強く震わせる。
「————ッ!!」
声にならない咆哮とともに、襲いかかってくる魔物の群れへ飛び込んだ。
爪で肉を裂き、魔力の濁流で壁ごと敵を吹き飛ばす。
内に溜まったモヤモヤを吐き出すように、がむしゃらに暴れ回る。返り血が顔を濡らし、怪物の叫び声が洞窟に響き渡った。
——けれど、どれだけ壊しても胸の空洞は埋まらない。
荒い息を吐きながら立ち尽くす僕の頭裏に、眩しいほどの思い出が浮かんできた。
『ほらカゲツ、もっと食え! 飯を食わなきゃ力が出ねえぞ!』
笑いながら自分の皿に大盛りの肉を放り込んできたカイゼル。
『まったく、カイは豪快すぎるのよ。ほらカゲツ、口拭きなさい』
呆れながらも温かいタオルを差し出してくれたエリナ。
『カゲツさんがパーティに来てくれて、僕、本当に心強いんです』
はにかみながらそう言ってくれたルーク。
誰の目にも触れない地下で一人寂しく戦っていた自分に、あたたかな居場所をくれた大切な人たち。
『——なあ、カゲツ。明日はどこに行く? 俺たちならどこへだっていけるぞ!』
荒い呼吸を整え、血を滴らせながら、僕は静かに目を閉じる。
「……できないよ」
あたたかな記憶は夜の闇に溶けて消え、残されたのは冷たい洞窟の静寂だけだった。
「ざまぁみろだ、人間の真似をした……罰だ」
ポツリと溢れた答えは誰の耳にも届かない。
僕は再び爪を握り締め、さらなる深淵の闇を目指して、一人歩き出した。
続きは思いつかないので終わりです