男を破滅させるタイプの小悪魔系ギャルが八十稲羽に転がっていますがソイツ男です 作:rikka
『放課後に残ってもらって本当にごめん。悪いとは思ってる』
俺がチカ――如月千影という奴と知り合ってしばらくが経った頃を、ふと思い出していた。
服装だけじゃなく発言も行動も自由な小学生だった奴がある日、比較的仲の良い連中だけを教室に残して、変な話を始めた時がある。
いつも笑顔を絶やさない奴が、珍しく真面目な――というか不可解な顔をしていた時だ。
『聞く価値がないと思ったら席を立ってもらっていい。うん、単なる俺の『夢』の話なんだ。ただ妙にリアルで、それが続いているからちょっと吐き出して整理したいんだ』
チカの奴は、小学校の時から顔が広かった。
女の格好し続ける変な奴と言われて笑われ続けても、ガキの俺からしてもヒデェと思う声を投げられても平然とし続けていた。
だからか、気が付いたら奴の周りには人が普通に集まるようになっていた。
奴の『時間のある奴は放課後残ってくれ』という雑な一言で、それなりの数がこうして教室に集まるくらいには。
小学生の、今よりも幼い顔立ちで可愛かったチカは集まった連中を前に教壇に立ち、そして話す。
『さて、本題なんだけど…………最近、思う事があって……』
『ひょっとしたら、一日は二十四時間じゃなかったかもしれない』
チカが深刻な顔で、そう切り出した。
まるで歯医者行きが決定した前日みてぇに顔色を悪くして、恐らくチカ自身は大真面目だったのだろう。
切り出して、様子を見て、そしてため息を吐く。
『半分、か』
集まっていた人間の半数が、荷物を持って去っていた。
『いや、いい。馬鹿な話を始めたのはアタシだ。他の奴も好きなタイミングで帰ってもらって構わない』
……そういえば、いつからかアイツ、テメェの事を『アタシ』じゃなくて『俺』って言いだすようになったな。
『一週間前の事だ、夜中に突然誰かに呼ばれた気がして目が覚めたんだが、その時の様子が明らかにおかしかったんだ』
本当に恐怖した様子のアイツの姿に、好奇心か、あるいは心配の様子を見せる奴もいた。
家の手伝いがない水曜日にいつもチカと総菜大学の前で駄弁っている酒屋の息子は面白そうに聞いていて。
『そこらが血に濡れているし、外を見れば電灯とは違う緑の――月明かりのようなそうでもないような明かりで照らされているんだ。時計を見るといつも12時ピッタリを指してて、早く眠りたいときいつも邪魔に思っていた秒針の動く音もしないんだ』
最近チカが犬の散歩に付き合っている松永って小せえ女は、あん時も残って耳を傾けていた。
『怖くなって下にいる親の所に駆け込むけど誰も居なくて、代わりに棺桶が二つ突っ立ってる。ワケが分からないだろう? 夢だとは思うんだが、この棺桶含めて全部毎日同じ夢を繰り返してるんだ』
今でも覚えているくらい怖がっていた。
怖ぇならさっさと席立ちゃいいのに、当時も思っていた。
『……そうか。山田、お前達も行くのか……いや、いい。むしろよく付き合ってくれた。呼び止めて悪かった』
他の連中みたいに。
ただの怖い夢の話なんだ。
『他の奴も立ってくれて構わない。やっぱ、ただ毎日同じ夢を見ているだけなのかもしれねぇ……。いいから話せ? あぁ、いや……すまねぇ完二』
実際、馬鹿な話を――しねぇわけじゃねぇがそれならそれらしく言う。
本当になにか気にかかるからこうして話をしているのだろう。
『そんでそんな夢が、この一週間ずっと続いているんだ。ずっと、毎日。見ていた気がするとかじゃない。気になって今日は初めて外に出たんだ。そしたらこう、ドロドロしたスライムみたいな奴が現れてズリズリこっちに近寄ったかと思えば姿を変えて、筋肉ムキムキのデカイ巨人の姿になて殴りかかって来たんだ。ああ……幼稚園ン時、昼寝時間のおねしょをからかって悪かった竹山。夢の中でもビビれば下は緩くなるよ。身を以て知った』
『本当にすまなかったな、竹山。竹山? 竹山ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!』
とはいえ内容は頭の悪い夢には変わりねぇ。
とうとう比較的仲のいい竹山まで席を立った。
竹山は何も言わず荷物をまとめ、立ち上がるとそのままフリフリした服装のチカの後ろに回って、無言のままガチめのショークスリーパーを掛け始める。
酒屋の小西は爆笑して、松永は……確か困ってオロオロしてたか。
何という事のない小学校時代の一幕だ。
俺がこの時のチカの話を改めて鮮明に思い出すのは、この話自体も簡単には思い出せない程の思い出となった、何年も後の事だった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
とにかく殴る。殴って蹴る。
本来の俺の戦い方は遠心力を利用した蹴りを連続で当て続けて押し切るスタイルだが、これだけのデカブツ――それも完全に効いてないコイツらにそれをやると却って反撃をもらってしまう。
デカブツ共が二人の元に行かせないように牽制の打撃を入れながら相手の動きを観察し、攻撃の予兆を察知して回避する。
――ラクンダッ!
後ろの方で銃声みたいな炸裂音と共にペルソナの力が発動する。
桐城という先輩が余力を振り絞ってサポートしてくれているのだ。
「どうだ?」
「ダメッス! やっぱ根本的に効いてねぇ。0に何掛けても変わんねぇように、補助スキル程度じゃ通らないッス!!」
余力のある――ただし戦闘できるほどではない桐条先輩がペルソナを使って援護してくれているが……。
「さっきの耐性解除魔法は!? アレやってからの氷結魔法は確実に効いてましたけど……っ」
「……すまない、気力の限界らしい。攻撃系もそうだがペルソナが発動しない。連続しての発動は……時間を置かねば難しいだろう」
やはり限界ギリギリまで戦っていたせいか、もうほとんどガス欠のようだ。
こっちの戦いを警戒しながらバイクに積んでた機材を弄って、さっきからどこかとの通信を何度も試みている。
「となれば……っ」
桐城先輩みたいに魔法が使えるペルソナならば撃てる手が増えるかもしれないが、俺の『ランマル』はなんというか……自分の体力削ってでもとにかく大きなダメージを与えるという物理仕様だ。
空気を淀ませることで『ランマル』の技の追加効果を付与しやすくする事も出来るのだが、どういうわけかこのデカブツ二体は中々異常が起きない。
ひょっとしたらコレにも耐性が付いているのかもしれない。
クソ、ひたすらに硬くて倒れないってだけでこうまで厄介とは……っ!
(技の乱発はそのままコッチの消耗になる。だけどステゴロだけじゃあどっちか片方が向こうに抜けちまう……っ)
片方を殴りつつもう片方を牽制するには、ペルソナの力が必須だ。
コイツラも魔法技が効きづらい事に気付いたのか、杖の殴りや剣での斬撃が主体となっている。
だったらそのまま俺を殴り続けてくれりゃいいんだが、それでも隙を見せれば魔法や斬撃を飛ばして桐城さん達の方を攻撃しようとしやがる。
「っ、『両腕落とし』!!」
出来るだけ負担が少ない技を撃つ。
先ほどから何度も連発している、牽制用の技。
魔法を撃つ予兆である杖を振り始めた青い方に発動させたソレは二発の斬撃を目標の上に発生させ、そのまま真下に発射される。
そのまま効いていない証拠である乾いた音が――響かない。
――ズゥゥン!!
まともに斬撃を受けた青い女帝は地面に叩きつけられ、地面に倒れ込んでいた。
「……は? っ、やべ」
一瞬その光景に気を取られている内に赤い王様がタックルしてきた。
咄嗟にバク転で躱しながら距離を測り直す。
そのついでに女帝様の姿も確認するが、やはり最初に赤い方にポイズンアローぶち込んだ時のようにダウンしている。
「……そうか。先輩!」
「なにかわかったか?」
「多分コイツら、耐性が一定時間ごとに変化してるんス!」
「……っ、なるほど……ペルソナ能力はともかく、岳羽の矢に私のレイピア。どちらも『刺す』攻撃だ。それで攻撃の種類が重なり、更に通りにくくなっていたのか。だから我々の目には、奴らが無敵に見えていた……」
逆に言えば、攻撃手段が豊富にあれば漏れた穴に引っかかりやすくなる!
「先輩、頭数はここにいるので全部ですか!?」
「今通信の回復に徹しているが、上手くいけば三人はこちらに来れる。うち一人は、ペルソナの付け替えが可能だ」
なにそのチート能力!?
いや、今はいい。
そんな能力あんなら猶更都合がいい!
「このまま時間稼ぎに徹します! 援護はもういいんで回復を!」
「……すまない。頼む」
時間稼ぎだけならまだまだ体力は有り余っている!
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「美鶴! 無事か!」
本来ならば必ず目にするエントランス――タルタロスと呼ばれるこの塔の入り口を今夜は初めて目にしていた。
イジメで体育倉庫に閉じ込められ、そのままこのタルタロスに迷い込んでしまった『山岸風花』という女生徒を救うために、体育倉庫からそのまま『影時間』による学園の変異を待って侵入した。
その結果が――
「明彦! 問題ない、それより彼女への加勢を頼む!」
想像していた最悪の光景はなかった。
激戦のためかバイクは機材事破壊され、その側で倒れている岳羽を美鶴が保護している。
――今までのより……ずっと大きい……しかも……誰かが一人で戦っている……。
自分たちについてきているもう一人、探知に関する力の片鱗を見せる『山岸風花』が感じたという戦っている気配が一人だけだったのが不安だったが……
「彼女だと?」
片方がやられているのかと思いきや、両方やられての知らない第三者の介入が起こっていた。
「……あの子は」
「一昨日の可愛いヤンキーっ
後ろの後輩たちが騒ぎ出す。
正確には一人だけだが。
「報告にあった、助けに入った少女か。だが――」
一人の少女が、大型シャドウ二体を相手に立ち回っていた。
撃ち落とされた雷撃を飛び退き避け、そのまま逆立ちしたかと思えばクルクルと回り、遠心力を利用して鋭い蹴りを放つ。
そして――
「クソ、補助が切れた……っ、『ランマル』!!」
召喚機を使わずに、安定したままペルソナを使用してみせた。
彼女の内から出現したカードのような物を蹴り砕くと同時に和を思わせるペルソナが出現し、自身に
順平はまた騒ぎ、主力である有里は小さく「へぇ……」と小さな声を漏らす。
やはり前線の指揮を務めているだけあって、冷静だ。
「気をつけろ。彼女が言うには、コイツらは一定のタイミングで耐性を変化させているらしい。私も岳羽も、それで攻撃が通らなかった」
手段が多くないと詰む相手か。
道理で二人ともボロボロな訳だ!
「やっぱヒゲの先輩らもそうだったか」
そして、ギリギリの所で最悪の状況を防いでくれたのがコイツか。
厚めのジャケットに袖を通した、見覚えのないセーラー服の少女。
おそらくは中学生くらいの女の子が、美鶴や岳羽を狙おうとする一体を蹴りで牽制する。
「すいませんヒゲの先輩ら、加勢お願いシャッス! 一気にボコせば誰かの攻撃は入るハズッスから!」
「ひ、ヒゲのって……ってか君なんで普通に……あぁもう!」
判断力も悪くない。
すでに有里も美鶴や岳羽を守るように動いていて、順平もその後に続いている。
「……!?」
だが、その有里の足が一瞬止まる。
止まって、入口の方を見て驚愕している。
「どうしたよリーダー……って」
続いていた順平も、同じ方向を見て驚愕する。
「おい、アイツ……!?」
入口から、また別の少女がフラフラと入って来ていた。
戦っている奴とは違う、少し前まで見ていた顔だ。
――ふ……風花……。
わざと焼いた肌が特徴の、月光館学院の制服を来た少女。
「バカな、何故来た!?」
森山夏紀。
シャドウに呼ばれる可能性が高いとして美鶴がウチの寮に避難させた、山岸へのイジめに加担していた内の一人だった。
「まさか……森山さん!?」
彼女の登場に美鶴は驚愕し、そして被害者であった山岸は、とっさに彼女めがけて走り出している。
「無茶だ! 戻れ!」
とっさに叫ぶ間にも、森山の登場に足を止めてしまった俺たちの隙をついて、二体が山岸目掛けて迫る。
――っ、のお! 行かせるか、『ポイズンアロー』!!
――『オルフェウス』!!
だが、それに合わせてあの少女と、有里が牽制に動いた。
女が赤い方を攻撃するのに合わせて、有里が青い個体めがけて爆炎を起こす。
「順平! 加勢するぞ!」
「う、うす! 来い! 『ヘルメス』!!」
山岸と森山、両名が何かを話している。
この時間の中、本来の適正がないのにここまで歩いてきた森山は相当体力を消耗しているのだろう。
その場に膝を付きながら、ポツポツと山岸に向けて、何か言葉を零している。
「『ジオ』!」
「『マハラギ』!」
耐性が分からない初見のシャドウを相手にするのと同じく、魔法を当てて様子を見る。
一方、剣を持った赤い個体は、あの少女と有里の即席コンビが押さえている。
――サポートする。『オモイカネ』、リベリオン!
――っしゃあ! あざッス! オルァッ!!
複数の物理系スキルを持っているらしい少女が前衛を受け持ち、有里はペルソナを次々に付け替えながら少女を強化し、敵に阻害をかけながら足を止めている。
「まっず……、真田先輩! どっちもハズレっぽいです!」
「くっ、『ポリデュークス』!!!」
逆にこちらの組み合わせは、今の個体には噛み合っていなかった。
とっさにペルソナに殴らせるが、これも今は耐性があるようだ。
それを受けて平然としている青い奴が杖を振るい、俺と順平に電撃を降らせる。
「くう……っ!」
俺は『ポリデュークス』の影響で耐えられる。
だが、順平にはよく効いたようだ。
立ってこそいるが体が痺れ、少しの間動きが止まっている。
その間に、青いシャドウは山岸と森山の元へと進んでしまう。
「有里!」
俺が叫ぶと、少女が赤い方の敵にさらに詰め寄り、攻勢を強める。
様子からして全て効いていないようだが、それでも動きの阻害にはなっている。
有里をフリーにするための攻勢に違いない。
同じように判断したのだろう有里は青いシャドウに――そして、戦いと無縁である二人の少女へと向き合う。
「おい! 危ねぇ!」
まだ痺れの影響が抜けきっていない順平が、それでも二人に向かって叫ぶ。
走ってくれ、逃げてくれ、そういう意味を込めて。
「私が……」
だが、山岸は振り向くだけだった。
その手に、俺が渡した『お守り』を手にして。
「私が……守らなきゃ!」
青い巨体が近づき、杖を振り上げる。
小柄の少女の身体など、容易くつぶせるだろうそれを見ても山岸を身じろぎもせず、それを正面から見据えたまま、自分のこめかみに『お守り』を突き付ける。
そして、
――ペルソナ。
彼女は、引き金を引いた。