男を破滅させるタイプの小悪魔系ギャルが八十稲羽に転がっていますがソイツ男です 作:rikka
林間合宿を終えて、期末考査を今回も無事一位で乗り越え突入した夏休み。
とりあえずドリルみてぇなすぐ終わる系の提出物を完二と共に最初の四日で全部終わらせ、あとは無駄に面倒な宿題のみとなった俺はのびのびと夏休みを過ごしている。
いつもの新聞配達を終わらせたら、そのままチャリで公園まで行ってラジオ体操のお兄さん(町会長からこの時だけは男でいてくれと頼まれたので仕方ない)やって、帰って朝飯。
まずは完二の家に遊びに行って夏休みアニメ劇場、続く暴れん坊将軍をBGMに完二と夏用メイド服試作第三号のための構想練って型紙作り。
夏祭りの時に愛家がやる焼きそば屋台の横でビニールプール使ったドリンク売りの店番手伝いをする予定だが、さすがに新メイド服は間に合わねぇな~なんて話をしながら、打ち合わせも兼ねて『愛家』で昼食。
しばらく駄弁っていると、偶然『愛家』を覗きに来た酒屋の尚紀から家の配達手伝ってくれと頼まれたので三人揃って小西酒店に。
ここの親父さんから俺と完二は蜥蜴――いや、ゴキブリの如く嫌われているので普段は立ち寄らないのだが、今日は奥さんだけだった。
というか、だから俺らを呼んだんだろう。二つ上の早紀先輩も混ざって在庫整理から配達用意の仕分けまでやったら、駄賃としてめっちゃいい肉もらった。
親に報告してから野菜の調達に走り回って完二の家で焼肉やって後片付け――やろうとしたら完二のお袋さんに台所追い出されて、そのままメイド服含む夏休みの間に作りたい服の打ち合わせ。
洗い物終えたお袋さんが風通しのいい生地に助言までくれたためにおおよその形が整い、明日から本格作製という所まで決まって帰宅。
俺の『なんということのない』夏休みの一日はこんな物だった。
そして、深夜零時。
時間が、切り替わる。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「……やっぱり、ポートアイランドと空気が違うな。空気というか……重さが」
鮫川河川敷。
隔週の日曜日にゴミ拾いしている、俺の馴染みの釣り場兼トレーニング場に、今日はショートパンツのパンク風の服の上から装備を付けて来ていた。
今日は化け物――あの桐条って人は『シャドウ』って言ってたっけ――の気配がない。
「ランマル」
力を込めて、俺は自分の力を発動する。
先日の戦闘で相当経験を積んだのか、更に強くなった俺のペルソナ。
「……うん、いつも通りの負荷。やっぱりあの塔……ってか、辰巳ポートアイランド周囲が異常だったんだ」
人命救助という事で碌に考察せずとにかく全力で戦っていたが、あのデカブツ共と戦っている間ずっと、普段よりも消耗が早いような気はしていた。
いつも戦う奴らに比べて強い個体を二体同時に相手するという異常事態に因る緊張……というわけでもなさそうだ。
「……人が多い場所はそうなるのか? 沖奈市あたりの裏時間を一度体験してみたい所だけど……」
沖奈市は遠い所だが、それでも原付があれば遊びに行ける距離ではある。
仮にここで、あの塔みたいなものが出現していればさすがに分かるはず。
「…………」
無言で、携帯電話を取り出して握りしめる。
この時間では電波以前に電源すら入らず何の役にも立たないソレは、この裏の時間が終われば先ほど登録したばかりの画面が普通に写るだろう。
登録したばかりの『私立月光館学院』の番号が写っている、通話前の画面が。
(確認するべきではあるんだよなぁ……間違いなく)
実際の所、調べればすぐに分かる事だった。
桐条美鶴。裏時間に変異する学校の名前。そしてその学校への出資者。桐条グループ。
すぐに点と点はつながったし、桐条というグループが恐らくこの裏の時間やシャドウ、ペルソナについてかなり詳しい所まで近づいている。
あるいは、むしろ発端の可能性さえある。
分かる範囲で情報を辿っていけば、10年前にそこで起こった爆発事故に合わせて結構な数の生徒が一度に理由なく不登校――らしきものになっていることまで掴めた。
10年前。
俺がこの時間に気づいたのももうちょい後だが……それでも引っかかる。
白か黒かはともかく、無関係ではあるまい。
(ただ……)
ハッキリ認める。
俺は、今猛烈にビビっている。
あの辰巳ポートアイランドという場所に滅茶苦茶ビビってる。
こことは違うあの大都会は、思った以上に面倒で疲れる場所だった。
でもそれはまぁ、問題ない。
面倒だけどそれを作っているのはやはり人間で、地元の境目やルールを把握していけば上手く乗れるだろう。
だが、あの場所の『裏の時間』は……。
(鋭い、あるいはギザギザした刃物で喉元撫でられてるっていうか……)
戦っている時は目の前のデカブツの殺気かと思っていた。
だけど、思い返すとあれは殺気というには……
特定の殺気とかが発せられて俺に刺さっているんじゃなくて……。
(『死』そのものが、空気のようにそこにあるような……)
それは普通の事でもある。
死は誰にでも訪れるし、生まれた時から決まっている事だ。
ただ……あの場所の『裏時間』に感じたそれは……一番近い言葉を挙げるならば、『引力』だろうか。
死に、引き寄せられるような錯覚を覚えた。
だから、あの時俺は走ったんだろう。
まだ多少の時間はあったし、連絡先の交換くらいは十分出来たのに一目散にホテルに逃げ帰ったのは。
あれ以上、あの『塔』にいたくなかったんだ。
「『桐条』のあの先輩が塔に入ってたって事はまんま、あの『塔』が確実にこの裏の時間に滅茶苦茶関わっているっつー証拠なわけで……」
化け物に襲われて死にかかった事は確かにあれど、この裏の時間で困ったことはまずない。
正直どこかで、『ペルソナ』を手に入れてからは適度なスリルも過ごせるちょうどいい一日の締めのアディショナルタイムとなっていた。
だからまぁ、消さなければならないみたいな強い動機はない。
ただ、ポートアイランドで感じたなにかへの不安がずっと広がっているのも事実だ。
(……あ~~~~、止めだ止めだ。とりあえず今考えるのは止めよう!)
なんとなく不安に感じていることがバレているのか、今日の早紀先輩いつも以上に優しかったし不味い。
今思うと、俺を手伝いに引っ張ってアレコレ働かせようとしたの早紀先輩の入れ知恵かもしれねぇ。
あの人地味に鋭い上に気を使う人だから……。
今日も「チカ君今日は珍しく恰好大人しめだねぇ。この前みたいに肩出したパンクな奴やんないの?」とかえらく構ってきたし……。
男の、それはパッド越しとはいえ堂々と抱き着いて胸揉んで来るのあの人位だわ。
……天城旅館のユキ先輩も、仕入れの手伝いの時「それ……どうなってるの?」って言って普通に触って来たな。
一オクターブ高い声であえいで見せたらめっちゃビビってたの思い出した。
思えば完二から俺の女服について話切り出したのも珍しい。
いつもなら型紙自分で作って実作業に入るくらいからアイツ来るのに……。
アイツにも俺の内心悟られてるっぽいなぁ。
「とにかく、今は夏祭りの事に専念ッスっか」
開催までまだ一週間はあるけど、その間の用意は多い。
アチコチから助っ人頼まれてるからな。
この八十稲羽が盛り上がる事なんてあんまないんだ。
しっかり楽しんで盛り上げないと俺も気分が上がらない。
気分を上げてリセットしないと、多分ポートアイランドの一件に関わっても飲まれてしまう。
同じように色々構ってくれる『愛家』の人達の期待に応えるためにも、しばらくは気合入れて夏休みの日々を過ごすか。
来年は俺も受験で、気楽に過ごせる夏休みはここを逃したら高校まで来ないだろうから。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
そして8月20日
夏祭り当日。
ビニールプールを空気で膨らませて水ガッツリ入れて氷ぶち込んで、完二がホームランバーやスイカと並ぶ夏の代名詞という瓶ラムネを筆頭に各種ドリンクの瓶や缶を並べていく。
『愛家』のおっちゃんは適当でいいというけど、なにかと素手を突っ込むことが多い氷水に瓶口が浸からないように気を付けておこう。
使い捨て用のビニール手袋のセット、良し。
転んだ人のための消毒液に絆創膏、ガーゼにテープ、それに休憩所の位置……ヨシ。
「……完二」
「あぁ?」
手伝ってくれるのは相変わらず完二だ。
瓶ラムネが入ってたプラ製のケースを表から見えにくい所に積んでいる。
「例年通りの夏祭りだよな?」
「あぁ。普通だろ」
「うん、普通のハズなのにさ」
ざわざわと、多くの人間が集まっている。
祭りだから人が多いのは当たり前だが、まだ日が高いこのタイミングでこんだけザワつくのは珍しい……ってか、初めてじゃないか? 知る限り。
里中先輩なんかは去年もこの時間から食い物系の屋台回ってたけど……本格的に人が来るのは大体日が沈みだして涼しくなった辺りだ。
知っている顔から知っているかもしれないっぽい顔、絶対に知らない顔まで神社に集まって出店を回っている。
……というか、なんか探してる?
なんか、カメラやケータイ片手の奴が微妙に多い。
ってか――
「完二」
「おう」
「今日の俺の格好、変かな?」
「普通」
「だよなぁ」
「……多分」
「多分!? なぜ日和った?」
「すまねぇ。最近
しっかりしろ完二、なんだかんだで男らしくありたいって思ってるお前は俺のブレーキなんだぞ。
――いた。アレだろ、和服の。
――うっそ、全然分かんない!
なんか、さっきからエラい写真撮られている。
や、元からコッソリ俺の写真撮るやつはいたけど。
週末必ず俺の写真撮りに来る奴いたから、さりげなく迷惑かからん所に出かけて撮らせてやってたわ。
でもこんだけ撮られるのは初めてだな。
それも知らない連中に。
撮ってくる連中のために、ちょっと笑顔とかポーズくらいサービスするべきなのかな……。
いや、すでに接客モードには入ってるから常時スマイルだけど。
「へーい、そこの通りがかりの運動部コンビせんぱーい!」
ちょうど通りかかった一条先輩と長瀬先輩に手を振ると、おぉっと手を振り返してくれる。
「おぉ、如月」
「今日は和服か。さすがに大人しいな」
「ッス。まぁ、今日は普通の祭りですしね。……で、それなんスけど……」
またシャッターを切る音がする。
「なんか……今日外野ってか……カメラ持ちの知らない顔多くないスか?」
「あん? あぁ……知らなかったのね、如月」
「恰好、今日は大人しめだったのは偶然か」
「? おっとぉ? 俺、なんか知らないうちにやらかしてた感じッスかね」
今日和服にしたのは、祭りに一枚噛んでいる小西酒店の人達に配慮してのアレだったんだけどな。
さすがにこの中でショートパンツのパンクルックやるのはレギュレーション違反だろう。
いつぞやの痴漢騒ぎの時みたく囮役やるってんならともかく。
今日はピアノの堂島先生が娘と見て回るらしいし。
夫が刑事だからこういう時になかなか一緒に回るのは難しいと笑いながら言っていた。
そこにニーソックスやストッキングで隠してるとはいえ足出した格好は……菜々子ちゃん? だっけ? の教育に良くないだろう。
堂島刑事には完二の事で生安課の人間紹介してもらったりして世話になっているし、完二への不当な声掛けに対して逆にお巡り怒鳴ってくれる事もあるし。
「如月、お前さ」
「おう」
「――ここいらの地方のニュースに顔、映ってたぞ? 昨日の夜、今日の祭りの準備中ってニュースでここいらの風景撮ってる中でさ」
……そういえば昨日テレビ局の車来てたな。
着物じゃなくていつものパンク系の服で、瓶ラムネやコーラの搬入やってた頃に。
「知らねぇけど、ネットにも流れたらしいぞ。偶然映った八十稲羽の美少女って。補講に来てたお前の事知ってるウチの男子共が笑ってたし」
…………。
「あー、俺は家にパソコンあるからちょっと見て来たけど……。如月、日頃から良く写真撮られてるだろ? 実は男って書き込みと一緒に、これまでのお前の写真……かなり流れてたぜ? 私服からいつものセーラーまで」
…………。
……うそでしょ?
「昨日ほぼノーメイクなのにそんなガッツリテレビに映っちゃったんですか!? せめてガッツリ決める今日か花火大会にしてくださいよ局も!!」
「そこかよ気にすんの!? ってかなに声作ってんだよ!?」
せめてもの抵抗。
ってか、マジか。それでわざわざ暑い中見に来たのか。
お前らもうちょっと有意義な時間の使い方探せよ。