投稿中の拙作『日本で一番、月に近い場所』の短すぎて本編に乗っけれなかったこぼれ話です。
『日本で一番、月に近い場所』(https://syosetu.org/novel/401385)をご覧になるとより楽しめるかも?
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「何してんの?」
「きゅうり貼っ付けてる」
「そう……」
お風呂から上がるとなぜか胡瓜を貼り付けたかぐやが居間に居た。
なんの儀式だろう……。
「髪乾かす?」
「さっきやったー」
「あっそ、じゃあ私も乾かしてくるかなー」
「てらー」
スライス胡瓜に視界を潰されながら緩く手を振るかぐやは、どう考えても青臭い中で不思議とリラックスした様子。
いやマジでなんなんだアレは。
突っ込んだ方が良いやつ?
それとも、芦花からかぐやだけに教えられた新種の美容テク?
まあ、良いか、私も髪を乾かすとしよう。
あの宇宙人は後回しだ。
あ、そうだ。
「ねえ、かぐや」
「んー?」
そう体をソファーに完全に預けながら、だらけるかぐやにすっとパジャマ姿のまま寄る。
「むぐ」
「ひゃ!?」
かぐやの頬の胡瓜を一つ唇で剥がして食べてみた。
風呂上がりのかぐやの汗を僅かに纏ったそれは、遠くほのかに化粧水の味と、移った体温の生ぬるさが余計に強調した胡瓜の青臭さのハーモニーを醸し出していて……。
「うっわ、まずっ。食べ物で遊ぶのもほどほどにしときなさいよー」
フリーズしたかぐやにそう言い残してドライヤーを目指して洗面所へ向かう。
「はえ?」
背中に向かって謎の鳴き声が聞こえた気がしたけど、ま、気のせいだろう。
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「ってことがあってさー」
「胡瓜パックって古っ」
たまたまお互い時間が余ってカフェで落ち合って話してたら、昨日のかぐやの異常行動をつい話してしまう。
困った時の身近な美容インフルエンサーだ。頼りにしてます……!
「あれ? 本当にあるやつなんだ」
「そうなのですよー彩葉さん。でも今の常識じゃ逆にアレルギー招くからオススメは出来ないかなー、効果も迷信レベルだし」
「あー、そうだよね」
「そうそう、どうせやるならコレとかオススメ」
「うーん? うわ高っ」
そう見せてきた通販サイトのパックは使い捨てにクセに結構良い値段。
高校生の私に見せたら発狂するんじゃなかろうか。
「んー? ところで彩葉って、普段のスキンケアは?」
私の言葉に何やら猫のように目を光らせた芦花が聞いてくる。
なんだろう、急に尋問が始まってしまった。
何かまずいこと……、言ってないハズだけど……。
「うーん? 人並みぐらい?」
「人並み…?」
声低っ!こわ!
いやでも、そんなおかしな事は……。
「特別なことは特にしてないかなー、ドラッグストアの特売の化しょ……」
「は?」
あっやば。
芦花の目が危険色に光る。
「さっきのミドプラのパックで高いとか言ってて気になったけど、いい? もう彩葉も若く無いんだからちゃんと肌のケアしないとすぐシワシワになっちゃうよ? 特売の化粧水とか論外だから、あのね、そもそも化粧水は肌質で選ぶものであって、ワゴンのやつ適当に選ぶとかそんな女子力壊滅してたらダメだからね、というか―――」
そして芦花はブレスなしの高速詠唱を一旦止めて、チラリと腕時計を確認する。
「彩葉、時間ある?」
「え、あっ」
「時間ある?」
「アリマス……」
こわい。
「じゃあこのあとウチ寄って水分量測定と肌年齢計で調べたあと化粧水探しに行こ」
「ぁ……えっと」
「返事」
「はい……」
「よし」
せめてもの抵抗にちびちびとコーヒーを啜る私を急かすように席を立とうと伝票を持った芦花が、唇に指を当てて言う。
「そういえば、かぐやちゃんのスキンケアは?」
「ん?」
そう聞かれて、普段の光景を思い浮かべる。
髪を乾かしてやったらそのままソファーでお腹出してる姿。
徹夜配信で配信部屋で半分寝てるのをお風呂に突き落として目覚めさせてる姿。
このぐらいはと、化粧水を塗っていたら、ビールを観葉植物に注ぐ人を見るような目で見てくる姿。
うーん、ロクな光景が浮かばない。
「何もしてない……かも?」
その言葉に芦花が一気に空気を吸い込む。
「呼び出して! 今、すぐ」
「はい……」
もはや炎のオーラすら纏い出した親友相手に私に拒否権なんかなかった。
☽002☾
「たぁ……つっかれたぁ……」
「芦花やばかった……」
その後、芦花からまるでダメなオトメ、略してマダオの称号を無事授与された私たち2人は芦花の家に寄った後に散々連れ回されて、紙袋を大量に抱えたまま、家へと帰還した。
引きずるような足取りでなんとかソファーに体を倒れ込む。
かぐやの方はさっきのドスンという音から床にへばりついてるようだ。
起き上がる気力すらないから確認はしないけど。
「あーメイク落とさないと……」
「かぐやも〜……」
さっきの芦花の教えが脳内でガンガンと警鐘を鳴らすが、体が言うことを聞かない。
具体的には、さっきからチェーンで下げてたスマホがお腹に若干刺さってるけど、それすらどけられないほどだ。
「ん?」
内臓を揺らすバイブ音。
いまだ突き刺さるスマホが何かを受信したようだ。
なんだろ。
「んふぁ!?」
足先の向こうからはなにやら珍獣の鳴き声がする。
億劫な心持ちからなんとかやる気を引き出して、お腹とソファーの間からスマホを引き抜いて画面を見る。
あー……。
どうやら同じくメッセージが届いてたらしいかぐやが驚いた意味がわかった。
電源ボタンを軽く押して画面を復帰させたスマホには一言。
『帰ったら、まずメイク落とすこと! 寝ちゃダメだからね!』
こわ〜〜。
円盤まだ届きません……。