プレアデスストーリー   作:八束祐

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1部クレティス編 12

 

「ロック」

 

「……クレティス」

 

 洞窟の奥で、二人の視線がぶつかった。

 

 昨日、公園で戦ったばかりだ。

 クレティスは槍を構えながら、ロックの隣に立つ人物にも目を向けた。

 

 アベル教会の服――

 昨日、ロックを連れて退いた人物だ。

 

 対するロックも、すでに両手にナイフを構え戦闘態勢に入る。

 

「昨日負けたばっかりなのに、またやるの?」

 

「昨日は昨日だ!」

 

「今日も今日とてって言うけど元気だねぇ」

 

「うるせえ!」

 

 ロックの腕が動く。

 

「おっと!」

 

 飛んできたナイフを槍で弾く。

 

「ループ!」

 

「はいですよ!」

 

「ちょっと後ろに下がってて!」

 

「わかったのですよ!」

 

 ループが来た道を引き返す。

 これで彼女を巻き込む心配はない。

 

 クレティスは前へ出た。

 

「ティル、そっちはお願い!」

 

「ああ」

 

 ロックへ向かって走る。

 

「昨日みたいにいくと思うなよ!」

 

「ボクも同じだよ!」

 

 槍とナイフがぶつかった。

 

 甲高い音が洞窟に響く。

 

 ロックが横へ回る。

 

 クレティスも追う。

 

 ナイフを突き出せば槍の柄で受け、クレティスが穂先を返せばロックが身を引く。

 

 一歩。

 

 また一歩。

 

 二人は戦いながら、ロックたちが来た方向へ移動していく。

 

「ちょこまかと!」

 

「槍相手に正面から行く馬鹿がいるかよ!」

 

「じゃあ止まってよ!」

 

「嫌だよ!」

 

「だよねぇ!」

 

 クレティスが踏み込む。

 

 槍を突き出す。

 

 ロックがかわした。

 

 そのまま距離を詰めようとした瞬間、槍の柄が横から飛んでくる。

 

「っぶね!」

 

 ロックが仰け反る。

 

「惜しいっ!」

 

「どこがだ!」

 

「当てそこなった!って事」

 

 二人の声が、次第に洞窟の奥へ遠ざかっていった。

 

 一方でティルはその場からほとんど動いていなかった。

 教会の人物が、ゆっくりとこちらへ近づいてくる。

 

 敵意は感じる。

 

 だが、襲いかかってはこない。

 

「…………」

 

 むしろ――

 ティルの顔を確かめようとしているように見えた。

 

「あなたは……」

 

 アベル教の人が口を開く。

 

「何だ?」

 

「いえ……」

 

 さらに一歩。

 

 ティルが眉をひそめる。

 

「何か言いたいなら言え」

 

「…………」

 

 相手はティルの顔をじっと見る。

 

 どこかで見た。

 そう思っているような目だった。

 

「まさか――」

 

 そのときだった。

 

 ――ズン。

 

「え?」

 

 離れたところにいたクレティスが振り返った。

 

 地面が揺れた。

 

 小さな揺れではない。

 

「なんだ!?」

 

 ロックも足を止める。

 

 ――ズズズズズ……!

 

 洞窟全体が唸り始めた。

 

「どっしぇー!?」

 

 後方からループのデカい声が響く。

 

「地震!?」

 

 クレティスが周囲を見回した。

 

 天井から小石が落ちる。

 

 次の瞬間――。

 

 轟音。

 

 洞窟が大きく揺れた。

 

「うわっ!」

 

 ティルが体勢を崩し集中が途切れてしまう。

 同時に、それまで周囲を照らしていたライトの魔法が消えた。

 

 暗闇が辺りを漂う。

 

「えっ!?」

 

 クレティスの視界が一瞬で奪われる。

 

 そして――それはどうやら相手側も同じだった。

 

 別方向に灯っていた光も消えていた。

 

 完全な闇。

 

「クレティス!」

 

「ティル!?」

 

「アマランス!」

 

「ここだ!」

 

 知らない名前が聞こえた。

 

 誰が誰を呼んでいるのか考えている暇はない。

 

「おい、崩れるぞ!」

 

 さらに別の声が洞窟に響いた。

 

「え?」

 

 クレティスには、その声に聞き覚えがあった。

 

 けれど、確かめる暇などなかった。

 天井から岩が落ちてくる。

 

「走れ!」

 

「ループ!」

 

 クレティスは振り返ろうとした。

 

 しかし、何も見えない。

 

 ループは後ろへ避難させた。

 

 自分たちが来た方向だ。

 

 なら――

 

「くそっ!」

 

 すぐ近くからロックの声。

 直後、手首を掴まれた。

 

「えっ!?」

 

「こっちだ!」

 

「ちょ――!」

 

 強く引っ張られる。

 

 クレティスは反射的に走った。

 

 誰に掴まれたのかなど確認できない状況。

 暗闇の中、すぐ後ろへ岩が落ちる音がする。

 

 戻れないと思う。

 

「ティル!」

 

 返事は聞こえなかった。

 

「クレティス!」

 

 ティルもまた手を伸ばした。

 

 暗闇で何も見えない。

 

 さっきまでクレティスがいたはずの方向へ手を伸ばし――指先が誰かの腕に触れた。

 

「こっちだ!」

 

「!」

 

 腕を掴む。

 

 相手も振りほどくことはなかった。

 

 そのまま二人とも走る。

 

「急げ!」

 

 背後で岩が落ちて通路が塞がっていく。

 

「どっしぇええええ!?」

 

 ループは一人、入口へ走っていた。

 

 クレティスに言われて後ろへ下がっていたことが幸いした。

 だが、崩落から逃げるかどうかは別問題だった。

 

「クレちゃーん! ティルちゃーん!」

 

 返事はない。

 

「どうするのですよー!?」

 

 岩が落ちてくる。

 

「ひゃあっ!」

 

 ループが頭を抱えた。

 

 そのとき。

 

「こっちだ」

 

「え?」

 

 謎の声が直撃寸前の岩を砕き破壊するとそのままループの腕を掴む。

 

「走れ」

 

「あややややや~!?」

 

 引っ張られるまま走る。

 暗くて顔は見えない。

 

 けれど――

 

「あな…たは……」

 

「後だ」

 

 短い声。

 

 ループはその声を知っている。

 自分の小屋にいた男の声。

 

 轟音が続く。

 

 誰も、他の者がどこへ行ったのかわからない。

 ただ崩落から逃げるため、暗闇の中で手の届いた相手と走った。

 

 そして。

 

 揺れが収まったとき。

 

 洞窟の中では、入ったときとはまったく違う――

 別の組み合わせが出来上がっていた。

 

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