「ロック」
「……クレティス」
洞窟の奥で、二人の視線がぶつかった。
昨日、公園で戦ったばかりだ。
クレティスは槍を構えながら、ロックの隣に立つ人物にも目を向けた。
アベル教会の服――
昨日、ロックを連れて退いた人物だ。
対するロックも、すでに両手にナイフを構え戦闘態勢に入る。
「昨日負けたばっかりなのに、またやるの?」
「昨日は昨日だ!」
「今日も今日とてって言うけど元気だねぇ」
「うるせえ!」
ロックの腕が動く。
「おっと!」
飛んできたナイフを槍で弾く。
「ループ!」
「はいですよ!」
「ちょっと後ろに下がってて!」
「わかったのですよ!」
ループが来た道を引き返す。
これで彼女を巻き込む心配はない。
クレティスは前へ出た。
「ティル、そっちはお願い!」
「ああ」
ロックへ向かって走る。
「昨日みたいにいくと思うなよ!」
「ボクも同じだよ!」
槍とナイフがぶつかった。
甲高い音が洞窟に響く。
ロックが横へ回る。
クレティスも追う。
ナイフを突き出せば槍の柄で受け、クレティスが穂先を返せばロックが身を引く。
一歩。
また一歩。
二人は戦いながら、ロックたちが来た方向へ移動していく。
「ちょこまかと!」
「槍相手に正面から行く馬鹿がいるかよ!」
「じゃあ止まってよ!」
「嫌だよ!」
「だよねぇ!」
クレティスが踏み込む。
槍を突き出す。
ロックがかわした。
そのまま距離を詰めようとした瞬間、槍の柄が横から飛んでくる。
「っぶね!」
ロックが仰け反る。
「惜しいっ!」
「どこがだ!」
「当てそこなった!って事」
二人の声が、次第に洞窟の奥へ遠ざかっていった。
一方でティルはその場からほとんど動いていなかった。
教会の人物が、ゆっくりとこちらへ近づいてくる。
敵意は感じる。
だが、襲いかかってはこない。
「…………」
むしろ――
ティルの顔を確かめようとしているように見えた。
「あなたは……」
アベル教の人が口を開く。
「何だ?」
「いえ……」
さらに一歩。
ティルが眉をひそめる。
「何か言いたいなら言え」
「…………」
相手はティルの顔をじっと見る。
どこかで見た。
そう思っているような目だった。
「まさか――」
そのときだった。
――ズン。
「え?」
離れたところにいたクレティスが振り返った。
地面が揺れた。
小さな揺れではない。
「なんだ!?」
ロックも足を止める。
――ズズズズズ……!
洞窟全体が唸り始めた。
「どっしぇー!?」
後方からループのデカい声が響く。
「地震!?」
クレティスが周囲を見回した。
天井から小石が落ちる。
次の瞬間――。
轟音。
洞窟が大きく揺れた。
「うわっ!」
ティルが体勢を崩し集中が途切れてしまう。
同時に、それまで周囲を照らしていたライトの魔法が消えた。
暗闇が辺りを漂う。
「えっ!?」
クレティスの視界が一瞬で奪われる。
そして――それはどうやら相手側も同じだった。
別方向に灯っていた光も消えていた。
完全な闇。
「クレティス!」
「ティル!?」
「アマランス!」
「ここだ!」
知らない名前が聞こえた。
誰が誰を呼んでいるのか考えている暇はない。
「おい、崩れるぞ!」
さらに別の声が洞窟に響いた。
「え?」
クレティスには、その声に聞き覚えがあった。
けれど、確かめる暇などなかった。
天井から岩が落ちてくる。
「走れ!」
「ループ!」
クレティスは振り返ろうとした。
しかし、何も見えない。
ループは後ろへ避難させた。
自分たちが来た方向だ。
なら――
「くそっ!」
すぐ近くからロックの声。
直後、手首を掴まれた。
「えっ!?」
「こっちだ!」
「ちょ――!」
強く引っ張られる。
クレティスは反射的に走った。
誰に掴まれたのかなど確認できない状況。
暗闇の中、すぐ後ろへ岩が落ちる音がする。
戻れないと思う。
「ティル!」
返事は聞こえなかった。
「クレティス!」
ティルもまた手を伸ばした。
暗闇で何も見えない。
さっきまでクレティスがいたはずの方向へ手を伸ばし――指先が誰かの腕に触れた。
「こっちだ!」
「!」
腕を掴む。
相手も振りほどくことはなかった。
そのまま二人とも走る。
「急げ!」
背後で岩が落ちて通路が塞がっていく。
「どっしぇええええ!?」
ループは一人、入口へ走っていた。
クレティスに言われて後ろへ下がっていたことが幸いした。
だが、崩落から逃げるかどうかは別問題だった。
「クレちゃーん! ティルちゃーん!」
返事はない。
「どうするのですよー!?」
岩が落ちてくる。
「ひゃあっ!」
ループが頭を抱えた。
そのとき。
「こっちだ」
「え?」
謎の声が直撃寸前の岩を砕き破壊するとそのままループの腕を掴む。
「走れ」
「あややややや~!?」
引っ張られるまま走る。
暗くて顔は見えない。
けれど――
「あな…たは……」
「後だ」
短い声。
ループはその声を知っている。
自分の小屋にいた男の声。
轟音が続く。
誰も、他の者がどこへ行ったのかわからない。
ただ崩落から逃げるため、暗闇の中で手の届いた相手と走った。
そして。
揺れが収まったとき。
洞窟の中では、入ったときとはまったく違う――
別の組み合わせが出来上がっていた。