プレアデスストーリー   作:八束祐

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1部クレティス編 13

 轟音が遠ざかっていく――

 

「はぁ……はぁ……!」

 

 ループは息を切らしながら、差し込んでくる光へ向かって走った。

 

「出口なのですよ!」

 

「ああ」

 

 隣を走る男が短く答える。

 

 あと少し。

 

 二人が洞窟から飛び出した直後――背後で再び大きな音がした。

 

「どっしぇー!?」

 

 ループは頭を抱えてしゃがみ込んだ。

 

 岩と土煙が洞窟の入口から噴き出す。

 

 しばらくして。

 

 静かになった。

 

「…………」

 

 ループは恐る恐る顔を上げた。

 

「た、助かったのですよ……」

 

 身体中が埃まみれだった。

 けれど怪我らしい怪我はない。

 

 それも自分一人の力ではなかった。

 

「ありがとうございますですよ」

 

 ループは隣にいる男を見上げる。

 

「助かったのですよ、フォルテちゃん」

 

「……ああ」

 

 フォルテは洞窟を見る。

 静かにはなったがまた崩れる心配はないか確認をしているようだ。

 

 ループも振り返る。

 

 そして、何かを思い出しはっとした。

 

「クレちゃん!」

 

 洞窟へ駆け戻ろうとするループの肩をフォルテが掴む。

 

「待て」

 

「でもクレちゃんたちがまだ中なのですよ!」

 

「クレちゃんが、なにかはわからんが俺が見てきてやる」

 

「フォルテちゃん?」

 

「お前はここにいろ」

 

 短く言い残すとフォルテは再び洞窟へ向かった。

 

「…………」

 

 ループはその背中を見る。

 止める間もない。

 

「フォルテちゃん!」

 

 呼びかけるがフォルテは足を止めなかった。

 

 ループは胸の前で両手を握った。

 

「クレちゃんを……お願いするのですよ」

 

 フォルテの姿が、再び洞窟の暗がりへ消えていった。

 

「……でもフォルテちゃん、方向音痴だったですよね?」

 

 もう奥に進んでいった彼にはその言葉は届かなかった。

 

 

-------------------------------------

 

 

「いてて……」

 

 クレティスは身体を起こした。

 

 暗い。

 

 ほとんど何も見えない。

 

「ティル?」

 

 返事がない。

 

「ループ?」

 

 やはり返事はない。

 

 代わりに。

 

「……うるせえな」

 

 すぐ近くから男の声がした。

 

「ん?」

 

 クレティスはそちらを見る。

 

 目が暗闇に慣れてくる。

 

 白い髪に赤い瞳。

 ウサギを思い出させるその風貌……

 

「…………」

 

「…………」

 

 二人は顔を見合わせた。

 

「ロック?」

 

「……げっ」

 

 ロックの顔が引きつった。

 

 それから、自分の手を見る。

 その手は――しっかりとクレティスの手首を掴んでいた。

 

「…………」

 

 ロックが手を離す。

 

「間違えた」

 

「何が!?」

 

「お前じゃねえ!」

 

「助けてもらった直後にそれ言う!?」

 

 クレティスは立ち上がった。

 

 服についた埃を払いながら周囲を見る。

 

 背後は完全に岩で塞がれている。

 どかすことも出来なさそうだ。

 

「戻れないね」

 

「ああ」

 

「ティルたちは?」

 

「知らねえ」

 

「ループは……」

 

「知らん奴なら俺らと反対側にいたんだ。 たぶん外側だろ」

 

「そっか」

 

 それなら、少し安心できる。

 問題は自分たちだ。

 

「で」

 

 ロックがクレティスを見る。

 

「どうすんだよ」

 

「どうするって?」

 

「お前は俺の敵」

 

「それなんだけどさ」

 

 クレティスもロックを見る。

 

「ボクも聞きたかったんだよね」

 

「あ?」

 

「ロック、なんでボクを狙ってるの?」

 

「なんでって……」

 

 ロックが怪訝そうな顔をする。

 

「お前、クーデター企んでるんじゃないの?」

 

「…………」

 

 クレティスが瞬きをした。

 

「え?」

 

「え?」

 

 二人の間に沈黙が落ちる。

 

「ボクが?」

 

「お前らが」

 

「誰と?」

 

「あの男だよ!」

 

 あの男というと。

 

「ティル?」

 

「そうだよ!」

 

「…………」

 

 クレティスは自分を指差した。

 

「ボクとティルが?」

 

「だからそう言ってんだろ」

 

「クーデターを?」

 

「何回言わせんだよ!」

 

「なんで!?」

 

「こっちが聞きてえよ!」

 

 ロックも声を荒らげた。

 

「怪しい奴と一緒に動き回って、こそこそ宝石まで探してる奴が何言ってんだ!」

 

「ちょっと待ってよ!」

 

 クレティスも負けじと詰め寄る。

 

「じゃあ君たちは宝石を狙ってる奴等じゃないの!?」

 

「…………は?」

 

 今度はロックが止まった。

 

「え?」

 

「だから! 宝石を狙ってボクらの邪魔してるんじゃないの?」

 

「なんで俺らが宝石なんか狙うんだよ!」

 

「だって二回も襲ってきたじゃん!」

 

「お前らがクーデター企んでると思ってたからだよ!」

 

「ボクは宝石を探す仕事を受けただけだよ!」

 

「誰から!」

 

「ティル!」

 

「そいつが怪しいんだろうが!」

 

「…………」

 

「…………」

 

 またお互いに沈黙。

 

 クレティスは腕を組み、ロックも眉間に皺を寄せる。

 二人でしばらく考える。

 

 一つの結論が出るまでにはさほど時間はかからなかった。

 

「……ねえ」

 

「なんだよ」

 

「もしかして」

 

「ああ……」

 

 ロックがものすごく嫌そうな顔をした。

 

「俺らって、なんか盛大な勘違いをやらかしてねえか?」

 

「……たぶんね」

 

 クレティスは頭を抱えた。

 

「二回も戦ったのに!?」

 

「俺に言うなよ!」

 

「最初から説明してよ!」

 

 あまりもの酷い落ちに、頭がくらくらしそうになって頭を押さえる。

 

「背中にナイフ突きつけて『クーデター企んでますか』って聞く馬鹿がいると思うか?」

 

「そもそも他人の背中にナイフを突きつけないでよ!」

 

「うるせえ!」

 

「ロックが悪い!」

 

「なんで俺だけなんだよ!」

 

 洞窟の中に二人の声が響く。

 

 しばらくぎゃーぎゃー騒いで――

 クレティスは大きく息を吐いた。

 

「……もういいや」

 

「よくねえよ」

 

「今はいいの!」

 

 槍を拾う。

 

「とりあえずここから出ないと」

 

「…………」

 

 ロックが塞がれた道を見る。

 

「戻るのは無理だな」

 

「だったら奥へ行くしかないね」

 

「俺とお前で?」

 

「他に誰がいるの?」

 

「…………」

 

 ロックは露骨に嫌そうな顔をした。

 

「その顔やめてよ!」

 

「お前と行動するの疲れそうなんだよ」

 

「ボクだってロックみたいな態度悪い奴と一緒は嫌だよ!」

 

「じゃあ別々に行くか?」

 

「それは危ないからダメ」

 

「どっちなんだよ!」

 

 クレティスは槍を肩に担いだ。

 

「休戦!」

 

「あ?」

 

「少なくとも、ここから出るまではね」

 

 ロックへ手を差し出す。

 

「どう?」

 

「…………」

 

 ロックはその手を見て、少し迷ったあと。

 

「しゃーねえな」

 

 手を取った。

 

「決まり!」

 

 クレティスが笑う。

 

「じゃあ行こう、ロック!」

 

「仕切んな、クレ」

 

 歩き出しかけたクレティスが止まる。。

 何か今変な言葉が聞こえた気がするんだが?

 

「……クレ?」

 

「長えから」

 

「クレティスくらい呼べるでしょ」

 

「クレ」

 

「勝手に決めた!」

 

「行くぞ、クレ」

 

「もう!」

 

 文句を言いながら、クレティスはその後を追おうとした。

 

 だが、すぐに足が止まる。

 崩落は収まったものの、ティルのライトは消えたままだ。

 

「ロック」

 

「あ?」

 

「暗くない?」

 

「そりゃ洞窟だからな」

 

 洞窟など明かりがなければ夜並みに暗いのだ。

 

「どうしよう?」

 

「…………は?」

 

 ロックが振り返った。

 

「いや、だからさ。 これじゃ前が見えないでしょ?」

 

「お前、ライトは使えないの?」

 

「使えないよ?」

 

「照明道具」

 

「持ってない」

 

「…………」

 

 沈黙。

 

「何?」

 

「お前、本当に冒険者か?」

 

「冒険者だよ!」

 

「洞窟に入るのに明かりも持ってきてねえのかよ!」

 

「だってティルがライト使えるから!」

 

「人任せじゃねえか!」

 

「ちゃんと槍は持ってきたよ!」

 

「当たり前だろ!」

 

 ロックは頭を抱えた。

 

「ったく、光る光る……」

 

 片手を上げる。

 魔法の光が灯り、暗闇だった洞窟が照らされる。

 

「おお!」

 

 クレティスの顔が明るくなった。

 

「ロックも使えるんだ!」

 

「冒険者ならこのくらいなら覚えるか、似たような道具くらい持ってくんだよ」

 

「ロックって冒険者なの?」

 

「そういう意味じゃねえ!」

 

「あ、そっか」

 

「……先が思いやられる」

 

 ロックが歩き出す。

 クレティスも後を追った。

 

「でも助かったよ、ロック!」

 

「次から明かりくらい自分で用意しろ、クレ」

 

「覚えてたらね!」

 

「今覚えろ!」

 

 ついさっきまで殺気をぶつけ合っていた二人が、今度はそんなことで言い争いながら洞窟の奥へ進んでいく。

 敵同士だったはずの二人の奇妙な休戦は、こうして始まった。

 

 

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