轟音が遠ざかっていく――
「はぁ……はぁ……!」
ループは息を切らしながら、差し込んでくる光へ向かって走った。
「出口なのですよ!」
「ああ」
隣を走る男が短く答える。
あと少し。
二人が洞窟から飛び出した直後――背後で再び大きな音がした。
「どっしぇー!?」
ループは頭を抱えてしゃがみ込んだ。
岩と土煙が洞窟の入口から噴き出す。
しばらくして。
静かになった。
「…………」
ループは恐る恐る顔を上げた。
「た、助かったのですよ……」
身体中が埃まみれだった。
けれど怪我らしい怪我はない。
それも自分一人の力ではなかった。
「ありがとうございますですよ」
ループは隣にいる男を見上げる。
「助かったのですよ、フォルテちゃん」
「……ああ」
フォルテは洞窟を見る。
静かにはなったがまた崩れる心配はないか確認をしているようだ。
ループも振り返る。
そして、何かを思い出しはっとした。
「クレちゃん!」
洞窟へ駆け戻ろうとするループの肩をフォルテが掴む。
「待て」
「でもクレちゃんたちがまだ中なのですよ!」
「クレちゃんが、なにかはわからんが俺が見てきてやる」
「フォルテちゃん?」
「お前はここにいろ」
短く言い残すとフォルテは再び洞窟へ向かった。
「…………」
ループはその背中を見る。
止める間もない。
「フォルテちゃん!」
呼びかけるがフォルテは足を止めなかった。
ループは胸の前で両手を握った。
「クレちゃんを……お願いするのですよ」
フォルテの姿が、再び洞窟の暗がりへ消えていった。
「……でもフォルテちゃん、方向音痴だったですよね?」
もう奥に進んでいった彼にはその言葉は届かなかった。
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「いてて……」
クレティスは身体を起こした。
暗い。
ほとんど何も見えない。
「ティル?」
返事がない。
「ループ?」
やはり返事はない。
代わりに。
「……うるせえな」
すぐ近くから男の声がした。
「ん?」
クレティスはそちらを見る。
目が暗闇に慣れてくる。
白い髪に赤い瞳。
ウサギを思い出させるその風貌……
「…………」
「…………」
二人は顔を見合わせた。
「ロック?」
「……げっ」
ロックの顔が引きつった。
それから、自分の手を見る。
その手は――しっかりとクレティスの手首を掴んでいた。
「…………」
ロックが手を離す。
「間違えた」
「何が!?」
「お前じゃねえ!」
「助けてもらった直後にそれ言う!?」
クレティスは立ち上がった。
服についた埃を払いながら周囲を見る。
背後は完全に岩で塞がれている。
どかすことも出来なさそうだ。
「戻れないね」
「ああ」
「ティルたちは?」
「知らねえ」
「ループは……」
「知らん奴なら俺らと反対側にいたんだ。 たぶん外側だろ」
「そっか」
それなら、少し安心できる。
問題は自分たちだ。
「で」
ロックがクレティスを見る。
「どうすんだよ」
「どうするって?」
「お前は俺の敵」
「それなんだけどさ」
クレティスもロックを見る。
「ボクも聞きたかったんだよね」
「あ?」
「ロック、なんでボクを狙ってるの?」
「なんでって……」
ロックが怪訝そうな顔をする。
「お前、クーデター企んでるんじゃないの?」
「…………」
クレティスが瞬きをした。
「え?」
「え?」
二人の間に沈黙が落ちる。
「ボクが?」
「お前らが」
「誰と?」
「あの男だよ!」
あの男というと。
「ティル?」
「そうだよ!」
「…………」
クレティスは自分を指差した。
「ボクとティルが?」
「だからそう言ってんだろ」
「クーデターを?」
「何回言わせんだよ!」
「なんで!?」
「こっちが聞きてえよ!」
ロックも声を荒らげた。
「怪しい奴と一緒に動き回って、こそこそ宝石まで探してる奴が何言ってんだ!」
「ちょっと待ってよ!」
クレティスも負けじと詰め寄る。
「じゃあ君たちは宝石を狙ってる奴等じゃないの!?」
「…………は?」
今度はロックが止まった。
「え?」
「だから! 宝石を狙ってボクらの邪魔してるんじゃないの?」
「なんで俺らが宝石なんか狙うんだよ!」
「だって二回も襲ってきたじゃん!」
「お前らがクーデター企んでると思ってたからだよ!」
「ボクは宝石を探す仕事を受けただけだよ!」
「誰から!」
「ティル!」
「そいつが怪しいんだろうが!」
「…………」
「…………」
またお互いに沈黙。
クレティスは腕を組み、ロックも眉間に皺を寄せる。
二人でしばらく考える。
一つの結論が出るまでにはさほど時間はかからなかった。
「……ねえ」
「なんだよ」
「もしかして」
「ああ……」
ロックがものすごく嫌そうな顔をした。
「俺らって、なんか盛大な勘違いをやらかしてねえか?」
「……たぶんね」
クレティスは頭を抱えた。
「二回も戦ったのに!?」
「俺に言うなよ!」
「最初から説明してよ!」
あまりもの酷い落ちに、頭がくらくらしそうになって頭を押さえる。
「背中にナイフ突きつけて『クーデター企んでますか』って聞く馬鹿がいると思うか?」
「そもそも他人の背中にナイフを突きつけないでよ!」
「うるせえ!」
「ロックが悪い!」
「なんで俺だけなんだよ!」
洞窟の中に二人の声が響く。
しばらくぎゃーぎゃー騒いで――
クレティスは大きく息を吐いた。
「……もういいや」
「よくねえよ」
「今はいいの!」
槍を拾う。
「とりあえずここから出ないと」
「…………」
ロックが塞がれた道を見る。
「戻るのは無理だな」
「だったら奥へ行くしかないね」
「俺とお前で?」
「他に誰がいるの?」
「…………」
ロックは露骨に嫌そうな顔をした。
「その顔やめてよ!」
「お前と行動するの疲れそうなんだよ」
「ボクだってロックみたいな態度悪い奴と一緒は嫌だよ!」
「じゃあ別々に行くか?」
「それは危ないからダメ」
「どっちなんだよ!」
クレティスは槍を肩に担いだ。
「休戦!」
「あ?」
「少なくとも、ここから出るまではね」
ロックへ手を差し出す。
「どう?」
「…………」
ロックはその手を見て、少し迷ったあと。
「しゃーねえな」
手を取った。
「決まり!」
クレティスが笑う。
「じゃあ行こう、ロック!」
「仕切んな、クレ」
歩き出しかけたクレティスが止まる。。
何か今変な言葉が聞こえた気がするんだが?
「……クレ?」
「長えから」
「クレティスくらい呼べるでしょ」
「クレ」
「勝手に決めた!」
「行くぞ、クレ」
「もう!」
文句を言いながら、クレティスはその後を追おうとした。
だが、すぐに足が止まる。
崩落は収まったものの、ティルのライトは消えたままだ。
「ロック」
「あ?」
「暗くない?」
「そりゃ洞窟だからな」
洞窟など明かりがなければ夜並みに暗いのだ。
「どうしよう?」
「…………は?」
ロックが振り返った。
「いや、だからさ。 これじゃ前が見えないでしょ?」
「お前、ライトは使えないの?」
「使えないよ?」
「照明道具」
「持ってない」
「…………」
沈黙。
「何?」
「お前、本当に冒険者か?」
「冒険者だよ!」
「洞窟に入るのに明かりも持ってきてねえのかよ!」
「だってティルがライト使えるから!」
「人任せじゃねえか!」
「ちゃんと槍は持ってきたよ!」
「当たり前だろ!」
ロックは頭を抱えた。
「ったく、光る光る……」
片手を上げる。
魔法の光が灯り、暗闇だった洞窟が照らされる。
「おお!」
クレティスの顔が明るくなった。
「ロックも使えるんだ!」
「冒険者ならこのくらいなら覚えるか、似たような道具くらい持ってくんだよ」
「ロックって冒険者なの?」
「そういう意味じゃねえ!」
「あ、そっか」
「……先が思いやられる」
ロックが歩き出す。
クレティスも後を追った。
「でも助かったよ、ロック!」
「次から明かりくらい自分で用意しろ、クレ」
「覚えてたらね!」
「今覚えろ!」
ついさっきまで殺気をぶつけ合っていた二人が、今度はそんなことで言い争いながら洞窟の奥へ進んでいく。
敵同士だったはずの二人の奇妙な休戦は、こうして始まった。