プレアデスストーリー   作:八束祐

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1部クレティス編 14

 

 洞窟の奥へ、二人分の足音が響く。

 先を歩くティルのライトが、濡れた岩肌を白く照らす。

 

 先ほどまで敵対していた相手と二人きり。

 普通なら、もう少し居心地の悪いものなのかもしれない。

 

 だが、ティルは気にした様子もなく歩いていた。

 アマランスもまた、必要以上に口を開こうとはしない。

 

 元々アマランスは喋るほうではないし。

 こういう時にいつも話すのはロックの方だった。

 

 ロックと言えば、向こうは大丈夫だろうか?

 死ぬようなことはないだろうが少しだけ心配である。

 

「…………」

 

 その横顔を、ティルがちらりと見る。

 

 視線が下がる。

 アベル教会服――

 

「一つ聞いていいか」

 

「何でしょう」

 

「教会服には女用もあったはずだな」

 

「あります」

 

「なら、なぜお前は男用を着ている?」

 

 アマランスは歩みを止めなかった。

 

「私は女である身を捨てたものですから」

 

「…………」

 

 ティルが少しだけ眉を上げた。

 だが、茶化しはしなかった。

 

「そうか」

 

「それだけです。 たいした意味はございません」

 

「なら、それでいい」

 

 女という身を捨てるということが、たいしたことではないか?

 それは凄いことでは?とそこをツッコむ程デリカシーがないわけではないのでティルも引く。

 

 二人は歩き続ける。

 

 少しして、今度はティルが別のことを尋ねた。

 

「じゃあ、あのロックはなぜ傍にいるんだ?」

 

「……質問の意図が良くわからないのですが? ロックですか?」

 

「ああ、お前の命令で動いているだけには見えない」

 

「……私の兄と友人だったというだけです」

 

「ふーん」

 

 ティルの返事は軽かった。

 ライトを前へ向け、足場を確かめながら進んでいく。

 

「なら、その兄はどうしたんだ?」

 

 アマランスの足が止まった。

 

「…………」

 

 ティルも数歩先で気づき、振り返る。

 

 アマランスは、ほんの少し視線を伏せていた。

 

「死にました」

 

「…………そうか、すまない事を聞いた」

 

 それ以上、軽い調子では返さなかった。

 

 短い沈黙が洞窟を満たす。

 やがてアマランスが自分から歩き出した。

 

「――私とロックは、兄を殺した男を探しています」

 

 ティルも再び歩き始める。

 

「まだ見つかってないのか?」

 

「はい」

 

「手がかりは?」

 

「……今は、お話しすることではありません」

 

「そうか」

 

 ティルは追及しなかった。

 

 ただ、隣を歩くアマランスを一度だけ見る。

 

 男物の教会服。

 

『私は女である身を捨てたものですから』

 

 殺された兄。

 

 その犯人を、ロックとともに追い続けている。

 ティルは前へ向き直った。

 

 ――だから女は捨てたわけね。

 

 一人で納得する。

 

 ならば、もう一つ気になる。

 

「しかし」

 

「何でしょう」

 

「あいつとは随分長い付き合いみたいだな」

 

「ロックですか?」

 

「ああ」

 

「兄の友人でしたから」

 

「お前と二人で、同じ男をずっと追っている」

 

「それが何か?」

 

 ティルは少し考えた。

 

「いや」

 

 口元に、わずかに笑みが浮かぶ。

 

「ひょっとして、あいつはお前の男かと思っただけだ」

 

「…………」

 

 アマランスの目が細くなった。

 

「あんな馬鹿な年下にそんな思いは無い!!」

 

「なるほど」

 

「何ですか、その顔は」

 

「いや、別に」

 

「何か勘違いしていませんか?」

 

「してないぞ」

 

「こちらを見て言ってください」

 

 ティルは前を向いたままだった。

 

「そういうことにしておこうや」

 

「どういうことですか!」

 

「気にするな」

 

「気になります!」

 

 先ほどまでより、アマランスの声にわずかに苛立ちが混じっている。

 ティルはそれを聞いて、ますます口元を緩めた。

 

「なるほどな~」

 

「だから何がですか!」

 

 アマランスの声が洞窟に響いた。

 

 直後――

 

 ティルの表情から笑みが消えた。

 

「静かに」

 

「……?」

 

 ライトを前方へ向ける。

 

 通路の先。

 

 それまで狭かった洞窟が、大きく開けている。

 

「かなり広い場所に出るな」

 

 アマランスもすぐに表情を引き締めた。

 

 二人は警戒しながら進む。

 

 そして――

 

「これは……」

 

 広い空間へ出たので、一旦ライトを高く掲げる。

 光が岩壁を照らし、地面を照らし――その先にあるものを浮かび上がらせる。

 

 ティルの目が細くなった。

 

「……見つけた」

 

 宝箱……

 

 中身は二人が探していたもので。

 受領書を手がかりに、ここまで追ってきたもの。

 

 怪しく輝き放つ宝石が、そこにあったのだった。

 

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