洞窟の奥へ、二人分の足音が響く。
先を歩くティルのライトが、濡れた岩肌を白く照らす。
先ほどまで敵対していた相手と二人きり。
普通なら、もう少し居心地の悪いものなのかもしれない。
だが、ティルは気にした様子もなく歩いていた。
アマランスもまた、必要以上に口を開こうとはしない。
元々アマランスは喋るほうではないし。
こういう時にいつも話すのはロックの方だった。
ロックと言えば、向こうは大丈夫だろうか?
死ぬようなことはないだろうが少しだけ心配である。
「…………」
その横顔を、ティルがちらりと見る。
視線が下がる。
アベル教会服――
「一つ聞いていいか」
「何でしょう」
「教会服には女用もあったはずだな」
「あります」
「なら、なぜお前は男用を着ている?」
アマランスは歩みを止めなかった。
「私は女である身を捨てたものですから」
「…………」
ティルが少しだけ眉を上げた。
だが、茶化しはしなかった。
「そうか」
「それだけです。 たいした意味はございません」
「なら、それでいい」
女という身を捨てるということが、たいしたことではないか?
それは凄いことでは?とそこをツッコむ程デリカシーがないわけではないのでティルも引く。
二人は歩き続ける。
少しして、今度はティルが別のことを尋ねた。
「じゃあ、あのロックはなぜ傍にいるんだ?」
「……質問の意図が良くわからないのですが? ロックですか?」
「ああ、お前の命令で動いているだけには見えない」
「……私の兄と友人だったというだけです」
「ふーん」
ティルの返事は軽かった。
ライトを前へ向け、足場を確かめながら進んでいく。
「なら、その兄はどうしたんだ?」
アマランスの足が止まった。
「…………」
ティルも数歩先で気づき、振り返る。
アマランスは、ほんの少し視線を伏せていた。
「死にました」
「…………そうか、すまない事を聞いた」
それ以上、軽い調子では返さなかった。
短い沈黙が洞窟を満たす。
やがてアマランスが自分から歩き出した。
「――私とロックは、兄を殺した男を探しています」
ティルも再び歩き始める。
「まだ見つかってないのか?」
「はい」
「手がかりは?」
「……今は、お話しすることではありません」
「そうか」
ティルは追及しなかった。
ただ、隣を歩くアマランスを一度だけ見る。
男物の教会服。
『私は女である身を捨てたものですから』
殺された兄。
その犯人を、ロックとともに追い続けている。
ティルは前へ向き直った。
――だから女は捨てたわけね。
一人で納得する。
ならば、もう一つ気になる。
「しかし」
「何でしょう」
「あいつとは随分長い付き合いみたいだな」
「ロックですか?」
「ああ」
「兄の友人でしたから」
「お前と二人で、同じ男をずっと追っている」
「それが何か?」
ティルは少し考えた。
「いや」
口元に、わずかに笑みが浮かぶ。
「ひょっとして、あいつはお前の男かと思っただけだ」
「…………」
アマランスの目が細くなった。
「あんな馬鹿な年下にそんな思いは無い!!」
「なるほど」
「何ですか、その顔は」
「いや、別に」
「何か勘違いしていませんか?」
「してないぞ」
「こちらを見て言ってください」
ティルは前を向いたままだった。
「そういうことにしておこうや」
「どういうことですか!」
「気にするな」
「気になります!」
先ほどまでより、アマランスの声にわずかに苛立ちが混じっている。
ティルはそれを聞いて、ますます口元を緩めた。
「なるほどな~」
「だから何がですか!」
アマランスの声が洞窟に響いた。
直後――
ティルの表情から笑みが消えた。
「静かに」
「……?」
ライトを前方へ向ける。
通路の先。
それまで狭かった洞窟が、大きく開けている。
「かなり広い場所に出るな」
アマランスもすぐに表情を引き締めた。
二人は警戒しながら進む。
そして――
「これは……」
広い空間へ出たので、一旦ライトを高く掲げる。
光が岩壁を照らし、地面を照らし――その先にあるものを浮かび上がらせる。
ティルの目が細くなった。
「……見つけた」
宝箱……
中身は二人が探していたもので。
受領書を手がかりに、ここまで追ってきたもの。
怪しく輝き放つ宝石が、そこにあったのだった。