目を覚ますと、最初に見えたのは見知らぬ天井。
「……んん?」
ぱちぱちと瞬きをする。
柔らかなベッドにふかふかの枕。
磨き上げられた家具に上等そうな絨毯が敷かれ。
壁には絵画まで飾られている贅沢仕様。
少なくとも洞窟でも山小屋でもないし。
ましてや牢屋には見えなかった。
ベッドの上で身を起こし考える。
「これは……」
自分は騎士たちに助けを求めて――そこから先の記憶がない。
なのに、目覚めた場所はこんなに綺麗な部屋。
「まさか!」
ループの目が輝いた。
「どこかのお貴族様がループを見初めて、プロポーズのためにさらってきたのでは!?」
だとしたら一大事である。
天才発明家のループ、ついに玉の輿。
「どっしぇー! 困るんですよー! ループちゃんはまだ心の準備が――」
「ふっふっふ」
背後から笑い声が聞こえループの動きが止まる。
「お目覚めザンスね」
現れた男を見て露骨にがっかりした声で。
「チェンジ!」
そう叫ぶ。
「何がザンス!?」
大臣も思わず叫んだ。
「いきなり失礼ザンスよ貴女!」
「いやー、ループにも選ぶ権利というものがあるですよ」
「何の話をしてるザンス!?」
「プロポーズではないですか?」
「違うザンス!」
「よかったです」
「なんでちょっと安心してるザンス!?」
大臣は咳払いしながら答える。
「まったく……話が進まんザンス」
手に持っていた紙を広げる。
「ミーが君をここへ連れてきたのは、作ってほしいものがあるからザンス」
「作ってほしいもの?」
「これザンス」
大臣がテーブルの上に設計図を広げた。
ループはベッドから降りると、近づいてその設計図を覗き込む。
「…………」
さっきまでのふざけた顔が消えた。
紙面を目で追う。
構造や機構に必要とされる出力。
どれをとっても最新……いや、今の技術で出来そうで出来なさそうな微妙な塩梅。
「これは……」
「作れるザンス?」
「…………」
ループは設計図から顔を上げた。
「お断り――」
やりたい! 作りたい! だが待ってる人がいる。
そう思って断ろうとしたときである。
「洞窟にいた二人の命と引き換えはどうザンス?」
言葉が止まった。
「…………」
大臣を見る。
「今、なんて言ったです?」
「聞こえなかったザンスか?」
大臣は笑っている。
「洞窟にいた二人。あの二人の命と引き換えなら、作ってくれるザンス?」
クレちゃんにティルちゃん。
フォルテも洞窟に探しに行ったのは良いが見つかったのだろうか?
ループの頭に二人の顔と一人の居候が浮かんだ。
「……二人は、生きてるです?」
「さあ?」
「…………」
「ただ、ミーの頼みを聞いてくれれば、少なくとも悪いようにはしないザンス」
ループは大臣を睨みつける。
断りたい。
こんなやり方をする人間のために、何かを作るなんて嫌だ。
けれど……
「…………わかったですよ」
声が低くなった。
「作ればいいんですね」
「ふっふっふ。 さすがはキーリル一の発明家というだけあって話が早くて助かるザンス」
大臣は満足そうに設計図を置いた。
「それでは頼んだザンスよ」
踵を返し部屋を出ていく。
「……」
扉が閉まった。
「…………」
一人になったループは、もう一度設計図を見る。
先ほどとは違う目で。
じっと――その構造を見つめた。