プレアデスストーリー   作:八束祐

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1部クレティス編 18

 塔の入口を、メイド長はさも当然と言った態度を崩さず。

 当たり前のように通過しロックもその後ろを歩く

 

「お疲れさまでございます」

 

 メイド長が笑顔で騎士へ会釈する。

 

「ご苦労様です」

 

 騎士も同じように会釈を返す。

 そして横をロックも通る。

 

「…………」

 

 会釈はくれないが何も言われない。

 

 次の騎士とすれ違う。

 

「お疲れさまでございます」

 

 また同じように笑顔で会釈するメイド長。

 

「お疲れさまです」

 

 この兵士も挨拶を返しロックも通りすぎる。

 

「…………」

 

 誰も止めずあっという間に廊下を抜ける。

 

 庭へ出てさらに門へ向かう。

 

「なあ」

 

 ロックが小声で呼んだ。

 

「はい?」

 

「俺のことを、誰も聞かねえんだけど」

 

「はい」

 

「はい、じゃねえよ。 なんでだ?」

 

「私と一緒におりますので」

 

「それだけ?」

 

「それだけでございます」

 

 さも当然のように笑顔でロックに返す。

 

 警報もなることはなく追っ手もまったくない。

 大臣邸を振り返るロック。

 

「…………」

 

 自分は見つからないように神経を尖らせて侵入した。

 

 それなのに……この女は正面から入った。

 そして侵入者の俺を連れて正面から出てきた。

 

「……俺がやった侵入方法って何だったんだ?」

 

「お疲れさまでございましたね」

 

 メイド長は本気で言ってるのが分かる。

 

「なんか腹立つな!」

 

「お気になさらず」

 

「自信失くすなぁ……」

 

 顔に手をやりながらそんなことをつぶやく。

 メイド長はそんなロックを見ながら優雅に微笑んだ。

 

―――――――――――――――――――

 

 

「遅いよ、ロック!」

 

 入口の近くで待っていたクレティスが駆け寄ってくる。

 

「どうだった!?」

 

「ハズレた。 あとメイドって凄いなって……」

 

 自信を無くしかけたような声でつぶやくロック。

 

「いったい何が!?」

 

「俺が会えたのはティルだ」

 

「ティル!?」

 

 クレティスが駆け寄る。

 

「無事だった!?」

 

「腹立つくらいクソ元気だったぞ」

 

「よかったぁ……!」

 

 肩から力が抜けるが、クレティスはすぐに気合を入れなおす。。

 そしてすぐに思い出した。

 

「おにぎりは!」

 

「渡した」

 

「食べてた?」

 

「食ってた」

 

「よし!」

 

「そこそんな重要か?」

 

「重要だよ!」

 

「そうかよ……」

 

 ロックがうんざりしたところで、クレティスの視線がその後ろへ動いた。

 

「…………」

 

 メイド服を着た知らない女性がいる。

 しかも、妙に堂々としている。

 

「……誰?」

 

 クレティスがロックへ小声で聞く。

 ところが答えるより先にメイド長が進み出た。

 

「お初にお目にかかります、クレティス様」

 

「え?」

 

 優雅な一礼。

 

「ティル様にお仕えしております。メイド長を務めております」

 

「ティルの?」

 

「はい」

 

 クレティスは目を丸くした。

 

「ティルにはメイドさんなんて雇ってるの!?」

 

「俺に聞くなよ」

 

「だってロックは知ってたんでしょ?」

 

 クレティスはぶんぶん腕を振りながら聞く。

 

「俺も今知ったばかりだよ」

 

「ええ!?」

 

 メイド長は二人の騒がしさなど意に介さず、柔らかく微笑んでいる。

 

「クレティス様のお話は、かねがね伺っております」

 

 メイド長の発言にクレティスの動きが止まる。

 

「ボクのこと知ってるの?」

 

「はい」

 

「……ティルは何て言ってた?」

 

「それは主人との秘密でございます」

 

 唇に手を当てメイド長はウインクをする。

 

「気になるなー!」

 

「ご容赦くださいませ」

 

 にこりと取り付く島がない。

 

 クレティスはロックへ囁いた。

 

「なんかすごい人だね」

 

「すげえんだぞ? 正面から塔に入って俺を正面から連れて出てきた」

 

「え? どういうこと?」

 

「俺にもわからん」

 

 メイド長はそんな二人をよそに何事もなかったように続けた。

 

「それよりもクレティス様。 ティル様から伝言をお預かりしております」

 

「ティルから?」

 

「『今夜は動かずに明日まで待て』と」

 

 クレティスの表情が引き締まる。

 

「……アマランスは?」

 

「別の塔にいらっしゃる可能性が高いかと」

 

「俺が二択を外した」

 

 ロックが答えた。

 

「じゃあ今度はそっちに――」

 

 ロックが止める。

 

「メイド長が、明日なら入りやすい時間があるって言うところだろ?」

 

「……」

 

 メイド長は笑顔のまま黙って頷く。

 

「明日……」

 

 クレティスは大臣邸を見る。

 

 すぐに行きたいけれど洞窟の出口で止められたばかりだ。

 突っ込めば助けられるわけではない。

 

「……わかった」

 

 クレティスは頷いた。

 

「待つよ!」

 

 ロックも安心したようだ。

 

 そのとき足音が聞こえた

 

 隠れる気など微塵もない重い足音が、だんだんこちらへ近づいてくる。

 ロックがナイフを抜いた。

 

「……誰だ」

 

 クレティスも槍を構える。

 闇の中から大柄な男が姿を現した。

 

「…………」

 

 クレティスの目が大きくなる。

 

「フォルテ!?」

 

「……お前、クレティスか」

 

 フォルテだった。

 数日前に会ったっきりの人がなんでこんなところに?

 

「……俺はループを探してる」

 

「ループ!?」

 

 クレティスが一歩詰め寄りフォルテの服をつかむ。

 

「ループは無事じゃないの!?」

 

「わからん」

 

「わからない?」

 

「騎士団の連中に連れていかれた…らしい」

 

「えっ!?」

 

 フォルテが大臣邸を見る。

 

「それで辿ってきたらここだと聞いた」

 

「誰に?」

 

「騎士」

 

 フォルテは当たり前だろ?というような声色で答える。

 

「騎士が教えてくれたの?」

 

「そう聞いた」

 

「普通に?」

 

「……多少殴ったがな」

 

「…………」

 

 クレティスが止まった。

 

「殴った?」

 

「ああ」

 

「誰を?」

 

「騎士」

 

「何人くらい!?」

 

 フォルテは顎に手を当て思案するが――

 

「覚えてないな」

 

「覚えてないくらい!?」

 

「1人当たり4・5発殴ったら、答えるか気絶するかもどちらかだったしな」

 

 フォルテは平然としている。

 

「ループを知らない奴だったからな」

 

「だから殴ったの!?」

 

「殴ってから聞いたぞ」

 

 当然だろ?というふてぶてしい態度。

 

「順番もおかしいよ!」

 

「知らなかったから次の騎士に行った」

 

「それを何回やったの!?」

 

「知ってる奴に当たるまで一人一人だ」

 

 クレティスは絶句した。

 ロックがぼそりと言う。

 

「こいつ、俺よりよっぽど暗殺者向いてねえか?」

 

「暗殺はしてねえぞ」

 

「そういう話じゃねえ」

 

 そう言いながらフォルテは初めてメイドへ目を向けた。

 

「誰だお前」

 

 メイド長は優雅に一礼する。

 

「ティル様にお仕えしております、メイド長でございます」

 

「そうか」

 

「はい」

 

「……ティルって誰だ」

 

「私の主人でございます」

 

「…………」

 

「…………」

 

 会話が止まって終わる。

 

「終わり!?」

 

 クレティスが突っ込んだ。

 

「他に何かあるのか」

 

「いや、ないけど!」

 

 フォルテは改めて大臣邸を見る。

 

「ループは中にいるみたいだと聞いた」

 

「そうですね。 その可能性が高いと思います」

 

 メイド長が答える。

 

「では行くか」

 

 腕をぶんぶん回しながら意気込むフォルテ。

 

「待て待て待て!」

 

 今度はロックが止めた。

 

「今は入らねえよ!」

 

「なぜだ」

 

「警備が多い。 明日、入りやすい時間がある」

 

「本当か」

 

「はい」

 

 ロックに代わってメイド長が答える。

 

「何時だ」

 

 警備の交代と大臣邸内の人員配置が薄くなる時間を説明した。

 黙って聞くフォルテ。

 

「その時間なら入れるのか」

 

「今よりは容易でございましょうね」

 

「わかった」

 

「……それだけ?」

 

 クレティスが驚く。

 

「ああ」

 

「今すぐ行くって言ってたじゃん!」

 

「今より明日の方が助けやすいんだろ」

 

「そうだけど」

 

「なら待つ」

 

 あまりにも即断だった。

 思わずロックがクレティスを見る。

 

「こいつ、意外と話通じる奴だな」

 

「人を順番に殴ってきた危ない人だけどね」

 

 フォルテは「必要だったからそうしただけだが?」というような目線を送る。

 

「絶対もっと方法あったよね?」

 

 そのやり取りを見て小さく微笑むメイド長。

 

「では、決まりでございますね。 明日の朝には皆様が入りやすいように手配しますので」

 

 メイド長はそれだけ言うと風が急に吹いて全員が目をそらした瞬間にはいなくなっていた。

 

「メイドって凄いんだね」

 

 クレティスはそういうしかなかった。

 

「だから言っただろ?」

 

 三人はそれぞれ助けたい者のいる大臣邸を見つめた。

 

 今すぐ飛び込むことはできる。

 けれどそれでは駄目だ。

 

 だから待つ。

 メイド長から教えられたその時間まで。

 

「……長いなあ」

 

 クレティスが呟く。

 

「寝ればすぐだ」

 

 ロックが言った。

 

「寝られるわけないでしょ!」

 

 こんな気持ちのまま眠れるだろうか?

 

「明日動けなくなるぞ」

 

「ロックこそ寝たら?」

 

「俺も寝られるか!」

 

「じゃあ同じじゃん!」

 

「俺とお前じゃ違うだろ?」

 

「何が!?」

 

 二人が言い合う横で、フォルテは人に見つかりにくい位置の壁に背を預けた。

 

「時間になったら起こせ」

 

 たった一言いうと目を閉じる。

 

「…………」

 

「…………」

 

 クレティスとロックが顔を見合わせた。

 

「こいつはとんだ大物だな」

 

「うん……」

 

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