館の中に入り込んでしまえば意外なほど楽に進んでいく。
近くの館で起きた爆発の影響だろうか?
廊下を慌ただしく走っていく兵士たちはいるが、彼らの意識は侵入者ではなく外の騒ぎへ向いているようだ。
「そっちじゃない」
先頭を進むロックが小声で言った。
「こっちの方?」
「ああ」
「わかるの?」
「昨日散々調べておいたからな」
メイド長から貰ったのと照らし合わせてだけどなと心の中で付け加えておく。
ロックは角から顔を出して廊下の様子を確認。
誰もいないと判断して合図を送る。
「今だ」
三人が走る。
メイド長から聞いた場所を目指して、大臣邸の奥へ進んでいく。
目指すのは塔。
昨夜ロックが選ばなかったもう一つの方だ。
「今度はいるんだよね?」
「いる」
「本当に?」
「あのメイド長が言ってたんだからいるだろ」
「昨日ハズレたんでしょ」
「うるせえ!」
「お前ら静かにしろ」
フォルテが言った。
「「お前が言うな!」」
二人の声が重なる。
「なぜだ?」
フォルテだけが納得していなかった。
――――――――――――
もう一つの塔の内部へ入る。
幸い入口に見張りはいないようで侵入は楽にできた。
さらに上へ向かい、途中で人の気配がすれば止まって通り過ぎるのを待つ。
それでも拍子抜けするほど警備には出会わなかった。
爆発騒ぎで人員を取られているらしい。
「……本当に誰もいないね」
「楽でいいだろ」
「そうだけど」
階段を上る。
「アマランスはずいぶん上にいるね」
「ああ、そうみたいだな」
「ねぇロック」
クレティスが階段を登りながら喋る。
「なんだ?」
「ボク、ちょっと疲れてきた」
「知るか!」
「背負って」
「絶対嫌だ!」
「フォルテ」
「断る」
即断するフォルテ。
「まだ頼んでないよ!」
「背負えと言うつもりだっただろ」
「なんでわかるの!?」
「わかるだろそれくらい」
ロックは呆れながら言う。
クレティスは不満そうに頬を膨らませた。
「男二人もいるのに冷たいなあ」
「ほら足を動かせ!」
そんなことを言っているうちに、上階へたどり着きロックが急に止まる。
後ろのクレティスも止まった。
「どうしたの?」
「いる」
さっきまでとは違う。
奥の部屋の前に兵士が立っている。
一人ではない。
さすがに捕虜を完全な無人状態にはしていなかったらしい。
ロックが目を細める。
「あそこにいるってことだ」
クレティスは兵士たちを見る。
「どうする?」
「気絶させる」
ロックが答えた。
「殺さない?」
「殺さねえ」
「うん」
クレティスは頷いた。
フォルテが右手の拳を握る。
「お前は加減しろよ」
「している」
「普段から!?」
ロックは一度息を吐く。
「行くぞ」
三人が物陰から出た。
当然、兵士たちは気づく。
「なんだお前たちは!」
一人が剣へ手を伸ばす。
「侵入――」
「ごめんね」
ぽかり。
クレティスが槍の柄で頭を叩いた。
「――者……」
兵士がその場に崩れ落ちる。
「えっ」
隣の兵士が固まった。
ロックが一気に懐へ入る。
「悪い」
急所を外して一撃。
「ぐっ!」
膝から崩れ最後の一人が剣を抜いた。
「貴様ら!」
踏み込む。
フォルテへ斬りかかった。
それをフォルテが半身になる。
剣が空を切った。
腕を取り、身体を入れる。
「な――」
兵士の身体が宙を舞った。
床へ。
「ぐっ!」
叩きつけられたところへ、フォルテが拳を止める。
兵士が目を見開く。
その拳は顔のすぐ横。
「寝てろ」
首筋へ軽く一撃。
「…………」
気を失った。
クレティスが倒れた三人を見る。
「死んでないよね?」
「生きてるだろ」
フォルテが答えた。
「よかった」
「最初から殺す気ねえよ」
ロックはそう言うと、もう兵士たちには目を向けなかった。
すぐに扉へ駆け寄る。
「アマランス!」
開ける。
部屋の奥。
窓から差し込む朝の光の中にいた。
アマランス。
両手には手枷。
それでも背筋を伸ばし静かに座っている。
ロックを見つめた。
「アマランス!」
無事だとわかる。
ロックの顔から張り詰めていたものが消えたように見えた。
「よかった……!」
すぐに駆け寄る。
「怪我は!?」
「ロック」
「あ?」
アマランスが立ち上がる。
手枷のついた両腕を上げ。
「え?」
するりとロックの身体へ腕を回した。
「お、おい?」
足が絡み身体を捻る。
「待――」
「遅い!」
「いだだだだだだだだ!?」
コブラツイスト。
手枷をつけたまま、見事に決まった。
「ちょっ、アマランス! 痛え! 痛えって!」
「遅い!」
「これでも早く来たんだよ!」
「遅い!」
「昨日から頑張ってたんだって!」
ぎりぎりぎり。
「いだだだだだ!」
ロックは抵抗しなかった。
外そうと思えば、何かできたかもしれない。
だが――
「……悪かったよ!」
甘んじて受けている。
クレティスはそう思いながら呆然とそれを眺めていた。
「…………」
隣のフォルテを見る。
「助けた方がいいかな?」
「必要ないだろ」
「そう?」
「ああ」
「ロック、すごく痛そうだけど」
「嬉しそう身も見えるぞ」
「え?」
改めて見る。
「いでえって! アマランス! もうちょっと手加減――いだだだ!」
嬉しそうかどうかよくわからない。
でも、ロックは一度も本気で逃げようとはしなかった。
「……そっか」
クレティスは笑う。
「無事でよかったね、ロック」
「見てないで助けろよクレ!」
「嫌だよ」
「なんで!?」
「ボク、二人の感動の再開を邪魔したくないし」
◇冒険者心得・その10 【人の恋道を邪魔するやつは、馬に蹴られて死んじまえ】
「何を勘違いしてんだ!」
「ロック」
「なんだよ!」
アマランスがさらに身体を捻った。
「まだ話は終わっていませんよ」
「いだだだだ! わかった! 聞く! 聞くから!」
朝の塔に、ロックの悲鳴が響いた。
こうしてまずは一人。
アマランスの救出は無事成功ことを喜ぼう。