プレアデスストーリー   作:八束祐

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クレティス編 22

 時間は少し前に戻る。

 

 クレティスたちがアマランスのいる塔を登り始めた頃。

 ティルは自分が閉じ込められていた部屋の扉の前に立っていた。

 

「さて、と」

 

 扉には鍵がかかっている。

 先ほど自分につながっていた手枷は既に外したのでここを開けるだけだ。

 

「ふんふふんふふ~ん」

 

 鼻歌を歌いながらポケットを探り。

 懐から細いピンのような道具を取り出すと鍵穴へ差し込んだ。

 

 少し動かして一度止める。

 角度を変えもう一度。

 

 ――かちりと音が鳴る。

 

「こんなもんかな」

 

 鍵があっさり外れる。

 

 ティルはすぐには扉を開けない。

 耳を澄ませ、廊下を行き来する足音がないことを確かめてからわずかに隙間を作った。

 

 誰もいないのを確認する。

 

 遠くからは、慌ただしく走る音が聞こえてくる。

 少し前、大臣邸の近くにある館が襲撃された。

 

 偶然ではない。

 これはティルがメイド長に命じたものなのだ。

 

 その騒ぎで人が動き館の警備にも穴が開く。

 あのときはまだ動くときではなかった。

 

 ティルは音もなく廊下へ出る。

 

「……そろそろ来てる頃か」

 

 クレティスたちも、同じ騒ぎを利用しているはずだ。

 

 もっとも、無事に入り込めたかどうかについては少しだけ不安が残る。

 

「アイツだからなあ……」

 

 思わず呟いた。

 

 ロックもいるから大丈夫だろう。

 そう思うとティルは廊下を進んだ。

 

 角をいくつも曲がっていく。

 昨夜、聞いた館の構造はすでに頭へ叩き込んである。

 

 階段を使い。

 使用人用の通路。

 

 警備の位置。

 人目につきやすい場所。

 

 避けるべき場所に気を付け。

 それらを頭の中でなぞりながら足音を殺して進んでいく。

 

 やがて――

 

「……ん?」

 

 ティルは足を止めた。

 

 金属音が聞こえた。

 

 何か工具を使う音?

 こんな状況だというのに妙に規則正しい。

 

 音のする部屋へ近づき。

 扉をわずかに開く。

 

 中には大量の部品が並んでいた。

 

 工具に設計図。

 

 その中央には、ティルにも用途のわからない大掛かりな装置が組み上げられている。

 

 そしてそこにいたのは――

 

「……ループ?」

 

「ほえ?」

 

 装置の前でなにかしらの作業をしていたループ。

 

「ティルちゃん!?」

 

「やっぱりお前か」

 

「なんでティルちゃんがここにいるんですか!?」

 

「いろいろあって捕まったから脱出してる最中」

 

「ここまで普通に歩いてきたんです?」

 

「いろいろあったんだよ」

 

「便利な言葉ですね!」

 

 洞窟で別れてしまって以来だ。

 ループが無事だったことにはひとまず安心した。

 

「……そういえばクレちゃんティルちゃんを助けるためにこれ作ってたんでした」

 

 ティルは部屋の中央を見た。

 

「何作ってんだ?」

 

「これですよ」

 

 設計図を軽く叩きながらループは言う。

 

「それは見ればわかるんだが……なんで大臣はこんなものを?」

 

 ティルは装置へ近づいた。

 

 何のためのものなのかは、さっぱりわからない。

 ただ、中心部に組み込まれたものには見覚えがあった。

 

「この宝石――」

 

「そうですよ」

 

 ティルの目つきが変わった。

 

 今回の一件で追ってきた宝石。

 それが、こんなところにある。

 

「なんでこれがここにあるんだ?」

 

「この装置に使うみたいですよ」

 

「何のために?」

 

「そこまではループちゃんにもわからないですよ」

 

「作ってる本人にも?」

 

「設計図はありますけど、完成したらどうなるのかまではわからないですよ」

 

 ティルは装置を見る。

 

「何か発射する装置というか、その割には半端にでけーんですよねー」

 

 宝石を使うそれだけは確かだ。

 だが、何をするためのものなのか。

 

「なにがあるのかわかるループが、何が起きるのかがわからないものを作るのは久しぶりですよ」

 

 ループは目をキラキラさせながら言う。

 

「誰に作れって言われた?」

 

「大臣さんです」

 

「……やっぱりか」

 

 これで追ってきたものがすべて大臣へ繋がっていることだけは間違いなさそうだった。

 

「お前は、なんでこんなところで大人しく作ってんだ?」

 

「事情があるんですよ、クレちゃんと、ティルちゃんが人質にされたからループは……」

 

 ループの声が、ほんの少しだけ変わった。

 

「あれ? ティルちゃんがここにいますね?」

 

「そうだな」

 

「じゃあ後はクレちゃん?」

 

「いや、捕まってたのは俺とあの時いた別の人間だぞ?」

 

「へ? マジなのですか?」

 

「うむ、そっちもクレティスが助けに向かってるだろうしとにかく脱出をしよう」

 

「え?」

 

「ここから出るぞ。今なら警備が薄い」

 

 ティルが出口へ向かう。

 だが、足音が続いてこない。

 

「……おい」

 

 振り返るとループは装置の前に立ったままだった。

 

「まだ完成してないんですけど?」

 

「…………」

 

「もうちょっとなんですよ」

 

「今、それを気にするところか?」

 

「途中まで作ったものを放っておくのは気持ち悪いですよ!」

 

「お前なあ……」

 

「もう少しで完成なんですよ!」

 

「捕まって作らされてるんだろ?」

 

「それとこれとは別ですよ!」

 

 ティルは額を押さえた。

 

 本気で言っているらしい

 

 珍しいものを作りもう少しで完成する。

 だったら最後まで作りたい。

 

 状況がどうであろうと、そこだけは譲れないらしい。

 

「……わかったよ」

 

「お?」

 

「すべてが終わったら、ちゃんとした依頼で作らせてやるよ」

 

「!」

 

 ループの動きが止まった。

 ティルを見る。

 

「ティルちゃん」

 

「なんだよ」

 

「それって……」

 

 何かを言いかけて、ループは黙った。

 

 ティルの顔をじっと見る。

 それから、何かに気づいたように目を見開いた。

 

「……なるほどですよ」

 

「何がだ?」

 

「だったら、ループちゃんはやることがありますので」

 

「あ?」

 

「先に行っててください」

 

「いや、今ここから出ようって話をしてたよな?」

 

「聞いてましたよ」

 

「じゃあ来いよ」

 

「ループちゃんは、もうちょっと残ります」

 

 先ほどまでとは、少し様子が違う。

 

 装置を完成させたいという事ではないらしい。

 

 何かを考えている。

 それが何なのかまではティルにもわからなかった。

 

「……危なくなったら逃げろよ」

 

「もちろんですよ!」

 

「本当だろうな?」

 

「任せてくださいですよ!」

 

「お前の『任せて』って、クレティスよりもなんか不安なんだよな」

 

「失礼ですよ!」

 

 ティルは苦笑した。

 

 ここで押し問答を続けている時間はない。

 

「じゃあ、先に行くぞ」

 

「はいですよ!」

 

 ティルは部屋を出た。

 

 扉を閉める。

 

 中に残ったループが、これから何をするつもりなのか。

 それを確かめることなくティルは先へ進んだ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 再び館の中を進むことに――

 

 ティルの頭から、先ほど見たものが離れない。

 

 宝石を使った正体不明の装置。

 大臣がループを使ってそれを作らせている。

 

 ここまではわかった。

 

 だが、肝心な部分が見えない。

 何のための装置なのか?

 なぜ、あの宝石でなければならないのか?

 

 そして――大臣は、あれを使って何をするつもりなのか?

 

「……まだ情報が足りねえな」

 

 そのときだった――前方から人の気配がするのですぐに口を閉じる。

 

 複数の足音が近づいてくる。

 ティルは廊下の陰へ身を滑らせた。

 

「――どうなってるザンス! なんでこんなときに近くのあの館が襲われるザンス! こっちの兵まで持っていかれたザンスよ!」

 

 男の声が聞こえた。

 

「落ち着いてくださいな」

 

 続いて女の声。

 男とは対照的にひどく穏やかだった。

 

「これが落ち着いていられるザンスか! せっかくここまで来たのに、もし計画が――」

 

 二人が姿を現した。

 

 男の顔を見た瞬間。

 ティルの目が細くなった。

 

『大臣――』

 

 間違いない大臣本人だ。

 その大臣が、目に見えて焦っている。

 

 そして――もう一人。

 

「…………」

 

 ティルは女を見る。

 

 見覚えがなく知らない。

 大臣の隣を歩いているにもかかわらず騒ぎに動揺した様子もない。

 

 むしろ、焦る大臣を静かに眺めている。

 

「こんなはずじゃなかったザンス……!」

 

「…………」

 

 女は穏やかな表情を崩さない。

 

(誰なんだあの女……)

 

 大臣が何かを話し始める。

 

 ティルは呼吸を潜める。

 

 ここで姿を現す理由はない。

 大臣本人が、わざわざ目の前で何かを喋ろうとしているのだから隠れるほうが得だろう。

 

 ティルは物陰から二人を見つめ。

 そして、静かに耳を澄ませるのだった。

 

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