プレアデスストーリー   作:八束祐

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クレティス編 24

「ごめんね!」

 

 ごんっと槍の柄が兵士の頭を叩いた。

 

「ぐっ……」

 

 最後の一人がその場に崩れ落ちる。

 クレティスは倒れた兵士の前にしゃがみ込み顔を覗き込む。

 

「……大丈夫だよね?」

 

「気絶してるだけだ」

 

 ロックが答える。

 

「ならヨシ!」

 

「よくはありません」

 

 背後から冷たい声が飛んできた。

 

 振り返れば、アマランスが呆れたようにこちらを見ている。

 つい先ほどまで捕まっていた彼女の手に、もう手枷はない。

 

「警備の兵を倒し拘束されていた私を連れ出したのですよ? 我々の立場がさらに悪化していることは理解していますか?」

 

「でも助けないわけにいかないでしょ?」

 

「それは……そうですが」

 

「ならいいじゃん」

 

「よくはありません」

 

「どっち?」

 

「助けてもらったことには感謝しています。 ですが! やり方について文句は言っています」

 

「難しいなあ」

 

 クレティスは目をそらしながらそう言う。

 

「難しくありません」

 

「クレに言っても無駄だぞ」

 

 あまりひどい状況だったので止めに入るロック。

 

「ロックは黙っていなさい」

 

「そうだそうだ! ロックは黙ってろ」

 

「なんで俺まで怒られんだよ」

 

 フォルテはそんな三人を無視して、廊下の先を見ていた。

 

「次は――」

 

 短い言葉で話を戻そうとするアマランス。

 

 そのときだった。

 

 ――ズズン。

 

「……?」

 

 足元が揺れた。

 

 クレティスが壁へ手をつく。

 

「なに?」

 

「爆発じゃねえな」

 

 ロックが天井を見る。

 

 先ほど外で起きたものとは違う。

 

 もっと近い。

 

 いや? 近いというより――。

 

「館の中から?」

 

 アマランスが眉を寄せた。

 

 ――ドンッ!

 

 今度は、はっきりと何かが壊れる音がした。

 

「おいおい」

 

 ロックが顔をしかめる。

 

「何が起きてんだよ」

 

「わからないよ! でも――」

 

 クレティスが槍を握り直す。

 

「急ごう」

 

 何かがおかしいと駆けだす。

 

 なおさらあとの二人を早く見つけた方がいいようだ。

 四人が走り出した。

 

「ティルはこっちだよね?」

 

「ああ!」

 

 角を曲がり階段へ向かう。

 

 その途中――。

 

「うおっ!?」

 

 ロックが急停止した。

 

 前から誰かが飛び出してきたのだ。

 

 クレティスも反射的に槍を構える。

 

「ティル!?」

 

「クレティス!」

 

 走ってきた男も足を止めた。

 

「……お前ら」

 

 ティルはクレティスを見る。

 ロックにアマランス。

 

 一人知らないやつもいるが今はいい。

 全員揃っている。

 

「上手くいったみたいだな」

 

「こっちの台詞だよ!」

 

 クレティスは槍を下ろした。

 

「自分で逃げてきたの!?」

 

「ああ」

 

「どうやって?」

 

「鍵開けて出てきた」

 

「開くの!?」

 

「開けたからここにいる」

 

「それはそうだけど!」

 

 クレティスがティルへ駆け寄る。

 

「怪我は?」

 

「ない」

 

「本当に?」

 

「見りゃわかるだろ」

 

「よかったぁ……」

 

 心底安心した声が出た。

 

 だが、ティルは笑わなかった。

 

「安心するのはまだ早い」

 

「え?」

 

「まずいことになった」

 

 その声で、全員の空気が変わった。

 

 アマランスが尋ねる。

 

「何があったのです?」

 

「大臣だ」

 

「大臣が?」

 

「ああ」

 

 ティルが一度、後ろを振り返る。

 

「……化け物になった」

 

「…………」

 

 沈黙。

 クレティスが瞬きをする。

 

「ごめん。 もう一回」

 

「大臣が化け物になった」

 

「聞き間違いじゃなかった」

 

「俺も見た」

 

「どうやったら大臣が化け物になるんだよ」

 

 ロックがもっともな疑問を口にした。

 

「宝石だ」

 

 ティルが答える。

 その一言に、クレティスの表情が変わった。

 

 他の人たちも同じようだ。

 

「宝石?」

 

「俺たちが探してたやつだ」

 

「どういうこと?」

 

「詳しいことまではわからない。 ただ――」

 

 ティルは自分が見たものを思い出す。

 

 大臣の額へ埋め込まれた宝石。

 崩れていく人間の身体。

 膨れ上がる粘体。

 

「どうもあの宝石は人間の願いを叶えるらしい」

 

「願いを……?」

 

 アマランスが息を呑んだ。

 クレティスもすぐには言葉が出なかった。

 

「願いって……なんでも?」

 

「そこまでは知らん」

 

「じゃあ大臣は何を願ったんだ?」

 

 ロックが聞く。

 

「この状況をどうにかしたい! ひっくり返す力が欲しいとかそんなところだろ」

 

「それで化け物に?」

 

「少なくとも、俺が見たのは結果として化け物になった大臣だ」

 

 クレティスは顔をしかめた。

 

「……願い、叶ってるのかな? それ」

 

「本人に聞け」

 

「聞ける状態?」

 

「たぶん無理だな」

 

「じゃあ聞けないじゃん!」

 

 ティルが肩をすくめる。

 

「だから言ってるだろ? まずいことになったって」

 

 ――ズズズン。

 

 また館が揺れた。

 今度は先ほどより大きい。

 

 天井からぱらぱらと埃が落ちる。

 全員が顔を上げた。

 

「……アレのせいか?」

 

 フォルテが尋ねる。

 

「たぶんな」

 

「大きさは?」

 

「見たときからデカかった。 しかも周りの物を呑み込んでまだ広がってるはずだ」

 

「広がる?」

 

「見た方が早いんだが……いや、できれば見ない方がいい」

 

「どっちだよ」

 

 ロックが突っ込む。

 

 そこでクレティスが気づいた。

 

「ティル」

 

「なんだ」

 

「ループはどこにいるか知らない?」

 

「ああ」

 

 ティルはすぐに答えた。

 

「会ったぞ」

 

「本当!?」

 

「この先の部屋にいる」

 

「無事なの?」

 

「今のところは」

 

「じゃあ早く助けに行こう!」

 

「待て」

 

 ティルが止める。

 

「本人は残るって言った」

 

「なんで!?」

 

「やることがあるんだと」

 

「こんなときに!?」

 

「俺もそう言った」

 

「なんで置いてきたの!」

 

「言って聞く奴だと思うか?」

 

「…………」

 

 洞窟で出会ったあの子を思い出す。

 

「……ちょっと思わない」

 

「だろ」

 

「でも!」

 

 クレティスは即座に言った。

 

「状況が変わった」

 

 さっきまでならともかく、今は館の中で何かが起きている。

 

 大臣が怪物になり、館そのものを壊しながら広がっているという状況。

 そんな場所に置いていくわけにはいかない。

 

「ループのところに行こう」

 

 迷いはなかった。

 

「俺も行くぞ」

 

 フォルテも頷く。

 

「案内しろ」

 

「最初からそのつもりだ」

 

 ティルが先頭へ立ち一行が走り出した。

 

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