プレアデスストーリー   作:八束祐

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1部クレティス編 3

 

 ティルから聞いた盗賊団の場所へ辿り着いたころには、すっかり日も暮れていた。

 

 クレティスは物陰から、盗賊団のアジトを窺ってみる。

 

「ここだね」

 

 間違いない。

 問題は、どうやって潜入するかだ。

 

 ティルから頼まれたのは、宝石について何か知らないか調査すること。

 もちろん盗賊が相手なのだから、正面から「宝石について知りませんか」と聞いたところで素直に教えてくれるとは思えない。

 

「こっそり入って、こっそり調べて……」

 

 クレティスはその前に自分の槍を見る。

 

「……これ、こっそりする武器じゃないなぁ」

 

 しばらく考える。

 

「よし」

 

 槍を握り直した。

 

「見つからなければいいんだ」

 

 何一つ解決していなかった。

 

 それでもクレティスはアジトへ近づいていく。

 

 見張りの様子を窺いながら進み、物陰から物陰へ移る。

 幸い、すぐに見つかるようなことはなかった。

 

 そうして中へ入り込んでから、クレティスは気づいた。

 

「……ん?」

 

 妙だな? 人の気配はある。

 

 盗賊団が留守というわけではない。

 だというのに――。

 

「なんか騒がしい?」

 

 奥のほうから声がする。

 

 怒鳴り声。

 

 何かが倒れる音。

 

 続いて、短い悲鳴。

 

「…………」

 

 クレティスは槍を構えた。

 

 誰かが盗賊たちと戦っているのか?

 足音を殺しながら奥へ向かう。

 

 角を曲がったところで、一人の盗賊が飛び出してきた。

 

「うわっ!」

 

「わっ!?」

 

 互いに驚いた。

 

「なんだてめ――」

 

「えいっ!」

 

 言い終わる前に、クレティスは槍の柄を叩き込んだ。

 

「ぐえっ!」

 

 盗賊がその場に崩れ落ちる。

 

「あー、びっくりしたぁ……」

 

 胸を撫で下ろしたクレティスは、その向こうへ目を向け――足を止めた。

 

 男がいた。

 

 かなり大柄だ。鍛え上げられた身体つきは、そこらの盗賊とは明らかに違う。

 

 何より、その両腕。

 腕を覆うように、ガントレットが装着されている。

 

 そして男の足元には、すでに何人もの盗賊が転がっていた。

 

「…………」

 

 男がクレティスを見る。

 クレティスも男を見る。

 

「誰?」

 

「…………」

 

「盗賊じゃないよね?」

 

「見ればわかるだろ」

 

 低く、ぶっきらぼうな返事だった。

 

「じゃあ、何してるの?」

 

「探し物だ」

 

「探し物?」

 

「ああ」

 

「何を?」

 

「お前に話す必要はない」

 

「……今日そういう人に会うのこれで三人目なんだけど」

 

 クレティスはがっくりと肩を落とした。

 

 ティルといい、さっきの白髪の男といい、目の前の大男といい。

 ――ボクが出会う男はこうも態度がみな悪いのだろう。

 

 今日一日だけで、男運というものについて真剣に考えたくなってきた。

 

 そんなクレティスをよそに、男の視線が動く。

 

「後ろだ」

 

「え?」

 

「侵入者だ!」

 

 振り返れば、盗賊たちが武器を手に押し寄せてきていた。

 

「いたぞ!」

 

「二人ともやっちまえ!」

 

「ちょっと待って! ボク、この人の仲間じゃ――」

 

 盗賊の一人が剣を振り上げる。

 

「――話くらい聞いてよ!」

 

 クレティスは踏み込み、槍で剣を受け流した。

 返す柄で腹を打つ。

 

「ぐふっ!」

 

 そこへ横から別の盗賊が迫った。

 

 だが。

 

「邪魔だ」

 

 大柄な男が、その間へ滑り込んだ。

 

 右腕のガントレットが短く走る。

 拳が盗賊の身体を捉えた。

 

「ぐっ!」

 

 殴り飛ばす――かと思ったが違った。

 盗賊が体勢を立て直すより先に、男の手がその腕を取っている。

 

「え?」

 

 クレティスが目を丸くした。

 

 引いて崩す。

 向かってくる力を受け止めるのではなく、そのまま別の方向へ流す。

 

「うわっ!?」

 

 盗賊の身体が、面白いほど簡単にひっくり返った。

 別の一人が背後から殴りかかる。

 

 男は振り向きもしない。

 半身になってかわし、腕を取る。

 

 身体の向きを少し変えただけに見えた。

 

「ぐえっ!?」

 

 次の瞬間には、襲いかかった盗賊が床へ叩きつけられている。

 

「おお……!」

 

 クレティスは思わず見入った。

 大柄だから、てっきり真正面から殴り倒すタイプだと思っていた。

 

 もちろん拳も使う。

 ガントレットを叩き込めば、それだけで十分に痛そうだ。

 

 だが、それ以上に厄介なのは身のこなしだった。

 

 殴りかかれば外される。

 

 掴もうとすれば崩される。

 

 囲もうとすれば、一人を別の一人へぶつけられる。

 

 盗賊たちは人数で勝っているはずなのに、男一人にいいように翻弄されていた。

 

「強いね、君!」

 

「よそ見するな」

 

「え?」

 

「後ろ」

 

「また!?」

 

 クレティスは慌てて頭を下げた。

 刃が髪の上を通過する。

 

「あぶなっ!」

 

 そのまま一回転。

 槍の石突きで足を払い、倒れた盗賊の胸へ柄を叩き込む。

 

 これでまた一人。

 

 男とクレティス。

 互いに名も知らないまま、気づけば同じ盗賊たちを相手に戦っていた。

 

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