ティルから聞いた盗賊団の場所へ辿り着いたころには、すっかり日も暮れていた。
クレティスは物陰から、盗賊団のアジトを窺ってみる。
「ここだね」
間違いない。
問題は、どうやって潜入するかだ。
ティルから頼まれたのは、宝石について何か知らないか調査すること。
もちろん盗賊が相手なのだから、正面から「宝石について知りませんか」と聞いたところで素直に教えてくれるとは思えない。
「こっそり入って、こっそり調べて……」
クレティスはその前に自分の槍を見る。
「……これ、こっそりする武器じゃないなぁ」
しばらく考える。
「よし」
槍を握り直した。
「見つからなければいいんだ」
何一つ解決していなかった。
それでもクレティスはアジトへ近づいていく。
見張りの様子を窺いながら進み、物陰から物陰へ移る。
幸い、すぐに見つかるようなことはなかった。
そうして中へ入り込んでから、クレティスは気づいた。
「……ん?」
妙だな? 人の気配はある。
盗賊団が留守というわけではない。
だというのに――。
「なんか騒がしい?」
奥のほうから声がする。
怒鳴り声。
何かが倒れる音。
続いて、短い悲鳴。
「…………」
クレティスは槍を構えた。
誰かが盗賊たちと戦っているのか?
足音を殺しながら奥へ向かう。
角を曲がったところで、一人の盗賊が飛び出してきた。
「うわっ!」
「わっ!?」
互いに驚いた。
「なんだてめ――」
「えいっ!」
言い終わる前に、クレティスは槍の柄を叩き込んだ。
「ぐえっ!」
盗賊がその場に崩れ落ちる。
「あー、びっくりしたぁ……」
胸を撫で下ろしたクレティスは、その向こうへ目を向け――足を止めた。
男がいた。
かなり大柄だ。鍛え上げられた身体つきは、そこらの盗賊とは明らかに違う。
何より、その両腕。
腕を覆うように、ガントレットが装着されている。
そして男の足元には、すでに何人もの盗賊が転がっていた。
「…………」
男がクレティスを見る。
クレティスも男を見る。
「誰?」
「…………」
「盗賊じゃないよね?」
「見ればわかるだろ」
低く、ぶっきらぼうな返事だった。
「じゃあ、何してるの?」
「探し物だ」
「探し物?」
「ああ」
「何を?」
「お前に話す必要はない」
「……今日そういう人に会うのこれで三人目なんだけど」
クレティスはがっくりと肩を落とした。
ティルといい、さっきの白髪の男といい、目の前の大男といい。
――ボクが出会う男はこうも態度がみな悪いのだろう。
今日一日だけで、男運というものについて真剣に考えたくなってきた。
そんなクレティスをよそに、男の視線が動く。
「後ろだ」
「え?」
「侵入者だ!」
振り返れば、盗賊たちが武器を手に押し寄せてきていた。
「いたぞ!」
「二人ともやっちまえ!」
「ちょっと待って! ボク、この人の仲間じゃ――」
盗賊の一人が剣を振り上げる。
「――話くらい聞いてよ!」
クレティスは踏み込み、槍で剣を受け流した。
返す柄で腹を打つ。
「ぐふっ!」
そこへ横から別の盗賊が迫った。
だが。
「邪魔だ」
大柄な男が、その間へ滑り込んだ。
右腕のガントレットが短く走る。
拳が盗賊の身体を捉えた。
「ぐっ!」
殴り飛ばす――かと思ったが違った。
盗賊が体勢を立て直すより先に、男の手がその腕を取っている。
「え?」
クレティスが目を丸くした。
引いて崩す。
向かってくる力を受け止めるのではなく、そのまま別の方向へ流す。
「うわっ!?」
盗賊の身体が、面白いほど簡単にひっくり返った。
別の一人が背後から殴りかかる。
男は振り向きもしない。
半身になってかわし、腕を取る。
身体の向きを少し変えただけに見えた。
「ぐえっ!?」
次の瞬間には、襲いかかった盗賊が床へ叩きつけられている。
「おお……!」
クレティスは思わず見入った。
大柄だから、てっきり真正面から殴り倒すタイプだと思っていた。
もちろん拳も使う。
ガントレットを叩き込めば、それだけで十分に痛そうだ。
だが、それ以上に厄介なのは身のこなしだった。
殴りかかれば外される。
掴もうとすれば崩される。
囲もうとすれば、一人を別の一人へぶつけられる。
盗賊たちは人数で勝っているはずなのに、男一人にいいように翻弄されていた。
「強いね、君!」
「よそ見するな」
「え?」
「後ろ」
「また!?」
クレティスは慌てて頭を下げた。
刃が髪の上を通過する。
「あぶなっ!」
そのまま一回転。
槍の石突きで足を払い、倒れた盗賊の胸へ柄を叩き込む。
これでまた一人。
男とクレティス。
互いに名も知らないまま、気づけば同じ盗賊たちを相手に戦っていた。