プレアデスストーリー   作:八束祐

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クレティス編 28

 

 爆音が館を揺らす。

 炎が膨れ上がり熱風が部屋を駆け抜けた。

 

「うわぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

 抱えられたままのクレティスは両腕で顔を覆った。

 爆風が髪を巻き上げ耳が痛い。

 

「ループ! 爆発大きすぎない!?」

 

「残ってたの全部ですからねー!?」

 

「全部!?」

 

「全部置いたのフォルテちゃんですよ!?」

 

「そうだった!」

 

 やがて轟音が遠ざかっていき、ぱらぱらと瓦礫が落ちる音だけが残った。

 

「……生きてる?」

 

 クレティスが恐る恐る目を開ける。

 

「足はついてるぞ」

 

 フォルテが答えた。

 

「うん……降ろして?」

 

「わかった」

 

 荷物を下ろすかのように無造作に下ろす。

 

「そうじゃなくて、もうちょっと優しく!」

 

 クレティスが腰を押さえる。

 

「無事ならいいだろ?」

 

「よくないよ!」

 

「クレ!」

 

 ロックの声がした。

 

「見ろよ!」

 

「え?」

 

 煙の向こうをクレティスが振り返る。

 そこにあったはずの巨大な影が消えていた。

 

 壁も床も天井も覆い尽くしていた粘体がない。

 

 触手もない。

 部屋を呑み込み続けていた化け物は跡形もなく消えている。

 

「……やった?」

 

 クレティスが呟く。

 誰もすぐには答えなかった。

 

「やったんじゃねえか?」

 

 ロックが言う。

 

「本当に?」

 

「少なくとも、さっきの化け物は見あたらねえ」

 

 ティルも周囲を見回しアマランスが息を吐いた。

 

「どうやら……終わったようですね」

 

「…………」

 

 クレティスが、ぱあっと笑った。

 

「やったぁぁぁぁぁぁっ!」

 

「あー! 今回は死ぬかと思ったぁぁぁ!」

 

 両腕で顔を覆うロック。

 

「やったですよー!」

 

 ループも跳ねる。

 

「生きてる! みんな生きてるよ!」

 

「そうですね」

 

 アマランスにもようやく安堵の表情が浮かんだ。

 

「まったく無茶をする人たちですよねー」

 

「お前が言ったらだめだぞ?」

 

 ティルがループの発言に対しツッコむ。

 

「アマランスもやったじゃん!」

 

「私はあなた方に巻き込まれただけです」

 

「最後まで一緒に戦ったら同罪だよ!」

 

「なんの罪ですか」

 

「悪あがき罪!」

 

「聞いたことがありませんね」

 

 それを見たティルが笑う。

 

「勝ったんだからいいだろ」

 

「そう! 最後に立ってれば勝ち――」

 

「動くなザンス!」

 

「――!?」

 

 全員が振り返る。

 

「ふっ、ふっ、ふっ……」

 

 煙の中から一人の男が現れた。

 

「ミーは……まだ負けてないザンスよ!」

 

「…………」

 

 服はボロボロ、髪も爆発で盛大に乱れている。

 顔は煤だらけで頭からはぷすぷすと煙まで上がっていた。

 

「生きてた!? てっきり死んだかと――」

 

「失礼ザンスね!」

 

 あれだけの爆発を受けたというのに――

 服と頭が悲惨なことになっている程度で身体そのものには致命的な傷がない。

 

「なんで!?」

 

 ロックも目を剥く。

 

「たぶん……」

 

 ティルが少し考える。

 

「あの粘液の塊が爆発から守ったんじゃないか?」

 

「あれだけの爆発をよく生き残れたね!?」

 

「願いを叶えた結果だからな。 本人を生かす方にでも働いたんじゃないか?」

 

「なんか納得いかない!」

 

「ミーもこんな酷い目に遭ってるザンスよ!?」

 

「元気じゃん!」

 

「元気じゃないザンス!」

 

 そこで大臣がぐいっと腕を引いた。

 

「ふぇっ!?」

 

「ループ!」

 

 クレティスの顔色が変わる

 近くにいたために大臣につかまったループ。

 

「動くなザンス!」

 

 拾ったナイフをループの首に押し付ける。

 

「卑怯だぞ!!」

 

 クレティスが叫ぶ。

 

「政治とはこういうものザンス!」

 

「……絶対違うと思う!」

 

「黙るザンス!」

 

 大臣はループを盾にするようにしながら一同を睨みつける。

 

「いいザンスか? これからお前たちはミーの言うとおりに証言するザンス!」

 

「証言?」

 

「そうザンス!」

 

 大臣の顔にあの自信が戻ってきたのかひげがピーンと立つ。

 

「ここへは、恐ろしいテロリストどもがやって来たザンス!」

 

「…………」

 

「そいつらが館を襲撃して兵士を倒し! 建物は破壊され爆弾まで使って、何もかも滅茶苦茶にしていったザンス!」

 

 クレティスが周囲を見る。

 

 倒れた兵士に壊れた壁。

 爆発跡もあるにはあるが――

 

「……途中までボクたちのことじゃない?」

 

「クレティスさん」

 

「はい」

 

 アマランスに真顔で止められた。

 

「そして勇敢なるミーは、命懸けで国を守ろうとしたザンス!」

 

「化け物になってたけど?」

 

「そこは言わないザンス!」

 

「宝石の件はどうするんだ?」

 

 ティルが呆れながらも聞く。

 

「知らないザンス!」

 

「クーデターは?」

 

「テロリストの仕業ザンス! 偶然近くにテロリストのアジトがあるザンスからね」

 

「俺たちの逮捕命令は?」

 

「テロリストがなんかしたザンス!」

 

「雑になってんぞ!」

 

 ロックが内容に耐えきれずとうとう叫んだ。

 

「そんな無茶が通るか!」

 

「通るザンス! ミーは大臣ザンスよ!?」

 

「大臣さんよ?」

 

 ティルが口を開いた。

 妙に静かな声だった。

 

「お前さんはバカだろ?」

 

「馬鹿っていうなザンs――」

 

 ティルを見る大臣が止まった。

 

「…………」

 

 瞬きをしてもう一度見る。

 

「…………あなた様は、もしや……」

 

 髪型は違うが知っている。

 彼は――

 

「ああ」

 

 ティルがにやりと笑った。

 

「そうだよ」

 

 髪をかき上げオールバックにしてにやりと笑う。

 

「俺だよ! グランバード新国王のティルツ=レン=グランバートだよ」

 

「ええええええええええええええっ!?」

 

 叫び声が二つ重なった。

 

 大臣とクレティス。

 

「「王様ぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」」

 

「うるせえ!」

 

 両耳をふさいで叫ぶティル

 

「え!? え!? ティルが!? 王様!?」

 

「そう言っただろ」

 

「いつから!?」

 

「最初から」

 

「最初から王様だったの!?」

 

 クレティスは混乱したまま周囲を見た。

 

「ちょっと待って! みんな! ティルが王様だって!」

 

「知ってた」

 

 何言ってるんだこいつって顔のロック。

 

「…………え?」

 

「興味ない」

 

 心の底からどうでもいいというフォルテ。

 

「…………え?」

 

「王子でいらした頃に、何度かお顔を拝見する機会がありましたから」

 

 アマランスは結構前から気が付いてた様だ。

 

「…………え?」

 

 クレティスが最後の希望を求めるようにループを見る。

 

 ループは大臣に捕まったまま。

 

 うんうんと大きく二回頷いた。

 

「ループまで!?」

 

 ティルが肩をすくめる。

 

「ボクが一番古いのに知らなかったんだ……」

 

「お前、そういうの気にしないと思ってた」

 

「気にするよ! さすがに王様は気にするよ!」

 

「そうか?」

 

「軽ーい!」

 

 その横で大臣の顔からはみるみる血の気が引いていた。

 

「…………」

 

「どうした?」

 

 ティルが見る。

 

「じゃあ……」

 

 大臣の唇が震える。

 

「ミーの作戦は……?」

 

「バレバレの穴だらけだったぞ?」

 

「…………」

 

 大臣の目が死んだ。

 

「大臣が怪しいのは最初からわかってた。 だから調べてたんだよ」

 

「…………」

 

「お前が証拠を消したつもりになってたところも命令を出したところもだいたい追ってあるぞ?」

 

「…………」

 

「あと、お前が思ってるほど騎士団全員がお前の味方ってわけでもない」

 

「…………」

 

「ついでに今、お前が俺たちに偽証を強要したのも今さっき聞いたな」

 

「…………」

 

 大臣が震え始める。

 

「ほぼ詰みだな」

 

「ま、まだザンス!」

 

 大臣がループを抱える腕に力を込め――ようとした。

 

「まだ人質が――」

 

 いない。

 

「…………」

 

 大臣が空っぽの自分の腕を見る。

 

「……あ?」

 

 横を見るとフォルテの後ろにループがいた。

 

「大丈夫か? ループ」

 

「フォルテちゃんは心配性ですねぇ」

 

 ループがひらひらと手を振った。

 

「…………いつ?」

 

「王様って言葉に驚いてた隙を狙ってたぞ」

 

 ロックが答える。

 

 そして大臣の顔が引きつっていく。

 ループの前に立っていたフォルテが一歩動いた。

 

「…………」

 

 笑っていた――

 笑顔を見たことがなかったみんなが驚くくらいにいい笑顔で。

 

「ひっ」

 

 大臣が小さな声を出した。

 

 フォルテが一歩進み。

 大臣が後ろに下がろうとする。

 

「…………」

 

 足が動かない。

 恐怖のあまり腰が抜けてへたり込む。

 

「ま、待つザンス」

 

 フォルテは笑っている。

 

「話し合うザンス」

 

 一歩。

 

「ミーは大臣ザンスよ?」

 

 一歩。

 

「政治的な解決というものが――」

 

 フォルテが目の前まで来た。

 素手の拳を握る。

 

「ちょ」

 

 大臣が両手を上げる。

 

「待つザ――」

 

 ごっ。

 

「ザンスッ!?」

 

 綺麗な一発だった。

 大臣の頭がぐらりと揺れる。

 

 白目を剥いた大臣は――

 そのままばたんと床へ倒れた。

 

「…………」

 

 静寂が流れ。

 フォルテが拳を開いた。

 

「終わった」

 

「最初からそれでよかったんじゃねえか?」

 

 呆れながらロックが言った。

 

「ループが人質だったからな」

 

「そうだったな」

 

 とにかく事件は解決と言っていいだろう。

 

「……ふふ」

 

 小さな笑い声。

 

「あははは!」

 

 クレティスが笑う。

 

「なんだよ」

 

「いや、なんか……」

 

 怪訝な顔のティルに、クレティスは笑いながら部屋の奥へ歩いていく。

 

 爆発の衝撃でひび割れた壁。

 そこに――

 

「あった」

 

 槍が突き刺さっていた。

 

 クレティスは柄を両手で掴む。

 

「んっ……!」

 

 力を込める。

 

「ぬぬぬ……!」

 

 抜けない。

 

「…………」

 

 足を壁へつける。

 

「ぬおおおおおおっ!」

 

 すぽんっ。

 

「わっ!?」

 

 勢い余って尻餅をついた。

 槍を抱えたまま、クレティスが床に転がる。

 

「痛ったぁ……」

 

「最後まで締まらねえな」

 

 ティルが呆れるが手を差し伸べる。

 

「うるさいなあ」

 

 その腕を受け取りクレティスは立つ。

 

 槍を見る。

 

 亡くなった叔父から持ち出してきた大事な槍。

 それを肩に担ぐ。

 

 館はめちゃくちゃで自分たちもボロボロ。

 

 でも、みんな立っている。

 みんながつかんだ勝利!

 

 勝利をかみしめながら。

 

「悪い事って出来ないものだよねティル」

 

 クレティスは倒れた大臣を縛り上げているティルを見る。

 

「ああ」

 

 小さく笑う。

 

「そうだな」

 

 この騒動は無事解決したのだった。

 




次回、クレティス編エピローグです。
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