ここには食堂まで用意されていて、頼めば大抵のものは食べられるらしい。
志岐と沙耶が席につくと、ほどなくして桃が二人分の料理を運んできた。
「どうぞ」
「ありがと」
皿を置き終えても、桃はその場を離れなかった。
給仕でもするつもりなのか、二人の傍らに静かに立っている。
沙耶が向かいの空いている椅子を見た。
「桃さんは食べないんですか?」
「お二人のお世話をするよう、レイド様より命じられております」
「お世話?」
「はい」
沙耶は少し困ったように眉を下げる。
「でも、私たちは同じチームですよね」
「はい」
「だったら、一緒に食べませんか?」
桃が沙耶を見る。
その顔には、誘われたことへの喜びも戸惑いも浮かんでいない。
「これは命令でしょうか」
「いいえ」
沙耶はすぐに答えて、空いている椅子を引いた。
「私が桃さんと一緒に食べたいんです」
「…………」
桃は椅子と沙耶を交互に見た。
ほんのわずかな沈黙のあと、頭を下げる。
「承知いたしました」
そうして三人で卓を囲むことになった。
食事が始まっても、桃は必要以上に口を開かなかった。
料理を口に運ぶ姿も淡々としていて、うまいともまずいとも言わない。
しばらくそれを眺めていた志岐が、不意に尋ねた。
「桃」
「はい」
「何が好き?」
「何が、とは」
「食い物」
「特にはございません」
「じゃあ嫌いなのは?」
「特には」
「これ食いてぇとかないの?」
「必要な栄養を摂取できれば問題ありません」
「つまんねぇ食い方してんなあ」
「兄様」
沙耶にたしなめられたが、志岐は気にせず自分の皿から肉を一切れ取った。
そのまま桃の皿へ放り込む。
「じゃあ、これ食ってみろ」
「ありがとうございます」
桃は言われた通り、肉を口に運んだ。
「うまい?」
「はい。美味しいです」
「なら覚えとけよ」
桃の手が止まった。
「何をでしょうか」
「それが好きかもしれねぇってこと」
「…………」
桃は自分の皿に視線を落とす。
そこにあるのは、先ほどまでと何も変わらない料理だ。
けれど今度は、次の一口を取るまでに少しだけ時間があった。
「好き、ですか」
「そうさ、別に今日決めなくてもいいけどな」
志岐はもう自分の食事へ戻っている。
沙耶がそんな兄を見てから、桃へ柔らかく笑いかけた。
「好きかどうかは、桃さんが決めればいいんですよ」
「私が?」
「はい! レイドさんでも兄様でもなく、桃さんがです」
桃は黙って肉をもう一切れ口へ運んだ。
先ほどよりも、ほんの少しゆっくり噛んでいる。
「…………」
「どうだ?」
志岐に聞かれ、桃はしばらく考えた。
「……美味しいです」
「そっか」
結局、それ以上の答えは出なかった。
けれど桃はそのあと、皿に残っていた肉から先に食べた。