プレアデスストーリー   作:八束祐

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志岐編 4

 

 ここには食堂まで用意されていて、頼めば大抵のものは食べられるらしい。

 

 志岐と沙耶が席につくと、ほどなくして桃が二人分の料理を運んできた。

 

「どうぞ」

 

「ありがと」

 

 皿を置き終えても、桃はその場を離れなかった。

 給仕でもするつもりなのか、二人の傍らに静かに立っている。

 

 沙耶が向かいの空いている椅子を見た。

 

「桃さんは食べないんですか?」

 

「お二人のお世話をするよう、レイド様より命じられております」

 

「お世話?」

 

「はい」

 

 沙耶は少し困ったように眉を下げる。

 

「でも、私たちは同じチームですよね」

 

「はい」

 

「だったら、一緒に食べませんか?」

 

 桃が沙耶を見る。

 その顔には、誘われたことへの喜びも戸惑いも浮かんでいない。

 

「これは命令でしょうか」

 

「いいえ」

 

 沙耶はすぐに答えて、空いている椅子を引いた。

 

「私が桃さんと一緒に食べたいんです」

 

「…………」

 

 桃は椅子と沙耶を交互に見た。

 ほんのわずかな沈黙のあと、頭を下げる。

 

「承知いたしました」

 

 そうして三人で卓を囲むことになった。

 

 食事が始まっても、桃は必要以上に口を開かなかった。

 料理を口に運ぶ姿も淡々としていて、うまいともまずいとも言わない。

 

 しばらくそれを眺めていた志岐が、不意に尋ねた。

 

「桃」

 

「はい」

 

「何が好き?」

 

「何が、とは」

 

「食い物」

 

「特にはございません」

 

「じゃあ嫌いなのは?」

 

「特には」

 

「これ食いてぇとかないの?」

 

「必要な栄養を摂取できれば問題ありません」

 

「つまんねぇ食い方してんなあ」

 

「兄様」

 

 沙耶にたしなめられたが、志岐は気にせず自分の皿から肉を一切れ取った。

 

 そのまま桃の皿へ放り込む。

 

「じゃあ、これ食ってみろ」

 

「ありがとうございます」

 

 桃は言われた通り、肉を口に運んだ。

 

「うまい?」

 

「はい。美味しいです」

 

「なら覚えとけよ」

 

 桃の手が止まった。

 

「何をでしょうか」

 

「それが好きかもしれねぇってこと」

 

「…………」

 

 桃は自分の皿に視線を落とす。

 そこにあるのは、先ほどまでと何も変わらない料理だ。

 

 けれど今度は、次の一口を取るまでに少しだけ時間があった。

 

「好き、ですか」

 

「そうさ、別に今日決めなくてもいいけどな」

 

 志岐はもう自分の食事へ戻っている。

 

 沙耶がそんな兄を見てから、桃へ柔らかく笑いかけた。

 

「好きかどうかは、桃さんが決めればいいんですよ」

 

「私が?」

 

「はい! レイドさんでも兄様でもなく、桃さんがです」

 

 桃は黙って肉をもう一切れ口へ運んだ。

 先ほどよりも、ほんの少しゆっくり噛んでいる。

 

「…………」

 

「どうだ?」

 

 志岐に聞かれ、桃はしばらく考えた。

 

「……美味しいです」

 

「そっか」

 

 結局、それ以上の答えは出なかった。

 けれど桃はそのあと、皿に残っていた肉から先に食べた。

 

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