午後になって、三人は互いの力量を確かめることになった。
と言っても、沙耶が使えるのは回復術だけだ。
怪我人が出れば自分の出番だと言って端へ下がったので、実質的には志岐と桃の力を見るための訓練になった。
桃は見た目以上に優秀だった。
向かい合ってみれば、午前中までの物静かな印象とはまるで違う。
魔術の発動は速く、狙いも正確だった。
杖の先から放たれた魔力を志岐が横へかわすと、桃はその動きを追うように次の術を放つ。
一発を外したことに動揺する様子もない。
「へえ」
志岐が少し楽しそうに笑った。
試しに真正面から距離を詰める。
桃は後ろへ逃げるだけではなかった。
魔術を放ちながら間合いを測り、志岐が射程へ踏み込んだ瞬間には杖を横薙ぎに振るう。
魔術師だから接近すれば終わり、という戦い方ではないらしい。
もっとも、それでも志岐には届かない。
「そこ」
振るわれた杖を身を沈めてかわす。
そのまま一歩で懐へ入り込むと、志岐は腰の刀には触れず、空いた指先を桃の額へ伸ばした。
ぴん、と軽く弾く。
「終了! っと」
桃は額を押さえるでもなく、その場で動きを止めた。
「……はい」
「お前、結構強いな」
「ありがとうございます」
勝ち負けを決めるだけなら、もっと早く終わらせることもできた。
だが少し付き合ってみたおかげで、桃の動きがただ訓練を繰り返しただけのものではないことも分かった。
志岐は桃の持つ杖を見ながら尋ねる。
「なんか実戦を経験してるって動きだったが、そんなのもやってるのか?」
「レイド様に修行をさせてもらってますから」
「ふーん」
志岐は頭の後ろで手を組んだ。
レイドが桃に何を教えているのかなどそれ自体には大して興味はない。
だが、桃のことは少し気になった。
「幼少の頃からずっと修行してました」
「そんな昔からかよ」
「はい、魔術も戦闘も、必要になるものは一通り」
それなら先ほどの動きにも納得はいく。
まだ若いのに、戦い慣れているわけだ。
志岐は腕を組み、うんうんと一人で頷いた。
「でも俺の方が強い!」
わっはっは! と胸を張って笑う。
「はい」
桃はあっさりと認めた。
笑っていた志岐の顔から、わずかに勢いが消える。
やはり、なにか引っかかる。
普通なら、少しくらい腹を立ててもいい。
負けたのだから悔しがってもいいし、次は勝つと言い返したっていい。
けれど桃は、勝敗を告げられたときから何も変わっていなかった。
「そこは悔しがってもいいんだぞ」
「事実ですので」
「……そうか」
それ以上は言わなかった。
訓練が終わり、沙耶もこちらへ戻ってきたが、桃にはどこかへ行く様子がない。
聞けば、レイドから次の指示が来るまで待機するつもりらしい。
食事のときもそうだった。
何を食べたいかではなく、必要なものを食べる。
どうしたいかではなく、命じられたことをする。
負けて悔しいかどうかより、志岐の方が強いという事実を受け入れる。
それが桃にとっては当たり前なのだろう。
志岐は何か言いかけたが、結局やめた。
会ったばかりの自分が口を出すことでもない。
その日は、そこで解散となった。