プレアデスストーリー   作:八束祐

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クレティス編 4

 ティルから聞いた盗賊団の場所へ辿り着いたころには、すっかり日も暮れていた。

 

「よいしょっと」

 

 クレティスは物陰から、盗賊団のアジトを窺ってみる。

 

「ここだね」

 

 間違いない。

 問題はどうやって潜入するかだ。

 

 ティルから頼まれたのは、宝石について何か知らないか調査すること。

 もちろん盗賊が相手なのだから、正面から「宝石について知りませんか」と聞いたところで素直に教えてくれるとは思えない。

 

「こっそり入って、こっそり調べて……」

 

 クレティスはその前に自分の槍を見る。

 

「……これ、こっそりするための武器じゃないなぁ」

 

 しばらく考える。

 

「よし」

 

 槍を握り直した。

 

「見つからなければいいんだ」

 

◇冒険者心得・その12 【バレて捕まるまでは何も問題ない!】

 

 その言葉も、まったく何一つ解決していなかった。

 それでもクレティスはアジトへ近づいていく。

 

 見張りの様子を窺いながら進み、物陰から物陰へ移る。

 幸い、すぐに見つかるようなことはなかった。

 

 そうして中へ入り込んでから、クレティスは気づいた。

 

「……ん?」

 

 妙だな? 人の気配はある。

 

 盗賊団が留守というわけではない。

 だというのに――。

 

「なんか騒がしい?」

 

 奥のほうから声がする。

 

 怒鳴り声。

 

 何かが倒れる音。

 

 続いて、短い悲鳴。

 

「…………」

 

 クレティスは槍を構えた。

 

 誰かが盗賊たちと戦っているのか?

 足音を殺しながら奥へ向かう。

 

 角を曲がったところで、一人の盗賊が飛び出してきた。

 

「うわっ!」

 

「わっ!?」

 

 互いに驚いた。

 

「なんだてめ――」

 

「えいっ!」

 

 言い終わる前に、クレティスは槍の柄を叩き込んだ。

 

「ぐえっ!」

 

 盗賊がその場に崩れ落ちる。

 

「あー、びっくりしたぁ……」

 

 胸を撫で下ろしたクレティスは、その向こうへ目を向け――足を止めた。

 

 男がいた。

 

 かなり大柄だ。鍛え上げられた身体つきは、そこらの盗賊とは明らかに違う。

 

 何より、その両腕。

 腕を覆うように、ガントレットが装着されている。

 

 そして男の足元には、すでに何人もの盗賊が転がっていた。

 

「…………」

 

 男がクレティスを見る。

 クレティスも男を見る。

 

「誰?」

 

「…………」

 

「盗賊じゃないよね?」

 

「見ればわかるだろ」

 

 低く、ぶっきらぼうな返事だった。

 

「じゃあ、何してるの?」

 

「探し物だ」

 

「探し物?」

 

「ああ」

 

「何を?」

 

「お前に話す必要はない」

 

「……今日そういう人に会うのって、これで三人目なんだけど」

 

 クレティスはがっくりと肩を落とした。

 

 ティルといい、さっきの白髪の男といい、目の前の大男といい。

 ――ボクが出会う男はこうも態度がみな悪いのだろう。

 

 今日一日だけで、男運というものについて真剣に考えたくなってきた。

 

 そんなクレティスをよそに、男の視線が動く。

 

「後ろだ」

 

「え?」

 

「侵入者だ!」

 

 振り返れば、盗賊たちが武器を手に押し寄せてきていた。

 

「いたぞ!」

 

「二人ともやっちまえ!」

 

「ちょっと待って! ボク、この人の仲間じゃ――」

 

 盗賊の一人が剣を振り上げる。

 

「――話くらい聞いてよ!」

 

 クレティスは踏み込み、槍で剣を受け流した。

 返す柄で腹を打つ。

 

「ぐふっ!」

 

 そこへ横から別の盗賊が迫った。

 

 だが。

 

「邪魔だ」

 

 大柄な男が、その間へ滑り込んだ。

 

 右腕のガントレットが短く走る。

 拳が盗賊の身体を捉えた。

 

「ぐっ!」

 

 殴り飛ばす――かと思ったが違った。

 盗賊が体勢を立て直すより先に、男の手がその腕を取っている。

 

「え?」

 

 クレティスが目を丸くした。

 

 引いて崩す。

 向かってくる力を受け止めるのではなく、そのまま別の方向へ流す。

 

「うわっ!?」

 

 盗賊の身体が、面白いほど簡単にひっくり返った。

 別の一人が背後から殴りかかる。

 

 男は振り向きもしない。

 半身になってかわし、腕を取る。

 

 身体の向きを少し変えただけに見えた。

 

「ぐえっ!?」

 

 次の瞬間には、襲いかかった盗賊が床へ叩きつけられている。

 

「おお……!」

 

 クレティスは思わず見入った。

 大柄だから、てっきり真正面から殴り倒すタイプだと思っていた。

 

 もちろん拳も使う。

 ガントレットを叩き込めば、それだけで十分に痛そうだ。

 

 だが、それ以上に厄介なのは身のこなしだった。

 

 殴りかかれば外される。

 

 掴もうとすれば崩される。

 

 囲もうとすれば、一人を別の一人へぶつけられる。

 

 盗賊たちは人数で勝っているはずなのに、男一人にいいように翻弄されていた。

 

「強いね、君!」

 

「よそ見するな」

 

「え?」

 

「後ろ」

 

「また!?」

 

 クレティスは慌てて頭を下げた。

 刃が髪の上を通過する。

 

「あぶなっ!」

 

 そのまま一回転。

 槍の石突きで足を払い、倒れた盗賊の胸へ柄を叩き込む。

 

 これでまた一人。

 

 男とクレティス。

 互いに名も知らないまま、気づけば同じ盗賊たちを相手に戦っていた。

 

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