やがて、最後の一人が床へ転がった。
「ふぅ」
クレティスは槍を肩へ担ぐ。
「終わった?」
「いや」
男が短く答えた。
「え?」
そのときだった。
「そこまでであるぞ!」
奥から声が響いた。
「お?」
クレティスが振り返る。
ずしん。
ずしん。
重い足音。
いかにも盗賊団の頭領らしい大男でも出てくるのだろうか。
クレティスは槍を構えた。
「来るなら来い!」
やがて、その男が姿を現した。
「…………」
クレティスの槍が下がった。
まず目に入ったのは、顔。
派手な隈取。
次に頭。
ちょんまげ。
そして身体。
相撲の力士を思わせる格好。
「…………」
クレティスは何度か瞬きをした。
見間違いではない。
もう一度、上から下まで見る。
「変態だー!?」
「なんと嘆かわしい……!」
男が大仰に首を横へ振った。
「これは由緒正しきヤーパンの民族衣装であるぞ」
「どう見ても変態だよ!」
「変態ではない!」
「いや変態だよ!」
「ヤーパンの伝統である!」
「ヤーパンに謝ってよ!」
クレティスは槍を構えることすら忘れていた。
何なのだ、これは。
盗賊団の頭を倒すという。
いかにも冒険者らしい展開だったはずだ。
なのに出てきたのがこれである。
「さあ、侵入者よ!」
男が堂々と構えた。
「由緒正しきヤーパンの戦士たる我が――」
「無理」
「あ?」
「ボク、なんか戦う気なくなっちゃった……」
クレティスは槍を下ろした。
怖いわけではない。
強そうだからでもない。
ただ単純に、猛烈に戦いたくない。
「おい」
隣から低い声がした。
「何?」
「どいてろ」
「…………」
クレティスは大柄な男を見る。
「やってくれるの?」
「邪魔だ」
「言い方!」
とはいえ、ありがたい。
「じゃあお願い」
クレティスは素直に横へ退いた。
「変態には気をつけてね!」
「誰が変態であるか!」
「どう見ても君だよ!」
「黙ってろ」
「ボクまで!?」
大柄な男はクレティスを無視して前へ出た。
両腕のガントレットを確かめる。
対する盗賊団の頭も腰を落とした。
「ほう……貴様が相手をするか」
「…………」
「ならば見せてやろう! 遥か東方、神秘の国ヤーパンより伝わりし――」
「来い」
「最後まで言わせんか!」
盗賊団の頭が地面を蹴った。
巨体が真正面から迫る。
「うおおおおおお!」
速い。
見た目から想像した以上の突進だった。
真正面から受ければ、大柄な男でもただでは済まない。
「危ない!」
クレティスが叫ぶ。
だが男は避けなかった。
ほんのわずか、身体の位置をずらす。
そして突進してきた腕へ、自分の腕を添えた。
「ぬっ!?」
力と力をぶつけたわけではない。
勢いを殺したわけでもない。
向きを変えただけだった。
「ぬおおっ!?」
盗賊団の頭の巨体が、勢いそのままに横へ流れる。
男はさらに一歩踏み込み、その体勢を崩す。
「ぬおおおおお!?」
巨体が宙を舞った。
「ええっ!?」
クレティスまで驚いた。
轟音。
床が揺れる。
それでも盗賊団の頭はすぐに起き上がった。
「おのれ!」
拳を振り回すが大柄な男はなんなくかわす。
一撃。
二撃。
三撃。
当たらない。
焦れて踏み込めば、その足運びを利用される。
掴もうと腕を伸ばせば、その腕を取られる。
そして隙が生まれた瞬間だけ――。
ガンッ!
ガントレットに覆われた拳が腹へ入った。
「ぐほっ!」
巨体が折れる。
だが、まだ倒れない。
「まだまだである!」
再び突進する。
男は表情を変えなかった。
また受け流す。
崩す。
投げる。
殴る。
「すご……」
クレティスは、いつしか変態への嫌悪も忘れて戦いを見ていた。
身体の大きさでは、二人とも負けていない。
なのに戦い方はまるで違う。
盗賊団の頭が巨体と勢いで押し潰そうとするほど、それが逆に利用されていく。
「ぬおおおおおっ!」
とうとう頭領が大きく拳を振りかぶった。
男はその懐へ入る。
腕を取り身体を回す。
「ぬ――」
頭領の足が浮いた。
その巨体が、またしても宙を舞う。
「おおおおおおおお!?」
今度こそ、豪快に床へ叩きつけられた。
「…………」
静かになった。
クレティスが恐る恐る覗き込む。
「終わった?」
「…………」
盗賊団の頭は動かない。
「終わったみたいだね」
クレティスはほっと息を吐いた。
それから倒れている男を見る。
「しかし……」
隈取。
ちょんまげ。
相撲レスラーのような姿。
「やっぱり変態だよね」
「ほっとけ」
「君もそう思う?」
「言ってない」
「でも否定もしなかったよ?」
男は答えなかった。
クレティスは少し笑う。
そして、改めて彼を見る。
「ねえ」
「何だ」
「君、名前は?」
男はしばらくクレティスを見た。
「フォルテだ」
「フォルテ……」
クレティスはその名前を繰り返した。
「ボクはクレティス」
「ああ」
「よろしく、フォルテ!」
「…………」
「……そこは何か言おうよ」
返事はない。
「やっぱり今日会う男、みんな態度悪いなぁ……」
クレティスは肩を落とした。
ともあれ、盗賊団は倒したのだから宝石はゆっくり探そう。