プレアデスストーリー   作:八束祐

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1部クレティス編 4

 

 やがて、最後の一人が床へ転がった。

 

「ふぅ」

 

 クレティスは槍を肩へ担ぐ。

 

「終わった?」

 

「いや」

 

 男が短く答えた。

 

「え?」

 

 そのときだった。

 

「そこまでであるぞ!」

 

 奥から声が響いた。

 

「お?」

 

 クレティスが振り返る。

 

 ずしん。

 

 ずしん。

 

 重い足音。

 

 いかにも盗賊団の頭領らしい大男でも出てくるのだろうか。

 クレティスは槍を構えた。

 

「来るなら来い!」

 

 やがて、その男が姿を現した。

 

「…………」

 

 クレティスの槍が下がった。

 

 まず目に入ったのは、顔。

 

 派手な隈取。

 

 次に頭。

 

 ちょんまげ。

 

 そして身体。

 

 相撲の力士を思わせる格好。

 

「…………」

 

 クレティスは何度か瞬きをした。

 

 見間違いではない。

 もう一度、上から下まで見る。

 

「変態だー!?」

 

「なんと嘆かわしい……!」

 

 男が大仰に首を横へ振った。

 

「これは由緒正しきヤーパンの民族衣装であるぞ」

 

「どう見ても変態だよ!」

 

「変態ではない!」

 

「いや変態だよ!」

 

「ヤーパンの伝統である!」

 

「ヤーパンに謝ってよ!」

 

 クレティスは槍を構えることすら忘れていた。

 

 何なのだ、これは。

 

 盗賊団の頭を倒すという。

 いかにも冒険者らしい展開だったはずだ。

 

 なのに出てきたのがこれである。

 

「さあ、侵入者よ!」

 

 男が堂々と構えた。

 

「由緒正しきヤーパンの戦士たる我が――」

 

「無理」

 

「あ?」

 

「ボク、なんか戦う気なくなっちゃった……」

 

 クレティスは槍を下ろした。

 

 怖いわけではない。

 

 強そうだからでもない。

 

 ただ単純に、猛烈に戦いたくない。

 

「おい」

 

 隣から低い声がした。

 

「何?」

 

「どいてろ」

 

「…………」

 

 クレティスは大柄な男を見る。

 

「やってくれるの?」

 

「邪魔だ」

 

「言い方!」

 

 とはいえ、ありがたい。

 

「じゃあお願い」

 

 クレティスは素直に横へ退いた。

 

「変態には気をつけてね!」

 

「誰が変態であるか!」

 

「どう見ても君だよ!」

 

「黙ってろ」

 

「ボクまで!?」

 

 大柄な男はクレティスを無視して前へ出た。

 

 両腕のガントレットを確かめる。

 

 対する盗賊団の頭も腰を落とした。

 

「ほう……貴様が相手をするか」

 

「…………」

 

「ならば見せてやろう! 遥か東方、神秘の国ヤーパンより伝わりし――」

 

「来い」

 

「最後まで言わせんか!」

 

 盗賊団の頭が地面を蹴った。

 

 巨体が真正面から迫る。

 

「うおおおおおお!」

 

 速い。

 

 見た目から想像した以上の突進だった。

 真正面から受ければ、大柄な男でもただでは済まない。

 

「危ない!」

 

 クレティスが叫ぶ。

 

 だが男は避けなかった。

 

 ほんのわずか、身体の位置をずらす。

 

 そして突進してきた腕へ、自分の腕を添えた。

 

「ぬっ!?」

 

 力と力をぶつけたわけではない。

 勢いを殺したわけでもない。

 

 向きを変えただけだった。

 

「ぬおおっ!?」

 

 盗賊団の頭の巨体が、勢いそのままに横へ流れる。

 男はさらに一歩踏み込み、その体勢を崩す。

 

「ぬおおおおお!?」

 

 巨体が宙を舞った。

 

「ええっ!?」

 

 クレティスまで驚いた。

 

 轟音。

 

 床が揺れる。

 

 それでも盗賊団の頭はすぐに起き上がった。

 

「おのれ!」

 

 拳を振り回すが大柄な男はなんなくかわす。

 

 一撃。

 

 二撃。

 

 三撃。

 

 当たらない。

 

 焦れて踏み込めば、その足運びを利用される。

 掴もうと腕を伸ばせば、その腕を取られる。

 

 そして隙が生まれた瞬間だけ――。

 

 ガンッ!

 

 ガントレットに覆われた拳が腹へ入った。

 

「ぐほっ!」

 

 巨体が折れる。

 

 だが、まだ倒れない。

 

「まだまだである!」

 

 再び突進する。

 男は表情を変えなかった。

 

 また受け流す。

 

 崩す。

 

 投げる。

 

 殴る。

 

「すご……」

 

 クレティスは、いつしか変態への嫌悪も忘れて戦いを見ていた。

 

 身体の大きさでは、二人とも負けていない。

 なのに戦い方はまるで違う。

 

 盗賊団の頭が巨体と勢いで押し潰そうとするほど、それが逆に利用されていく。

 

「ぬおおおおおっ!」

 

 とうとう頭領が大きく拳を振りかぶった。

 男はその懐へ入る。

 

 腕を取り身体を回す。

 

「ぬ――」

 

 頭領の足が浮いた。

 

 その巨体が、またしても宙を舞う。

 

「おおおおおおおお!?」

 

 今度こそ、豪快に床へ叩きつけられた。

 

「…………」

 

 静かになった。

 

 クレティスが恐る恐る覗き込む。

 

「終わった?」

 

「…………」

 

 盗賊団の頭は動かない。

 

「終わったみたいだね」

 

 クレティスはほっと息を吐いた。

 それから倒れている男を見る。

 

「しかし……」

 

 隈取。

 

 ちょんまげ。

 

 相撲レスラーのような姿。

 

「やっぱり変態だよね」

 

「ほっとけ」

 

「君もそう思う?」

 

「言ってない」

 

「でも否定もしなかったよ?」

 

 男は答えなかった。

 

 クレティスは少し笑う。

 そして、改めて彼を見る。

 

「ねえ」

 

「何だ」

 

「君、名前は?」

 

 男はしばらくクレティスを見た。

 

「フォルテだ」

 

「フォルテ……」

 

 クレティスはその名前を繰り返した。

 

「ボクはクレティス」

 

「ああ」

 

「よろしく、フォルテ!」

 

「…………」

 

「……そこは何か言おうよ」

 

 返事はない。

 

「やっぱり今日会う男、みんな態度悪いなぁ……」

 

 クレティスは肩を落とした。

 

 ともあれ、盗賊団は倒したのだから宝石はゆっくり探そう。

 

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