プレアデスストーリー   作:八束祐

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志岐編 12

 

「志岐様」

 

 桃が声をかけた。

 

「ん?」

 

「質問してもよろしいでしょうか」

 

「いいぞ」

 

「志岐様は、よい人間なのですか?」

 

 志岐が桃を見る。

 沙耶も少し驚いたようだった。

 

「なんだ急に?」

 

「先ほどの方を逃がしてあげました」

 

「殺すほどじゃねえしな」

 

「宝石を奪おうとしていました」

 

「奪われてねえだろ?」

 

「再び襲撃をしかけてくる可能性もあります」

 

「そんときは、また倒せばいいからな」

 

「ですが――」

 

 桃は考える。

 

「レイド様でしたら、危険を残すことは避けると思います」

 

「だろうな」

 

 あいつなら容赦なく殺していただろう。

 短い付き合いだがそういう男だとわかる。

 

「よい人間だから、逃がしたのではないのですか?」

 

「知らねえ」

 

「分からないのですか?」

 

「善人になろうと思ったことねえし」

 

「では、なぜ?」

 

 志岐は前を向いた。

 

 少し考えてみるが、難しい問いだとは思わない。

 答えは昔から大して変わっていないのだから。

 

「俺が気に入ったやつらが、楽しく生きていられるのなら、それだけでいいからな」

 

 桃が志岐を見る。

 

「気に入った人たち?」

 

「ああ」

 

「それ以外の方は?」

 

「知らん。 勝手に生きて勝手に死んでろ」

 

「…………」

 

「俺が、世界中の奴を幸せにできるわけねえだろ」

 

「……」

 

「だったら、手が届くところで十分だ」

 

 桃は黙って歩く。

 やがて、自分を指した。

 

「私は?」

 

「何が?」

 

「志岐様が気に入った人間に、私は含まれていますか?」

 

「含まれてる」

 

 即答だった。

 

「…………」

 

「なんだよ?」

 

「いえ」

 

 桃は前を向く。

 

「そうですか」

 

「おう」

 

 それきりだった。

 

 桃が笑うこともない。

 喜んでいるのかも、志岐にはよく分からなかったが、桃は志岐のすぐ隣を歩いていた。

 

 さすがに、日が落ちるまでに街へ戻ることはできなかった。

 

「寒い……」

 

 沙耶が焚き火へ手を伸ばす。

 

「思ったより冷えましたね」

 

 街道から少し外れた場所で、三人は野営することにした。

 桃の収納していた旅用品が早速役に立った。

 

「ほら」

 

 志岐が保存食を持ち上げて沙耶に渡す

 

「買っといてよかっただろ」

 

「それについては認めます」

 

 食事を終え火を囲みながら休んでいたが、夜が深くなるほど冷え込みは強くなった。

 

 沙耶は毛布へ包まっている。

 

 桃は焚き火の近くに座ったままだ。

 

「寒くねえの?」

 

「寒いです」

 

「ならもっとこっち来いよ」

 

「はい」

 

 素直に寄ってくる桃。

 

 志岐は自分の毛布を広げた。

 

「入れ」

 

「よろしいのですか?」

 

「寒いだろ?」

 

「はい」

 

 桃が隣へ入る。

 志岐はその身体を抱き寄せた。

 

「…………」

 

「これならマシだろ」

 

「はい」

 

 桃は抵抗しない。

 

 それどころか、少し考えてから志岐を見上げた。

 

「志岐様」

 

「ん?」

 

「今夜もでしょうか」

 

「何が?」

 

「先日のように」

 

「しねえよ」

 

「そうなのですか?」

 

「寒いからくっついて寝るだけ」

 

「…………」

 

「嫌?」

 

「いいえ」

 

「じゃ寝ろ」

 

「はい」

 

 桃は志岐の胸元へ収まった。

 

 しばらくして。

 

「志岐様」

 

「今度は何?」

 

「抱かれると、暖かいのですね」

 

「人間だからな」

 

「はい」

 

「桃だって暖かいぞ」

 

「そうなのですか?」

 

「そうだよ」

 

「…………」

 

「寝ろって」

 

「はい、おやすみなさいませ、志岐様」

 

「おやすみ」

 

 向かい側から沙耶がじっと見ている。

 

「何?」

 

「別に」

 

「言いたいことあんなら言えよ」

 

「今日はありません」

 

「今日は?」

 

「今日はです」

 

「変なの」

 

「兄様に言われたくありません」

 

 沙耶は毛布を頭まで被った。

 

「おやすみなさい!」

 

「はいはい」

 

 焚き火が小さく爆ぜる。

 

 桃はもう何も言わなかった。

 

 志岐も目を閉じる。

 

 その夜は。

 

 本当に、ただ抱きしめて眠った。

 

 

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