三人が街へ戻ったのは、昼前だった。
「初仕事って、こんなもんなのか?」
「何がです?」
「もっとこう、魔物が大量に出たり、盗賊に襲われたりするもんだと思ってた」
「何事もなく終わったんですから、いいじゃないですか」
「俺、ほとんど何もしてねえぞ」
「余計なことならいっぱいしましたけどね」
「ヤーパン文化の普及活動か?」
「それです!」
「おっちゃん喜んでたじゃん」
「いつか絶対怒られますからね!」
「そんときは謝ってやるよ」
「今反省してください!」
「まだ怒られてねえのに?」
「そういう問題じゃありません!」
いつもの言い合いをしながら、ケルベロスの拠点へ入る。
「戻りました」
桃が先に中へ入った。
その瞬間、何人かの男たちがこちらを見る。
「お、帰ってきたか」
「早かったな」
「初仕事はどうだった?」
「楽勝」
志岐が答える。
「宝石も受領証もある」
「へえ、さすがだな」
男の一人が笑う。
その視線が、志岐から桃へ移った。
「まあ、お前ならそうだろうな」
「?」
「桃もご苦労さん」
「はい」
「相変わらずだなあ」
「何がでしょうか」
「いやいや。 こっちの話」
男たちが笑う。
志岐は眉を寄せた。
何かが引っかかった。
「志岐、お前もいいよなあ」
「何が?」
「いやあ?」
にやにやと笑いながら、男が桃を見る。
それから志岐を見る。
「羨ましいねえ」
「だから何が?」
「分かってるくせに」
「分かんねえから聞いてんだけど」
男は答えなかった。
笑って誤魔化しただけだった。
「…………」
志岐は周囲を見回す。
一人だけではない。
似たような視線が、いくつも桃へ向けられている。
下卑た目。
ただ女を眺めているだけなら、志岐だって人のことは言えない。
だが、何かが違う。
妙に知ったような顔をしている。
桃について何かを知っていて、それを志岐も知っているはずだと勝手に決めつけているような。
「志岐様?」
桃が振り返った。
「どうかなさいましたか?」
「……いや」
桃自身は何も気にしていない。
慣れているのか。
それとも、向けられているものの意味に気づいていないのか。
志岐には分からなかった。
昨夜の桃を思い出す。
自分の意思で何かを選ぶことさえ、まだ上手くできない女。
そんな桃を見て、こいつらは何を知ったような顔をしている。
「桃」
「はい」
「レイドんとこ行くぞ」
「承知いたしました」
「沙耶も来い」
「もちろんです」
三人で奥へ進む。
背中にも、まだ視線が刺さっている。
志岐は一度だけ振り返った。
目が合った男が、意味ありげに笑う。
志岐は笑わなかった。
――なんだ、こいつら。
まだ何が起きているのかは分からない。
だから怒鳴る理由も、殴る理由もない。
ただ……さっきまで初仕事が物足りないと騒いでいた気分だけは、綺麗に消えていた。