プレアデスストーリー   作:八束祐

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志岐編 13

 

 三人が街へ戻ったのは、昼前だった。

 

「初仕事って、こんなもんなのか?」

 

「何がです?」

 

「もっとこう、魔物が大量に出たり、盗賊に襲われたりするもんだと思ってた」

 

「何事もなく終わったんですから、いいじゃないですか」

 

「俺、ほとんど何もしてねえぞ」

 

「余計なことならいっぱいしましたけどね」

 

「ヤーパン文化の普及活動か?」

 

「それです!」

 

「おっちゃん喜んでたじゃん」

 

「いつか絶対怒られますからね!」

 

「そんときは謝ってやるよ」

 

「今反省してください!」

 

「まだ怒られてねえのに?」

 

「そういう問題じゃありません!」

 

 いつもの言い合いをしながら、ケルベロスの拠点へ入る。

 

「戻りました」

 

 桃が先に中へ入った。

 

 その瞬間、何人かの男たちがこちらを見る。

 

「お、帰ってきたか」

 

「早かったな」

 

「初仕事はどうだった?」

 

「楽勝」

 

 志岐が答える。

 

「宝石も受領証もある」

 

「へえ、さすがだな」

 

 男の一人が笑う。

 

 その視線が、志岐から桃へ移った。

 

「まあ、お前ならそうだろうな」

 

「?」

 

「桃もご苦労さん」

 

「はい」

 

「相変わらずだなあ」

 

「何がでしょうか」

 

「いやいや。 こっちの話」

 

 男たちが笑う。

 

 志岐は眉を寄せた。

 

 何かが引っかかった。

 

「志岐、お前もいいよなあ」

 

「何が?」

 

「いやあ?」

 

 にやにやと笑いながら、男が桃を見る。

 それから志岐を見る。

 

「羨ましいねえ」

 

「だから何が?」

 

「分かってるくせに」

 

「分かんねえから聞いてんだけど」

 

 男は答えなかった。

 

 笑って誤魔化しただけだった。

 

「…………」

 

 志岐は周囲を見回す。

 

 一人だけではない。

 似たような視線が、いくつも桃へ向けられている。

 

 下卑た目。

 

 ただ女を眺めているだけなら、志岐だって人のことは言えない。

 

 だが、何かが違う。

 妙に知ったような顔をしている。

 

 桃について何かを知っていて、それを志岐も知っているはずだと勝手に決めつけているような。

 

「志岐様?」

 

 桃が振り返った。

 

「どうかなさいましたか?」

 

「……いや」

 

 桃自身は何も気にしていない。

 

 慣れているのか。

 それとも、向けられているものの意味に気づいていないのか。

 

 志岐には分からなかった。

 

 昨夜の桃を思い出す。

 

 自分の意思で何かを選ぶことさえ、まだ上手くできない女。

 そんな桃を見て、こいつらは何を知ったような顔をしている。

 

「桃」

 

「はい」

 

「レイドんとこ行くぞ」

 

「承知いたしました」

 

「沙耶も来い」

 

「もちろんです」

 

 三人で奥へ進む。

 

 背中にも、まだ視線が刺さっている。

 

 志岐は一度だけ振り返った。

 目が合った男が、意味ありげに笑う。

 

 志岐は笑わなかった。

 

 ――なんだ、こいつら。

 

 まだ何が起きているのかは分からない。

 だから怒鳴る理由も、殴る理由もない。

 

 ただ……さっきまで初仕事が物足りないと騒いでいた気分だけは、綺麗に消えていた。

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