プレアデスストーリー   作:八束祐

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志岐編 14

 

 その日の仕事内容を聞かされた志岐は、思わずレイドの穏やかな顔を二度見した。

 

「チェン民国?」

 

「はい」

 

「隣の国じゃねえか」

 

「そうですね」

 

 志岐たちが拠点にしているグランバードの街キーリルから、隣国チェン民国へ渡るには、国境にそびえ立つ『バンリーの長城』と、そこに設けられた関所を越えなければならない。

 

 距離そのものは大したことはない。

 

 問題は関所である。

 警備は厳しく、検問を抜けるだけでもいささか骨が折れる。

 

 そんな場所へ何を届けろというのか。

 

 志岐は机の上に置かれた依頼書へ目を落とした。

 

「で、何を運ぶんだ?」

 

「武器です」

 

「…………」

 

 もう一度、レイドを見る。

 

「武器?」

 

「はい」

 

「隣の国まで?」

 

「はい」

 

「どれくらい?」

 

「ご覧になりますか?」

 

 レイドが部屋の隅を示した。

 

 そこには、厳重に封をされた木箱がうずたかく積まれていた。

 一つや二つではない。

 

「多くね?」

 

「そうでしょうか」

 

「これ、全部武器なのか?」

 

「ええ」

 

 志岐が一番上の木箱へ歩み寄り、蓋を開ける。

 中には新品の剣をはじめとした武具が、隙間なく詰め込まれていた。

 

「兄様……」

 

 横から覗き込んだ沙耶が眉をひそめる。

 

「これを国外へ持っていくんですか?」

 

「らしいぞ」

 

「……大丈夫なんでしょうか」

 

「俺に聞くなよ」

 

 二人揃ってレイドを見る。

 

「ご心配なく」

 

 当の本人は、いつも通り穏やかに笑っていた。

 

「関所には、すでに話を通してあります」

 

「話?」

 

「ええ」

 

「こんだけの武器持ってても通してくれるって?」

 

「問題ありません」

 

 志岐は木箱の山と、レイドの胡散臭い笑顔を交互に見た。

 

「……どんな『話』をしたんだよ」

 

「皆様にも、それなりに生活というものがありますので」

 

「…………」

 

 数秒考えて、志岐は納得した。

 

「ああ、金か」

 

「私はそのようなことは一言も申し上げておりません」

 

「言ってるのと同じだろ」

 

「兄様」

 

 沙耶がそっと志岐の袖を引く。

 

「やっぱり、この仕事……」

 

「怪しいな」

 

「分かってるなら、なんでそんな平然としてるんですか?」

 

「仕事なんてそんなもんじゃねえの?」

 

「そんなもんで済ませないでください!」

 

 志岐は笑って流した。

 

 その横では、桃が一人で木箱の数を確認している。

 

「レイド様。 こちらはすべて、私が収納してよろしいのでしょうか?」

 

「ええ、お願いします」

 

「承知いたしました」

 

 桃が木箱へ手を触れる。

 背中に刻まれた術式が淡い光を放つと、積み上げられていた木箱が次々と消えていった。

 

「ほんと便利だな、それ」

 

「ありがとうございます」

 

「全部入ったか?」

 

「はい。 まだ容量には十分な余裕がございます」

 

「なら運ぶのは楽でいいな」

 

「兄様は何も運んでませんけどね」

 

「俺は護衛」

 

「前もそう言ってましたね」

 

「今度こそ何か出るかもしれねえだろ」

 

「出ないでください」

 

 沙耶が即座に返した。

 

 レイドが折り畳まれた書類を一枚、志岐へ差し出す。

 

「関所では、こちらをお見せください」

 

「これ見せりゃ通れるのか?」

 

「ええ」

 

 さらにもう一枚、メモ書きのような紙が差し出された。

 

「受取人は『龍』という人物です」

 

「龍ね」

 

「現地へ到着しましたら、その方に武器を渡してください。 それで今回の仕事は完了です」

 

「了解」

 

 志岐は二枚の紙を受け取った。

 

 そのままポケットへ突っ込もうとして――止まる。

 

「桃」

 

「はい」

 

「持ってて」

 

「承知いたしました」

 

「兄様、前の仕事で何か学びました?」

 

「俺に大事な書類を持たせない方がいい」

 

「そこを改善してください!」

 

 桃が二枚の紙を収納する。

 

「じゃ、行くか」

 

「兄様、本当に行くんですか?」

 

「ここまで準備して『やっぱやーめた』の方が面倒だろ」

 

「そういう問題では……」

 

「危なくなったら帰ってくりゃいいさ」

 

「そんな簡単に……」

 

 まだ不安そうにしている沙耶。

 志岐はそんな妹の頭へ軽く手を置く。

 

「俺と桃がいるんだぞ」

 

「…………」

 

「お前は怪我した奴を治してくれりゃいい。 危ねえのは俺らがどうにかする」

 

「兄様……」

 

「それに」

 

 志岐はにっと笑った。

 

「隣の国ってのも、一回見てみたいしな」

 

「結局それですか!」

 

「面白そうじゃん」

 

 志岐はさっさと出口へ歩き出す。

 

「行くぞ、桃」

 

「はい」

 

 桃も迷いなくその後を追った。

 

「もう……!」

 

 沙耶は二人の背中を見て大きくため息をつく。

 それでも置いていかれるつもりはないらしい。

 

「待ってください!」

 

 二人を追って、沙耶も駆け出した。

 

 

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