持ち込まれた大量の武器の検分作業には、思いのほか時間がかかった。
最初こそ珍しいと面白がっていた志岐だったが、作業が進むにつれてすっかり手持ち無沙汰になり。
今ではすっかり飽きて、壁に背を預けてあくびを噛み殺していた。
龍の部下たちに混ざって、真面目に武器の数をメモしている沙耶の姿を見つける。
暇そうにウロウロしている志岐をチラリと睨みつけ、「兄様も手伝ってください!」と心の中で毒づいているようだ。
「なあ、旦那。 その刀見せてくれよ」
「その呼び方やめろ。 あと嫌だ」
「減るもんじゃねえだろ?」
「美鈴は見世物じゃねえんだよ」
「ミスズ?」
龍が興味深そうに目を細める。
「刀に女の名前つけてんのか」
「俺の師匠から引き継いだ、大事な刀なんだよ」
「へえ! そういうこだわり、ますます気に入ったぜ!」
「男に気に入られても一ミリも嬉しくねえ」
「俺は嬉しいぜ、旦那」
「人の話聞け」
志岐は龍から離れ、部屋の隅にいる桃へ目を向けた。
普段から静かな少女だが、今日はいつもより考え込んでいるように見える。
「桃」
「……はい」
「何してんの?」
「考えております。 私自身について」
志岐はその隣に腰を下ろした。
「先ほど龍様がおっしゃっていたことが正しければ、私はチェン民国で生まれた可能性があります」
「らしいな」
「私は今まで、自分がどこで生まれたのかなど考えたこともございませんでした。 レイド様に拾われる以前のことを、知る必要はないと思っておりましたので」
「じゃあ今もそれでいいんじゃねえの?」
「…………」
桃は少し考えた。
「今は……少しだけ気になります」
「そっか」
「なぜなのでしょうか」
「俺に聞くなよ。 お前の気持ちだろ?」
「……分かりません」
「じゃ、そのうち分かるだろ」
志岐はそれ以上追及しなかった。
ただ、いつもより少し沈んで見える桃の頭へ、ぽんと手を置く。
「……志岐様?」
「ん?」
「何をなさっているのでしょうか」
「撫でてる」
「なぜでしょうか」
「桃が落ち込んでそうだから」
「私は、落ち込んでいるのでしょうか」
「知らん。 俺にはそう見えただけ」
そのまま、わしわしと桃の髪を撫でる。
「嫌か?」
桃はしばらく考えた。
「……嫌ではありません」
「じゃあ、もうちょい」
「はい」
桃は大人しく撫でられていた。
「志岐様」
「ん?」
「私は、自分がどこで生まれたのか知りたいのでしょうか」
「それも自分で決めろ」
「…………」
「でも、気になってんだろ?」
「はい」
「なら今は、それでいいんじゃねえの?」
桃はその言葉を考えるように黙り、やがて小さく頷いた。
「……はい」
「兄様ー!」
離れたところから沙耶の声が飛んできた。
「遊んでないで手伝ってください!」
「遊んでねえよ!」
「桃さんの頭を撫でてるだけじゃないですか!」
「桃、嫌だった?」
桃は一度考えてから答える。
「嫌ではありませんでした」
「ほら」
「何が『ほら』なんですか!」
志岐は笑いながら立ち上がった。
「分かった分かったよ。 で、何すりゃいい?」
「最初からそうしてください!」
沙耶に連れていかれる志岐を、桃は静かに見送る。
そして一度だけ、自分の頭へそっと触れた。
自分の生まれた場所を知りたいのかは、まだ分からない。
けれど――気になっている。
今は、それだけは分かっていた。