プレアデスストーリー   作:八束祐

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志岐編 17

 

 持ち込まれた大量の武器の検分作業には、思いのほか時間がかかった。

 

 最初こそ珍しいと面白がっていた志岐だったが、作業が進むにつれてすっかり手持ち無沙汰になり。

 今ではすっかり飽きて、壁に背を預けてあくびを噛み殺していた。

 

 龍の部下たちに混ざって、真面目に武器の数をメモしている沙耶の姿を見つける。

 

 暇そうにウロウロしている志岐をチラリと睨みつけ、「兄様も手伝ってください!」と心の中で毒づいているようだ。

 

「なあ、旦那。 その刀見せてくれよ」

 

「その呼び方やめろ。 あと嫌だ」

 

「減るもんじゃねえだろ?」

 

「美鈴は見世物じゃねえんだよ」

 

「ミスズ?」

 

 龍が興味深そうに目を細める。

 

「刀に女の名前つけてんのか」

 

「俺の師匠から引き継いだ、大事な刀なんだよ」

 

「へえ! そういうこだわり、ますます気に入ったぜ!」

 

「男に気に入られても一ミリも嬉しくねえ」

 

「俺は嬉しいぜ、旦那」

 

「人の話聞け」

 

 志岐は龍から離れ、部屋の隅にいる桃へ目を向けた。

 

 普段から静かな少女だが、今日はいつもより考え込んでいるように見える。

 

「桃」

 

「……はい」

 

「何してんの?」

 

「考えております。 私自身について」

 

 志岐はその隣に腰を下ろした。

 

「先ほど龍様がおっしゃっていたことが正しければ、私はチェン民国で生まれた可能性があります」

 

「らしいな」

 

「私は今まで、自分がどこで生まれたのかなど考えたこともございませんでした。 レイド様に拾われる以前のことを、知る必要はないと思っておりましたので」

 

「じゃあ今もそれでいいんじゃねえの?」

 

「…………」

 

 桃は少し考えた。

 

「今は……少しだけ気になります」

 

「そっか」

 

「なぜなのでしょうか」

 

「俺に聞くなよ。 お前の気持ちだろ?」

 

「……分かりません」

 

「じゃ、そのうち分かるだろ」

 

 志岐はそれ以上追及しなかった。

 ただ、いつもより少し沈んで見える桃の頭へ、ぽんと手を置く。

 

「……志岐様?」

 

「ん?」

 

「何をなさっているのでしょうか」

 

「撫でてる」

 

「なぜでしょうか」

 

「桃が落ち込んでそうだから」

 

「私は、落ち込んでいるのでしょうか」

 

「知らん。 俺にはそう見えただけ」

 

 そのまま、わしわしと桃の髪を撫でる。

 

「嫌か?」

 

 桃はしばらく考えた。

 

「……嫌ではありません」

 

「じゃあ、もうちょい」

 

「はい」

 

 桃は大人しく撫でられていた。

 

「志岐様」

 

「ん?」

 

「私は、自分がどこで生まれたのか知りたいのでしょうか」

 

「それも自分で決めろ」

 

「…………」

 

「でも、気になってんだろ?」

 

「はい」

 

「なら今は、それでいいんじゃねえの?」

 

 桃はその言葉を考えるように黙り、やがて小さく頷いた。

 

「……はい」

 

「兄様ー!」

 

 離れたところから沙耶の声が飛んできた。

 

「遊んでないで手伝ってください!」

 

「遊んでねえよ!」

 

「桃さんの頭を撫でてるだけじゃないですか!」

 

「桃、嫌だった?」

 

 桃は一度考えてから答える。

 

「嫌ではありませんでした」

 

「ほら」

 

「何が『ほら』なんですか!」

 

 志岐は笑いながら立ち上がった。

 

「分かった分かったよ。 で、何すりゃいい?」

 

「最初からそうしてください!」

 

 沙耶に連れていかれる志岐を、桃は静かに見送る。

 そして一度だけ、自分の頭へそっと触れた。

 

 自分の生まれた場所を知りたいのかは、まだ分からない。

 

 けれど――気になっている。

 今は、それだけは分かっていた。

 

 

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