「さて、と」
盗賊団の頭が完全に伸びていることを確認すると、クレティスは槍を肩に担いだ。
戦いは終わった。
しかし、仕事まで終わったわけではない。
「宝石、宝石……」
床に転がる盗賊たちを避けながら、アジトの中を調べ始める。
棚を開けたり、箱を覗いてみる。
机の上に散らばった物をひとつずつ確認をする。
金目の物ならいくらでも出てくるのだが、クレティスが探しているのはそれではない。
まぁ、それはそれとしていくらかはもらっていく。
「うーん」
隣ではフォルテも黙々と何かを探していた。
倒れた盗賊には目もくれない。
棚の中を確認しては次へ行き、積まれた荷物を動かしては奥を調べる。
その様子を見て、クレティスは首を傾げた。
「ねえ、フォルテ」
「何だ」
「さっき探し物があるって言ってたよね」
「ああ」
「まだ見つからない?」
「見つからん」
「そっか」
フォルテはそれ以上話さない。
何を探しているのか聞いても、先ほどの調子では答えてくれないだろう。
クレティスは自分の仕事へ戻った。
「こっちもなしかぁ」
目当ての宝石は見つからない。
もっとも、最初から盗賊団が持っていると決まっていたわけではない。
何か知っている可能性があるから調べてこい、という話だったんだし。
ならば――
「起こして聞くしかないかな」
クレティスが振り返る。
隈取。
ちょんまげ。
相撲レスラーのような格好。
「…………」
やっぱり近づきたくないが仕事である。
クレティスは渋々、盗賊団の頭へ近づいた。
「ねえ」
槍の石突きで、つんつんと頬を突く。
「起きて」
「…………」
「起きないと、そのちょんまげをハサミで切るよ」
「それだけはならん!」
「起きた!」
頭領が飛び起きようとした。
「痛っ……!」
直後、フォルテに投げられた身体が悲鳴を上げたらしく、その場でうずくまる。
「おのれ……我がヤーパン魂にこのような屈辱を……!」
「だからそれ本当にヤーパンの格好なの?」
「無論!」
堂々と言い切られた。
「今、ヤーパンではこの姿が流行の最先端なのである!」
「…………」
クレティスは少し考えた。
「絶対嘘だと思う」
「なぜだ!?」
「だって変態だもん」
「由緒正しき民族衣装であると言っておろう!」
「はいはいわかったわかった。 それより聞きたいことがあるんだけど」
話が進まないので切り上げる。
「宝石について、何か知らない?」
「宝石?」
「すごく大きな魔力を持ってるらしいんだけど」
頭領の反応を見る。
クレティスは、ここで初めて少し真剣な顔になった。
「心当たりない?」
聞き終えたクレティスは、必要なことだけ頭に入れた。
少なくとも、ここまで来たのは無駄ではなかった。
「よし」
立ち上がる。
「これでティルに報告できるかな」
あとは盗賊団そのものを騎士団へ引き渡せばいい。
そう思っていると、後ろでフォルテが物音をたてた。
どうやら、彼も探す場所がなくなったらしい。
「見つかった?」
「いや」
短い返事。
「そっか……」
クレティスは少し残念そうにする。
自分の探し物ではないし、なにを探しているのかすら知らない。
それでも、一緒に戦った相手が探しているものなら、見つかればいいと思う。
「どんな物か教えてくれたら、ボクも探すの手伝えるけど」
「必要ない」
「そう?」
「ああ」
フォルテは出口へ向かった。
「あ、もう行くの?」
「ここにはない」
「じゃあ別のところを探すんだ」
「…………」
返事はない。
クレティスは苦笑した。
「ほんと喋らないね」
フォルテの足が一度だけ止まった。
振り返る。
「クレティス」
「ん?」
「またな」
それだけだった。
今度こそ振り返らずに歩いていく。
クレティスは少し驚いてから、笑った。
「うん。 またね、フォルテ!」
クレティスは腕をぶんぶん振りながら答える。
返事はなかった。
「……やっぱりそこは返事しないんだ」
フォルテの背中が見えなくなる。
結局、彼が何を探していたのかはわからなかった。
「さて」
クレティスは振り返った。
気絶した盗賊たち。
拘束しなければならない頭領。
これを騎士団へ引き渡すとなると――
「…………」
思ったより大仕事がまだ残っていた。