プレアデスストーリー   作:八束祐

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志岐編 18

 

 ――ガタガタと、外の通りが一気に騒がしくなった。

 

 異様な気配を察知し、志岐がパッと顔を上げる。

 

「ん……?」

 

 ほぼ同時に、龍の身体が跳ねるように強張った。

 さっきまで浮かべていた軽薄な笑みが、一瞬にして消える。

 

「……まずいな」

 

「何がだよ?」

 

「旦那、とにかく逃げる準備をしとけ!」

 

「だから何が起こって――」

 

 ――轟音。

 

 志岐の問いかけを破砕するように、重い木の扉が内側へ派手に吹き飛んだ。

 

「伏せろ!」

 

 志岐はとっさに身を乗り出し、近くにいた桃と沙耶の頭を力任せに押さえつける。

 直後、鋭い木片と粉塵が猛烈な勢いで室内へ飛び散った。

 

 煙の向こうから、重装備の男たちが雪崩のようになだれ込んでくる。

 

「動くな!」

 

「全員、その場から一歩も動くな!」

 

 正面だけではない。

 裏の窓や通路からも次々と兵が突入してくる。

 

 剣を構える者、杖を突き出す者、弓を引き絞る者。

 室内を一瞬で包み込んだ殺気に、龍の仲間たちも弾かれたように武器を取った。

 

「龍ーっ!」

 

 先頭に立つ隊長らしき男が、腹の底から怒声を張り上げる。

 

「無駄な抵抗はやめろ! 全員武器を捨てて投降しろ!」

 

 志岐は屈んだまま、隣の龍を横目で見る。

 

「……知り合いか?」

 

「向こうは俺の顔をよく知ってるぜ」

 

「お前、一体何したんだよ?」

 

「いろいろさ」

 

「いろいろって何だよ!?」

 

 その声に重なるように、隊長の怒号が響いた。

 

「凶悪なテロリストどもを、一人残らず拘束しろ!」

 

「…………」

 

 志岐は龍の顔をまじまじと見た。

 

「……テロリスト?」

 

「まあ、外じゃそう呼ばれてるな」

 

「お前が?」

 

「俺が」

 

「…………」

 

 背後から、凍りつくような視線を感じる。

 

「……兄様」

 

「待て、沙耶」

 

「私、言いましたよね?」

 

「今それ言うか!?」

 

「この仕事は絶対に怪しいって言いましたよね!?」

 

「分かった! 今回は全部お前が正しい! 俺が悪かった!」

 

 志岐は頭を抱えた。

 

 大量の新品の武器。

 関所で自分たちだけが受けた、明らかに異常な特別扱い。

 そして受取人の正体。

 

 バラバラだったものが、頭の中で一気に繋がる。

 

「あの胡散臭いレイドの野郎……ハメやがったな!」

 

「そこの三人も動くな!」

 

 隊長の鋭い視線が、志岐たちへ向けられた。

 

「大量の武器の搬入を確認している! お前たちも同罪の仲間だな!」

 

「違う!」

 

 志岐は即答した。

 

「俺らは、こいつがテロリストだって今知ったばかりの被害者だ!」

 

「旦那、冷てえなあ!」

 

「お前は黙ってろ!」

 

「息がぴったりで良い関係ですね」

 

 頭を押さえられたままの桃が、淡々と呟く。

 

「どこがだよ!?」

 

「問答無用! 全員まとめて拘束しろ!」

 

「人の話を聞けっての!」

 

 兵たちが一斉に間合いを詰めてきた。

 

 志岐の手が反射的に美鈴の柄へ伸びる。

 

 ――が、抜く寸前で思いとどまった。

 

 相手は一応、この国の警備兵だ。

 ここで斬り殺せば、本当に自分までお尋ね者になりかねない。

 

「ったく、面倒くせえ!」

 

 飛び込んできた男の剣を、志岐は鞘ごと受け止める。

 そのまま斜め上へ受け流し、軸足を払って床へ転がした。

 

「沙耶! 桃! ずらかるぞ!」

 

「はいっ!」

 

「了解いたしました」

 

 沙耶が素早く踵を返し、桃も短杖を構えてその背中を守るように続く。

 

「旦那! 裏口へ走れ!」

 

 弓を引き絞りながら龍が叫んだ。

 

「お前の案内を信用していいんだろうな!?」

 

「少なくとも正面突破よりはマシだ!」

 

「全然安心できねえよ!」

 

 龍がニヤリと笑い、指を離す。

 

 放たれた矢が空を切り、術士の掲げていた杖を正確に撃ち抜いた。

 

「おい、殺すなよ!」

 

「誰に言ってんだよ!?」

 

「お前ら全員だ!」

 

「無茶言うなよ、旦那!」

 

 混乱する室内を駆け抜け、薄暗い裏口が見えてくる。

 

「沙耶、先に外へ出ろ!」

 

「兄様は!?」

 

「桃を回収してから追いつく!」

 

「分かりました! お気をつけて!」

 

 沙耶が裏口から飛び出していく。

 

 桃も続こうとした――そのときだった。

 

 壁の物陰から、一人の術士が死角を突いて躍り出る。

 杖の先端から放たれた火炎が、桃の側面へ迫った。

 

「桃っ!」

 

 桃が素早く振り返り、杖を振って防壁を展開する。

 

 火炎を正面から相殺した、その直後。

 

 さらに別の男が、隙を突いて桃の背後へ肉薄していた。

 

「――!?」

 

 桃が気づいたときには、すでに剣が振り上げられている。

 

 ――シュッ!

 

 鋭い破空音。

 

 一筋の矢が男の足元へ深々と突き刺さり、その体勢を崩した。

 

 志岐はその一瞬で桃の前へ割り込む。

 

 美鈴を抜く。

 

 ――一閃。

 

 甲高い音とともに、飛来していた追撃の魔術が真っ二つに斬り裂かれ、左右へ散った。

 

「余計なこと考えてないで走れ!」

 

「……はい!」

 

 桃が志岐の背中に守られながら、一気に裏口へ駆け出していく。

 

 志岐は一度だけ背後を見る。

 

 煙の立ち込める室内で、龍が次の矢をつがえながらこちらを見ていた。

 

「やるじゃねえか、旦那!」

 

「お前もな!」

 

「なんだ、俺に惚れたか?」

 

「男はいらねーって言っただろ!」

 

「はははっ!」

 

 龍は爆笑しながら、追っ手の足元へ矢を放つ。

 

「ここは俺たちで食い止める! さっさと行きな!」

 

「捕まるんじゃねえぞ!」

 

「なんだ、俺の心配をしてくれるのか?」

 

「してねえよ!」

 

 志岐は桃を追って裏口へ走る。

 

「旦那ーっ!」

 

 背後から龍の大声が響いた。

 

 振り返る。

 

 群がる兵たちを相手にしながら、龍が最高に楽しそうな笑顔を向けていた。

 

「また会おうぜ、旦那!」

 

「二度と旦那と呼ぶな!」

 

「次に会った時もそう呼んでやるからさ!」

 

「じゃあ二度と会わねえよ!」

 

 龍の豪快な笑い声を背中に浴びながら、志岐たちは薄暗い路地裏へ一気に飛び出した。

 

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