盗賊団の件を騎士団へ報告し終えたころには、夜になっていた。
「疲れたぁ……」
クレティスは首を回しながら街を歩く。
戦うより、その後の説明のほうが疲れた気さえする。
しかし成果はあった。
盗賊団は捕らえ、宝石についても、わずかながら情報を得た。
なら次は――
「ティルに報告しないとね」
クレティスは黄金の雄鹿亭へ戻った。
扉を開ければ、昼間と変わらず賑わっている。
その中を見回す。
「あ」
いた。
「ティル!」
クレティスは迷わずそちらへ歩いていく。
「遅かったな」
「遅かったな、じゃないよ。 結構大変だったんだから」
「逃げ帰ってこなかっただけ上出来か」
「だから微妙に偉そうなんだよね、君!」
クレティスは向かいの席へ座った。
「それで?」
「盗賊団は退治してきたよ」
「本当に一人でやったのか?」
「一人じゃなかったけど」
ティルの目がわずかに細くなった。
「誰かいたのか?」
「フォルテって人」
「フォルテ?」
「うん。 大きくて、ガントレット付けてて、すっごく無愛想な人」
クレティスは身振り手振りを使い説明する。
「……お前は相手のことをそれで覚えるのか?」
「だって凄く大柄で無愛想だったもん」
クレティスは頬杖をついた。
「でも強かったよ? なんか探し物してたみたい」
「何を?」
「知らなーい」
「聞かなかったのか?」
「聞いたよ? でも教えてくれなかったんだ」
「そうか」
ティルはそれ以上、フォルテについて追及しなかった。
「で、肝心の宝石は?」
「それなんだけどね」
クレティスは盗賊団で得た情報を話した。
ティルは口を挟まず聞いている。
話し終わると、しばらく考え込んだ。
「やはり、ただの宝石じゃなさそうだな」
「そんなにすごいの?」
「ああ。 俺が調べた限り、それは相当な魔力を持っている」
「相当って?」
「普通の宝石にも多少は魔力ってのはあるものだが、そんなのと比べる意味がない程度にはな」
「へえ……」
クレティスは少し興味を持った。
最初は単なる金欠から引き受けた仕事だったが……
ところが、どうも思ったより妙なものを追いかけているらしい。
「それに」
ティルが続ける。
「王家の周辺でも、妙な動きがある」
「王家?」
突然話が大きくなった。
「どういうこと?」
「まだ確証はない」
「またそれ?」
「確証がないものを、あるように話すよりましだろ」
「それはそうだけどさ~」
クレティスは口を尖らせた。
聞きたいことはいくつもある。
ティルは何者なのか。
どうしてそんなことを調べているのか。
なぜ自分へこの仕事を持ってきたのか。
そして――
夕方に会った、あの白髪の男。
『アイツから手を引け』
ティルについて、何か知っている?
彼は明らかに何かに警戒していた。
「…………」
「どうした?」
「ん?」
「俺の顔をじっと見てるだろ」
「ああ」
クレティスは少し考える。
「君ってさ」
「何だ」
「悪いことしてないよね?」
「…………」
ティルの眉が動いた。
「何だ? その質問は」
「いや、なんとなく」
「質問が雑すぎるだろ」
「じゃあ悪いことしてる?」
「なぜそうなる」
「してない?」
「お前は俺を何だと思ってるんだ」
「今日会った中では、一番態度の悪い人候補」
「候補が他にもいるのか?」
「二人くらい」
「……妙な一日を過ごしてきたんだな」
「誰の仕事のせいだと思ってるの?」
ティルは答えなかった。
クレティスも、それ以上は追及しなかった。
白髪の男についてこれ以上話すことも――このときは、やめておいた。
何となくだ。
◇冒険者心得・その4 【冒険者は、確信もないものはうかつに喋るな】
もう少し自分で確かめてからのほうがいい気がした。
「まあ、いいや」
「いいのか」
「今日は疲れたし」
クレティスは大きく伸びをした。
「続きは明日!」
「勝手に決めるな」
「じゃあ今日これからやる?」
「…………」
「ほら、明日でいいじゃん」
「最初からそれを狙ってただろ」
「なんのことかな?」
クレティスは笑った。
宝石。
王家の妙な動き。
探し物をしていたというフォルテ。
そして、ティルから手を引けと警告してきた白髪の男。
随分と妙なものを抱え込んでしまった。
けれど。
「明日は何があるかなぁ」
クレティスの声は、どこか楽しそうだった。
わからないことが増えたなら、調べればいい。
行ったことのない場所があるなら、行けばいい。
その先で何が待っているのか。
それを自分の目で確かめるために、クレティスは冒険者になったのだから。