ティルの魔法が、地下工場を明るく照らす。
クレティスは槍を片手に、ゆっくりと中へ進んでいく。
作業台が並んでいる。
その上には加工に使うらしい道具や、途中まで削られた石。
床には使われなくなった箱や資材が残されていた。
確かに、ここで何かを作っていたのだろう。
ただ――。
「誰もいないね」
「ああ」
人の声どころか、足音一つ聞こえない。
クレティスは辺りを見回した。
「もしかして、ボクらが来るのバレてた?」
「違う」
ティルが作業台の上を確認しながら答える。
「ここで働いていた連中は、もう捕まってる」
「え?」
クレティスが振り向いた。
「捕まってるの?」
「ああ」
「じゃあ、なんでここに来たの?」
「人がいなくなったからといって、情報まで消えるとは限らないだろ」
「なるほど」
クレティスは納得して頷いた。
「それに、偽物の宝石を作ってたなら、本物を見たことがあるかもしれないもんね」
「そうだな」
二人は手分けして工場を調べ始めた。
棚に作業台や残された箱。
書類らしいものがあれば、一枚ずつ目を通していく。
しかし――。
「ないねぇ」
クレティスはしゃがみ込んだまま呟いた。
「こっちは加工道具ばっかり」
「こっちもだ」
「宝石そのものは?」
「ない」
「手がかりは?」
「今のところはな」
「うーん……」
クレティスは頬を膨らませた。
せっかくロックと戦ってまで入ってきたのに、このまま何もなしでは割に合わない。
クレティスは立ち上がった。
「他に調べてないところ……」
辺りを見回す。
目についたのは、部屋の隅。
「あ」
「どうした?」
「ゴミ箱」
「…………」
ティルがクレティスを見る。
「何?」
「いや」
「こういうところに手がかりがあるかもしれないでしょ?」
「好きにしろ」
「ティルも手伝ってよ」
「断る」
「なんで!?」
「お前が見つけたんだからお前に任せる」
「絶対ゴミ漁りしたくないだけでしょ!」
返事が返ってこない。
「もう!」
仕方なくクレティスはゴミ箱の前にしゃがみ込んだ。
「何かないかなぁ……」
捨てられた紙。
週刊誌に飲み物の瓶
加工に失敗したらしい石の欠片。
使い物にならなくなった材料。
「ちゃんと分別くらいはしてよねーまったく!」
一つずつ確認していく。
「これも違う。これも……」
紙を一枚取り出す。
「違う」
ぽい。
次。
「これも――」
捨てようとして、止まった。
「……ん?」
もう一度見る。
何かが書かれている。
「ティル」
「何だ」
「これ」
クレティスが紙を差し出しティルは受け取る。
目を通した瞬間、ティルの表情が変わった。
「……受領書だな」
「受領書?」
「ああ」
クレティスも横から覗き込む。
「何を受け取ったの?」
「宝石だ」
「!」
さっきまでの軽い空気が消えた。
「本物?」
「そこまではこれだけじゃわからない。だが――」
ティルは受領書をさらに読み進める。
「受け渡し場所が書いてある」
「どこ?」
クレティスが身を乗り出す。
「国境の洞窟だ」
「洞窟?」
「ああ。国境付近に山脈がある。その中にある洞窟で、宝石の受け渡しをしていたらしい」
クレティスの表情が微妙になった。
「何だ」
「いや……今日じゃないけど、最近洞窟とは相性悪いなって」
「何の話だ?」
「こっちの話」
クレティスは誤魔化した。
ともかく、ようやく手がかりらしい手がかりが出た。
偽物の宝石を作っていた地下工場で、そこに捨てられていた受領書。
そして宝石が受け渡されていたという、国境の山脈にある洞窟。
「じゃあ次はそこだね」
「待て」
「何?」
「今から行くつもりか?」
「うん」
「もう時間的に夜だぞ」
「…………」
クレティスは地下なので忘れていた。
「明日にしよっか」
「そうしたほうがいい」
ティルは受領書をしまう。
クレティスは立ち上がると、服についた埃を払った。
工場へ来るまでにロックから襲われたものの、結果として目的は果たした。
あとは洞窟へ行けばいい。
宝石を見つけ、それをティルへ渡す。
そうすれば依頼は終わる――はずだった。
「…………」
歩きながら、クレティスはふと振り返った。
「ティル」
「何だ?」
「ロックって知ってる?」
ティルの足が止まった。
「ロック?」
「うん」
「誰だ、それは」
「さっきボクにナイフ投げてきた人」
「……お前、俺をマンホールに突き落としたあと、そんな奴と戦ってたのか?」
「そうだよ」
「先に言え!」
「聞かなかったじゃん」
「普通は言うだろ!」
「そうかな?」
「そうだ!」
クレティスは首を傾げた。
「まあ、それでね。 昨日もそのロックに会ったんだ」
「昨日?」
「うん。 背中にナイフ突きつけられた」
「…………」
「それで――」
クレティスはティルを見る。
「『アイツから手を引け』って言われた」
今度こそ、ティルが黙った。
「アイツって、たぶんティルのことだよね?」
「…………」
「心当たり、本当にない?」
少しの沈黙。
ティルは考える。
だが、やがて首を振った。
「今は何とも言えない」
「今は?」
「情報が足りないからな」
「ふーん」
クレティスはじっとティルを見た。
何か隠している。
やはり、そんな気がする。
けれど今問い詰めたところで、素直に話す男でもないだろう。
「まあ、いっか」
「いいのか?」
「そのうちわかるでしょ」
「……お前は妙なところで適当だな」
「冒険者だからね」
「だから、それを便利な言葉にするな」
クレティスは笑った。
そして二人は、ティルの灯した光を頼りに地上へ戻っていった。
次の目的地は決まった。
キーリルの国境にある洞窟。
そこで何が待っているのかは――まだ、二人とも知らなかった。