吾輩は本である。 ~狐耳少女と行く、コミュニケーション縛りの冒険譚~ 作:鏡路の一般兵(喰い断Ⅸ)
第三章 ノーザンヒルの一日
ギルドを後にしたタマモはノーザンヒルの南通りをすいすいと進んでいた。
南通りには飲食店や商店が並んでおり、鍛冶屋や武器屋ばかり並んでいた北通りと比較して華やかというか、街のメインストリートと呼ぶべき賑わいがある。
ノーザンヒルとブレトンの間には小さな鉱山町ぐらいしか無かったことを考えるとこの作りも妥当ではあるのだが、都市の発展具合がここまで露骨に変わっているというのも中々に面白い。
周囲を壁に囲まれた城塞都市の特異性を存分に感じられるというものだ。
「さーて……うっげ。しくったな。」
そして、タマモが商店街を越えて南門の入り口側、旅人が泊まる宿屋が集まる区画まで辿り着いた時。
ポシェットから取り出した巾着の中を確認して、一瞬顔を顰めた後に吾輩を見る。
「魔石払いでいいやと思ってたから、お金持ってくるの忘れちゃった」
わ、吾輩に言われても困る!!!
誰かに言い訳をしたかったのだろうが、お金がないって言われても、吾輩は当然お金なんてもってないので!!
テヘペロという言葉が似合う表情でこちらを見つめるタマモに、ぶんぶんと源影に首を振らせながら解決策がないことをアピールする。
元日本人的な価値観で言えば、魔石払いでいいやと思ったからってお金を持ってくるのを忘れるってどういうことだよ。
財布の中にお金を入れてないことなんてないだろと思う部分もあるのだが……。
まあ、ブレトンはド田舎だから仕方がないといえば仕方がないのかもしれない。
現代のように交通・通信が発達していない山奥のド田舎、ほぼ全ての交流が村の中で完結するコミュニティで貨幣を使う意味がないと言われれば、それはそうと言わざるを得ない。
なにせ吾輩がブレトンに辿り着いてから、冬を越すまでの間にただの一度も外部から人間がやってきていないレベルである。
食事は現代の感覚でいえば配給制か、あるいは給食制。
恐らくは燃料の節約のために村民分をまとめて作ってより分けて食べるというものだったので、これでお金を日常的に使うような習慣がついていれば逆に奇跡と言ってよい程であり、村内での取引はその全てが物々交換か、労働という形の対価で完結していたのである。
「ま、安心しなよクロちゃん。お金が無くても宿賃ぐらいならどうにでもなるからさ」
そういうとタマモは来た道を逆戻り。
当然のように宿屋の前から商店街へとUターンを行うのだが、「どうにでもなる」という言葉を聞いた吾輩の心情は穏やかではなかった。
ど、どうにでもなるって何!?
中世ファンタジー世界で女性が身一つで稼ぐ方法ってあんまりよろしくない方法しか思いつかないんですけど!?
春とか花とかを売ったりしないよね!?
吾輩のためにノーザンヒルまで来させてそんなことをさせるのは普通に申し訳ないし嫌なんですけど!?
タマモは元からわりと飄々としてるから、こういう時に何を考えてるのか読めないのが困る……。
日本とファンタジー世界の文化の違いとかとは別のベクトルで感覚がつかめないんだよな……。
そんな風に吾輩が一人で悶々としているとは露知らず、商店街まで戻ってきたタマモはその中でも特に大きな店、「ジュエルボックスノーザンヒル」とやらに辿り着く。
名前だけを聞くと宝石を扱う店のようにしか思えないが、店内に並べられているのは塩や砂糖、香辛料といった調味料の数々。
「ジュエルボックス」という店名からはかなり外れたラインナップにも思えるが、元世界でも大航海時代のヨーロッパでは香辛料は宝石よりも貴重だったというし、これはこの世界でもそういう事なのだろうか……?
「ラルドさーん、いる?」
「おおう!タマモちゃんかい!?この時期にこっちにいるなんて珍しいじゃないか!」
そこでタマモが声をかけたのは、ラルドというこの店の主で顔なじみらしい筋骨隆々のゴッツイお爺ちゃん。
商人というよりは戦士といった感じの出で立ちで、本当になんで店の名前がジュエルボックスなんだよ。
なにを思ってその名前を付けたんだよと事情も聞いてみたくもあるのだが……。
流石にこういう内容はボディランゲージで伝えるのは無理があるんだよな……。
やはり筆談でも出来ればまた違うのだろうが、身振り手振り程度ならともかく、細かい作業を源影で行うのは流石にね……。
あれは言ってしまえば高性能なラジコンを全手動で操作しているようなものであり、歩く、走る、殴る、抑えるくらいならば問題無く行えるが、蹴ったり跳ねたりとなると流石に怪しく、文字を書くとなると吾輩の生態以前の話として無茶や無謀と言わざるを得ない。
これから源影の扱いに習熟していけば出来るようになるかもしれないが、今この時この瞬間に知りたいことを聞くことはどうやってもできないのだ。
「ちょっと野暮用でね。宿が欲しいんだけど、コレで部屋を貸して貰えない?後は小銭も貰えると嬉しいかなって。」
などと考えていると、タマモはポシェットから筆……鉛筆?ペン?を取り出すと、それで何かを書くような仕草を見せる。
……絵でも描くのか?
春やら花やらを売るつもりでは無さそうなのは一安心だが、少なくとも吾輩はタマモがブレトンで絵を描いている所など一度も見ていない。
勿論、吾輩も全ての行動を追い続けていたわけでもないのだが、暇さえあれば剣を振り、魔物が来たら村民たちと一緒に切り伏せていたタマモが絵を描くというのはなんともイメージに合わない。
自室で絵を描くのが趣味という可能性はあるが、パソコンなんてものは存在しないこのファンタジー異世界。
何かを描くのであれば外に出て、それを参考にしながらになると思うのだが……常識的に考えると、単純に時期が悪かっただけだろうか?
冬の山奥、外に出て剣を振るうのであれば体も温まるが、ジっとして絵を描くのは気候的に無理と言われたらそれはそうと納得せざるを得ない。
「おおっ!本当かい?勿論だとも!!ちょっとまってな!画材を出すから!!」
「あー。一応、あんまり手間かけたのは書かないよ?」
「構わないとも!!タマモちゃんにこっちで書いて貰えるならそれだけで十分さ!わしがココに座るから店の様子と合わせて頼むぞ!!」
「はいよー。最初にラルドさんの周りだけ描いちゃうから、その間はあんまり動かないでねー」
ともかく、そんな風に吾輩が考えている間にも話がサクサクと進む。
ドタバタとしながらラルドがキャンパスを取り出し、それにタマモが鉛筆らしきものでササっと書き込んでいくのだが……。
……うまっ!?
こともなげにタマモが一本のペンを用い、黒の濃淡だけで描き出したデッサンはシンプルに美しい。
芸術的な評価となるとちょっと分からないが、絵の上手い下手については文句無し。現代日本で様々な絵を見てきた吾輩をして、「上手い」と表現するしかない出来栄えである。
日本のように絵が飽和しているわけでも、デジタルな作画環境があるわけでもない中でこれだけ書けるのであれば、間違いなくそれだけで特殊技能。
これならばタマモが宿賃ぐらいならばお金を持っていなくともどうにでもなるというのは納得でしかなかった。
「よし。まあ、ラルドさんの周りはこんなもんかな。どう?要望とかある?」
「おお!やはりタマモちゃんの絵は素晴らしい!要望なんてあるわけがないじゃろう!」
「そう? まあ、そういって貰えるなら楽でいいや。それよりこれで宿賃の方はどう?」
「構わないとも!1月でも2月でも、1年だって構わないぞ!!お風呂だって好きに使ってくれ!」
もっとも、タマモはそんな特殊技能を自分が持っている事には自覚がないようだが……。しかもこれ、もしかしてラルドさんの反応からして、芸術的な価値もあるタイプなんじゃ……?
「褒め過ぎだよまったく」
「褒め過ぎじゃないんじゃがのう……」
「でも、褒め過ぎじゃないという割には私がもっと書こうか?っていうと断るし、人前ではあんまり書くなっていうじゃん?」
「……商人としてはな、良いものが量産されるのはあまり良い事じゃないんじゃよ」
「ふーん? ま、いいや。とにかく今夜は部屋を借りるね!」
いや、間違いなく芸術的な価値もあるタイプだわコレ。
明らかに量産されることを嫌がってるじゃんコレ。
タマモがたくさん絵を描くのは希少価値が落ちるからって嫌がってるじゃん。
★
あれから、日が暮れる前に絵を描き終えたタマモはラルドから部屋の鍵と小銭を受け取ると、ブラブラと食べ歩きをしていた。
現代日本の街並みと比べると流石に見劣りするが、閉門に合わせてやってきた旅人や商人、城壁外で作業をしていた人たちで食事時の商店街は中々の賑わいを見せている。
特徴的なのは何らかの店に行って目当ての料理を注文するという方式ではなく、目当ての品を売っている店にいって欲しい物を買うという方式であることだろうか?
パンが欲しければパン屋へ、肉が欲しければ肉屋へ、野菜が欲しければ八百屋へ。
そして、肉と野菜をパンに挟むのはセルフサービス。
後は酒場で酒を頼むついでに席を取るなり立ち食いをするなりして勝手にやれというスタイルだ。
一見すると最初から全部酒場で注文すれば良いようにも思えるが、ここは剣と魔法のファンタジー世界。
残念ながら現代ほどに流通網を始めとした諸々のシステムは洗練されていないのが原因なのか、独自の文化が築かれているようだった。
「クロちゃんはそんなに興味津々なのに、何も食べないんだよねえ」
などとブレトンには商店街が無かったが故に楽しめなかった文化、ノーザンヒルで始めて見た異世界特有の光景を眺めていると、タマモが吾輩にパンを差し出しながらちょっと呆れたような言葉を発する。
いや、本当に気を遣わせてすみません。
吾輩の本体はあくまでも本なので、ご飯とかいらないんですよ。
この源影はコミュニケーションのために動かしているだけなんで……。
滅茶苦茶興味深そうに肉とかパンとかを見てるせいで買って貰えるのはありがたいんですが、別に食べられるわけじゃないんです!!
「村でもそうだったけど、本当にクロちゃんは不思議な生き物だ……」
本当に不思議そうな顔をしながら、吾輩が食べなかったパンをタマモが食べる。
日本で売られているようなものとは違う、保存性を重視した結果なのか、クッキーやらビスケットに近くなっているパン。
ザックザックという音がするたびにそれはどういう味なのかが気になってくるだけに、吾輩は何故本に転生してしまったのかと嘆いてしまう。
現在の状況を端的に表現すると、黒髪狐耳の美少女と城塞都市で買い食いデートをしているようなものなのに、これでは片手落ちも良い所である。
「まあ、そこらへんはお偉い先生に聞くとして、ご飯も食べ終わってもうちょっと時間もあるわけだけど、クロちゃんは何か行きたい所とかあったりする?」
ううむと、源影に腕を組ませて考える。
何か行きたい所と言われても、正直何も思いつかないというのが本音である。
率直に言って街を壁に囲まれた城塞都市、しかも星型とくればどこに行っても観光出来て楽しいのだが、具体的にどこに行きたいかと言われると反応に窮する。
鍛冶屋や冒険者ギルドは既に見に行ったというのもあるし、他に行きたい所と言われても正直思いつかないと言わざるを得ない。
ファンタジー世界の王道的には奴隷市場とか決闘場とかになるのだろうが……そんな危なそうなところにタマモに連れて行って貰うというのも良くないし、そもそもノーザンヒルにそれが存在しているのかもわからない。
そして何より、源影のボディランゲージで伝えられる気がしない。
食事のモーションを除けば後は指を指して行きたい場所を示すのがやっとだと思った所で、ある店が吾輩の認識に入る。
商店街のやや奥まった所、人々の喧騒から離れた路地で何やら露店が開かれているのだ。
「おー……? 行商人の露店か、何が売ってるんだろうね」
吾輩の興味を持つ反応に気が付いたのだろう。
タマモもまた興味を引かれたようにトコトコと近づく。
それを見た若い褐色肌の商人が揉み手をしてタマモを迎え入れようとして、一瞬ギョッとした表情を見せる。
恐らく、吾輩の存在に気が付いたのだろうが、タマモからちょいちょいと指で撫でられているのを見て危険性はないらしい、ペットか何かだろうと判断したようで表情を緩めた。
ここらへんの対応はもはや吾輩もタマモも今日一日で慣れたもの。
そいつ何者と聞かれる前に「そういうものである」とアピールすることで、余計な話はせずに本題に入れるようになっていた。
「ここ、何のお店?」
タマモはキョロキョロと荷車の上に並べられた商品を見回し――なんか変な顔のお面。おかめ面とひょっとこ面の中間のような何かを見つけ、思わずといった感じで呟いた。
「何のお店って言われてもな。強いて言うなら……売れ残りの寄せ集め?」
「あー。王都とかで売れなかった代物ってことね。でもこのお面……買う人なんているの?」
「南の方じゃそれなりにな。俺の地元の祭りじゃこのお面を付けて踊るんだよ」
「この変なのを顔に付けて……?」
「おうよ。こんな風にな」
タマモの率直に言って失礼な、しかし、純粋な疑問に行商人は答えて実演する。
やれやれ、それそれ。
何かを巻き上げ、引き上げるような……ソーラン節っぽいが、細部が絶妙に違っていて違和感のある、多分、漁がモチーフであるのは同じなんだろうなという、そんな踊り。
モチーフが分かればこのおかめ面とひょっとこ面を足して二で割ったような不思議な表情も豊漁で笑みが零れたことを表現する縁起物に見えなくもないが……。
「買うか?」
「申し訳ないけど、買わないかな。なんかないの?まともな、あーしが買いたくなりそうな奴」
真顔に戻った行商人の提案をタマモは無表情で切り捨てた。
自分でお面について触れて置いて酷いことを言うと思わなくもないが、行商人も行商人である。
正直なのは美徳であるが、現在進行形で祭りでもやっているならともかく、なんでもない日にあの踊りを見せられて買う奴はどこにもいないだろう。
食事時の賑わいから離れたこんな場所で露店をやっているわけである。
故に、ここから出てくる品も碌なもんじゃないだろうなと勝手に思ったのだが……。
「じゃあコレかな。コレもうちの地元の楽器」
次に出された品は意外にもまともな品。
ギターやヴァイオリンによく似ているが少々古めかしい……大型のリュートという感じの弦楽器だった。
行商人はべべべんと音を鳴らし、壊れているわけではない事をアピールする。
「弦楽器か……でも、高いでしょコレ。あーしみたいな小娘に買えるの?」
「欲しいなら銅貨1枚でもいいよ」
「え、安すぎない?」
これにはタマモも思わず興味を引かれたのか、「でもお高いんでしょう?」と言わんばかりの反応を見せるが、それに対して帰ってきたのは衝撃の一言。
銅貨1枚というこの世界の相場を知らない吾輩からしても分かる極限のディスカウントに、タマモの声も上ずる。
銅貨1枚なら普通に欲しい、買いだと言わんばかりの反応である。
だが、それに対する行商人はなんとも微妙というか、分かってねえなぁと言わんばかりの表情だ。
「嬢ちゃん、ノーザンヒルまでもってきて露店で売ってるってことがどういうことか分かるか?」
「……??? 別に壊れてるわけじゃないんだよね?」
「まあ、確かに壊れてはねえけどよ。売れねえし、場所を取るんだよ」
そういうと、行商人はトントンと荷車を叩く。
「最初は異郷の楽器は売れると思ったんだけどな。使い方の分からない楽器を買う奴がいねえままここまで来ちまったからなぁ」
「あー。持ち帰っても誰も買わないのが目に見えてるのか」
「おうよ。楽器だから放っておくと痛むから維持も大変だし、このままなら薪にでもしようかと思ってたんだ」
「なるほど……でも、銅貨1枚なら欲しいって人もいたんじゃないの?」
「いねえんだコレが。まあ、買ってもゴミになるし、薪にしちゃ使いにくい上に割高になるから当然なんだがな」
なるほど。
ノーザンヒルから別の町に引き返すのであれば、ノーザンヒルでしか買えない商品を積みたい。
無駄に場所を取る「楽器」なんてものは処分したいという理由で捨て値になっていたのか……。
確かに、安いからなんて理由で使えもしない楽器を買っても直ぐに捨てるか倉庫の肥しになった後、思い出した頃に捨てるだけだからな……。
吾輩も前世ではゲームの影響でプラスチック製の安いオカリナを100円で買って、すぐに使わなくなったことがあるので安物を買っても処分に困るだけという気持ちは本当に良く分かる。
「じゃあ、ちょっと試させてもらっていい?」
「うん? 嬢ちゃんはコレが弾けるのか?」
「弦楽器は3年ぶりぐらいだからわかんない。前に似たものが村にあったから弾いてたんだけど、壊れちゃってから触ってないからなー」
だが、タマモは意外にも弦楽器を扱った経験があったようで、行商人からリュートを受け取るとテュレン、デュレンと音を鳴らして音程の確認作業を行う。
その様子は意外と堂に入っているというか、確かに演奏経験があるのだと納得させられるものだ。
「だいたい分かった。」
「ははは。だいたい分かったとは大きく出たな」
「まあ見てなって!」
とはいっても、流石にいきなりは弾けないだろうと、吾輩も、行商人の兄ちゃんも思っていたのだが……。
吾輩たちの予想を裏切り、タマモはケルト風の曲……恐らくはブレトンに伝わる民謡かなにかを当然のように弾き始めたのだ。
レベルとしては……多分、学校の文化祭に出てくる学生レベル。
少なくとも、初見で現代日本を知る吾輩をして「上手い」と思わされた絵と比較すると、かなりランクは落ちる。
ちょこちょこと明らかに音を外しているし、そのたびにタマモがやっちまったとばかりにペロりと舌を出す。
しかし、逆に言えば、学校の文化祭レベルであれば十分に通用する程度には初見の楽器を弾けている。
行商人の兄ちゃんは口を開けて呆然とタマモを見ているし、演奏を聞き付けた商店街の人達が路地をまじまじと覗き込むほどにだ。
「いいじゃん。これ買ってくよ」
「お、おう」
そして、見事に一曲を弾ききった後。
タマモは銅貨1枚って言ったよね?
今さら値上げしないよねとばかりに行商人の兄ちゃんに確認をするが……。
多分、そういうのは心配しなくていいんじゃねえかなぁ?
「それよりよ嬢ちゃん、もっと他に弾ける曲はないのか?」
「後何曲かはいけるけど、どうして?」
「いや、それを弾いてくれたら、銅貨1枚なんざいらねえからさ!!」
ほら、行商人の兄ちゃんも頬が赤くなってるし……。
目の前で狐耳の美少女に曲を奏でて貰ってテンションが上がってるというか、完全にリュートを売るより得したって顔になってるもん。
「本当? じゃあ、もう何曲か演奏しようかな?」
そして、そんなことを言われると自分の演奏が褒められて嬉しくなったのか、笑顔でタマモがリクエストに応えているのだが……。
たぶん、こういうことを絵の方でもやるから、「人前ではあまり絵を書くな」とラルドさんに止められているんだろうと吾輩は悟る。
タマモは芸術家タイプの人たらしだったのだと。
周りから褒められると、ついつい乗せられてその才能を披露してしまうタイプなのだなと。
それから、タマモは2時間ぐらいリュートを弾き続けていた。
途中から裏路地だけではなく、商店街の方に呼ばれて酒場から酒場へと渡り歩いて街を盛り上げ、チップで滅茶苦茶稼いでいた。
その喧騒が止むのは騒ぎを聞きつけたラルドが現れ、何をやっているんだとお前はと軽い説教を行うまで続いたのだった……。