「この世界って前世で見たあのロボアニメと一緒じゃん!」なんて状況になったとして、大っぴらに知識を使ってしまったら……?

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一話完結です。


原作知識がある転生者、他人から見たら狂人と同じ説

「有効打を狙うな、兎に角ばら撒け!」

 

 人型兵器バトルドレス。パワードスーツの延長線上にある兵器であり、装甲車並みの火力と装甲を持ち、機動力は既存の車両を凌駕する。

 

 そう言えば聞こえはいいが、8mの巨体はあまりに大きな的だ。実態からすれば、大きい割に何倍も小さな車両と同程度の火力しか持たないという、よくわからない兵器である。

 

「相手の主力は戦車と後方の誘導ロケットだ、的を絞らせるな。こっちは火力で負けるバトルドレスだ、動き回れ!」

 

「ロケット来ます!」

 

「第二小隊が迎撃する、他の部隊は塹壕へ走れ!」

 

 機体が軋むのをお構いなしに、ビルの屋上目掛けてワイヤーを射出する。コンクリートの壁面に突き刺さったアンカーは周囲に二種類の薬品を吹き付け、一瞬のうちに硬化させる。

 

「硬化剤も殆ど残ってない、使えて数回か」

 

 ワイヤーを勢いよく巻き取り、ラペリングの要領で壁を蹴りながら登っていく。そして屋上に膝をついて射撃姿勢を整え、レーダーに映ったロケットの方を向く。

 

 同じ小隊の機体も同じようにワイヤーを使い、或いは他の建物を足蹴にして上へ上へと集う。

 

『中隊長!空中炸裂弾の弾倉残り一つ、これが最後の博打ですよ』

 

『何回やったと思ってるんです、また迎撃ですかァ!?』

 

「撃ち落とさなきゃこっちは総崩れだ。流石は精度の高い誘導ロケット、ここまで近くてもぶっ放してくるとはな……」

 

 多少ズレたら同士撃ちになる距離だ、それでも相手は撃ってきた。GPSは妨害している筈だが、最近は様々な誘導手段を使って飛ばしてくるため、精度を完全に失わせるには至らなかった。

 

『ロケット捉えました。隊長機に火器管制権限移譲、管制統合射撃を!』

 

「確認した、当たれよ!」

 

 6機のバトルドレスが迎撃用の空中炸裂弾を込め、自分の指示によって一糸乱れぬ動作でそれを撃つ。爆発によって飛び散る金属片の威力は低いが、ロケット弾の予想進路上にばら撒けば、破壊するには十分だ。

 

 ロケットの一発は空中で爆散し、もう一発は大きく軌道がズレた。誰もいない市街地の交差点へそれは突き刺さり、けたたましい爆発音を鳴らす。

 

「迎撃確認。撃たれる前に屋上から降りろ、スピード勝負だ」

 

『『了解!』』

 

 引っ掛けたままのワイヤーを使い、ラペリングの要領で数回壁を蹴りながら建物を滑り降りる。それとほぼ同時に榴弾が屋上で炸裂した、敵が狙っていたらしい。

 

「剥離剤の噴射口まで固めやがったか、クソッ!」

 

 硬化剤の除去が上手くいかず、2つあるアンカーの片方が抜けずに機体を引っ張る。親指でカバー付きのボタンを押すと、緊急用の爆薬がワイヤーを切断した。

 

「偵察はどうだ、敵の動きは掴めたか?」

 

『誘導ロケットはアレで品切れかと、先程撃ち落とされたドローンが後退中のロケット砲を確認しました』

 

「流石に防空網が分厚いな、了解だ」

 

『壊滅した第一小隊の生存者を回収、そろそろ潮時では?』

 

「そうだな。既に目的は達した、後退するぞ!」

 

 随伴歩兵付きの機甲部隊相手にバトルドレスが真正面からぶつかって勝てるわけがない、最初から目的は時間稼ぎだ。市街戦ではこちらにある程度分があるとはいえ、単一の兵科では無理もある。

 

「こちら被害上等の囮中隊!約束通り時間まで持たせたぞ!」

 

『こちら起動班、ご苦労。急ぎの命令にはなってしまうが、早急にその地区から離脱したまえ』

 

「奇遇だな、言われなくても今やってるところだ」

 

 操縦桿に幾つも取り付けられたボタンやアナログスティックを使い、武装の一つを選択する。それは何本もの筒を空中に打ち出し、その筒からは一瞬で煙幕が展開された。

 

『準備が終わり次第飛ぶ手筈なのは予定通りだが、想定よりも敵の動きが早い』

 

「急げと?」

 

『巻きで、と申し付けておくかな』

 

「死にたくはないんでね、従わせていただきますよ!」

 

 側面から浸透して来ていた敵の装甲車が機関砲弾を浴びせてくるが、それは盾にしたビル群に吸い込まれる。背の低いビルからもう少し背の高いビルへ、といったふうに階段にしたコンクリートジャングルを駆け上がり、敵がこちらを見失っている間にこちらのマシンガンを叩き込む。

 

「側面から来てるぞ、警戒しろ」

 

『例の目標はいつになったら動くんですか、このままじゃ再装填が終わったロケット砲で皆殺しにされますよ!』

 

 ビル群の上を跳び回るのはリスクが高い。脚部への負担以上に天井を踏み抜いてそのまま行動不能、という最悪の末路が待っているからだ。見下ろせる範囲に動く敵は居ない、降りて撤退を続けなければ。

 

 まだ使える方のワイヤーを握り、アンカーを構造的に強いと思われる箇所へ勘で突き刺す。そして屋上から飛び降りた後、滑車で多少減速させつつ一気に地上へと降りる。ワイヤーは先程と同様に切り離し、回収の手間を省いた。

 

「起動班曰くもう炉に火は入ってる、急いで離脱しなきゃ巻き込まれるぞ!」

 

 しかし敵の残骸の背後からもう一両、装甲車が顔を出した。舌打ちをしながら銃を向け、敵も同じように狙おうとしていたが、目の前を横切る一瞬の間に弾を当てるのは難しい。

 

 敵機の攻撃は機体に命中しなかったが、愛機の放った攻撃もまた牽制程度に終わる。だが今は撃破することが目的ではない、早くこの場から離脱しなければ。

 

『アッ……被弾、被弾しました!』

 

「状況を報告しろ、自走は可能か?」

 

『駄目です、左脚部損傷。敵は装甲車を中心とした部隊です、回り込まれました』

 

 一つの小隊が敵と遭遇し、退路を絶たれた。どの部隊もある程度散らばりながら後退しており、すぐに援護には迎えないだろう。

 

「逃げ遅れた機体は……数機居るな、接敵したか」

 

『何故減速するんですか、隊長!』

 

「この位置からなら追いかけて来ている敵の側面を突ける、それにこれ以上戦力を失うわけにはいかないだろう」

 

 この状況なら一機でも巻き返せる。バトルドレスは新しい兵器なだけあって、視界の広さは既存の兵器と比べて圧倒的だ。

 

「右下の視界がチラつくな、カメラをやられたか」

 

 VRヘッドセットを通じて外部の映像を直接見ている上に、乗員は一人のため指示と実行にかかるラグもない。兵器に乗る兵士という育成が面倒な資源を最大限活用するという観点において、この機体は確かに先進的だ。

 

「だが腐っても新兵器だ、目にモノ見せてやる」

 

 機体の主兵装たる機関砲は、人間の使うアサルトライフルを模した形状となっている。そして砲身の下に沿うように、細長い筒が取り付けられていた。

 これは対地ロケット弾を砲身ごと束ねたもので、人型兵器にとって貴重な大火力を提供してくれる。

 

「背後から叩く、動ける機体は敵に構わず退避を優先しろ!」

 

『隊長!』

 

「すぐに目標が動く。そうなればこっちの勝ちだ、踏ん張れよ」

 

 戦闘ヘリや航空機が使うような代物だ、炸薬量は十分にある。展開しつつある車列へそれを叩き込むと、装甲車と四輪駆動車が宙を舞う。

 

「重かったんだ、ここらで軽くさせてもらう」

 

『操縦士の救助完了、機体の機密データも処理しました』

 

「よし、こちらも撹乱しつつ下がる。よくやった!」

 

 ロケット弾を使い切った後に残るのは、大通りやその周囲の路地で逃げ場のない爆発を浴びた残骸達だ。僅かに残った歩兵は攻撃のため、建物の中へ入っていた者たちだけだろう。

 火力だけなら一級品、バトルドレスが曲がりなりにも兵器として活躍できるの理由の一端がこれだ。

 

「起動班は目標を動かせたんだろうな、こっちは離脱完了だ」

 

『ああ。後は不届者に帝国の遺産を見せつけ、誰に狼藉を働いたかを分からせるのみだな。』

 

「回収ポイントに向かいますんでね、味方には当てないで下さいよ」

 

『お嬢様もそれほど鈍ってはいまい。そのような口を塞ぐためなら、調子が狂うかもしれんが』

 

「そんなのお前だけだろ……全機、対閃光・電磁波防御!」

 

 機体頭部はデリケートなセンサーの塊だ。分厚い防弾ガラス越しに見えるカメラ、ヘルメット型の頭部レドーム、側面に設けられたターレットカメラ等々。

 それらを守るためシステムが様々な手段を講じるが、わかりやすいのは機体の顔を覆うように降りて来たシャッターだろう。コンクリート製の比較的頑丈な建物の影へ隠れつつ、時を待つ。

 

『全権限の再取得を完了した。帝国全盛の時代に作られたシステムだ、全てを理解しているわけではないが……今は十分かと、お嬢様』

 

『分かっています。退避の最終確認後、鉄槌を放ちます。重力制御機関、戦闘出力』

 

「やっとだぜ、くたばれブリキ缶共!」

 

 突如、無人の都市が揺れる。アスファルトの大地を割って現れたのは、巨大な空母とも戦艦とも取れる何かだった。

 センサーが損傷しないように最大限光量を絞っているため、薄暗くぼんやりしていて輪郭が定まらないが、それでもその偉容は衰えない。

 

『粒子加速最終段階。鉄槌、照準完了』

 

『見られないのが惜しいくらいですねぇ隊長!』

 

「見ようとしてセンサーを焼いた馬鹿は船の掃除をさせてやる、失明する阿保は居ないと信じたいがな……」

 

『父トールの名において、撃ちます』

 

「うぉッ!?」

 

 機体を衝撃が襲った後、残っていたのは巨大なクレーターと、その周囲で形を変える溶けたビル群だった。

 

ーーー

ーー

 

 鉄槌と呼ばれる指向性エネルギー兵器を放ったのは、かつて存在した軍事帝国が建造した浮遊戦艦だ。帝国がうっかり崩壊したので地下に埋まったまま眠っていたが、この度めでたくも再起動に漕ぎ着けられた。

 

「作戦通りとは言え被害は甚大です。遺産が使えるようになったとしても、それが我々で扱えるかどうかは分かりませんよ」

 

「また、貴方の言った通りになりましたね」

 

 私は浮遊戦艦の中枢たる中央司令室にて、艦長の座に座る人物と話していた。機体から降りたばかりで疲労も限界に近いが、報告は必要だろう。しかし彼女の口から出たのは、想定していたものとは異なる言葉だった。

 

「……と、いいますと?」

 

「ここからは私が、隊長殿にはとある疑いがかけられていましてね」

 

 先程の戦闘において、起動部隊の長を務めた男が彼女の隣から一歩前に出る。彼は彼女の側近であり、参謀であり、また単純な武力以外の力を統括する執事長……になる筈だった存在だ。

 

「遺産の場所、起動方法と所要時間、他勢力が差し向ける戦力とその戦術。貴方が何処からか得てきた情報は、あまりにも正確ですね」

 

 家が没落したことで彼の持つ力を支えた基盤は脆くも崩れ去り、形あるものとして残された兵器ばかりが頼られる。そんな状態は面白くないだろう。

 

 彼らからの一方的な当たりの強さには辟易しているが、有能ではあるのだ。仲良くしていたら、この要塞の奪取も1ヶ月は前倒しに出来ていたに違いない。

 

「いやぁ、そんなことは」

 

「よくよく思い出してみると不可思議だ。本来なら知り得ない事も把握していた、前当主は貴方にどこまで教えたのですか?」

 

 こちらとしては『前世で見たアニメまんまだから』と言う回答しか用意できない。派手にこの知識を使ったら怪しまれるだろうなぁとは分かってはいたが、使わねば犠牲は何倍にも膨れ上がっていた。

 

「何かあった時のためにと」

 

「晩年では話せるような状態ではありませんでした、いつ聞いたものですか?」

 

 とてつもない勢いで墓穴を掘ってしまった。穴があったら入りたいとは言うが、井戸くらいの深さの穴に落ちたら死んでしまう。

 

「……口頭以外で、ハイ」

 

「いつ何処で、どのようにして受け取りましたか。現当主である私に見せられない道理は無いはずですが」

 

「受け取った時のことは詳しく覚えていません!記憶媒体は燃やしたんでもうありません!」

 

「疑いが晴れるまでは拘留します。艦長、よろしいですね」

 

 家族の秘密を大体知っている輩なんて怪し過ぎる。こうなるのも当たり前だろう、側近が構えた手錠を見て両手首を差し出しておく。

 お嬢様は前に出てそれを制止しようとしたが、大人しく拘束された方が良さそうだ。艦橋に居る人々は既に側近の息がかかっている、下手に動いて彼らが想定外の動きをする方が怖い。

 

「中隊長。貴方の働きには感謝しています、だからこそ……納得の行く説明を期待しています」

 

「出来る限りであれば、喜んで」

 

 お嬢様からのお言葉は嬉しいが、それはそれとして厄介なことになった。私はスパイの疑いをかけられているが、これまでの功績のお陰で射殺はされていない。

 

 なんならスパイが信頼を得るためのマッチポンプにしてはあまりに派手なことばかり、そこまでして内通者を育てても費用対効果が悪過ぎる……なんて思われているに違いない。

 

『待って下さいよ!何故隊長が拘束されなきゃいけないんです!?』

 

「待機中のバトルドレス隊か、何故切れない!……チッ、非常回線か」

 

「構いません、続けさせて」

 

「……承知致しました」

 

 どこから聞きつけたのか、内線を使って緊急連絡を行って来た部下の声が響く。緊急連絡であれば直接中央司令室にまで繋がるが、明らかな越権行為だ。

 

『お嬢様!10年前から今まで貴女を守って来たのは、今目の前に居る隊長だ。それを遺産が手に入った途端に捕まえるのかよ!』

 

「はい、仰る通りです」

 

『それを……え?』

 

「今だからこそ、明らかにしておかなければならないのです。彼を失っていたら、私達は誰もこの場には居なかったでしょう」

 

『お嬢様、まさか』

 

「彼に依存している間は拘束などできない、今ならば要塞がある。どのような結論に辿り着こうとも、受け入れるつもりです」

 

 怪しい奴を捕まえて調べたいが、誰も空いた穴を埋められない上に、もし逃げられたら組織が瓦解するとなれば、調べられないだろう。だが今なら浮遊戦艦相手に喧嘩をふっかけてくる奴もそうそう居ない、やっと調べる余裕ができたというわけだ。

 

「中隊長、この場で何か申し開きは?」

 

「前世の記憶があって、その記憶にたまたま今回の騒動を第三者視点から俯瞰して見たものが含まれていた。なんて言っても信じてもらえます?」

 

「勾留します」

 

「ですよねぇ!」

 

 まあこの後も怒涛の展開が続くので、自分が拘束されている間に何度も襲撃されるだろう。それを見過ごすのは主人への背信行為だが、どうやって伝えたものか。

 かけられた手錠は嫌に重い気がしたが、これが手錠本来の重さなのか、それとも精神的な錯覚なのか、それを判別する術はなかった。

 

「重力異常を検知した場合、要塞を全速力で移動させて下さい。この辺りは船員に渡したマニュアルにあるかと思いますが」

 

「次にどうなるかも、知っていると言うわけですか」

 

「確実な物ではありませんが、来る可能性は大いに……」

 

 艦橋の中でサイレンが鳴り響いたのとほぼ同時に、南東方向から異様な力場が迫る。この距離ではあまり認識できないが、要塞のセンサーは重力の変動を検知した筈だ。

 

「広範囲に重力異常検知!」

 

「ああクソッ、今話した新手です。こちらの重力制御機関を全力稼働させろ、制御権の奪い合いなら我々に分がある!」

 

「勝手な指示を……」

 

「構いません、指揮を代行なさい」

 

「感謝します!時空間ソナーブイを全集展開、重力異常の検知範囲を広げつつ稼働中の対艦砲に誘導弾を装填。相手は浮遊艦のセオリー通りに来る!」

 

 眼前に迫るのは空飛ぶ戦艦、ハリネズミのように備えられた大量の火器がこちらに向いている。求めるのは、お嬢様からの信頼を裏切らず、そしてこの仲良くできる未来が想像できない側近を黙らせる言葉。

 

 だがそんな答えを出せる頭をしていたら、まずこんな事態には陥っていないだろう。邪魔な手錠の感覚に辟易しつつ、マイクを握る。

 

「対艦戦闘用意、バトルドレス隊は乗り込んでくる敵機を警戒しろ!」

 

 今この瞬間を生き延びることに全力を尽くしてから、この後のことは考えるとしよう。原作主人公とその仲間達が乗る浮遊戦艦を睨みながら、今日も問題を先送りにした。




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