檸檬と作り始めた時代劇ゲームは、最初から世に出すつもりで作っていたものじゃない。
元々は、俺が本命のゲームでNPCの会話システムに詰まって、少し違うものを作って頭を切り替えようと思ったのが始まりだった。
ちょうどその時、超神田寿司で檸檬が時代劇を見ていた。
それなら気分転換に江戸っぽい町でも作ってみよう。
最初は本当にその程度だった。
小さな通りを一本作って、木造の建物をいくつか並べて、そこに町人と侍を歩かせる。それくらいならすぐ作れるし、ちょっと遊んで終わると思っていた。
ところが檸檬に見せたら、最初の数分で建物の形から道幅、刀の差し方、言葉遣いまで次々に指摘された。
俺が適当に作った江戸の町は、檸檬からするとかなりおかしかったらしい。
直せと言われたところを直したら、今度は別の部分が気になる。
橋の向こうにも町が欲しいと言われて城下町を広げ、城がないのはおかしいと言われて遠景に城を作り、町人がただ歩き回っているだけでは生活しているように見えないと言われた。
そこまで言われたら、俺としてもやりたくなる。
どうせなら朝になれば店主が店を開け、職人は仕事場へ向かい、昼になればそれぞれ飯を食い、夕方になれば仕事を切り上げて家へ帰るようにした。酒好きの町人なら帰りに一杯引っかけるし、銭湯へ寄る奴もいる。仲の悪い町人同士が道で顔を合わせれば少し嫌そうに避けるし、前日に喧嘩していれば次の日まで機嫌が悪い。
ついでに、本命のゲームで試していたNPCの記憶システムまで簡略化して入れてみた。
プレイヤーが前日に店を手伝えば、翌日その店主が少し親しげに声をかけてくる。逆に悪さをすれば、本人だけじゃなく周囲の町人まで警戒する。
そこまでやったら、一気に面白くなった。
最初は檸檬に見せるだけの小さな時代劇ゲームだったのに、気づけば町を歩いているだけでも変化が起きるようになっている。
だからまあ。
ここ3日、超神田寿司にもあまり顔を出さず、ずっと弄っていたわけだ。
「……でも、なんでこうなったんだ?」
朝。
ベッドの上でスマホを見ながら、俺は一人で首を傾げていた。
通知が多い。
いや、多いなんてもんじゃない。
普段からゲーム関係の連絡やら反応やらは来るけど、今日は明らかに桁がおかしい。
昨日の夜、寝る前に短い動画を一つ投稿した。
内容は、檸檬と作ったゲームの中で城下町を少し歩いただけのものだ。
朝の町へ入ると、まだ閉まっていた店の戸が少しずつ開き始め、魚屋が商品を並べ、道の端では町人が掃除をしている。その横を仕事へ急ぐ男が通り過ぎ、昨日一度話した店主の前を通れば、ちゃんとこちらを覚えていて声をかけてくる。
少し先では町人同士が昨日あった出来事について話していて、侍が通れば自然と道を譲る者もいる。
俺からすれば、最近作っていた部分を少し見せただけだった。
戦闘もない。
派手なイベントもない。
ボスもいない。
ただ町を歩いているだけ。
投稿した文章も、
『気分転換に時代劇っぽいゲーム作ってた。監修が厳しい』
それだけだ。
なのに、朝起きたらとんでもないことになっていた。
再生数は寝る前とは比べものにならないほど増えているし、コメントも共有もどんどん増えている。
「……これ、数字間違ってない?」
一回アプリを閉じる。
開き直す。
変わらない。
もう一度閉じる。
意味がない。
「本当にこんな見られてるのか」
コメント欄を開く。
『これ新作?』
『町人の動きが自然すぎる』
『昨日会ったNPCがちゃんと覚えてるのすごくない?』
『店が時間で開いてる?』
『江戸の町歩くだけのゲームでも欲しい』
『生活シミュレーターとして普通に面白そう』
『建物も細かい』
『監修が厳しいって誰だよ』
『気分転換でこれ作るのおかしいだろ』
最後のは俺も少し思う。
でも、作り始めた時は本当に気分転換だったんだよ。
それが檸檬の修正を聞いてるうちに、あれも入れたい、これも直したいって増えただけで。
「新作って言われてもなぁ」
まだ完成なんて全然してない。
城も外から見えるだけで、中身はほとんどない。
奉行所だって檸檬に作れと言われてるけど、まだ場所しか決めてない。
犯罪システムは本命のゲームから簡単な部分だけ持ってきただけだし、勘吉が言い出した米相場なんてメモにしか存在しない。
俺としては、檸檬と一緒に少しずつ作って遊べればそれでよかった。
なのに、画面の向こうでは完全に新作扱いされている。
「……どうしようかな」
別に動画を消す必要はない。
見られて困るものでもない。
でも、変に期待させるのも違う気がする。
とりあえず檸檬には教えよう。
あのゲームは俺一人で作ったものじゃない。
少なくとも、今の町並みになったのは檸檬のおかげだ。
俺が最初に作ったままだったら、道がやたら広くて、刀の差し方もおかしくて、建物もどこか時代劇風なだけの適当な町だった。
そこまで考えたところで、スマホが鳴った。
画面を見る。
勘吉。
朝から嫌な予感しかしない。
「もしもし。勘吉、こんな朝からどうしたんだよ」
『遊真ぁ! お前、何を勝手に大ヒットさせてるんだ!』
声がでかい。
俺はスマホを少し耳から離した。
「まだ発売もしてないのにヒットするわけないだろ。昨日ちょっと動画出しただけだって」
『その動画がものすごい勢いで見られてるんだぞ! 今すぐ発売しろ!』
「だからまだ完成してないんだって。町の一部しか作ってないし、遊べることもそんなに多くない」
『完成なんぞ後からすればいい! 今これだけ話題になってるんだ、鉄は熱いうちに打てというだろう!』
「未完成で売ったら絶対怒られるって」
『なら先行販売だ! 限定版も出せ! 特製小判を付けて通常版より高く売るんだ!』
「絶対勘吉が小判売りたいだけじゃん」
『遊真、お前は商売というものがまるで分かっとらん! こういう時に一気に稼がなくてどうする!』
本当に朝から金の話しかしないな。
何年ぶりに会っても変わらない。
「別に今すぐ売らなくてもいいよ。元々檸檬と遊ぶために作ってたゲームだし」
電話の向こうが一瞬静かになった。
『……檸檬?』
「そうだよ。あのゲーム、檸檬に監修してもらってるんだ」
『あの監修というのは檸檬だったのか!?』
「言ってなかったっけ? 建物とか町人の喋り方とか、俺が適当に作るとすぐ直される」
次の瞬間、勘吉の声がさらに大きくなった。
『それはもっと売れるぞ! 幼稚園児監修の本格時代劇ゲーム! この話題性は使える!』
「勝手に檸檬を宣伝材料にするなよ!」
『わしがプロデュースしてやる! 宣伝文句から販売計画まで全部――』
電話の向こうで、聞き慣れた声が響いた。
『勘吉! 朝から何騒いでるんだい!』
纏だ。
続いて、電話の向こうで言い争いが始まる。
『今は重大な商談中なんだ!』
『店で勝手に商談始めるんじゃないよ! しかもまた金儲けの話だろ!』
『痛い! 殴るな纏!』
……超神田寿司にいるのか。
朝から元気だな。
しばらくして、電話の相手が変わった。
『遊真、アンタまた何やったんだい』
「なんで最初から俺が何かやった前提なんだよ。昨日ゲームの動画を出したら、勝手に話題になってただけだって」
『そのせいで勘吉が朝から「大金が動く」だの「権利を押さえろ」だのうるさいんだよ』
「それ俺じゃなくて勘吉が悪いだろ」
『そこは否定しないよ。それで、本当にそんなに話題になってるのかい?』
「俺も起きてびっくりした。思ってたよりずっと見られてる」
『檸檬にはもう教えたのかい?』
「今から店行って話そうと思ってたところ」
『だったら来る前に朝飯食ってきな。こういう時のアンタは、頭の中がゲームでいっぱいになって飯忘れるだろ』
なんで最後はそこなんだ。
「今日はちゃんとパンあるから食ってから行くって」
『本当だろうね? 菓子食って朝飯って言い張ったら承知しないよ』
「分かったって。ちゃんとしたパン食うから安心してくれ」
通話を切る。
ゲームが話題になった話をしていたはずなのに、最後は飯の話になった。
最近ほんとにこの流れ多いな。
まあいい。
言われた通りパンを2個食べてから家を出た。
超神田寿司へ着いた頃には、通知の数字はさらに増えていた。
「おはよう。檸檬いる?」
店へ入るなり声をかける。
纏がこっちを見る。
そして最初に聞いたのは、やっぱりゲームのことじゃなかった。
「遊真、ちゃんと朝飯食ってきたんだろうね?」
「食ったって。パン2個食ったし、今日はどうせ疑われると思って写真まで撮ってきたぞ」
「何でそんなところだけ用意がいいんだい」
「毎回聞くの纏じゃん」
スマホで写真を見せると、纏は少し呆れたように笑った。
「そこまでしたなら信じてやるよ。檸檬なら奥にいるから呼んでくる」
少しして、檸檬がやって来た。
「遊真、今日はずいぶん早いのう。まさか昨夜から寝ずにそのまま来たわけではあるまいな」
「檸檬まで纏と同じこと聞くのやめてくれない? ちゃんと寝たって。それより、これ見てよ」
スマホを渡す。
昨日の動画と、今の再生数。
それから大量についたコメント。
檸檬はしばらく黙って画面を見ていた。
「昨日、ゲームの動画を出したんだよ。そしたら思った以上に見られててさ。町の作りとか、NPCの動きが細かいって結構褒められてる」
「ほう。それは当然であろう」
「もうちょっと驚かない?」
「わらわが間違いを指摘しておるのだから、最初よりよくなって当然じゃ」
やっぱり強いな。
「いや、ゲーム部分作ってるのは俺だからな?」
「わらわがおらねば、道が広すぎる妙な町のままであったではないか」
「それは……まあ、そうだけど」
言い返せない。
俺はコメントを少し下へ送る。
「ほら、この辺。建物とか刀の差し方とか、檸檬が直せって言ったところに気づいてる人もいるぞ」
『屋根や店構えがかなりちゃんとしてる』
『よくある和風ゲームより刀の位置が自然』
『町人と武士で動きが違うの細かい』
『言葉遣いも身分で変えてる?』
檸檬が画面をじっと見る。
表情はいつも通り落ち着いている。
でも、よく見れば少しだけ口元が緩んでいた。
「檸檬、嬉しいんだろ」
「監修したものが正しく評価されておるのであれば、悪い気はせぬ」
「やっぱ嬉しいじゃん」
「遊真、余計なことを言うと次の確認をもっと厳しくするぞ」
「それは困るから黙る」
今でも十分厳しい。
そこへ横から勘吉が割り込んできた。
手には何故か紙まで持っている。
「遊真! わしが朝から考えた完璧な販売計画を聞け!」
「まだやってたの? 俺、売るって一言も言ってないんだけど」
「こういうものは先に準備しておくのが大事なんだ! 通常版、豪華版、特別限定版の3種類を用意する!」
「なんで同じゲームを3種類売るんだよ」
「限定版には特製小判を付ける! さらに予約特典としてゲーム内で使える――」
「勘吉、それ絶対課金アイテム売ろうとしてるだろ」
「何を言う! 立派な付加価値だ!」
檸檬が呆れた顔で勘吉を見る。
「勘吉はゲームの中でも外でも金のことしか考えておらぬのう」
「当然だろう檸檬! 金があればできることは増えるんだぞ!」
「それで城下町の米を買い占めるつもりなのであろう」
「よく分かったな! 遊真、米相場は絶対入れろよ!」
「まだ入れるって決めてないって。勘吉が勝手に欲しがってるだけだろ」
でも。
米相場か。
江戸時代っぽい生活や経済まで作るなら、物価がずっと固定なのも変だ。
米の収穫量や地域の状況で価格が変わって、それが他の商品にも影響するようにしたら結構面白いかもしれない。
……待て。
また勘吉の話を真面目に考え始めてる。
「遊真」
纏に呼ばれた。
「何だよ。まだ何もしてないぞ」
「今、勘吉の話をゲームに入れようと考えてただろ」
「なんで分かったの?」
「顔見れば分かるよ!」
最近、纏に思考を読まれることが増えてきた気がする。
「でもさ、米相場自体は面白いと思うんだよ。町の中で商品が全部決まった値段で動くより、天候とか収穫量とか、商人の動きで少しずつ変わった方が生活感も出るし」
「そういう話なら分からなくもないけどねぇ」
「だろ? それに勘吉みたいに大量に買う人が出たら、他の商人も動くようにして――」
「待て遊真! またわし対策を入れる気か!」
「勘吉一人だけずっと儲かる方がおかしいだろ」
「ゲームの中くらい好きに儲けさせろ!」
「好きにやっていいよ。その代わり世界も好きに反応するだけ」
こういうのは、本命のゲームでもやっている。
プレイヤーの行動を最初から禁止するんじゃなくて、何かしたら周りが反応する。
それを時代劇ゲームにも少しずつ持ってくれば、ただ町を歩くだけじゃなく、町そのものが変わっていくゲームにもできる。
最初は檸檬に見せるだけだったのに、考え始めるとやりたいことがどんどん増えていくな。
その間にも、スマホには新しい通知が入り続けている。
ゲーム関係の知り合いからも連絡が来ていた。
『あれ新作?』
『技術デモにしては作りすぎじゃない?』
『NPCの生活処理どうなってる?』
『発売するなら声かけて』
『普通に遊びたい』
返事を一つずつしていたら、それだけで一日終わりそうだ。
「遊真、皆に返事をせぬのか?」
檸檬が聞いてくる。
「全部返してたら終わらないから、あとでまとめて何か書くよ。発売予定とか聞かれてるし、その辺も一回説明した方がよさそう」
「ならば、わらわが監修しておることも書くのか?」
そこで少し考えた。
俺としては書いてもいい。
というか、今の町が評価されているなら檸檬の名前を出した方が正しい。
でも、勝手に出すのは違う。
「檸檬がいいなら書くよ。でも勝手に名前出すのは嫌だから、本人に聞いてからにしようと思ってた」
俺がそう答えると、纏が少し驚いた顔をした。
「アンタ、そういうところはちゃんと考えてるんだね」
「何だよその言い方。俺だって人のこと勝手にネットへ出したりしないって」
「ゲームのことになると周りが見えなくなるから、ちょっと心配だっただけさ」
「そこまでじゃないよ。檸檬の写真とか、年齢とか、そういうのは絶対勝手に出さない」
檸檬は少し考える。
「わらわは名前を出すくらいなら構わぬぞ。監修したのは事実なのだから、隠す必要もあるまい」
「本当にいいの?」
「うむ。ただし、おぬしが間違ったことを書けば訂正させるからの」
「そこまで監修するの?」
「当然じゃ」
徹底してるな。
纏も少し考えてから頷いた。
「名前だけならいいんじゃないかい。ただ、遊真が言った通り、余計なことまで書かないようにしな」
「分かってるって。じゃあ軽く説明出す」
スマホを操作する。
『昨日の動画について聞かれているので一応。時代考証や町の作りは、時代劇に詳しい友達の擬宝珠檸檬に監修してもらってます。俺が適当に作るとかなり細かく怒られます。今のところは試作なので発売予定はありません。』
投稿。
数分もしないうちに、またコメントが増える。
『監修者いたのか』
『だから細かかったのね』
『神崎遊真にダメ出しできる監修強い』
『発売予定ないのか……』
『監修もっと厳しく頼む』
最後のコメントを檸檬へ見せる。
「檸檬、もっと厳しくしてくれだって」
「任せておけ。今の状態でも直すところは山ほどあるからの」
「これ以上あるの?」
「当然じゃ。まず城の内部はほとんどできておらぬ。外から眺めるだけでは城を作ったとは言えぬであろう。それから奉行所もまだ形だけしか考えておらぬし、町に火消しもおらぬ。夜になっても明るすぎる場所があるし、町人の生活も同じ動きをする者がまだ多い」
「待って待って、そんな一気に言わないで。今メモするから」
俺は慌ててスマホのメモを開いた。
檸檬の話を聞きながら、一つずつ書いていく。
城内部。
奉行所。
火消し。
夜の照明。
町人ごとの生活差。
書けば書くほど増える。
でも、不思議と嫌じゃない。
むしろ楽しい。
最初は俺と檸檬だけで作っていた町だった。
昨日まで、画面の向こうにいる人たちはこの町の存在すら知らなかった。
それが今は、知らない誰かが「ここを歩きたい」と言っている。
町人の暮らしをもっと見たい。
城へ入りたい。
遊んでみたい。
そう言っている。
だったら、もう少しちゃんと作ってみたい。
売れるかどうかより、そっちの方が気になる。
「檸檬」
「どうしたのじゃ。もう修正の多さに嫌になったか?」
「逆。これさ、もうちょっとちゃんと作ろうよ」
檸檬がこちらを見る。
「ちゃんととは、どこまで作るつもりじゃ?」
「まだ発売するとかは決めない。でも、せっかくここまで作ったんだし、城下町一つはちゃんと生活してる状態まで作ってみたい。朝から夜まで町が動いて、店も人も毎日少しずつ違って、プレイヤーが何かしたらちゃんと町に影響が残るくらいまで」
最初の試作品より、かなり大きな話になっている。
でも、それくらいまで作れたら絶対面白い。
「それなら、わらわは構わぬぞ」
檸檬が小さく頷いた。
「ただし、作るのであれば中途半端は許さぬ。時代劇らしい町にするという約束は守ってもらうからの」
「もちろん。分かんないところは檸檬に聞くし、俺もちゃんと調べる」
「ならばよい」
よし。
決まった。
そう思った瞬間、頭の中でやりたいことが一気に増えた。
奉行所を作るなら犯罪システムももう少し細かくできる。
泥棒が出れば、目撃者や証拠によって町奉行側の反応を変えられる。
火事を入れるなら火消しの仕事だけじゃなく、町の建物配置にも意味が出てくる。
商売までやるなら、米だけじゃなく天候や流通も少しずつ町へ影響させたい。
「まず奉行所作って、犯罪周りを――」
「遊真」
纏に呼ばれた。
嫌な予感。
「今日はここで朝まで作業する気じゃないだろうね?」
「さすがに店で朝まではやらないって」
「じゃあ家へ帰ってから朝までやる気だね」
「……新しい修正いっぱい出たし」
「寝な」
「まだ朝だぞ?」
「今夜の話をしてるんだよ!」
そこへ檸檬まで加わる。
「姉上、遊真は今の顔だと間違いなく夜更かしするぞ。さっきからもう頭の中で続きを作っておる」
「檸檬まで顔で判断するのやめてくれない?」
「おぬしは分かりやすすぎるのじゃ」
二人とも最近俺の扱いが似てきてる。
その向こうで、勘吉だけは違う方向に夢中になっていた。
紙に何か書いている。
嫌な予感がして覗き込む。
『超神田時代劇ゲーム制作委員会』
「勘吉、これ何?」
「わしが作った新会社の計画だ! 社長はわし、開発は遊真、監修は檸檬で、纏には経理を――」
紙を取り上げた。
「勝手に会社作るな!」
「何をする! これから大金が動くんだぞ!」
「まだ発売決めてないって何回言えば分かるんだよ!」
「だから今のうちに権利を押さえておくんだ!」
「勘吉、アンタはゲーム作りに一つも関わってないだろ!」
纏まで飛んでくる。
「檸檬を勝手に金儲けに巻き込むんじゃないよ!」
「これは将来を見据えた立派な事業計画だ!」
「そんなもの店の中で始めるんじゃない!」
勘吉が叩かれた。
檸檬はその横で落ち着いてお茶を飲んでいる。
「勘吉が関わると、ゲームより先に商売の話ばかり進むのう」
「俺もそう思う」
「遊真! 幼馴染なら少しくらいわしの味方をしろ!」
「ゲームのテストなら頼りにしてるけど、会社の社長には絶対しない」
「なぜだ!」
「全部売りそうだから」
「売れる時に売るのが商売だろ!」
やっぱり駄目だ。
でも、こういう騒がしさも最近は嫌いじゃない。
ただの気分転換で作ったゲーム。
檸檬と二人で始めた小さな町。
それが少しずつ大きくなって、今では知らない人たちまで続きを見たいと言っている。
俺としては、まだ「新作」と呼ぶつもりはない。
完成するかどうかも、どこまで作るかも決まっていない。
それでも。
「檸檬、次は奉行所からやろう。勘吉にテストさせれば犯罪システムもすぐ穴見つかりそうだし」
「うむ。それがよかろう。どうせ勘吉は真っ先に悪事を働くであろうからな」
「おい! なぜ最初からわしが犯罪者なんだ!」
「勘吉だからじゃない?」
「それで説明したつもりになるな!」
店の中に笑い声が広がる。
話題になったこと自体も嬉しい。
でも、それより今は、この続きを作る方がずっと楽しみだった。
どうせ作るなら、檸檬が納得するくらいちゃんとした町にしたい。
そして、その町の中で勘吉がどんな無茶をするのかも見てみたい。
たぶんまた、俺が想像してないところを壊す。
でも、それなら直せばいい。
そうやって遊んで、直して、また面白くしていけばいい。
檸檬と何となく作り始めた時代劇ゲームは、もう完全に「ちょっとした気分転換」ではなくなっていた。