人修羅、ブリテンに立つ   作:ガキパト

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chaos2

モルガンが語ったことは寝耳に水のものばかりだった。

 

まずこの地はブリテン島であり、現在アーサー・ペンドラゴンが王として統率している。島にはドラゴンや巨人、魔物や妖精などが存在しているのに加え、サクソン人や最早人かどうか怪しいピクト人が跋扈している。

 

人修羅はアーサー・ペンドラゴンという名前に反応した。それはアーサー王伝説に登場する人物の名だ。それも五世紀ごろの。

 

つまり己はタイムスリップしたというのか。それも日本ではない土地に。……早計かもしれない、人修羅は頭の片隅に留めておくだけにしておいた。

 

そしてモルガン曰く、このブリテン島は崩壊を迎えつつあるらしい。脅威は外敵だけではなく、作物の不作、疫病の感染など多数。

それにアーサー王はなんとか対抗しているが、それと時間の問題だろうとモルガンは溢す。

 

「そして私の復讐したい相手、それは私の妹に当たるアーサー王、本来の名をアルトリア・ペンドラゴン。私からブリテンを奪った愚妹だ」

 

円卓の騎士を率いる騎士の王。聖剣エクスカリバーと聖槍ロンゴミニアドを使い敵を蹴散らす腕の持ち主。

また円卓の騎士の中には太陽の加護を持つガヴェイン、円卓随一の剣の腕を持つランスロット。他にも武に秀でる名だたる騎士が複数存在している。

 

「真向勝負では私に勝ち目はない。だから私は今までに幾つもの策を実行した。不安の種を方々に植え付け、円卓を瓦解させるために」

 

それでも、まだアルトリアは健在である。モルガンは悔しげに俯いた。

 

「そんな折に、人修羅が来てくれた。貴方がいれば円卓の騎士もアルトリアも些末なものだろう」

「成る程」

「さて、今度は人修羅の話を聞かせてくれないか。帰還の方法が私の考えるものと当たっているか確かめたい」

「……わかった」

 

人修羅は語った。東京受胎から始まったボルテクス界の話を、コトワリのために殺しあった者たちの話を、メノラーに導かれて歩んだその道を。

 

人修羅は語るのは得意ではない。故に簡略化した内容を訥々と話していたが、モルガンは興味深く人修羅の話に聞き入っていた。

 

「俄には信じがたい話だ。人が悪魔になり、悪魔を従え、天に歯向かう首魁となるとは……。想像以上だ、目が眩むかと思ったぞ」

「ホント大変だったんだから。まあアタシも病院で出会ったときはこうなるとは思いもしなかったケド」

 

遠い目をしたピクシーが茶菓子をその小さい口で頬張っている。なまじ古くからいるのだ、体験した困難も一入である。

 

「しかしアマラ深界か。カグツチと呼ばれる世界を構成する情報やエネルギーの行き着く終着点。故に世界の裏側に存在するもの……。もしかすれば、理想郷アヴァロンに向かえば帰れるかもしれない」

「ホントホント!?やったじゃん!」

「理想郷……どうすればそこへ行ける?」

 

モルガンは顎に指を当て、数秒考えると「仮説になるが」と前置きして語り始める。

 

「アルトリアの持つエクスカリバーもしくはその鞘。それを所持していれば理想郷に辿り着く可能性が高い。理想郷は星の内海、故にそこと所縁のある聖剣を媒介とすれば道が開けるだろう」

「結局、そのアルトリアを殺せばいいんでしょ?やったじゃん、もう解決したんじゃない?」

 

あくまでも可能性の話だ。しかしこれ以上ない明確な手がかり。上手くいかなかったとしても、試しているのは悪いことではない。それがモルガンの思惑通りだったとしても問題はない。少なくとも害はないのだ。

 

「モルガン。アルトリアは何処にいる」

「愚妹は白亜の城キャメロットにいるだろう。そこには円卓の騎士も揃っている。ここからは歩いて3日はかかって手間だ。私の水鏡で送ろう」

「キャハ、ミナゴロシよ!」

 

血が騒ぐとばかりに飛び回るピクシー。人修羅はそれを目で追いつつ最後の一杯を飲み干す。

 

「馳走になった。契約を果たしてくる」

「ああ、朗報を期待している」

 

モルガンは聞き取れない速度で呪文を唱えると、来賓室の空いたスペースに淡い水色の円形が現れる。それの表面が渦巻き、次第に向こう側の景色が見える。

 

「ログレスを一望できる高原に繋げた。人修羅ならばログレスまで一時間もかかるまい」

 

それに頷くと、人修羅は臆せず水鏡に飛び込んだ。ピクシーもすぐその背を追いかけて飛び込む。

 

その後ろ姿を暫く見送った後、モルガンは水鏡を解除した。深く息を吐くと、近くの椅子を引き寄せ腰を預ける。

 

「顔を合わせて話すだけでこ(・)れ(・)とはな。本当に、悪魔と言うのは度し難いものだ……」

 

震える己の左腕を見て自嘲する。表面上ではなんとか取り繕ったものの、気を抜いた途端村娘のように怯える自分が滑稽に思えたのだ。

 

魔術で再度ティーカップを満たし、ゆっくりと一杯口に含む。僅かな渋みは冷静さを戻すよい刺激になった。

 

無音が満たす部屋の中で、独りごちる。

 

「願わくばこの手で復讐を成し遂げたかったが……円卓の面々を以てしても人修羅には敵うまい。呆気なく潰える様をせめてこの目で見届けてやろう」

 

 

 

 

 

 

 

「っ!?」

「如何されたか、王よ?」

「……背筋が凍るほど恐ろしい何かを感じた。何か、言葉に言い表せぬものがここに迫っている」

 

騎士たちの王であるアルトリアは、その第六感で人修羅の転移を感知した。顔を青ざめる王の姿を見て円卓の騎士らは疑問を抱く。

 

「ヴォーティガーンは既に滅んだ。このブリテンには最早恐るべき個は存在しないはず。ならば一体何が……」

「混沌が来たのさ、我が王」

「マーリン!何か知っているのか」

 

ふわりと花の匂いが漂うと同時、マーリンが苦汁をなめるような顔で述べる。円卓の面々は、この男の表情を見てどれほどの厄介事なのかと危機感を覚える。

 

「僕が現時点でわかっているのは二つ。一つはこの世界を壊すほどの存在がここに向かっていること。もう一つはそれが恐らくモルガンの手先だということ。珍しいことに千里眼の対策が疎かだったから丸見えだったよ」

「オイオイ、世界を壊すってナニモノなんだそいつは?」

「……聞いても信じられないよ?」

「そんなもん言ってみなきゃわかんねーだろうが」

 

モードレッドは内心疑問に思いつつマーリンに突っかかる。この胡散臭い男がここまで出し渋るような存在なんて知りもしなかったから。

 

たっぷりと数秒、頭を回した結果ここで言っておくのがベストだろうと判断したマーリンは、漸く重い口を開いた。

 

「それは悪魔だと語っていたよ」

『ッッ!?』

 

一同は驚愕する。神が完全無欠で全知全能ならば、悪魔は荒唐無稽で人知無能と謳われるもの。人の側に潜むものであり、決して理解できない深淵。

 

「……悪魔ときたか。しかし悪魔というものはここまで悍ましいオーラを放つものなのか?その悪魔の存在は自重で世界を壊しかねない」

「その悪魔が異常なんだ我が王。この混沌からは数多もの悪魔と似たような気配を感じる。つまりこの混沌は……っ不味いことになった」

「何があったのだ?」

「悪魔がログレスの門を突破した。ここに着くまであと5分も掛からない」

 

事態は瞬く間に展開される。アルトリアたちは迷う時間も与えられず、脅威に立ち向かわねばならない。

アルトリアは歯を食い縛り、円卓の騎士を率いてすぐに件のため悪魔と相対することを決意した。

 

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