オーバーロード〜約束の指輪〜   作:愛飢夫

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弟分

 倒れた三人を放置して宿に戻り、俺が無傷で戻ってきたのを見て驚いている店主の前を素通りして二階へとあがる。

 

 教えられた部屋の前に立ち、扉を開けると一人の子供と目が合った。

 

「あっ……」

「ん? あ、さっきの……」

 

 先程俺が気絶させてきたハゲたちに絡まれていた男の子が部屋に入ってすぐ右のベッドに腰掛けていた。

 俺が左だから、お向かいさんだね。

 

「あの……!」

「ん?」

 

 マントを外し、上着を脱いで備え付けの籠に入れていると再び声を掛けられた。

 

「その、さっきは……助けてくれてありがとうございました!」

 

 少年は座っていたベッドから降り、一歩俺に近付いてから深く頭を下げた。

 

「ああ、いいよ気にしなくて。邪魔だったし、なにより見てて腹が立ったから思わずやっちゃった」

 

 だから「君のためじゃなくて完全に自分のためだよ」と付け足しておく。

 

「でも……助かったのは事実ですから」

「そかそか、ならどういたしまして」

 

 深々と頭を下げる少年に軽く言って頭を上げさせる。

 

「あ、あの……わた……僕はニニャって言います!」

「よろしくニニャ。俺はアレスだよ」

「アレスさん……あの、アレスさんは戦士なんですか?」

「そうだよ。そう言うニニャは魔法詠唱者(マジックキャスター)かな?」

 

 使い古した杖とローブ、見た感じそのまま魔法詠唱者(マジックキャスター)だけど、ユグドラシルでは見た目と修めている職業(クラス)が一致しないプレーヤーは多いからね。今の俺も初期装備の駆け出し風にみえてワールドチャンピオンだし。

 とはいえ戦士(ファイター)レベル5、ワールドチャンピオンレベル1の合計レベル6だからびっくりするくらい弱いワールドチャンピオンなんだけども。

 

「はい! まだ第一位階魔法をいくつか使えるだけですけど……」

「そうなんだ。まだ若そうだしこれからじゃない? ニニャはいくつなの?」

 

 パッと見10歳から12歳くらいかな?

 エンリとあまり変わらないように見える。

 

「10歳です」

「俺の妹より下なんだ……その歳で冒険者になるなんて凄いね」

 

 俺もスーちゃんの件が無ければ冒険者登録なんてせずにカルネ村でのほほんと生活していただろうし、10歳で冒険者になるなんて大したものだ。

 

「僕は親が居ないので……師匠にこれ以上も負担も掛けられませんし」

「師匠?」

「はい。村を追い出されて一人で困っていたところを魔法の師匠に拾ってもらったんです」

「へぇ……」

 

 なんだかニニャが話したいようだったので話を聞いてみると、ニニャの両親は早くに亡くなり、姉と二人で慎ましく畑を耕して生活していたらしい。

 

 しかし見目麗しかった姉がその村を治める領主の目に留まり、妾として連れ去られてしまったそうだ。

 その村はとても貧しく、何も出来ない幼子であるニニャを食べさせる余裕も無かったようで

 ニニャは村を追い出されてしまった。

 途方に暮れていたニニャだったが、たまたま通りかかった魔法詠唱者(マジックキャスター)のおじいさんに助けられた。

 

 そのおじいさんは『他者の生まれながらの異能(タレント)を見抜く』という生まれながらの異能(タレント)を持っており、ニニャが【魔法適正】という生まれながらの異能(タレント)を持っていたため弟子にしてくれたそうだ。

 

「師匠は他にも弟子を取っていましたから……第一位階魔法を覚えて戦えるようになったので独り立ちしようと思って冒険者になったんです」

「えっと……色々ツッコミたいけど、とりあえず重いよ」

 

 黙って話を聞いていたが、感想としてはとても重い。

 まさか出会って数分でこんなに重たい話を聞かされるとは思っていなかった。

 

 それに……生まれながらの異能(タレント)持ちであることを開示されてしまったことにも驚いている。

 

 自分の切り札になりうる情報をあっさり開示してしまうなんて……この子大丈夫かな?

 ここは公平を期すために俺の生まれながらの異能(タレント)も開示しておくべきか!?

 

「そうですか? 独り立ちしたかったのもあるんですけど、姉を探したいと思って冒険者になりました」

「なんでさらに重ねてくるの?」

 

 マイペースかよ。そこまで言われたら俺もスーちゃんの話するしかなくなるぞ?

 

「あ……ごめんなさい」

「別に責めては無いんだけどね?」

「アレスさん話聞くの上手だからつい……」

 

 俺のせいかよ。

 いや、まぁ毎日妹たちの話を聞いていたから聞き上手な自覚はあるけどさ。

 

「いや……うん。わかった。わかったけど、あまり人に話さない方がいいと思うよ?」

「何故ですか?」

「村の話なんかはまぁいいと思うんだけど、生まれながらの異能(タレント)なんかはこれから切り札になりうるから話さない方がいいと思うよ」

 

 話を聞く限りニニャの【魔法適正】は魔法詠唱者(マジックキャスター)系の職業(クラス)に限り経験値2倍とかそんな感じだと思われる。

 

 ということは見た目の年齢と使える魔法が一致しないということ。

 もう少し鍛えればまだ子供だと侮ってくる相手に高位階魔法をぶつけて驚かせるという戦法が使えるのだ。

 それは大きなアドバンテージになりうるので、わざわざそれを開示する必要は皆無である。

 

「そうなんですね……わかりました。アレスさんがそういうなら秘密にしておきます!」

「その方がいいよ。あとアレスでいい。敬語もいらない」

 

 気が付けば話してる間になんとなく弟みたいな感じになってきたからね。

 さん付けで呼ばれるくらいならお兄ちゃんと呼ばれたい。 

 

「分かりま……分かったよ」

「うん。それで提案なんだけど、明日俺と組んでゴブリン狩ってみない?」

「え?」

 

 一応納得はしてくれたみたいだけど、放っておくには不安である。

 それなら俺のパーティメンバーとして面倒を見た方がいいのではないかという真面目で冷静な判断だ。

 決して一人くらい弟が欲しかったなんて思ってはいない。

 

「ゴブリン狩り?」

「うん。ニニャは《魔法の矢(マジック・アロー)》は使えるんでしょ?」

「使えるけど……」

「ならニニャが魔法で牽制して、俺が剣で斬れば大丈夫だよ」

「でも……モンスターと戦うのは危ないよ?」

「大丈夫、今日も一人でゴブリン狩ってきたから」

「アレスは強いんだね……」

「ニニャもすぐに強くなれるよ」

 

 《魔法の矢(マジック・アロー)》でゴブリンに攻撃をして俺がトドメを刺せばニニャにも経験値が入る。

 その経験値を利用すれば【魔法適正】を持つニニャならすぐに強くなれるだろう。

 

「強くなるにはモンスターと戦うのが一番だよ。ニニャは攫われた姉を探したいんだよね?」

「うん……」

「なら強さは必要だよ。俺と一緒に強くなろう?」

 

 ニニャは少しの間考えていたが、やがて強い決意を秘めた瞳をして俺を見つめてきた。

 

「アレス……僕、頑張るよ」

「よろしく。じゃあ俺の目的も教えておくね?」

「え?」

「俺も大切な人を探すために冒険者になったんだ。ニニャのお姉さんを探す手伝いするから、ニニャも手伝ってよ」

「え? あ、うん……」

 

 よし、言質取ったった。

 

 俺の【ステータスチェック】とニニャの【魔法適正】があればすぐにニニャも強くなれるだろう。

 

 ニニャのレベリングをしつつ路銀を貯めて、少しでも早くほかの街にも行く予定を考えておかないといけないな。




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