悪役の魂と共にMCU転生したので生き延びる 作:ゴウカザルのスケジュール
「それなら、こういう制度がある」
義父のニコラスから教えられたのは、ジョンズ・ホプキンス大学が主催する『
全米から厳しいスクリーニングを突破した英才が集まるという。気になったので、私は義父に少し甘えるような仕草で見せて、受講の申し込みを頼み込んだ。
後日、送られてきたのは選考用のテスト課題だった。
……だが、届いた用紙を一目見て、私は鼻で笑いそうになった。
ゾラ爺の高度な演算能力を借りる必要すら存在しない、ただのゴミみたいな基礎テストだ。 ぶっちゃけ、私本体の性能が片目を閉じて鼻歌混じりに解けてしまう程度。
───まぁ、だって、実年齢+2年次上程度の難易度だからな。
若干、制度の底の浅さに訝しみながらも全問を秒で解き明かし、当然のように合格通知を受け取って、いざ尋常に!と乗り込んだのだが……。
満を持して参加したそのサマースクールを、端的に表すならば、
兎に角、『苦痛』の一言に尽きた。
なるほど。
ほんの少しだけ先の学年の問題が解ける程度の、所謂、『お勉強が出来るだけのクソガキキッズ共』の集まりである。
提示される課題のレベルや発言の知的水準以外は、近所のうるさい幼稚園と何一つ変わらない。
天才と呼ばれる人間は頭が良いのだから、当然、対人関係における利害や場を円滑に進めるコストを考慮できるはずだ。
故に、態度も弁えており、精神的にも大人びているものだ。
……と勝手に思い込んでいた。
全然違ったね。
ただ単に他の子供よりドリルを進めるのが早いだけの、肥大化したプライドを持ったガキが大人数で集まり、己の有能さをマウントし合っているだけの不毛な地獄絵図だった。
それ以来、私は家から出るのを極力避け、引きこもるようになった。
実際のところ、引きこもり生活は非常に快適だ。
思えば参加する前、19歳の義兄であるマイケルは、
「あまり期待しすぎない方がいい」
と事前に私を諭してくれていたし、意気消沈して帰ってきた後は、
私の好む静かな環境を用意して熱心に心のケアをしてくれた。
やはり、持つべきものは家族である。(※義理の!!!)
私は自室のふかふかのベッドに横たわり、天井を見上げながら小さく息を吐いた。
大人たちの仕事や大学の講義が始まる日中、ニコラス邸には私一人の静寂が訪れる。
「……さて、ゾラ爺」
脳内の居候に呼びかけながら、私は子供部屋のデスクに向かった。
机の上には、ThinkPadと、重厚な金属の鈍い光を放つ軍用バッテリーが鎮座している。
「クソガキ共の大学生ごっこ遊びに付き合う時間は終わった。我々は我々のやり方で我々の目標を達成するぞ。先ずは、資金調達からだ」
『ふむ……あのガキどもの知性にはワシも反吐が出そうだったからの。ようやく骨のある作業に入れるというものじゃ』
脳内でゾラ爺が満足げに鼻を鳴らす。
私は小さい手をキーボードの上に載せ、液晶画面に映し出される無機質なコマンドラインを見つめた。
CTYで同年代の友達を作れなかった挫折で、憐れなことに引きこもりとなってしまった繊細な5歳児こと、私は自室のパソコンを叩きながら会社設立の計画を建てる。
会社設立。
といっても、大層なものではない。
2006年現在、アメリカのネットビジネスは絶妙に不便で、そして絶妙に隙だらけだ。
世間を見渡してみれば分かる。
人々が手にしているのはMotorolaの折りたたみガラケーか、せいぜいキーボードが付いたビジネスマン向けの『BlackBerry』止まり。
画面を開いてブラウザでググり、リアルタイムで欲しい情報を精査するスマートフォンなど、技術的にもインフラ的にも不可能な時代だ。
そして、外でネット検索ができない以上、人々は自宅やオフィスのPCの前に座り、Internet ExplorerやFirefoxを立ち上げて情報を探すしかない。
だが、その情報収集のやり方たるや、あまりにも非効率的だった。
政治、経済、医療、テクノロジー……あちこちのニュースサイトや、空前のブームを迎えている個人ブログを一つ一つブックマークから巡回し、膨大なテキストを一つ一つ読んでいくしかないのだ。
ゾラ爺曰く、RSSフィードなるものが普及し始めてはいるらしいが、一般人代表の私のような層にとっては使い勝手が悪いよく分からないものである。
───要するに、『情報が溢れているのに、まとまっていない』。
なら、やるべきことは一つだ。
全自動の『まとめサイト』の構築である。
「……なぁゾラ爺、全米のニュースサイトから記事を自動で取ってきて、文章の意味を理解して人間に読みやすく自動要約・書き直しまでしてくれる
脳内の自称天才博士にそう問いかけると、ゾラ爺は呆れたように大きな溜息を響かせた。またグワングワンと揺れる。たかがため息の癖に、ビブラートかかり過ぎだ。
『バカを言え、お前はワシを未来人と勘違いしておるのか? 文章の文脈を理解して自然言語を自動生成するなど、この2006年のハードウェア環境では天地がひっくり返っても不可能じゃ。そもそも巨大な言語モデルを動かすための並列計算用GPUも存在せんなら、理論そのものすら確立されておらん』
「ちぇっ、使えないなぁ。脳をデータ化できるくせに」
『言わせておけば……! それにのう、文脈を解釈する
ん?
その言い方、出来るのだろうか。
なんやなんやCTYでプログラミングを勉強した甲斐があったのかもしれない。まぁ、これからの時代はAIだからな。知らんけど。
『泥臭いやり方?』
『PythonかPerlでクローラーを組み、全米の主要ニュースと医療系ブログを巡回させる。取得したテキストから単語の出現頻度を計算するTF-IDFで重要語句を抽出しらナイーブベイズ分類器でカテゴリ分けする。そして文章内の重要度の高い一節だけを機械的に抜き出して、数行に短縮すればいい。要約というよりは、単なる統計処理による削り出しじゃな。これなら今の環境でもミリ秒単位で処理できる』
ゾラ爺が画面のコマンドライン上に提示してきた未知の言語を見て、私は思わず顔を顰めた。
「で、つまり?」
『要するに、アルバ、お前が言う、ニュースを全自動でパクって短くまとめて勝手に載せる集金マシーンなら作れるってことじゃ』
「なるほど、最初からそう言えよ」
詳しい事はよく分からないが、なんとかなるらしい。
ならば、良いでしょう。
『言い方の品がなさすぎるわ! だが……ふむ、人間の手で記事を書くのではなく、情報収集から分類、掲載までをアルゴリズムに丸投げして全自動でWebメディアを運用する……手間とコストを考えれば、目の付け所は悪くない』
「だろ? この手の全自動まとめサイトってやつは、令和の時代じゃ『SEOスパム』だの『コピペアフィサイト』だので散々叩かれて問題になってたんだぜ。あと、『スパム記事』だとか、近年は『フェイクニュース』だったりな……。だが、裏を返せばよぉ、世間で問題視されるくらい大勢の奴が参入するってことは、それだけ、稼げるって証拠だろ。知らんけど」
私が前世の知識を適当にひけらかすと、ゾラ爺は「くくく」と脳内で醜悪な笑い声を漏らした。実に悪役っぽいやつだ。いや、実際の所、巨悪だけど。
『ほう、未来では問題視されるか。だが2006年現在のGoogleの検索アルゴリズムなど、まだまだザルそのものじゃ。記事の質など判定できんのじゃ。更新頻度が高く、特定の単語が多く含まれるサイトを無条件で優遇して上位表示してしまう。ワシの処理能力で24時間フル稼働させれば、全米の検索結果を我々のサイトで埋め尽くすことなど造作もないわ』
「頼もしいねぇ。で、ここからが本題だ。このサイトを表向きの我々の会社の事業として登録する。アクセスが集まれば、広告収入が勝手に転がり込んでくるだろ」
1アクセスごとの値段は本当に極わずかだろうが、塵も積もれば山となるだ。コレだけでも十分な稼ぎにはなるだろう。
だが、私の本当の狙いはそんなアフィリエイトの小銭稼ぎではない。
「真の狙いは、Hydraの裏金を綺麗に洗い流すための完璧なフィルターだ。
ゾラ爺、お前が把握しているHydraの休眠口座やオフショアのダミー会社から、このまとめサイト掲載企業宛てに小切手を叩き込め。名目は、Web広告掲載料。あるいは医療データ共有のライセンス料だ」
『合点承知之助じゃ。実際に大量のPVを集めているWebメディアであれば、海外の大手ファンドや企業から巨額の広告費やライセンス料が小切手で振り込まれても、第三者からは急成長しているITベンチャーの正規の売上にしか見えんという訳か!』
『そういうことだ。細かいところは知らんけど。だが、私の専門分野である法律関係の部分はある程度調べてある。2000年に
紙の小切手を使えば、ネットワーク上の送金ログインログは一切残らない。
そして、着金した巨額の広告収入の名目の裏金に対して、元公務員の知識をフル活用して
税金さえ満額払っていれば、IRSもS.H.I.E.L.D.も、まさか5歳のガキが自室からThinkPad一台でHydraの裏金を合法的な企業利益にロンダリングしているとは夢にも思うまい。
───いや、額が額なら怪しまれるので、その辺りの微調節は必要だが。
CTYで同年代の友達や、あわよくば、可愛くて頭も良くて金爆美女幼なじみを作ろうという、シークレットコード:偉大なるOSANANAJIMI計画は、卑劣にして凶悪な白色テロルの妨害に遭い、惜しくも転進を余儀無くされたが、まだ負けてはいない。そう、負けてはいないのだ。
私はこの2006年のネットの過渡期を悪用し、国家予算級の資本主義パワーをもって必ずしや金爆美女を手に入れてみせるッッ!!!
2011年1月、Demand MediaはNYSEに上場。
IPO価格は1株17ドル、企業価値は約15億ドル。
検索されやすいキーワードを自動抽出し、
ライターを使って大量のコンテンツを生産する
コンテンツファームとして急成長し、上場まで至る。
ヒロイン候補は二章で登場します。
現状、19歳の天才か前期高齢狂科学者がヒロイン枠であること、申し訳なく思っています。
この小説にも、『萌え』が欲しいッッ!!!(切実)