悪役の魂と共にMCU転生したので生き延びる 作:ゆかりちゃん@良識のある物書き
「11日目。テスト37 take2。……おい、『
前回のMark8の反省点を踏まえ、今回は配管を増やしてポンプを無理やり二連にしてみたが、背中のタンクが重すぎて足が上がらなかった。
二足で直立出来ている事自体が奇跡かも知れない。
「ってか、踏ん張った瞬間に『バキッ!』って関節の金具が千切れたんだけど」
『ぐぬぬぬ……ッ!! 破砕応力の計算が微かに狂っておったわ! というか、そもそも人工心肺ユニットが重すぎるんじゃよ!!』
あの青紫色のハルク式人工血液誤飲事故から数週間。
作業台の上には、無残に折れ曲がった金属パーツと引きちぎれた人工筋肉のゴミの山がうず高く積まれていた。
Mark2での誤飲事故の後、私たちの開発ナンバリングは物凄い勢いで進んでいる。
Mark4で、靴の中に人工心肺を収めるのは物理的に不可能と悟り、ランドセルのような背負い式に逃げ、
Mark5で酸素量を手動調整する無骨なバルブを付け、
Mark6でようやく、生体筋が腐らずに1分間動くという最低限の足がかりを得た。
だが、Mark7に至る時点で、最早、ソレはお世辞にも『キック力増強シューズ』とは呼べない不気味なナニカだった。
背中に背負うのは、大袈裟な圧力ゲージと手動バルブ、太いガラス管がニョキニョキ生えたバカデカいランドセル。
……いや、最早、ランドセルとは評せない程、無骨なデザインだ。
『崖の上のポニョ』の父親───フジモトが背負っている海洋深層水の散布機械。アレが一番近いデザインかも知れない。
そこから青紫色の血液がドクドクと流れる無数の太いチューブが伸び、
繋がる先は足元に鎮座する初代ガンダムの脚部パーツ。
いや、すまない。少し見栄を張った。
実際の所は、ガンダムを短足化して、更に太く、ダサく、安っぽくした憐れなる金属塊だ。
要するに、燃えない粗大ゴミ。
文系人間の私にはさっぱり分からないが、要するに無理やり後付けした機械が重すぎて、パワーが重量負けているらしい。
脳内のゾラ爺が発狂している最中、ふと、私は遠い空に思いを馳せた。
といっても、直線距離は約4000kmしか離れていないが。
(……今頃、マリブの豪華な大邸宅の地下ラボでは、あのトニー・スタークも同じように頭を抱えている頃だろうか)
アフガニスタンの洞窟から生還し、会見で軍需部門撤退をぶち上げてスターク社の株価を大暴落させた天才大富豪。
原作と同じ動きのお陰で、私はスターク社の株の先売りによって莫大な資金を稼がせてもらったわけだが、今の彼もまた、洗練された2つ目のアーク・リアクターを胸に光らせながら、AIのジャービスとポンコツロボットアームに消火器を追いかけ回されながら、泥臭い試行錯誤を繰り返しているはずだ。
飛行テストで氷結問題にぶち当たって屋根から墜落したり、ロボットアームに消火剤を吹きかけられたりしながら、一歩一歩『アイアンマン』へと至る失敗の山を築いている最中に違いない。
(世界最高の天才ですら、あのガレージで一人、傷だらけになりながら泥臭いトライ&エラーを繰り返してるんだ。ド文系の私がゾラ爺の金切り声を聞きながらゴミの山を作ってるのも、まあ……悪くないか)
まだ対面していない未来のヒーローに勝手な親近感と謎の感傷を抱いていると、脳内のゾラ爺が現実へと引き戻すように金切り声を上げた。
『ぬうう……何を目を細めておるアルバ!! そもそも根本的な問題はフレームの強度でもポンプの重さでもないわッ!! お前が「安全第一」などと抜かして血清を数千倍に希釈したせいで、人工筋肉が出せるパワーがまるで足りておらんのだ!!』
「う〜ん、いや、分かってはいる。ケド、な?」
『ケドでも、ダッテでも無いわい。希釈しすぎたモヤシ筋肉の出力では、このバカデカい人工心肺プラントを持ち上げられん。これではパワードスーツどころか、重い荷物を背負って自爆するただの不審者じゃわい!!』
実際に背負って操作しているお陰で、前世がド文系官僚の私でも理解出来た。いや、理解出来てしまった。
安全を優先して激薄希釈にこだわりすぎた結果、パワー不足のパワースーツという本末転倒な結果にぶち当たっていたのだ。これではサノスはおろか、そのへんのチンピラにすら勝てない。
『ハッ! ようやく気づいたか!! ワシの言う通り、血清の濃度を100倍……いや、50倍まで濃くするのじゃ! 神の力を引き出さねば、この泥沼から抜け出せんぞ!!』
「うぐぐ……。濃度を上げたら、またホースが破裂した時に今度こそアボミネーションになっちゃうかもしれないじゃん……」
『ビビっておる場合かッ! 頑丈なフレームを作る前に、まずはエンジンの火力を上げんかいッ!!』
ぐうの音も出ない正論だった。背に腹は代えられない。
安全基準を最優先にしていては、いずれやってくるMCUの理不尽な暴力的日常を生き残ることは不可能なのだろう。
実際、世の中は急激にキナ臭くなっている。
今暴れまわっている偽物のテンリングス。
この大都市NYでもギャング同士の抗争は社会問題として表面化されつつある。天才AIのヴィジョンも、超人の活動が新たな脅威を招くみたいな事を統計的データを根拠に言っていたはずだ。
コレから原作が始まり、沢山のヒーローが出てくる。
その分、脅威が迫るという訳なのだから───
「……ってか、数年後にはエイリアン攻めてくるもんな。よし、ゾラ爺。わかったよ。100倍希釈まで濃度を戻そう。その代わり、配管の安全弁は三重にするからね!」
『ぬははは! 始めからそうすれば良いのじゃ! 濃縮ハルク血清の真のパワー、とくと味わうが良いわ!!』
返り血と油汚れの消えないThinkPadに向かい、私は恐る恐る血清の希釈倍率を書き換えた。
安全第一のブレーキを外し、禁断の火力向上へと踏み出すMark10の開発。
カリブ海の豪邸で世界屈指の天才が泥臭くも、スマートなデザインのスーツをアップグレードさせているこの世界の傍らで、私も泥臭いトライ&エラーを繰り返す。
いよいよ実験は危険な領域へと加速していくが、最終的に、サノスという宇宙規模の理不尽を見据えている以上、やはり、リスクある手段に手を出さねばならないのだろう。
夜はまだまだ終わらない。
******
そんなふうに考えていた時期が俺にもありました。
数日後の深夜。
Mark11が暴れ散らかした残骸の清掃を終え、疲れ果てた私はラボの簡易ベッドで泥のように眠りについた。
そんな私の脳内に爆音の怒声が響き渡る。
『────トニィィィィィッッ!! 許さん……許さんぞ。トニー・スタークゥゥゥッ!! 』
「……ンあなぁ!?」
文字通り、跳び起きた。
耳元でデカいドラム缶がぺしゃんこになるまで殴られ続けていたのかと錯覚する。
「な、なに!? ゾラ爺の金切り声にしては声質がスキンヘッドのイケおじすぎるんだけど!?」
『ぬう……なんじゃこのやかましいハゲ頭の怨念は! ワシの占有領域に勝手に割り込んでくるなバカ者!!』
脳内でゾラ爺と謎のハゲ頭が殴り合っている音がする。
いや、殴り合う身体は無いハズだ。
しかし、どうも河川敷の青春ドラマが脳内で再生されるのだ。
生憎、登場キャストは、前期高齢者のお爺ちゃん達であるが。
頭の中から直接響いてくるので、耳を塞いでも意味が無い事は理解している。
それでも私はヘッドフォンを装着しながらブチ切れた。
「うるっせぇぇぇぇ!! 深夜の3時に他人の脳内で大絶叫してんじゃねえよ!! なんだよお前ぇぇ、誰だよ!!」
『俺はオバディア・ステインだぁぁッ! ふぅふぅ……巨大リアクターの過負荷で私を焼き殺しおった……! 許さん、スターク社は私のものだぁ!』
「……は?」
一瞬、思考がフリーズした。
オバディア・ステイン。
スターク・インダストリーズの副社長にして、『アイアンマン1』の最初の宿敵。
巨大パワードスーツ『アイアンモンガー』に乗ってトニーと死闘を繰り広げ、最後は巨大アーク・リアクターから放たれた光の柱に呑み込まれて死亡した男。
……え、なんで死んだやつの魂が私の脳内に流れてきてんの?
いや、違うわ。思い出した。確か、エンシェント・ワンが悪役が死んだら〜みたいな事を言っていた気がする。
本当に美人だったよなぁ。会いに行きたいな。NYにも拠点があった筈だ。サンクタム・サントラムだったかな。
だが、会った途端に、ゾラ爺の魂どころか転生者の私の魂すらも速攻で浄化されそうで怖いんだよなぁ。
「……って、待てよ?」
刹那───ブチ切れていた私の頭脳に、かつて派閥闘争を勝ち抜いた瞬発的なロジックが駆け巡った。
───IQ53万の私の脳内CPUがハジき出した結論は……
オバディアの魂が脳内に逃げ込んできた。
と、云う事は、
今、まさにカリフォルニアのマリブでトニーとオバディアの最終決戦が終わったという事では無かろうか。
テレビやネットニュースを確認しよう。
少し調べるだけで、オバディアがアイアンモンガーに乗り込み、路上で暴れている写真が出てきた。
テレビでは、スターク社から放たれている巨大な光の柱の実況映像が繰り返し再生され、自称専門家のコメンテーターが我が物顔で妄言を吐いている。
「……やはり、明日だ」
『ぬ? 何が明日なんじゃアルバ』
「スターク社の株価が高騰するんだよ!」
脳内で騒いでいるオバディアを完全に無視し、私はベッドから飛び起きるとThinkPadのスリープモードを解除した。同時に、オバディアに説教する。
正直、恨み言だらけでうるさいのだ。「汝の敵を愛せよ」という言葉を知らんのか。聖書を読め、ちゃんと。
義父ニコラスからの受け売りを盛大に押し付けながら、私は慣れた手付きで目的のサイトを開いた。
アフガニスタンから生還した後に放たれた軍需撤退宣言により暴落した企業価値。
グルミラ村の報道により世間から見捨てらる程に低下したブランド・イメージ。
その全ての影響が表れている株価チャートを開く。
「さぁ、ゾラ爺。軍需撤退で暴落した底値の今、世界最強のパワードスーツと超小型アーク・リアクターの技術が判明したらどうなると思う? ましてや、ヒーロー宣言をするんだぞ」
『ふむ、であれ「そんなの株式市場の歴史に残る超絶爆騰を起こすに決まってるだろッ!!」
食い気味に絶叫する。相も変わらず、脳内のオバディアがうるさい。
深夜のテンションと欲望に任せ、私はキーボードを狂ったように叩いた。
───乗るしかない このビックウェーブに。
「空売りで稼いだ利益と、手持ちのオズコープ資金を全額突っ込んで……スターク株、底値で買いだ。最高レバレッジッ!!」
『スターク・インダストリーズッ! 私の会社の株だ。勝手に動かすなぁぁッ!!』
「黙れ成金ハゲ! お前はもう死んだんだよ!!」
画面上で取引完了のグリーンシグナルが点灯する。
世界を揺るがす歴史的発言のカウントダウンが、静かに始まっていた。
『アイアンマンⅠ』終了。
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2012年にGameloftからリリースされたスマホアプリ版『The Amazing Spider-Man』を
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