第3プラントで脱獄計画が始動して半月。
エマ、ノーマン、レイの3人は、ハウスの構造や警備の穴を調べ、子供たちの「鬼ごっこ」を通じて脱出に必要な体力作りを進めていた。しかし、その日常は突如として破られる。
「みんな、今日から一緒に暮らすことになったシスター・クローネよ」
ママ・イザベラが連れてきたのは、大柄で筋肉質な黒人の女性、シスター・クローネ。
そして、彼女の腕に抱かれていたのは、まだ生後数ヶ月の新たな赤ん坊、キャロルだった。
エマとノーマンの背中に冷や汗が流れる。監視の目が純粋に増えたこと、そして「赤ん坊の首筋」を確認することで、彼らは発信機がどこに埋め込まれているかを正確に突き止めることになる。
同日(第2プラント)
そして、第3プラントにクローネが配置されたその日、第2プラントにもまた、「本部」からの刺客が送り込まれていた。
「今日からみんなの生活をサポートさせてもらうことになった、シスター・ミヤコです。よろしくね」
にこやかに挨拶をしたのは、眼鏡をかけた知的な雰囲気の女性、シスター・ミヤコ。
子供たちは「新しい先生だ!」と無邪気に喜ぶが、その背後で、アクア、あかね、フリルの3人は死角から冷徹な視線を交わしていた。
(……タイミングが合いすぎている)
アクアは即座に察知した。隣の第3プラントに別のシスターが配置されたという噂は、アイの執務室の通信記録からフリルがすでに割り出していた。
二つのプラントに同時に補佐官が送り込まれたということは、本部、あるいはママたちが「子供たちの不穏な動き」に気づき、包囲網を狭めてきた証拠に他ならない。
「ミヤコシスター、よろしくおねがいします!」
ルビーが人懐っこくミヤコの元へ駆け寄る。
その腕には、本部から新しく運ばれてきた赤ん坊が抱かれていた。
「ルビーちゃん、可愛いわね。お姉さんになったんだから、これからはもっとママの言うことをよく聞いて、良い子にするのよ」
ミヤコはルビーの頭を撫でながら、視線だけは食堂の隅にいるアクアたちに向けていた。
値踏みするような、鋭い大人の目。
(あのシスター、ただの補佐じゃない。あかね、どうだ?)
アクアの目配せに、あかねは小さく首を振って見せた。
(……ダメ、あの人は完全にママの忠実な『手駒』として動いてる。ママの思考をトレースして、私たちの死角を完璧に埋めるために配置された、冷徹な監視マシンよ)
あかねのプロファイリングが、第2プラントの絶望的な状況を弾き出す。
第3プラントのクローネは、イザベラを失脚させようと単独行動に走るためエマたちにつけ入る隙があった。
しかし、第2プラントのミヤコはアイと完全に連携しており、隙が一切ない。
「……上等だ」
アクアは心の中で毒づいた。敵の監視が盤石なら、こちらはその「盤石なルール」の裏をかくまで。
その日の午後、ハウスの裏庭。
アクアはメルト、かな、ルビーたちを巻き込み、第3プラントと同じように「大規模な鬼ごっこ」を提案した。
「おいアクア! なんでお前が鬼なんだよ! 捕まったら承知しねえからな!」
メルトが全力で森へと走っていく。何も知らない彼の全力の逃走は、ミヤコの目を引きつける格好のデコイとなった。「かな、ルビー、あかね、フリル。お前たちは俺から逃げ回れ。この森のすべての地形を脳に叩き込め。一歩の遅れが、命取りになると思え」
アクアの言葉の真意を知る者は3人、知らない者は3人。歪な信頼関係のなかで、第2プラントの「脱獄訓練」もまた、第3プラントと全く同じ日に、ガッツリとギアを上げて加速していくのだった。