推しの子×約束のネバーランド   作:M1tarash1

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06.全員脱獄

「話があるの。かな、ルビー。それに、ツクヨミ」

沈む夕日が図書室を赤く染める頃、黒川あかねが3人の少女を呼び止めた。そこにはすでに、アクアと不知火フリルが冷徹な表情で佇んでいる。

「なによ改まって……。テストの点数で煽りに来たんなら、今度は負けないんだから!」

有馬かながいつものように突っかかるが、アクアの「冗談じゃない」と言わんばかりの瞳を見て、言葉を詰まらせた。「これを見てほしい」

アクアが差し出したのは、フリルが本部の目を盗んで手に入れていた『出荷管理記録』と、首筋の発信機を一時的に無効化する改造部品だった。

「……なに、これ」ルビーが文字を追い、顔を青ざめさせていく。

そこには、数日前に「最高の里親が見つかった」と言って笑顔でハウスを出て行ったはずの親友、7歳の少女・ニナの名前の横に、無機質なスタンプが押されていた。

 

――【出荷済】。

 

「ここは孤児院じゃない。鬼という異形の怪物に捧げる『食用児』の養育場だ。そしてママ……アイは、俺たちを最高の肉に育てるための飼育官だ」

アクアの残酷な告白に、かなは

「嘘よ……」

と激しく首を振った。

「だって、ママはあんなに私たちを愛してくれてる! 私たちがフルスコアを取ったら、あんなに喜んで……!」

「そうよ、かな。喜んでいるのよ」

フリルが、一切の感情を排した声で遮った。

「脳を発達させた『高品質の肉』に育ったから、喜んでいるの。ママの愛は本物よ。でもそれは、人間が手塩にかけて育てた家畜に向ける愛と同じ。……かな。あなたは成績上位で美味しく育っているから、12歳の誕生日に確実に殺されるわ」

「――ッ!」

かなの身体が恐怖でガタガタと震え出す。

しかし、その絶望の渦中で、最も幼いツクヨミだけは、静かに自分の首筋の認識番号をなぞっていた。

「やっぱりね。カラスが言ってた通り。ここは綺麗で、残酷な星の檻」

「ツクヨミ……あんた、知ってたの?」

かなが驚愕するなか、ルビーは涙をボロボロとこぼしながらも、アクアの服の裾を強く掴んだ。

「お兄ちゃん……。じゃあ、メルトくんも、まだレオも、ニアもトムも……みんな、みんな殺されちゃうの!?」「ああ。だから、逃げるんだ」

アクアはルビーの目を真っ直ぐに見据えた。

「ママを騙し通して、このハウスを全員で脱獄する。そのために、お前たちの力が必要だ」

かなは恐怖を必死に抑え込み、じっと自分の震える拳を見つめた。

持ち前の負けん気と意地が、絶望を塗り替えていく。

「……わかったわよ。やってやろうじゃない。あのママの完璧な笑顔に、最高の『嘘』を引っ提げて泥を塗ってやるわ」

「私もやる! みんなで一緒に生き残るんだから!」

ルビーも力強く頷いた。

しかし、3人が去った後、図書室に残ったフリルは、アクアに向けて冷ややかな視線を投げかけた。

「これで『実戦部隊』は揃ったわね、アクア。……でも、私の意見は変わらないわよ」

フリルは改造部品をポケットに収め、淡々と言い放つ。

「私はあなたとルビー、あかね、かな、そして私の『上位5人』しか逃がすつもりはないわ。メルトのような落ちこぼれや、レオやニアみたいな小さな子供たちを連れていけば、確実に足手まといになって全滅する。

ママやシスターを出し抜いて壁を越えられるのは、私たちのフルスコアの知能があってこそよ」

フリルの境界線は明確だった。全員を連れていくというアクアの理想は、自殺行為にしか見えなかった。

「……フリルの言うことも一理あるわ」

あかねが沈痛な面持ちで口を開く。

「ママとシスターも、私たちの動きを完全に察知して、網を絞ってくるはず。全員を連れて逃げるのは、物理的に不可能に近い……」

「それでも、全員だ」

アクアは夜の窓の外、静まり返るハウスの寄宿舎を見つめた。

そこには、何も知らずにすやすやと眠るレオやニアたちの姿がある。

「置いていけば、俺たちが逃げた後、腹いせに即座に処分される。そんな寝覚めの悪い脱獄はごめんだ。フリル、お前の合理的な脳を、その『不可能な全員脱獄』を可能にするために使え」

フリルはあきれたように溜息をついたが、その瞳には、アクアの絶対的な覚悟に対する奇妙な信頼が宿っていた。

同じ頃、壁の向こうの第3プラントでは、エマがイザベラによって物理的に足を折られるという「絶望の夜」を迎えていた。

「おめでとう、ノーマン。あなたの出荷が決まったわ。」

二つのプラントが、それぞれの『脱獄の決断』を固め、最悪の包囲網のなかで血を吐くような頭脳戦へと突き進んでいく。

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