元の世界に戻る為に   作:瑠奈地 里多

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第十四話

「先攻は貰うぜ! 俺のターン、ドロー! 俺は、海皇子ネプトアビスを召喚!」

 

 少年の場に現れたのは、三又の槍を携えた精悍なる青年。

 海皇子ネプトアビス。攻撃力は僅か800、守備力に至っては0と貧弱極まりないステータスではあるが、レベルが1であることからワン・フォー・ワンに対応し、攻撃力の低さもサルベージに対応という利点になることからその点に関してはそれほど問題視されることはない。

 寧ろ問題視されたのは、かつて環境を席巻して赤き昆虫戦士にも比肩するとまで言われる効果だ。

 

「ネプトアビスの効果発動! デッキから海皇モンスター一体を墓地に送り、デッキから海皇カード一枚を手札に加える! 俺は海皇の竜騎隊を墓地に送り、デッキから海皇の狙撃兵を手札に加える! さらに墓地に送られた海皇の竜騎隊の効果発動! このモンスターが水属性モンスターの効果を発動する為に墓地に送られた場合、デッキから海竜族モンスター一体を手札に加える。俺が手札に加えるのは水精鱗マーメイル-メガロアビスだ!」

 

 ネプトアビスの効果は二つ。どちらの効果も一ターンに一度しか使えないが、どちらの効果も強力な物であると言わざるを得ない。特に今少年が使用した効果は、あらゆる規制されたカード群にも引けを取らないだろう。

 一ターンに一度、ネプトアビス以外の海皇モンスター一体を墓地に送り、デッキからネプトアビス以外の海皇モンスター一体を手札に加える。やっているのはこれだけだが、少しでもカードゲームをやったことのある者であればいかに狂った文面であるか理解できるはずだ。特に遊戯王ではおろかな埋葬というデッキからカードを一枚墓地に送るだけの魔法が制限になっていることからも任意のカードを墓地に送ることの強さは理解できるはずだ。

 しかし、それら既存のカードと全く異なるのは、ネプトアビスの場合墓地に送ることは「コスト」であること。

 そしてそれこそが、このカードが強力たる所以だ。

 

「……海皇水精鱗。厄介なデッキだ」

「へえ、知ってんのか。じゃあここからの展開も分かるよな? 手札の海皇の竜騎隊と海皇の狙撃兵を墓地に送り、水精鱗―メガロアビスを特殊召喚! メガロアビスの効果、そして墓地に送られた竜騎隊の効果発動! まず竜騎隊の効果でデッキから二枚目の海皇子ネプトアビスを手札に加え、さらにメガロアビスの効果発動! デッキからアビスと名の付く魔法、罠一枚を手札に加える! 俺はアビスケイル―ミズチを手札に加え、装備させる! カードを一枚伏せて、ターンエンドだ」

「なら僕のターン、ドロー」

 

 相手の場には攻撃力3200となったメガロアビス、そして攻撃力800とは言え、生き残れば毎ターン厄介極まりない効果を連発してくるネプトアビス。装備魔法は魔法一枚を犠牲にすることで破壊こそ出来るが、逆に言えば魔法一枚を犠牲にせねばならず、おまけに正体不明の伏せカードが一枚。

 不利だ。冷静に状況を見つめた昇は、即座に判断を下した。

 

「僕は儀式魔法影霊衣の反魂術を発動」

 

 まずは、あの装備魔法から潰すとしよう。

 

「ミズチの効果、その効果を無効にした後、このカードを墓地に送る!」

 

 鎧が少女ごと鏡を封じ込め、共に墓地へと落ちる。

 ミズチの効果は強制効果。必ず最初に発動させた魔法に反応し――そうであるが故に、御しやすくもある。

 

「僕はマンジュ・ゴッドを召喚。効果発動、デッキから儀式魔法または儀式モンスター一体を手札に加える。僕はブリューナクの影霊衣を手札に。さらにブリューナクの影霊衣の効果、このカードを手札から捨てて、デッキから影霊衣儀式モンスター一体を手札に加える。僕はトリシューラの影霊衣を手札に加える。さらに墓地の影霊衣の反魂術の効果発動。このカードと影霊衣カード一枚を墓地から除外することで、デッキから影霊衣儀式魔法一枚を手札に加える。僕は影霊衣の万華鏡を手札に加えよう」

「儀式魔法が手札に……それにあの儀式魔法は確か!」

「儀式魔法影霊衣の万華鏡発動。僕はエクストラデッキの虹光の宣告者をリリースし、ユニコールの影霊衣を儀式召喚」

 

 槍もつ白髪の青年が鋭い眼光を放ち、敵である魚人に己が獲物を向ける。しかし悲しきかなユニコールの影霊衣の攻撃力はメガロアビスに僅か100及ばず、それを分かっているのか彼の者は青年の威嚇を鼻で笑い飛ばす。

 最もユニコールの役割は、メガロアビスを倒しきることなどではない。

 

「リリースされた虹光の宣告者の効果発動、デッキから影霊衣の降魔鏡を手札に加える。僕はレベル4のマンジュ・ゴッドとユニコールの影霊衣でオーバーレイ。二体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築、エクシーズ召喚。現れろ、ラヴァルバル・チェイン」

 

 最早お馴染みとでも言うべきエクシーズモンスター、ラヴァルバル・チェイン。炎と海竜が一体となったかのようなフォルムはいつ見ても印象的で、それ故にどこか禍々しさを感じさせる物だ。

 

「ラヴァルバル・チェインの効果、オーバーレイ・ユニットを一つ使い、デッキからカード一枚を墓地に送る。僕が墓地に送るのは儀式魔人リリーサー。さらに僕は儀式魔法影霊衣の降魔鏡発動。墓地のブリューナクの影霊衣、そしてさっき墓地に送ったリリーサーをゲームから除外。来い、トリシューラの影霊衣」

 

 少年は青年となり、己を依代と変え古代の伝説を纏うだけの力を得た。

 かつて誰にも使うことを許されなかった、禁断の伝説を。

 

「トリシューラの影霊衣の効果、場、墓地、そして手札をランダムに一枚ゲームから除外する。僕はメガロアビス、墓地の海皇の竜騎隊、そしてその手札を頂く。やれ、トリシューラ」

 

 トリシューラの効果は対象を取るが故に伝説の竜とは異なり場、墓地、手札の全てにカードが存在しなければ使用することは出来ない。

 しかしその脅威は、彼の竜となんら変わらない。

 

「いけ、チェイン、ネプトアビスに攻撃」

 

 ネプトアビスの攻撃力ではチェインの攻撃に耐えられるはずもなく、抵抗虚しく槍ごと炎に焼き払われる。

 そして昇には、まだトリシューラの攻撃が残っている。

 

「行け、トリシューラ。彼にダイレクトアタック」

「罠カード、アビスフィ……発動、出来ない!?」

「トリシューラのコストとされたリリーサーの効果、このカードをコストにした儀式モンスターが場に存在する限り、相手プレイヤーは特殊召喚することは出来ない。つまり、アビスフィア―によるデッキからの特殊召喚も出来ないんだ」

「な……」

 

少年

LP4000→3000→300

 

「僕はこれでターンエンド」

「チッ……俺のターン、ドロー!」

 

 やってくることは分かっている。再びネプトアビスを召喚士、その効果で今度は海皇の重装兵を落とすことでトリシューラを処理しようと考えているのだろう。トリシューラさえ処理してしまえば特殊召喚が可能になる。展開自体は海皇にとっては赤子の手を捻るより簡単なこと。数の暴力によって一気に倒してしまう、そうされたら此方に勝ち目はない。

 しかし、魂胆が分かってしまえば対策もまた容易。

 

「俺はネプトアビスを召喚! 効果発動、デッキから海皇の重装兵を墓地に送り、デッキから海皇の竜騎隊を手札に加える! 墓地に送られた重装兵の効果、場の表側表示のカード一枚を破壊する! 俺が破壊するのはトリシューラの影霊衣! これで――」

「手札のグングニールの影霊衣の効果発動。このカードを手札から捨てて、場の影霊衣モンスターをこのターン破壊から守る」

「そんな……」

「悪いけどワンサイドゲームで終わらさせて貰うよ。僕も時間が惜しいんだ。それで、まだ何かあるかな?」

「いや、ねえよ。ターンエンドだ」

「僕のターン、ドロー。トリシューラ、ネプトアビスに攻撃」

 

少年

LP300→-2100

 

「馬鹿」

「うぐっ」

 

 近寄ってきた綾に軽く頭を叩かれ恨めしそうに少年は睨むが、彼女は無表情のまま彼に迫る。

 

「大方、私が無理矢理ハートピースを奪われたと勘違いしたんだろうけど……彼は私を実力で倒してハートピースを得たの。人の話はちゃんと聞く、いつも言ってるでしょ?」

「だ、だってよ……」

「問答無用。それに、私のハートピースはまだあるから大丈夫」

 

 無表情を保ちつつ見せつけられた綾のハートピースに愕然とした後、少年は昇を不可解そうな目で見つめた。

 

「てめえ、一体何者(ナニモン)なんだ……?」

「それは、君の名前を聞いてから言おうかな」

「俺の名前なんて聞いて、何になるんだよ?」

「倒した相手の名前くらい聞いておいて損はないと思うからね。それとも君は、僕に名前を教えるのは嫌かな?」

 

 にこやかに笑う昇を前に色々考えていたような少年であったが、やがて一つ諦めたような息を吐いて彼の双眸を真っ向から見据える。あたかもその顔は、自分が考えた所で意味がないことを悟っているかのような表情だった。

 

「雄大、だ。海路雄大」

「なるほど、では僕も君の質問に答えよう。ああ、その前に君のハートピースを一つ、頂いてもいいかな?」

「あ、ああ。それは構わねえんだけどさ」

 

 差し出されたハートピースの中から一つを受け取ってから、昇は口元に人差し指を当てる。それを見た少年少女二人は、真剣な目をして頷いた。

 これから話すことは、他言無用であるという証。

 

「実は僕はね――」

「この大会の関係者だったんだよ、そこの少年、相剋昇はね」

 

 後ろから聞こえたのは、中性的な声。

 振り向いた昇の目に写ったその声の主もまた、非常に中性的な外見をしていた。

 それこそ、一度見たらそうそう忘れることが出来ない程度には特徴的な。

 

「彼は私達と同様に参加者であると同時に運営側の人間でもあったというわけだよ。だから彼の持つ権限で、君たちのハートピースを全て奪わなかった、それだけの話さ」

「な、なるほ……ど?」

「訳が分かったかい? それは何よりだよ」

 

 端正な顔をほころばせて笑う乱入者であったが、他三人の表情は笑顔とは程遠いものだった。

 綾と雄大は顔を見合わせ、突如現れた闖入者に対しての対応を話し合っている。

 そして、昇は。

 

「……御免二人、少しこの人との用事を思い出してね。悪いけど僕はここで」

 

 笑顔をなんとか貼り付けながら、そう言って彼を引きずって二人の元から離れる。

 彼を連れて昇が行き着いたのは、人がとても通るとは思えないような路地裏だった。

 

「……なんで、君がここにいる?」

 

 殺意を剥き出しにし、敵意を隠そうともせず昇は彼の者に詰問する。

 

「君なら分かっているだろう? 君がここにいると視っていたからここにきた。それだけの話さ」

「じゃあ君はわざわざ僕に会いにきたとでも言うのかい? 僕が君にどんな感情を抱いているか君が分かっていないはずがないだろう?」

「勿論。そして、君が決勝に進むにはまだ後一つハートピースが足らないのも分かっている」

 

 悠然と微笑みながら、彼の者は昇に自らのハートピースを見せる。

 そこに嵌められていたのは、奇しくも昇の所持していない欠片と全く同じ物だった。

 

「君は私を自らの計画から排除したい、そして同時に最後のハートピースを集めたい。それを両方とも簡単に叶える手段を君は知っているはずだ」

「……君と、決闘しろということか」

「その通り。さあ、どうする?」

 

 此方が拒否出来ないのを知っていながら、彼の者はただ笑うのみ。

 そしてそうなった以上、昇に残された選択肢はただ一つをもって他になかった。

 

「いいよ。僕と決闘だ、咎峰咲夜」

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