自我持つ兵器の英雄譚“Prequel” 1945 to 2000 作:Nyappy-
敗戦から、およそ3年。
1948年 春
日本はまだ、貧しかった。
東京には焼け跡が残り、住宅は足りない。配給に頼る暮らしも続いている。戦争が終わったからといって、国全体が急に豊かになったわけではなかった。
それでも、敗戦直後とは違う景色が見え始めていた。
煙突から煙が上がり、貨車が工場へ入り、荷を降ろしてまた出ていく。修理された工作機械が動き、新しく雇われた工員が並ぶ。昼だけでは足りず、夜まで機械を回す工場も増えた。
港も、鉄道も、造船所も忙しい。
中国大陸で続く戦争。
朝鮮半島で始まった戦争。
支那特需と朝鮮特需。
海の向こうで誰かが撃っているから、日本の工場へ注文が来る。砲弾が消費されれば鉄が要る。車両が壊れれば交換部品が要る。兵士が増えれば、食料も衣服も薬も必要になる。
健全な復興と呼ぶには、あまりにも歪だった。
それでも、仕事は仕事だった。
復員兵が雇われ、引き揚げてきた者が職場を得る。追放措置の見直しによって、戦前から工場や企業を支えていた技術者や実務家も少しずつ戻り始めていた。
敗戦直後には人が余っていた工場で、今度は人手が足りなくなる。
日本の復興速度は、明らかに変わっていた。
そして産業が戻れば、別の問いが生まれる。
その工場で、何を作るのか。
誰のために作るのか。
前の年までなら、それで終わった。
だが朝鮮半島で戦争が始まった今、その先にもう一つ、避けて通れない問いがあった。
誰が、日本を守るのか。
東京 占領軍総司令部
机の上には、朝鮮半島の地図が広げられていた。
前線を示す線。飛行場、港、鉄道。兵站拠点。
その横には、日本列島の地図も並んでいる。
「また部隊を出すのか」
一人の将校が聞いた。
「必要です」
「先週も同じことを聞いた」
「先週より状況が悪化しています。航空部隊を追加。兵站部隊も必要です。港湾要員も足りません」
「では、どこから持ってくる」
返事の代わりに、指が日本列島へ動いた。
また、日本だった。
朝鮮半島に最も近い大規模な後方地域。港がある。飛行場がある。工場、病院、倉庫もある。
日本に置かれていた米軍部隊は、次々に朝鮮半島へ送られていた。
中国大陸への支援にも、人員と輸送力が必要になる。一方で本国では復員が進んでおり、戦時中のように大量の兵士を世界中へ置き続けることはできない。
「日本からさらに引き抜けば、ここが薄くなる」
「承知しています」
「承知していて出せと言うのか」
「では朝鮮を捨てますか?」
答えはなかった。
「中国への支援を減らしますか?」
やはり、答えはない。
将校は日本列島の地図へ指を落とした。
「横須賀、佐世保、横浜、九州の飛行場。ここは後方ではありますが、安全地帯ではありません。戦争が半島で止まる保証もない」
「それで?」
少しの間を置いて、答えが返った。
「日本人に守らせるべきです」
部屋が静かになった。
誰も、初めて聞いた言葉ではなかった。
それでも、実際に口へ出せば重かった。
日本人へ、再び武器を持たせる。
わずか三年前、その武器をすべて奪ったばかりだった。
「警察を増強する案は?」
別の将校が尋ねる。
「国内治安なら、それでいいでしょう。沿岸警備の一部もできます」
男は数枚の紙を机へ置いた。
敵航空機の迎撃。
港湾防空。
海上交通路の防護。
敵艦艇への対処。
上陸部隊の阻止。
機甲部隊との戦闘。
「これを警察にやらせるんですか?」
誰も答えない。
「警察に戦車を持たせる。警察に戦闘機を飛ばさせる。警察に艦隊を持たせる」
男は資料から顔を上げた。
「そこまでやるなら、“警察”と呼ぶ方が言葉遊びでしょう」
だが、問題はアメリカだけで決められるものではなかった。
日本は、まだ占領下にある。
日本政府があり、国会があり、新しい憲法がある。その一方で、連合国による占領体制も依然として存在していた。
その一つが、極東委員会だった。
アメリカ、イギリス、中国、ソ連をはじめとした連合国が、日本の占領政策について協議するために設けた機関。
日本を再び軍事力を持つ国にするのか。
そんな問題なら、なおさら簡単には決められない。
もっとも、その極東委員会も、以前と同じようには動かなくなっていた。
亀裂は、既に憲法を作っていた頃から見えていた。
日本は、侵略戦争を再び国家政策の手段としない。
そこまでは、大きな異論がなかった。
問題は、その先だった。
自国を守るための力まで、憲法そのものによって永久に持てなくするのか。
ソ連をはじめ、日本の再軍備を強く警戒する側は、出来る限り明確な非軍事化を求めた。
一方、アメリカ側では、早くも中国大陸と朝鮮半島の情勢を見ていた者たちが疑問を持ち始めていた。
日本軍を解体すること。
日本が再び侵略戦争を始められないようにすること。
そして、日本という国家が自分自身を守る能力まで永久に失うこと。
それは、本当にすべて同じなのか。
議論の末、新しい憲法は侵略戦争の放棄を明確にする一方、自衛を目的とした戦力の保持まで完全に閉ざす形にはならなかった。
ただし、それはすぐに軍隊を作るという意味でもない。
可能性だけを残して、判断は先へ送った。
1946年には、それで済んだ。
1947年になると、済まなくなった。
中国大陸では戦闘が激しくなった。
朝鮮半島では、線の両側で軍隊が形を取り始めた。
ソ連との関係も、前年よりさらに悪化している。
アメリカ側では、
「日本をいつまで完全な軍事的空白地帯としておくのか」
という疑問が大きくなった。
一方、ソ連側は逆だった。
自衛という名目で、日本が再び軍隊を持つ可能性そのものを警戒する。
会議は開かれる。文書も作られる。
だが安全保障に触れれば、アメリカとソ連の利害が正面からぶつかった。
そして1948年1月。
朝鮮半島で戦争が始まった。
それまでの議論は、一気に意味を変えた。
「将来、日本へ自衛力を認めるべきか」
ではない。
「朝鮮へ部隊を出した後、日本を誰が守るのか」
になった。
2月中旬
極東委員会では、日本における軍事活動を禁止し、残された軍事装備を処分するための政策が最終段階まで進んでいた。
前年から議論されてきた文書だった。
占領開始直後の常識から見れば、不思議な内容ではない。
日本人による軍事活動を禁止する。
兵器の製造も禁止する。
残存する軍事装備を処分する。
ほんの数か月前までなら、そのまま成立していたかもしれない。
だが、その数か月で世界が変わった。
中国大陸では戦闘が激しくなった。
朝鮮半島では戦争そのものが始まった。
日本の基地から米軍機が飛び、日本の港から兵員と物資が送り出されている。
そして2月12日。
文書は会議へ上がった。
ソ連は、以前にも増して日本の非軍事化を求めた。
再軍備へ繋がる余地など残すべきではない。
対するアメリカ代表へ、本国から届いていた指示は違った。
───同意するな。
日本に置かれていた兵士を、朝鮮へ送り出している。
日本の港から、燃料と弾薬を送り出している。
その日本自身について、自国を守る戦力を持つ道まで完全に閉ざす。
今になって、それを政策として固定することはできなかった。
ソ連は強く反発した。
アメリカも譲らない。
極東委員会の決定には、主要四か国すべての同意が必要だった。
アメリカが首を縦に振らない以上、決定にはならない。
極東委員会は、そこで止まった。
組織そのものが消えたわけではない。
だが日本の安全保障という最も重要な問題について、連合国全体で一つの答えを出すことは急速に難しくなっていった。
そして、朝鮮半島の戦争は待ってくれない。
アメリカは、連合国全体の合意を待つことと、目の前の戦争へ対処することを、次第に別の問題として考え始めていた。
日本政府もまた、同じ問いを突きつけられていた。
「早すぎる」
会議で最初に出た反対意見は、それだった。
「敗戦から三年です。国民が受け入れると思いますか」
「受け入れるかどうかと、必要かどうかは別の話だ」
「別にしてはいけないでしょう。軍隊は国民が支えるものです」
別の者が資料をめくった。
「その前に金がない。復興途中で軍隊まで抱えれば、経済が持たない」
もっともな話だった。
街には焼け跡が残っている。家を建て、道路を直し、鉄道を直し、食料を輸入し、産業を立て直さなければならない。
そこへ戦車、軍艦、戦闘機、基地、兵舎、軍人の給料まで加わる。
新しい巨大組織を作れと言われて、簡単に頷けるはずもなかった。
「では、アメリカ軍に守ってもらい続ける?」
誰かが聞いた。
「現に守っている」
「そのアメリカ軍が朝鮮へ行っているんです」
机には、在日米軍の配置、移動予定部隊、港、飛行場、備蓄施設。そして朝鮮半島の戦況をまとめた数字が並んでいた。
「今ならまだアメリカ軍がいる。しかし、いつまでもいる保証はない」
何人かが顔を上げた。
その言葉には、再軍備とは別の問題まで含まれていた。
占領は、いつ終わるのか。
日本は、いつ主権を取り戻すのか。
少し前までは、まだ先の話だった。
だが日本へ自分の国を守れと言いながら、その日本をいつまでも占領地のままにしておけるのか。
再軍備を考え始めれば、いずれその問題にも行き着く。
まだ答えを出す段階ではない。
それでも、ワシントンやロンドンで以前より頻繁に使われ始めた言葉があった。
『対日講和』
その問題もまた、動き始めていた。
会議室では、別の議論が続いている。
「だから、軍隊を作れと?」
「そういう話をしている」
「三年前に解体したものを、三年で元へ戻すのか」
そこで一人の官僚が、ゆっくりと首を横に振った。
「元へ戻すから問題になるんです」
視線が集まる。
「陸軍省を戻す。海軍省を戻す。昔の階級も、組織も、そのまま復活させる。そんなことをすれば、国民が恐れるのは当然でしょう」
資料を一枚、手前へ引き寄せた。
「なら、戻さなければいい」
「どういう意味だ」
「新しく作るんです」
古い軍隊ではない。
敗戦後の国家に合った、新しい軍隊を。
その言葉が、議論の向きを変えた。
『旧帝国陸海軍を復活させる』
その選択肢は、早い段階で外された。
必要なのは帝国を守る軍隊ではない。
海外領土も、植民地もない。国家の形そのものが変わった。
ならば、軍の形も変えなければならない。
文民政府の統制下へ置く。
軍が政治を動かすのではなく、政治が軍を動かす。
予算は国会が決める。
任務は、国土と国民の防衛を基本とする。
そして、陸と海だけでも足りなかった。
「航空はどうする」
大きな問題だった。
戦前、日本の航空戦力は陸軍と海軍へ分かれていた。
陸軍航空部隊。
海軍航空部隊。
機体も、教育も、運用思想も違う。
「また陸軍航空と海軍航空を別々に作るのか」
「それでは同じことを繰り返す」
「アメリカは空軍を独立させた」
資料には、前年に独立軍種となったアメリカ空軍の制度も記されていた。
旧陸軍航空から人を集める。
旧海軍航空からも集める。
どちらかがもう一方を吸収するのではない。
最初から、新しい一つの軍種を作る。
陸、海、空。
「名前は?」
そこで、しばらく沈黙があった。
陸軍、海軍、空軍。
言葉だけを見れば、戦前とほとんど変わらない。
だからこそ、その前に何を置くかが重要だった。
「……国防」
誰かが言った。
「何?」
「目的が国を守ることなら、それを名前に入れればいい」
紙の上へ文字が並んだ。
国防陸軍、国防海軍、国防空軍。
そして、その三軍をまとめる名前。
『日本国防軍』
まだ紙の上の文字に過ぎなかった。
だが、それまで曖昧だった「新しい軍隊」の輪郭が、初めて名前を持った。
名前を決めれば、軍隊が出来上がるわけではない。
次に必要なのは、人だった。
そこでさらに厄介な問題が出る。
───旧軍人を、どうするか。
「全員排除して、新規採用だけで作れるか」
答えはすぐに出た。
「無理です」
小銃を撃てる者だけが軍人ではない。
部隊を動かす者。
補給を組む者。
艦を動かす者。
機関を整備する者。
航空機を飛ばす者。
砲術、通信、衛生、教育、参謀業務。
そうした経験は、本を読ませただけでは作れない。
だからといって、旧軍人を元の階級へそのまま戻すわけにもいかなかった。
長い議論の末、一つの原則が形になっていった。
「経験は使う」
誰かが言う。
「だが、旧軍そのものは戻さない」
戦争責任のある者は除く。
経歴を調べる。
能力を見る。
そして何より、新しい国家と新しい制度の下で働けるかを見る。
同時に、若い人間を採用する。
旧軍経験者だけで組織を固めない。
戦争を知る者から、戦争を知らない世代へ。
いつか軍そのものを渡していく。
「つまり、元軍人は教師でもある」
「そうなる」
「自分たちの軍隊を復活させるためではなく?」
「次の軍隊を作るためだ」
皮肉な話だった。
大日本帝国の軍人として育てられた者たちが、自分たちが所属していたものとは違う軍隊を、次の世代へ教える。
それが、新しい日本の再軍備だった。
当然、国民すべてが賛成したわけではない。
新聞には連日、再軍備、国防軍、徴兵、軍国主義復活といった言葉が並んだ。
「また戦争をするのか」
そう考える者もいた。
家族を失った者。
空襲で家を焼かれた者。
戦場から帰ってきた者。
三年前まで、軍服を着た人間が当たり前のように街を歩いていた。
それが消えた。
ようやく消えたと思ったのに、また軍隊を作るという。
反対する理由は十分にあった。
一方、同じ新聞には朝鮮半島の戦況も載っている。
戦闘。
進撃。
避難民。
米軍部隊の投入。
海を挟んだ向こう側で、今まさに戦争が続いている。
「軍隊なんていらない」
そう言う者へ、
「では、海を渡ってきたら誰が止める?」
と返す者もいた。
どちらも、自分なりに平和を望んでいた。
だから、答えは簡単ではなかった。
昼休み。
高瀬正一は、工場の壁に背を預けて新聞を読んでいた。
同じ見出しを、何度も見る。
───日本再軍備を検討。
隣へ若い工員が腰を下ろした。
「本当に作るんですかね」
「何を」
「軍隊ですよ」
高瀬は新聞を少し下げた。
「さあな」
「高瀬さん、元軍人でしょう」
「元、な」
「どう思います?」
難しいことを聞く。
高瀬は、しばらく新聞へ目を落としたままだった。
軍隊が好きだったか、嫌いだったか。
そんな聞き方をされても、簡単には答えられない。
十年いた。
仲間もいた。
良い人間も、嫌な人間もいた。
そこで覚えたことが、今の仕事にも役立っている。
だが、戦争へ戻りたいかと聞かれれば、答えは決まっていた。
「戦争は嫌だよ」
「じゃあ、反対ですか」
「そうとも言ってない」
若い工員が困った顔をする。
高瀬は少し笑った。
「軍隊があるから戦争になるのか、戦争になるから軍隊が要るのか。俺には分からん」
指先で新聞を叩く。
そこには朝鮮半島の記事が載っていた。
「ただ、これが近くで始まってるのは本当だ」
工場の中から、旋盤の音が聞こえる。
今、その旋盤はアメリカ軍向けの兵器部品も削っていた。
「俺たちが武器を持たなくても、戦争の方が来ないって保証はないからな」
若い工員は、しばらく何も答えなかった。
再軍備を巡る議論は、国会へ移った。
賛成。
反対。
慎重論。
この世界の憲法は、自衛のための戦力を持つ道そのものを閉ざしてはいない。
だからこそ、より直接的な問いから逃げることができなかった。
本当に軍隊が必要なのか。
必要なら、どれほどの規模にするのか。
誰が指揮するのか。
誰を入れるのか。
どうやって、軍が再び政治を動かすことを防ぐのか。
そして、どれほどの金を使うのか。
「国民は、まだ食うことにも困っている!」
反対側から声が上がった。
それは事実だった。
「焼け跡も残っている。住宅も足りない。その国で戦車を作るというのか!」
議場がざわめく。
反対側から、別の声が返った。
「朝鮮半島では、今まさに戦車が走っている!」
「だから日本まで戦争を始めるのか!」
「違う! 戦争を始めさせないために守るという話だ!」
「───静粛に!」
議長の声が響く。
誰も、戦争を望んでいるわけではなかった。
少なくとも、そう信じたい者たちが、互いに違う結論へ辿り着いている。
そこが、この議論を難しくしていた。
平和を守るために、軍を持たない。
平和を守るために、軍を持つ。
目的だけなら、同じ言葉を使えてしまう。
政治の議論と並行して、軍を作る側の準備も進められた。
何人必要なのか。
基地をどこへ置くのか。
旧軍施設のうち、何を再利用できるのか。
何を新しく作るのか。
装備も問題だった。
外国からすべて買えば、立ち上がりは早い。
だが、それを続ければ国内で兵器を作る能力は育たない。
逆に最初から何もかも国産しようとすれば、時間が掛かりすぎる。
そこで、一つの考え方が形になる。
今ある物を使う。
その間に、次を作る。
使える外国装備は使う。
使える旧軍技術も使う。
国内で作れるものは作る。
そして次の世代では、もっと良いものへ置き換える。
陸軍用の資料には、戦争末期まで開発されていた戦車。
空軍用の資料には、旧陸軍と旧海軍の航空機。
海軍用の資料には、造船所と港、そして旧海軍の技術者たち。
敗戦によって一度は途切れた線を、元の場所へ結び直すのではない。
別の方向へ繋ぎ直していく。
法案の採決の日。
国会の外には、多くの人が集まっていた。
賛成する者。
反対する者。
警備に当たっているのは警察官で、軍服姿の人間はいない。
三年前までなら、この国の軍事を決める場所の周囲に軍人が一人もいない光景の方が、奇妙だったかもしれない。
今は、それが普通になった。
だからこそ、その日に決めようとしていることは大きかった。
新しい軍隊を作る。
採決が行われた。
結果は、全会一致ではなかった。
それは当然だった。
反対票もあるし、強い懸念も残っている。
それでも、法案は通った。
日本は、再び軍隊を持つことを決めた。
ただし、帝国陸軍が戻ってくるわけではない。
帝国海軍が戻ってくるわけでもない。
時間を三年前へ巻き戻すのではなかった。
国防陸軍、国防海軍、国防空軍。
三軍からなる、日本国防軍。
戦争に負け、軍隊を失った国が、自分たちの手で別の軍隊を作ることを決めた。
その知らせは、すぐに国外へも伝わった。
ソ連は反発した。
日本の再軍備そのものを強く警戒した。
アメリカは、旧日本軍の復活ではないと説明した。
新しい憲法。
新しい政府。
文民統制。
そして国土防衛を目的とする、新しい軍隊。
説明したところで、両国の立場が一致するはずもない。
極東委員会の溝は、さらに深くなった。
その横で、対日講和を巡る協議も少しずつ動き始めていた。
まだ占領は終わっていない。
日本はまだ、完全な主権国家へ戻ったわけでもない。
だが、冷戦は既に、日本を占領した連合国そのものを二つに分けつつあった。
全員が同じ答えへ辿り着くまで待てるのか。
その問いにも、いずれ答えなければならない。
数日後
高瀬の工場へ、また新しい注文書が届いた。
工場長が、しばらく黙ってその紙を眺めている。
古参技術者が尋ねた。
「今度はアメリカさんですか?」
工場長は首を横に振った。
「違う」
「じゃあ、どこです?」
机の上へ、注文書が置かれた。
発注元、日本政府。
国防軍創設準備。
古参技術者の顔から、笑みが消えた。
工場長が言う。
「今度は、日本向けだ」
三年前、日本軍の兵器を作っていた工場。
敗戦し、兵器を作ることをやめた。
鍋を作った。
農機具を作った。
自動車の部品を作った。
やがて、アメリカ軍の注文で再び兵器を作った。
そして今。
日本から、もう一度注文が来た。
ただし、昨日と同じ軍隊からではない。
新しい国の、新しい軍隊からだった。
1948年。
日本国防軍創設まで、あとわずかだった。
続く
あ と が き
もう後戻りはできません。
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