ガレスがそう言い終えるか終えないか、その瞬間だった。
薄暗い通路の奥から、無数の足音と、不気味な重低音を響かせるモーター音が近づいてくる。
現れたのは、先程レイとガレスに叩きのめされて逃げ帰った二人のレジスタンス。だが今度は、その後ろに大勢の仲間を引き連れていた。
さらにその中央には、民生用を無理やり戦闘用に仕立て上げた、装甲の厚い改造モビルワーカーが鈍い光を放ちながら鎮座している。
「お、お前たち、今度こそその女を引き渡せ!!」
大勢の仲間とモビルワーカーという後ろ盾を得て、逃げ帰った男の一人が強気に怒鳴り散らす。
その隣で、腕を組んだ大柄な男が、値踏みするような視線をレイたちに向けた。
「お前たちが言ってた、やたらと強い二人ってコイツらか?」
「は、はい。間違いなくコイツらです」
もう一人の戦闘員が、恐怖と憎しみが混じった顔でレイとガレスを指差した。
大柄な男は威圧するように一歩前に出ると、冷徹な視線でレイとガレスを睨みつける。
「俺はアレン。アレン・マクレガーだ。お前たちも地底人(モグラ)だよな? そいつが誰だか知って庇ってんのか?」
レジスタンスのリーダー、アレン・マクレガー。
その悪名を聞きながらも、レイは少しも怯むことなく、アレンの視線を正面から睨み返した。
「あー、知ってるさ。知ってる上で送り届けるつもりだ!!」
その答えに、アレンは不愉快そうに鼻を鳴らした。
「そいつは宇宙人(そらびと)だぞ? 憎くないのか?」
「あー、憎いさっ。憎いが、第3コロニーのお姫様だろ? 最低でもコロニー連合の奴らよりは、まだ友好的だろ? 一緒にするのはどうかと思うぜっ!!」
「違いねぇ〜」
すかさずガレスもレイの言葉に同調し、アイリスを背中に隠すように一歩前へ出る。
「少なくとも、この子は普通の女の子だよ。そんな子を誘拐して、どうするつもりなんだよ!!」
「やっぱり、わかっちゃいねぇ〜な」
アレンは深い溜息をつくと、冷酷な笑みを浮かべて改造モビルワーカーを顎でしゃくった。
「その子は、地上を取り戻すために必要なんだよ」
「はっ? それはどういう事だよ」
眉をひそめるレイに、アレンは衝撃の事実を突きつける。
「連合の奴らは地球浄化装置を持ってる。それを起動するためのキーが、そのお嬢様なのさ」
「どういう事だっ!! わけわかんねぇ〜よ!!」
あまりに壮大すぎる話に、レイは頭を抱えるようにして怒鳴り声を上げた。
その隣で、ガレスがこめかみを指先で突きながら、小さく息を吐き出す。
「あぁ〜……ちょっとややこしくなってきたなぁ〜」
「どういう事なんですか? 何で私が地球浄化装置と関係があるんですか!!」
アレンの言葉に一番の衝撃を受けたのは、他ならぬアイリス自身だった。
何も聞かされていなかったのか、その虹色の瞳は困惑と恐怖で激しく揺れている。
「ほぉ〜、本人すら知らされてねぇ〜のか。……で、どうするんだ? 渡すのか、渡さねぇ〜のか!!」
アレンが冷酷に言い放つと、背後の改造モビルワーカーが駆動音を一段と高く響かせ、レジスタンスたちが一斉に武器を構えた。
圧倒的な戦力差。
しかし、レイの瞳から闘志が消えることはなかった。
「それでも、やっぱり渡さねぇ〜!!」
「だなっ!! 自分の目と耳で確かめてみるさ!!」
ガレスもニカッと不敵な笑みを浮かべ、ファイティングポーズをとる。
アレンの口から出たお伽話のような真実を、誰かの言いなりではなく、自分たちの足で掴み取る覚悟を決めたのだ。
「……ありがとうございます」
背後から聞こえたアイリスの、震えながらも芯のある感謝の言葉が、二人の背中を強く後押しする。
アレンはそれ以上言葉を重ねるのをやめ、獰猛な笑みを浮かべて手を振り上げた。
「なら、覚悟は出来てんだろうなぁ〜!!」
アレンの怒号が響き渡る。
多勢に無勢、おまけに相手は改造モビルワーカー。だが、レイとガレスの目に怯えは一切なかった。
「仕方ない。やるか!! ガレス!!」
「モビルワーカーでやるぞ!!」
ガレスが不敵に叫び、近くに駐車されていた作業用機体へと視線を走らせる。
レイはすかさずアイリスの腕を引いた。
「アイリスは俺と一緒に来いっ!!」
「は、はい。わかりました」
緊迫した空気の中、アレンが苦々しげに顔を歪めて部下たちに手を振る。
「仕方ねぇ〜。おいっ!! お前ら、やれっ!! いいかっ!! 誰一人殺すな!! 俺たちはテロリストじゃねぇ〜」
「は、はい!!」
レジスタンスの戦闘員たちが一斉に動き出そうとした、その時だった。
突如として、通路の奥の闇を切り裂き、見たこともない洗練されたフォルムの機体が姿を現した。
モビルワーカーに似てはいるが、アガルタの無骨な重機とは明らかに一線を画す、不気味なほど静かで圧倒的な威圧感を放つ未知の機体。
その機体の外部スピーカーから、冷徹な電子音声が周囲に鳴り響く。
『お前たち、全員動くなっ!! 動けば容赦しない!!』
「チッ、時間をかけてしまったか……」
アレンが忌々しげに毒づく。
その横で、未知の機体の威容に完全に気が動転したレジスタンスの戦闘員の一人が、恐怖を打ち消すように叫びながら突撃してしまった。
「このやろぉ〜〜〜っ!!」
「ば、馬鹿、やめろぉ〜っ!!」
アレンの制止は届かない。
改造モビルワーカーが凄みのある駆動音を立てて、鉄塊のようなアームを振り下ろす。
アガルタの鉄筋をも容易にへし折る一撃――。
しかし、未知の機体はエンジン音一つ立てず、物理法則を無視したかのような素早いフットワークでその攻撃を軽々とかわした。
直後、流れるような動作で一閃。
バギィィン!!
改造モビルワーカーの金属の身体が紙切れのように切断され、派しい火花を上げながら轟音とともに地面へ崩れ落ちた。
「嘘だろ……」
レジスタンスたちが絶句する。
彼らにとって技術の結晶である改造機が、文字通り「子供の手遊び」のように一瞬で無力化された。
アレンは一瞬で戦力差を悟り、即座に撤退を決断した。
「ち、ちくしょ〜!! 全員退けぇ〜!! 煙幕撃てぇ〜!!」
アレンが叫ぶと同時に、レジスタンスの一人が煙幕弾を足元へ叩きつける。
ボシュッ!!
猛烈な白煙が狭い通路を一瞬で覆い尽くした。
(第8話 終)