亡国の転生王子は無限の魔力で恩返し~仁義を果たしてくれた隣国の一般兵として頑張ります~ 作:ルーザー
レフィアに今の実力を披露してと言われたロディは困惑していた。
(実力を見せてと言われても何を見せればいいのだろうか……)
「レフィア、恥ずかしながら何を見せればいいのかすら分からなくて……」
「あららなのです、本当に全くの初心者だったのですね」
「はい」
「えーと、ロディ、それじゃあ、そもそも魔術って何なのか? ってところから説明した方がいいのですか?」
「是非、お願いします!」
そう言うと、レフィアは「わかったのです!」と頷く。
「百聞は一見に如かずなのです」
レフィアはそう言うと、宙に指を差す。
指先がほんのりと光り、宙に文字を綴る。
<風よ、そよぐように、前方へ吹け——>
「
レフィアが声をあげながら手の平をロディの方に向ける。
「お……! おぉー!」
優しい風がロディの頬にそよいだ。
「魔術を使うには、魔術式と呼ばれる詠唱で紋様を描くのです。これを『術式描画』と言うのです。術式描画をすることで空間中の魔素に働きかけることで魔術は発動するのです」
「す、すごい!」
(……魔素か)
(「ちょっと前に、ジェマに魔術を教えてくれって言ったら、無理と言ってたのは
【それは少し違います。私の扱う魔術は少し特殊なので参考にならないのです】
(へー……そうなの? ……あれ?)
ロディに新たな疑問が浮かぶ。
「レフィア、質問です! 今、紋様って言ったけど、今のはただ文字を空中に綴っただけだったような?」
「勘がいいのです。では、もう一度やるのですよ」
レフィアはそう言うと、再び術式描画を始める。
<風よ、そよぐように、前方へ吹け——>
先ほどと同じ内容だ。
しかし、今度は弧を描くように幾何学的な模様を描いた。
「
今度は、手の平をロディの方には向けなかった。
「うぉっ!」
先ほどより強い風の塊がロディの横を通過していった。
「どうですか? 美しい紋様を描画するほど魔術は、より『少ない魔力消費』で『高品質』になると言われています」
「理屈はよくわからないけど、すごい!」
「魔術式は基本的に、『何を』『どのように』『どうするか』で表現するのです。実は奥が深いのですが、その話はいずれなのです。今は習うより慣れろなのです。早速、やってみるのです」
「あ、はい……」
(いきなりか……できるかな……。魔術式……、ちょっと恥ずかしいのだけど……、こんな感じか……?)
「えー、こほん……」
<氷柱よ、とても大きな塊で、いい感じの場所の地中からぐいぐいっと迫り出し邪を貫け——>
ロディはなるべくおしゃれに描くように努めた。
結果、まるで誰が描いたのか全くわからない著名人のサインのようになった。
「
(…………)
「あ、あの……ロディ、術式描写のセンスがですね……」
(……ですよね。壊滅的ですよね)
「わ、魔術名はよかったのですよ。割と……」
(慰めてくれてありがとよ……)
「ロディ、気持ちはわかるのですが、いきなり高出力の術を指定しない方がいいのです」
「あの……、すみません。下手な分を威力で補えば、少しは発動してくれるかな……と」
「なるほどです。ですが、全くの逆なのです。魔術を使う際の魔力消費量は、魔術が高度な程、増えるのです。さらに魔術式が拙ければ、それだけ必要な魔力量が増大になり、自身の許容魔力量を簡単に突破するのです。結果、魔術は不発となってしまうのです」
「……すみません、調子乗りました」
「誰もが通る道なのです。まずはさっきウチがやった
「うん」
ロディは気を取り直して、一呼吸する。
(……何事もまずは模倣からだ。調子に乗らず、一言一句そのままやってみよう)
<風よ、そよぐように、前方へ吹け——>
ロディはできうる限り丁寧に綴り、そのまま右の手の平を前に突き出す。
「
ロディの手の平の前方で、微かではあるが、確かに空気の揺らぎが起こった。
「っっ……!」
ロディは無意識に左手で口元を覆っていた。
「おめでとうございますです。初めての魔術ですね」
「……ありがとう……ございます」
(……できた。魔術だ。本物の魔術だ。……すごい。俺にもできるんだ)
「これでロディも魔術師なのです」
「……魔術師」
「そうなのです。魔術を使えたならそれはもう立派な魔術師なのです。風属性の適性があったのはラッキーでしたが、こんなにすぐに最初の魔術が使えることは、そこそこ珍しいことなので、誇ってもいいはずなのですよ」
「……! ありがとう」
「魔術が使えるようになったのなら、術式描画の練度を上げるも良し、新しい術式を生み出すのも自由です。そうして自身の得意な属性を見つけていくことが、まずは初級者の最初の目標になるのです」
「得意属性……?」
「はいです。魔術を使っていると、術式描画の質は同程度でも、特定の属性で、出力が大きくなったり小さくなったり、全く出なかったりすることがあるのです。もうわかりますね? 小さかったり全く出なければそれがその人の苦手属性で、逆に大きくなれば、それがその人にとっての得意属性ということなのです」
「ありがとう、なんとなくわかったよ」
「それで、えーとですね……」
(ん……?)
レフィアはなにやらもじもじしていた。
「……その……ここに来てから実は一度も……なのです」
(……あ!)
「レフィア、お手洗いならこっちだよ」
「ちょ、ちょっとなのです! 教えてもらえたら、一人で行くのです!」
「あ、ごめん。確かにそうだよね。それじゃあ、えーと……」
そうしてレフィアは、少し恥ずかしそうにそそくさとお手洗いへと向かった。
(「……ねぇ、ジェマ」)
【なんですか?】
(「ちょっと質問なんだけどさ、あの日、あの男は術式描画なんかしてたっけ?」)
それは、母カトレアをスライムの姿にしてしまったゲミス兄のことであった。
【してないですね】
(「……ってことは、あれは魔術じゃないってこと?」)
【いえ、あれは紛れもなく魔術です。結論から言いますと、あれは『魔術刻印』という技術を使っています】
(「魔術刻印?」)
【はい。前提として、術式描画で魔術を発動することは魔術の基礎として非常に大切です。ただ、実際のところ、魔術のレベルが高度化してくると、戦闘中に術式描画を行うことは隙が大きすぎて現実的ではありません。そこで、魔術刻印で事前準備をするというわけです】
(「……なるほど、それであの男は無詠唱で魔術を使ってたってわけか。それじゃあ、術式描画がめちゃくちゃ下手でも、事前にゆっくり魔術刻印を準備しておけばいいってこと?」)
【話はそんなに単純ではありません。魔術刻印を刻むには、自身の扱える魔力の最大量を犠牲にする必要があります】
(「……!」)
【なので、自身の魔力と相談しながら、魔術刻印をするか、その場で術式描画をするかを考える必要があります】
(「ありがとう、なんとなくわかったよ」)
【いえ……、ですがロドにとっては無用の心……。いや、なんでもないです】
(「……? あ、そういえば、ふと思ったんだけど……、あの日、俺ってどうやってゲミス兄のことを退けたんだろう」)
【……! 覚えていないのですか?】
(「うん……、直前、直後の記憶はしっかりあるんだけどなぁ」)
【……そうですか】
(「ひょっとして、無我夢中で魔術を使ったとか?」)
【違いますね】
ジェマにあっさり否定され、ロディは少し肩を落とす。
【……ですが、あれは魔術とは『別の代物』ですよ】
(別の代物? 他にも何かあるのか?)
(「まぁ、とりあえず、今は魔術だ! 術式描画、めちゃくちゃ練習しよう……!」)
◇◇◇
ふぅ……間に合ったのです。
お手洗いに向かったレフィアは用を足した。
そして、
……あ、あれ……? 裏庭はどっちなのです?
ちょっとした迷子となる。
こっち……でしたっけ?
ひとまず当てずっぽうに進んでみる、と……、
「やーやー、レフィアくん」
「ひっ……」
突如、声を掛けられて大きく肩を揺らす。
あ、……あの人だ。
それはテア院長であった。
「レフィアくん、元気なのはいいことだけど、ちょっとやんちゃだなぁ」
……? どういうことなのです?
「あれ……、やったの君だよね?」
テアは窓の外を指差す。
…………っっっ!?
テアが指差した先にあったのは、『巨大な氷柱』であった。
その氷柱の切っ先には、豚面のモグラのような生物が突き刺さっていた。
こ、これって……まさか……、いや、そんな……。
<氷柱よ、とても大きな塊で、いい感じの場所の地中からぐいぐいっと迫り出し邪を貫け——>
レフィアの脳裏に、先刻、指導していた少年が描いた無茶苦茶な術式描写が過る。
「最近、あのブタモグラに家庭菜園を荒らされて困っていたのと、今日の夕飯が豪華になるのはいいけどもさ、あの氷柱、処理するのは僕だよ? ……ちょっと聞いてるかなー?」
「あ、あの……、裏庭ってどっちなのです?」
「えー? あっちだけど……って、ちょ、レフィアくん?」
レフィアは駆け出していた。
ありえないのです。そんなことありえないのです!
ロディは風属性の適性があったのに、氷属性にもあるのですか?
いや、それ以前に、あんな芸術性の欠片もない術式描画で、あんな高度な命令をしたら、必要魔力が爆発的に増加するはずなのです。
そんなことありえないのです!
「ろ、ロディ!」
「あ、レフィア、戻ってきたんだ。さっきの
「ロディ!」
「は、はい……!?」
「あなたの魔力量、測らせてもらいたいのです」