亡国の転生王子は無限の魔力で恩返し~仁義を果たしてくれた隣国の一般兵として頑張ります~ 作:ルーザー
「魔力量の測定?」
「はいなのです、ロディの魔力量を測ってもいいのですか?」
「あ、うん、構わないけど……、どうやるの?」
「魔術なのですよ」
「えっ! 魔術ってそんなこともできるのか!」
「まぁ、ウチは専門ではないので、できるのは相対的な比較くらいなのですが……。えーと、まずは手を合わせてもらってもいいのですか?」
「うん」
そうして、ロディはレフィアが差し出した右手に左手を合わせる。
<実直な天秤よ、右の皿に我が魔力を、繋がりし者を左とし、その帰結を示せ——>
「
レフィアは左の手の平を上に向けると、そこにふわりと天秤が現れる。
天秤は現れたとほぼ同時に、ガッと左に傾いた後、激しく左右に揺れ、次第に右に大きく傾いた。
「えーと、これはつまりレフィアの魔力量が俺より遥かに大きいってこと?」
レフィアは目を見開いて、目の前の破損した天秤を確認し、ゆっくりと口を開く。
「……っっ、い、いえ……測定失敗なのです」
「え……?」
「正に『比べ物にならない』。そういうことなのです」
(レフィア……、もう少しオブラートに包んでくれよ。流石に少しへこむけども、めげずに頑張るしかないよな……)
それからレフィア先生による魔術訓練は続いた。
レフィアの「まずは暴走させないことがなにより大事なのです」という助言により、ロディは初歩魔術をひたすら練習するのであった。
そうして、二週間ほど経ったある晩のこと。
夕食を終えたロディとレフィアは就寝の準備をしていた。
布団に潜り込み、ロディがウトウトしていた時だった。
「ねぇ、ロディ、起きてるですか?」
レフィアが語り掛けてきた。
(お……?)
「うん」
「ちょっと聞いてもいいですか?」
「うん」
「ロディはどうしてここに?」
「えっ……、えーと……」
(……どうしようか)
「普通に身寄りがなくて……」
(……嘘ではないよ)
しかし、ちょっぴり罪悪感もあった。
だが、ロディは出自については慎重に扱うことに決めていた。
「……そう……よね。ウチはさ、知っての通り奴隷になってるところを買い取られたのですよ」
「……うん」
「ウチ、
「
「知らないのですね。成長過程で髪が緑色に変色するエルフなのですよ。……不吉な存在として忌み嫌われているのですよ」
「……!」
(不吉な存在……か)
ロディは一つ、溜息をつく。
「くだらないよね」
「えっ……?」
「不吉な存在? つくづくどうでもいいよ」
「……」
【……】
「……ロディ、ありがとう……なのです」
「えっ……?」
「慰めだとしても少し心が軽くなったのです。だから……。……そ、それじゃあ、ロディ、おやすみなのです」
「あ、うん、おやすみ」
ロディは少しだけ照れ臭い気持ちになりながら、再び眠りにつこうとした、その時だった。
物が壊れるような大きな音がした。
窓の外からは大人達の叫び声が聞こえて、二人は慌てて布団から飛び起きる。
「魔獣だ! 魔獣が出たぞ!」
(……! 魔獣……)
魔獣という存在。
隔離時代に、カトレアからの読み聞かせでその存在は知っていた。
しかし、実際に遭遇したことはなかった。
「魔獣!? 行かなきゃなのです!」
レフィアはほとんど迷うことなく、そう言った。
「え……? レフィア、ここは大人達に任せた方が……」
「何を言っているのです? ウチ達は立派な魔術師なのですよ!」
「……!」
(え? 俺も……? あ、あれか、わずかでも魔術を嗜んでいたら、もう立派な魔術師的な価値観か?)
「さぁ、行くのです!」
そう言うと、レフィアは部屋を飛び出していった。
「あ、待って!」
ロディもそれに続く。
二人は中庭まで駆けた。
中庭につくと、大人三人の背中が見えた。
そして、力尽きた魔獣らしき生物が数体いた。
(……もう終わってたのか?)
ロディは少しほっとする。
と、大人達の先頭に立っていたテア院長が二人に気が付き、振り返る。
「あららー、出てきたらダメじゃないかー」
テア院長は微笑みながら、二人をたしなめた。
「もう終わったのですか?」
レフィアは反省する様子もなく、状況を聞き返す。
「き、君……っ!」
大人の一人がレフィアに何か言おうとするが、テアが手でそれを制止する。
「まぁまぁ、いいよ、ムグヌル君、頼もしいことじゃないのー」
「院長が言うのであれば……」
ムグヌルと呼ばれた男があっさりと引き下がったのを確認するとレフィアは再び尋ねる。
「それで、状況はどうなのですか?」
「付近の魔獣の気配は無くなったね。ひとまず第一波は片づけたといったところかなー。だけど……」
(っ……!)
その時、ズンと鈍く重い音がロディの耳にも届いた。
その足音は次第に大きくなり、孤児院の方へ迫っていた。
「うーん、思ったより手ごわそうなのが来てるなー。まぁ、僕がなんとかするよ。えーと、ムグヌル君はここに残って、入口の防衛を頼むよ」
「承知しました!」
「それじゃ、よろしくねー」
そう言って、テアともう一人は孤児院の敷地の外の森へ消えていった。
「ほらっ、それじゃあ二人は部屋に戻るように!」
ムグヌルが少し苛立った様子で二人を促す。
(えーと……)
「そ、それじゃあ、レフィア、俺達は戻ろうか」
「あ、ちょ、ロディ!」
ロディがレフィアの背中を小突き、レフィアがそれに抵抗した。
その時であった。
中庭に突如、陣が発生し、そこから何かが現れた。
(……!)
それは黒い身体をした人の姿をした存在だった。
頭からは角、背中からは翼が生え、手が異様に長かった。
ロディには敵の力量を測る具体的な手段があったわけではなかった。
であるのに、全身が警告していた。
こいつはやばい、と。
「な、なんでデビル種がこんなところに!? テア院長の魔力索敵を潜り抜けたというのか!?」
「美味ソウナ魔力ノ気配ヲ感ジタ。アイツガ少々、邪魔ダッタ」
(……! 人語を喋れるのか!? あいつってテア院長のことか?)
(「なぁ、ジェマ、あいつは何者?」)
【あれは魔獣の中でもデビル種と呼ばれる高等種族ですね。腕に魔力核があるのが特徴ですよ。その数に力量が比例すると言われています】
見ると確かに腕に煌めく物体が埋まっていた。
「ま、魔力核が四つ……。レベル5相当!? そ、そんな……戦うってレベルじゃないぞ……」
ムグヌルは腰が抜けたのかその場にへたり込んでしまう。
(レベル5? なんですかそれ? よくわからないけど、このムグヌルさんという方が早々に戦意喪失する相手ってことかよ……。だーけど、わかってんだよ。こういう時、頼りになるのは大人じゃなくて、見た目は子供のレフィアだって……!)
そう思い、ロディはレフィアに視線を送った。
(……!)
ロディの安直な予想に反し、
「……嘘なのです。デビル種? そんなの無理なのです」
レフィアは震えていた。
「ロディ、連れてきてしまってごめんなさいです。……怖いのです」
レフィアがロディに向けた瞳は絶望に染まっていた。
「……知らないってことは、時に有利に働くのかもね……。レフィア、下がってて」
「え……?」
(レベル5とやらがどんだけやばいのか、俺は知らない。だから……)
「俺がやるから」
そう言って、ロディは一人、前に出た。
「美味ソウナ魔力、オ前カ。イイヨ、ヤロウヨ」
魔獣は口角を歪めた。