遠い未来、恒星間調査船グローバリー
そして、はるか6万光年の旅路の末――
惑星Zi上空の成層圏にて、発生源不明の光芒とともに消息を絶ったとされている。
◆
夏至を迎え、カラリと晴れ渡った西方大陸。
“旧市街”を囲うように延々と広がる白い荒野の南西で、耳をつんざく轟音とともに爆炎がうねり、盛大に巻き上がった砂塵が一面に飛び散った。
『――!』
立ち込める砂煙の中より、悲鳴にも似た電子音を発しながら一目散に飛び出したのは――
8本の機械化した脚をせわしなく駆り、後方に伸びる尾の付け根に埋め込まれた小型イオンブースターの推力を得て砂地の悪路を疾走する、純白の外殻に覆われた体長2mの小さなウミサソリ型
「ひいっ……!」
そして、加速する白いゾイドの背面に必死でしがみつき、長い白髪を靡かせながら、幾重もの布の隙間からのぞく瞳に涙をにじませる一人の少女だった。
『――バカヤロウ、貴重な火器を使うな! また砂爺にドヤされるぞ!』
スピーカーを通した壮年の男の怒号が、オープンチャンネルによって一帯に響き渡る。
直後、少女たちの数百メートル後方を覆っていた砂煙は吹きつける風によってかき消され、やがて並んでいた二つの巨大な暗緑色の影が、その姿をはっきりと現した。
一体は背部の砲塔から硝煙を立ち昇らせるリクガメ型小型ゾイド“カノントータス”。
そしてもう一体は、四足歩行の重厚な体躯を持ったバッファロー型大型ゾイド“ディバイソン”だった。
『違う、わざとじゃないよ! スピーカーで勧告をしようとしたら、ボタンを押し間違えて……』
カノントータスは若い男のパイロットの狼狽した声と同調するように、コクピットのある首を控えめに甲羅へ引っ込めている。
しかし、壮年男性が乗るディバイソンはパイロットの呆れ声とともに首の向きを変え、鋼鉄の蹄で砂地を踏みしめながら、旧市街とは反対方向に離れていく小さな白いゾイドと少女めがけて駆けだした。
『はぁ……いいから追うぞ! あの色、それに火器を撃ち返してこないということは、あいつは
『ま、待てよぉ親父ぃ!』
スピーカー越しのやり取りが途切れ、地響きとともに疾走するディバイソンが野太い咆哮を上げると――その前方で白いゾイドの外殻にしがみつく少女の手が、ビリビリと痺れた。
「ちがっ……ただ、お水が欲しかっただけ……!」
その小さく零れた声は、彼らにはきっと届かない。
少女はそれを分かっていながら、ただお祈りのようにひたすら言葉を零し続けている。
「お願い……たすけて“オズ”……っ」
『――……』
しかし、自身の外殻に触れる少女の手を通して、常にそのバイタルを計測している白いゾイド――“オズ”だけは、彼女が感じている恐怖をはっきり数値で理解している。
それがために、オズの頭部先端で輝く
「すばしっこいな……エディ、応援を呼べ。このあたりは足場が悪い、可能ならガイサックとモルガの混成を要請しろ」
『え……あんなちっこいゾイドと女の子相手に、何もそこまでしなくても……』
「やかましいッ! 誰一人として、ここの情報を奴らに持ち帰らせるわけにはいかん……砂爺には俺から後で説明する、いいからやれッ!」
『わ、分かった!』
ディバイソンのパイロットは、エディと呼んだカノントータスのパイロットにそう告げながら、コクピットのモニターに映し出される純白の小型ゾイドを、目を細めて注視していた。
「見たこともない……気味の悪いゾイドだ。クソッ、教団め……こんな小さな子供まで利用して……!」
そして、彼は自身の胸の内で渦巻いていたおぞましさを吐き捨て、両手に握った
「ど、どうしようオズ! このままじゃ……」
追手のディバイソンが発する地響きが近づいてきていることを察し、少女が零した悲痛な声を解析するまでもなく、オズは背面ブースターの限界が迫っていることを理解していた。
しかし、次々と現れる巨石や遺跡のスキャニングを取り零しなく実行しても、インターフェース上で赤色のエフェクトが延々と吐き出され、目まぐるしく更新する処理情報も、二人の生存確率を上げる決定打には到底なり得なかった。
「オズっ、オズっ……」
それでも、オズは諦めない。
ふたつの星を跨いだゾイドコアが、その吹けば消えそうな手の温もりだけは守らなければ――
そう強く願い、『
『――!』
そして、ついに彼は見出した。
カメラに映るオブジェクトのうち、たったひとつだけ――けたたましい“caution!”アラートと同時に、生存確率の向上を示すグリーンエフェクトをインターフェース上に吐き出す存在が、進行上に現れたのだ。
それは聳え立つ三本の鉤状石柱を中心とした、巨大な石化遺構群だった。
「うわっ!?」
刹那、オズの背面外殻が展開し、眩く発光する内部から伸びた無数のチューブ状のコードが、華奢な少女の全身を一瞬で包み込んだ。
「これ、あのときと……」
コードによってがっちりと固定された少女は、この現象を過去一度だけ目にしたことがある。
だからこそ、オズが今から何をしようとしているのかを、即座に理解した。
「――もしかして、あれに突っ込むの!?」
少女がそう叫んだ瞬間、オズの埋め込み型イオンブースターユニットがさらに大きく展開すると同時に、ハサミと脚部が瞬時に折り畳まれ、残り僅かなエネルギーを惜しみなく注いだ白い火焔が、口数を増やした無数のスラスターから一斉に噴き出した。
そして、一時的な大推力を得たオズは遺構に向け、長く白い尾を弓なりに引きながらひと筋の光の矢となって――蒼穹を“跳んだ”。
「きゃああぁっ!?」
光の矢が勢いよく鉤状の石柱に衝突する寸前――
「目眩まし……か」
モニター越しにオズの変形と跳躍、そして遺構へ飛び込んだ光景を目にして、ディバイソンのパイロットはひとりごちながらも、機体の足を止めることはしなかった。
彼の目には、あの純白のゾイドが遺構の陰へ逃げ込んだように見えていた。
「追う手間が省けた」
足を止めて隠れているのであれば、これ以上の追いかけっこは無用。
あとはじっくりと少女とゾイドを炙り出し、捕獲するだけだ。
そう判断し、ディバイソンをさらに一歩前進させた、その瞬間。
『Piiiiiiiiiii』
コクピット内でけたたましく鳴動をはじめた甲高いアラームとともに、ディバイソンは突如として前進を止め、完全に沈黙した。
「なっ……!?」
コンソールにはゾイドの戦意喪失を意味する『
「おい、どうしたディバイソン! 何をやられた!?」
平静を失ったように、スロットルバーをガチャガチャと荒々しく漕ぎ回すパイロットだったが、彼は心の奥底ではあることを理解していた。
――
ただ、そこに横たわる遺構群は沈黙を貫きながらも、突き刺すような悪寒を伴う圧力を常に放ち続けている。
「……生きてるってのか、あの石っころが……」
パイロットの背中に伝う汗は、止まることを知らなかった。