それからほどなくして、ルーたちを乗せたカノントータスは広大な採掘区に足を踏み入れていた。
地上から見える範囲では、地表にいくつも存在する瓦礫と化した軍事施設の遺構と、その隙間を縫うように規則正しく掘り返された大きな縦穴が点在し、ルーが昨夜にマッドサンダーのブリッジから見た通り、一見しただけではここが何の場所なのかは分かりようもない。
「ルーが見たっていう、その白い教団のライガー……もしかすると、オリジナルの片割れかもしれないわね」
目的の大穴を目指して進む最中、暇を持て余したリアンはスリープに入ったオズに寄りかかるようにして、すやすやと寝息を立てている。
一方、ルーと一緒に伝承――そしてオリジナルについての考察で盛り上がっていたチェルシーは、あるひとつの仮説に行き着いていた。
「んー……どうなんだろう。あのゾイドの中に入ったオズも、特にそんなことは言ってなかったけどなぁ」
「オリジナルって私たちが勝手にそう呼んでるだけだから、ライガー自身にその自覚はないと思うわ。だけど、あいつらはライガーを信仰の対象にしているくらい特別視しているし、しかもソイツはパパたちでは全然歯が立たないくらい強かったんでしょう?」
「うん……あのゾイドだけ、まったく違う次元で戦ってるような感じだった。正直、割って入るのもすごく怖かった。でも、私は
ルーは言葉を言いかける途中で、慌てて口を塞いだ。
理由は分かっていないが、彼女は“地球から来た理由”について、周囲には口にしない方がいいとウィルキンスから忠告を受けていたのだ。
「ルー?」
「な、なんでもない。とにかく、チェルシーのお兄さんやお父さんたちを助けなきゃって思ったら、私もオズも身体が動いたんだよ」
「……うん、そのことは本当に感謝してるの。ルーが居なかったら、お兄ちゃんは今頃ライガーの前足で脳ミソとか内臓とか血とかをブシャってしながら、ペシャンコになっていたと思うわ」
チェルシーの想像力豊かな
ルーはまたしても苦笑いを浮かべるほかなかったが、チェルシーは構うことなく続けた。
「とにかく、いくらライガー型ゾイドが強力でも……パパたちが束になっても敵わないくらいでたらめな強さは、よほど特別なゾイドでないと説明がつかないわ」
「そ、そうだよね。でも、もしそうだとしたら、そのライガーはこの旧市街を守るどころか脅威になっちゃってるってことだよね……」
「そう、そこが問題なの! 昔は一緒に戦っていた二頭のライガーが、どうして今は離れ離れになっちゃったのか? そして、どうして白いライガーは教団なんかに与して、私たちを襲うようになったのか? 謎は深まるばかりだわ……!」
もはや隠すそぶりもなく、持論と考察を熱く語るチェルシーの真剣な姿を見て、ルーは彼女が『将来良い考古学者さんになるんだろうな』と思い、なんだか羨ましく感じた。
しかし、その“羨ましい”という感情が何故、今の自分の中に湧き起こったのか――ルーにはそれが分からず、困惑した。
『そろそろ地下に入るから、ヘルメットしとけよぉ』
伝声管からエディの言葉が響き、二人が格納庫の壁にかかっていたヘルメットを被ると同時に、大きな縦穴に掛かった螺旋状のゾイド用スロープをカノントータスが下り始めたことで、格納庫内は暗くなり、床も斜めに傾いた。
「いでっ」
床が傾いたことで、オズと眠っていたリアンは前方の壁にずり落ちて、コツンと頭を打った。
チェルシーは「つけなさいよね」と呆れ声を零しながら、未だ夢の世界に落ちようとしている弟にヘルメットを被せたあと、ルーに再び視線を向けて口を開いた。
「これまでも他の教団のゾイドが、壁の外に出たうちの作業員やゾイドたちを時々襲ってはいたんだけど……こうしてライガーまでもが出張ってくることなんてなかった」
「……うん、すごく怖いことだよね。次もまた彼らがやってきたらと思うと……」
不安に俯くルーを見て、チェルシーはニッとほほ笑みを浮かべながら、ルーの頭を撫でた。
「大丈夫よ。お兄ちゃんにここの案内をお願いしたのは、そんなあなたを安心させるためでもあるの……さぁ見て」
チェルシーが指をさした先には――青白い照明によって眩く照らされた、大穴の最深部に広がる巨大な格納庫と、そこにずらりと並んだ数多くの大戦期ゾイドたちの姿があった。
「ゴドスにガイサック、コマンドウルフにバリゲーター、ゴルドスに……ほら、古代共和国の象徴だったゴジュラスまでいるわ! みんなここで採掘されて、この場で修理を受けているの!」
『アタックユニットとか、バスターキャノンとか……ここで強力な火器もたくさん見つかった。昨日は油断しているところを襲われたんだ、これで次は負けねぇよ』
その光景に、ルーは言葉を失った。
これが、マッドサンダーが掘り返してほしいと願った仲間のゾイドたち。
そして――かつての古代戦争の形を遺した歴史そのものだった。
「しかも、これだけじゃないわ! 他の区画にも同じようなゾイドたちがいるし、最近見つかった秘匿区画だってあるの。もしかすると、蒼いオリジナルもそこに眠ってるかもしれない。だから、大丈夫よルー! もしまた“争い”が起こっても、ここにいるゾイドたちが……今度こそ教団をやっつけて、私たちもパパたちも守ってくれるわ!」
チェルシーが見せる屈託のない笑顔に、ルーは一抹のもどかしさを感じた。
いくら“止めなければ”と直感しても、今の自分たちにできることは――何もない。