オズと少女が遺構群に籠城を開始してから、はや一日が経過した。
遺構内部へ侵入するため、一度はオズと共に量子化された少女――“ルー・クリスティン”の身体は、すでに元の姿へと再構築されていた。
そして、かつてはコクピットだったと思しき石化が進みつつある暗い空間の中で、彼女はただ身を震わせながら脅威が去っていくことだけを祈り続けている。
「ねぇ……オズ、だんだん増えてきてるよ。だ、大丈夫なの?」
しかし、そんな少女の祈りをあざ笑うかのように、状況はむしろ悪化の一途を辿っていた。
一度はコンバットシステムをフリーズさせていた追手のゾイドたちは、遺構のプレッシャーが及ばない一定の距離を保ったまま包囲を解かず、しかし突入もできない膠着状態に陥っていた。
ルーの所持している非常食と水は、十分な量とは言えない。
さらに、遺構と融合したオズのカメラが捉えた外の映像と解析情報は、かろうじて息を吹き返したコクピット前面のコンソールを通してルーに送られてきている。
そして、この場所をぐるりと囲うゾイドの数は、時間が経つにつれ着実に増えてきていた。
“RZ-031
“RZ-013
“EZ-006
“RZ-002
“RZ-043
“EZ-012
コンソール上に表示される冷たい文字列は彼女の鼓動を乱し、だんだんと視界を揺らめかせていく。
一方、コンソールを除いたその他の機能のほとんどは、未だに死んだままだった。
オズは現在も融合した状態のまま遺構全体の調査と修復を行っているようだが、彼の
「ひっ……!」
そんな状況に追い打ちをかけるように、すでに何度目か分からない砲撃の衝撃音と大きな振動がコクピット全体を襲い、天井から剥がれた砂埃がパラパラとルーの白い髪に落ちた。
「やだ……たすけて、オズ……
そして、張り詰めていた緊張がついにピークに達した彼女は目をぎゅっと瞑り、硬い石のシートの上で膝を抱えてうずくまって、防塵布の下に覗かせるボディスーツの生地越しに自身の脛を強く握りしめた。
遺構全体を揺るがす振動はやがて収まり、この暗くて狭い空間の中はパラパラと砂の落ちるわずかな音を除いて、再び静寂に包まれた。
『――ガムっ、ガムっ♪ 』
だが、それまで堪えていた涙がルーの頬を伝った瞬間、唐突に流れはじめた場違いで陽気なBGMを耳にして、閉じられていたルーの目は再び大きく開かれた。
煌々と光るコンソールのモニターから、あの冷徹な文字列はいつの間にか消えており、かわりに彼女がいつか見た懐かしいお菓子メーカーの陽気なCMの、ノイズにまみれた映像が映し出されていたのだ。
『おっねむっなとーきも、おなかへったとーきも♪ おっまかせくっださい、ニュー・アメリカンのっ、コズミックガム♪ ジャンっ♪』
CMが終わり、続けてコンソールに点滅する矢印が表示されると、彼女の視線が自然とそちらに逸れ、ほどなくしてシート横に置いていた自身のバックパックに意識が向いた。
「……ごめん。オズだって、怖いのにね」
鼻をすすって涙を押し込めつつ、ルーはバックパックをゴソゴソと探り、やがてガムの個包装をひとつ手にした。
「……うん、ありがとう。がんばろう、私もせいいっぱい考えるから」
口に放り込んだガムのカリっとした最初の食感、そして噛むたびに増す人工的な甘みと、ねっとりとした歯ごたえを――ルーは微笑みを浮かべながら、後生大事に味わった。
◆
昼下がりの荒野――超高温により赤色化した一筋の閃光が、進行上の砂塵を吹き飛ばしながら迸る。
刹那、遺構の表層で爆ぜた光と粒子は行き場を無くして四散し、周辺でさらなる複数の爆発を起こした。
「親父、この
遺構から数百メートル離れた地点で、エディはコクピット内のスピーカーマイクにそう訴えかけた。
彼が乗るカノントータスは四肢と、尾部に増設した二基のアウトリガによって砂地にガッチリと固定され、射撃の反動を殺していたアウトリガのショックアブソーバーが、キュコンキュコンと音を立てながらゆっくりと伸長している。
さらに
「あと1、2発撃ったら、砲身がバラバラになるかも……! どうする、親父!?」
一方、ディバイソンのコクピットから静観していたエディの父、ラリーは彼の通信を耳にして、深くため息をついてから言葉を返した。
「もういい、エディ。ブラキオスの一斉砲撃じゃ傷ひとつ付かねぇ上に、虎の子の最大火力でも表層を焦がしただけで、抜くことができないときた……もはや、奴が出てきてくれるのを待つ他ないだろ」
『だよなぁ、こんなところでキャノンぶっ壊しちまうのも、バカバカしいや。にしても、なんなんだよあの遺構、固すぎんぞ!』
モニターにズームされた三本の石柱を一瞥するラリーの心中は、昨日から疑念でいっぱいだった。
昨日の現象といい、この尋常でない表層の堅牢さといい。
こんなに異質な遺構が、旧市街からそう離れていない場所で、なぜ今まで誰の目にも止まらなかったのか。
この一帯は過去にサルベージがさかんに行われ、何度もゾイドや人間が立ち入った形跡があるにも関わらず、突如コンバットシステムがフリーズするなどといった怪現象の記録は、一切残されていなかった。
やはり、あの白いゾイドが起こした発光現象と、この今の状況には何か関係があるに違いないと――ラリーはそう踏んでいた。
「それに……あの白いゾイドは跳躍のために、相当なエネルギーを消耗しているはずだ。もしあれが遺構をコントロールしているのなら、奴が出てこなくともエネルギー切れを待ってからスピノサパーを向かわせ――」
『PPP!』
ラリーが言葉を言いきる前に、突如ディバイソンのコクピット内には新たな『caution!』アラームが、右側面からけたたましく響き渡った。
彼はその正体を思案するより早く機体を回頭させ、二本の超硬角をギラつかせながらディバイソンの頭部をアラームの示す方向へと向けた。
「……なんだ?」
モニターに映し出されているのは、持ち上がった長い首をくゆらせ、装甲に覆われた短く太い脚を音を立てて足踏みしながら、ラリーよりも遅れて転回をはじめた仲間のブラキオサウルス型の中型ゾイド“ブラキオス”――
「……なっ!?」
――そして、ブラキオスのさらに向こう側から、太陽を背にして天高く跳躍する影がひとつ。
それは
「――獅子光教団ッ!!」
さらにはディバイソンよりもしなやかな四肢と体躯をバネにして――
切れ目のような紅の眼光と、