ルーが味のしなくなったガムを包み紙に吐き出したのと、外の砲撃が止んだのは、ほとんど同時のことだった。
「……ごちそうさまでした」
暗がりの中でルーはひとりごちた後、携帯式
まだ温かいガムの包みをそのままバックパックにしまうことには、少し抵抗を感じる。
彼女の視線は、やがて石化したコクピットに自然と落ちた。
「……だめだよ、ポイ捨ては」
しかし、ルーは自分の頬をペチっと叩いて戒め、ガムは無事バックパックへと収められた。
「ごめん、
エネルギーの節約のため、一時的に電源の落とされたコンソールにそっと手を触れて、ルーは言葉を零した。
「キミ……まだ生きてるんだよね、オズがそう教えてくれたよ」
遺構は何も答えない。
ただ反響した彼女自身の声だけが、暗がりのコクピット内に響く。
「いつからひとりぼっちなの? どうして、ずっとここで寝ていたの?」
『……』
「ひとりは怖いよね……わかるよ。私は、オズがいてくれなかったら、きっと耐えられなかった」
ルーはそっとコンソールを撫でながら、さらに言葉を続けた。
「……匿ってくれて、ありがとう。お礼にキミを、もう一度自由にしてあげられるかもしれない」
『……』
「だって、オズは――」
そのときだった。
『――!!』
突如、オズの大きな声がコクピット内に響き渡り、同時にコンソールに光が灯され、ルーは慌てて手を離した。
「なに、どうしたの!?」
『――……!』
画面に映し出された映像には、遺構の周囲を囲んでいたゾイドとは異なる、新たな白いゾイドの姿があった。
コンソール上に追加されたデータ名称は――“RZ-071
そして、それまで一体の“ブラキオス”を示していた光点が画面から消滅した。
◆
ライガーゼロの輝く爪によって、ブラキオスの胴体装甲はゾイドコアもろとも一撃のもとに切り裂かれ、鈍い断末魔とともに脚部から胴体、そして首が音を立てて崩れ落ちた。
キューポラ状のコクピットから投げ出されたパイロットは砂地の上を激しく転がった後、地に伏しながらも微かに腕を動かして立ち上がろうとしていた。
「ジャ、ジャッキー!」
仲間の息があることにひとまず安堵したラリーだったが、今起こっていることの理解が追い付いていないうちに、凶行の主はすでにその場から姿を消し、次なる標的に向かって飛びかかっていた。
ゼロはふた筋の赤い眼光の尾を引きながら、2機目のブラキオスの正面レーザーガン、ショックカノン、そして高く持ち上がった頭部のキラーバイトファングの死角となる斜め前の懐に素早く飛び込む。
そして、着地とともに低く伏せた姿勢から、胴体下から首元へと一気に跳ね上がるように、今度は左脚の輝く爪で弧を描くような一撃を浴びせている。
『う、うわぁぁぁ』
スピーカーの向こうから、ブラキオスに搭乗した仲間の恐怖におののく叫びが聞こえ、すぐに途絶えた。
胴体と首が斜めに切断された2機目が崩れ落ちたとき、ゼロは俊敏な機動ですでにその場を離れていた。
「――火器は使うな、同士討ちになる! 俺もそちらに向かう、近接戦ができるゾイドの近くへ逃げろ!」
『く、来るなぁ!』
我に返ったラリーはスピーカーマイクに怒声を叩き込むも、3機目のブラキオスは仲間のいない明後日の方向へ逃げながら背部の80㎜地対空ビーム砲塔を慌てて展開し、パニックのまま迫りくる影に向かってやみくもに撃ち始めた。
『わああぁぁぁ』
しかし、動きの読めない縦横無尽なゼロの機動によって、放たれた数発の眩いビームの閃光はすべて空を切った。
そして、地面に吸われなかった流れ弾のひとつが、ブラキオスの救援のために接近していた仲間のガイサック一機の腰から後ろを消し飛ばし、さらにもうひとつがラリーのディバイソンの頭部右頬周辺を灼いた。
「ぐうっ!!」
幸い直撃はしなかったものの、流れ弾によってコクピットのモニター右側面が死に、映し出されるライガーゼロの姿がノイズで不明瞭となった。
それから3機目のブラキオスが崩れ落ちると、その赤い眼は次に救援のため接近していたガイサックとモルガの混成チームの方を睨んだ。
「させるかぁ!!」
ラリーの叫びとともに、ディバイソンは右眼の負傷も厭わず、ゼロが仲間たちから離れた場所に飛び込んだタイミングを見計らい、背部からびっしりと突き出した105㎜17連突撃砲を轟音と共に全弾斉射した。
砂地一帯が爆炎とともに激しく立ち込める黒煙に包まれ、ゼロの姿が完全に見えなくなった。
『囲め!』
オープンチャンネルによるラリーの号令とともに、その手前約100メートルの位置で、ハサミと尾を高く持ち上げた複数のガイサックと、尾部に格納していた2連装ミサイルを展開したモルガ。
レーザーチェーンソーとレーザー
そして、さらに離れた場所からは突撃砲を構えた通常のカノントータスと、ビームキャノン装備のエディ機が、みな互いの火器の射線に入らない位置を取りながら、黒煙に包まれた一帯の警戒をはじめた。
「……許さねぇ……」
ラリーは怒り心頭で奥歯を噛みしめながら、静かに黒煙の向こうにいる存在を睨んだ。
吹き荒む風が砂塵と黒煙を揺らし、周囲のゾイドたちが肩で息をするかのように機体を上下させる中、束の間の静寂が荒野に流れる。
『PPP!』
そして、各ゾイドのコクピットでけたたましいアラームが鳴動すると同時に――黒煙の中から、焦げ付いた白い
『うおおおぉぉぉっ!』
仲間の誰かがスピーカー越しに叫ぶと、すべてのゾイドが一斉に火器を撃ちこみ始めた。
一瞬のうちに、飛び出した鬣を狙って大小様々な火線が飛び交い、やがて高所から放たれた一発の極大のビームがそれに直撃し、爆発を起こして蒸発させた。
『やった!』
喜び勇むエディの声が響いたが――次の瞬間、ラリーは血の気が引く思いをした。
――今、
「ち、違うッ! ブルート、お前の後ろだ!」
黒煙の向こうから再び一対の赤い眼光が灯り、見当違いの方向を向いていたエクスカベーター装備のスピノサパーに向かって――
白いアーマーの大部分をパージし、黒い素地を基調としたしなやかな
『がああぁっ!』
一瞬にして、二度目のパニックに包まれた最前線の中で、ゼロは続けざまに一機のモルガの側面に現れた。
ゼロは自身の強靭な顎と牙で、モルガの尾を噛み貫いたかと思えば、それを咥えたまま頭を思い切り振り上げ、遠心力の加わったモルガの頭部を鈍器のように傍にいたガイサックの胴体部へと叩きつけ、跳ね飛ばした。
衝撃でコクピットが開き、モルガとガイサックのパイロットがそれぞれ砂地に投げ出されると、ゼロはそのまま顎で咥えていたモルガをスピノサパーに向かって思い切り放り投げ、モルガの胴体を二基のレーザーチェーンソーにぶつけて、激しい火花を散らせる。
『ひいいっ!』
火花に紛れて懐に接近したゼロに、レーザーチェーンソーを一時的に封じられたスピノサパーは動揺したまま、アッパー状に放たれたゼロの頭突きによって後ろに倒れ、同時に3つに分断されたモルガの残骸が周辺に転がった。
そして、ゼロは倒れたスピノサパーの腹部を右前足で荒々しく踏みつけ、マウントポジションを取りながら天高く咆哮を上げるとともに――
オープンチャンネルで若い男の声を一帯に響かせた。
『地球を忘れよ――さもなければ、Ziは凄惨な壊死を迎える』