マッドサンダーのブリッジに招かれたルーは、そこで更なる奇妙な光景を目にした。
ブリッジの中には老人の他に、ツナギに身を包んだ年齢も性別もバラバラな人員が複数名、コンソールの前で何かの作業に勤しんでいた。
そして、箱型のそれなりに広い室内には艦長席をはじめとした、ルーもよく知る船の指揮所を模したような複数の座席が設けられており、緻密なコンソールや大きなモニターといった古代戦争の冷たい遺構が遺されている。
しかしながら、それらの座席にはクッションや寝具、タオルといった生活感を感じるアイテムが無造作に置かれており、かつては戦術マップを囲っていたであろう、タクティカルホロテーブルの盤を場違いな白いクロスが覆い、その上には二人分の洋食器が丁寧に並べられていた。
「ご足労頂き、感謝する。私はこの旧市街での採掘を指揮しているウィルキンス冒険団の長、“ランドサリー・ウィルキンス”。お嬢さんの名前は?」
ふくよかな体型の老人男性ウィルキンスは、シルクハットを手にして頭を下げた後、握手を求めて手を伸ばしながらルーに歩み寄ってきた。
ルーは覚束ない手つきで握手に応じつつ、彼の珍妙な紳士服姿におずおずと視線を落としながら口を開く。
「ル……ルー・クリスティンです。あの……その」
「……ん、この格好が気になるかの? なに、ちょっとした地球流のお出迎えだよ。この礼服はキミのような客人と会う機会に備え、モルガの糸で新たに設えたものでな」
ウィルキンスはそう言って、おどけた小躍りとともに、得意げに自身の服を見せびらかす。
「儂がこれまでに目を通してきた伝承では、地球の男は麗しい女性をお迎えするとき、こうしてドレスコードで着飾りエスコートをしていたのだと記されておったが……もしかして違うのか?」
ルーはウィルキンスの問いかけに対し、思わず首をかしげた。
14年の月日を
「ふむ……どうやら違うみたいだの。どう思う、お前たち」
ウィルキンスがふぅと息を吐きながら、ブリッジにいる他の人員に尋ねると、「だから似合わねぇっつったろ、砂爺」「いつものツナギに戻ったら? おなかがはち切れそうよ」などと茶化すような複数の笑い声が返って来た。
「じゃあかしっ! お前たちはやっぱり黙っとれ!」
そして、ウィルキンスが怒った様子で言葉を返すと、それを傍で聞いていたルーはただ乾いた笑いを零すことしかできなかった。
「ったく……っておぉ、すまないすまない。つい取り乱してしまったわい」
「い、いえ……」
「まぁ、席に着きたまえよ。さっそく食事に入ろうではないか」
ウィルキンスに促され、ルーはおそるおそるキャノピー側の席に着く。
すると、まずはツナギを着た中年女性の手によって、デキャンタに入った水が彼女の席のコップへと注がれた。
ルーはこの辺鄙かつ異様な空気のなかで肩に力が入り続けていたが、同時に喉の渇きを抑えることができず、人目も憚らずに注がれた水を思い切り飲み干した。
その様子を見ていたウィルキンスはカラカラと笑いながら、再び口を開く。
「まぁ飲みながらでよいから聞いてくれ。儂のルーツとなる遠いご先祖は、太古にグローバリーⅢ世号でこの惑星に降り立った、地球の冒険商人でな。儂に流れている血の一部は地球人のもので、ランドサリーという名も亡き母いわく、純粋地球人だった初代に肖ったのだそうだ」
「地球人の……子孫」
「あぁそうだ。しかし、ラリー親子が見たというあのゾイドの未知の技術、そしてキミのイマイチ共感しきれていない今の反応から察するに……やはりキミは儂らのような、この星に息づいてきた地球人ではないのだろう」
それまで、いかにも好好爺然とした振る舞いだったウィルキンスの声色が変わったことで、コップを傾けていたルーの手はピタッと止まった。
「おそらくは一週間前……この星の上空で光に呑まれ――そして墜落した、
そして、ウィルキンスが辿り着いていた結論を口にすると同時に、ルーの手からコップが離れた。
コップがテーブルに落ちる音と共に、クロスに零れた水が衣服の膝元に滴ることすら意識の外に追いやり、顔を俯かせながら全身を震わせ始める彼女の姿を見て――ウィルキンスは心底申し訳なさそうに頭を下げた。
「辛い出来事を思い出させてしまって、本当にすまない。しかし、儂はこの一団の長ゆえ、皆の見ている前で……キミの出自だけはハッキリさせておかなければならなかった」
その穏やかな謝罪と宥めに対し、ルーは涙をぐっと堪えながら顔を上げる。
「……いえ、大丈夫です。私もいつかは、誰かに吐き出したくて……仕方ありませんでしたから」
そうして気丈に振舞おうとするルーの姿を、ブリッジにいた他の人員たちと同様に目にしたウィルキンスは、感心とも同情ともつかない息をついた後、穏やかな口調を保ったまま言葉を返した。
「そうか……だが安心しておくれ、儂らはこれ以上キミたちに危害を加えるつもりはない。もし望むのであれば、キミたちの衣食住を用意するつもりでもいる」
ウィルキンスは最初の料理を運んでくるよう、近くの男に指を弾いて指示を出し、更に言葉を続ける。
「だが、その代わりと言ってはなんだが……キミたちがあの船で、この星で何をしようとしていたのか。そして、あの船に何が起こったのかを……できる限りそのまま吐き出してほしい。儂らも、キミたちにとって必要な情報は教えよう」
「……分かりました」
彼の提案を耳にしたルーはそれを断る理由もなく、やがてゆっくりと頷いた。
「私たちは――地球人が争いを遺していったこの星から、今度こそ争いをなくすためにやって来たんです」
そのように語るルーの瞳は、純粋なる使命感と希望を帯びた、輝きに満ちている。
しかし、そんな大言壮語とも、夢物語ともとれる彼女の発言に、周囲で話を聞いていた大人たちからは悪気のない苦笑が漏れ、そしてウィルキンスも言葉を詰まらせて頭をかくほかなかった。
「争いをなくす、か……それは大層なお題目だなぁ」
しかし、ルーはそんなウィルキンスから目を逸らすことなく、はっきりと言葉を返した。
「できます! 遠いむかし……恒久平和を願ったご先祖様たちが、グローバリーⅣ世号で持ち帰ってくれた希望――“