原神転移 異世界おじさん   作:ところてんの

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第11話「西風騎士団」

 風魔龍の襲撃から一夜が明けた。

 

 モンドの街は少しずつ落ち着きを取り戻していた。

 

 街中では壊れた看板や建物の修理が始まり、西風騎士団の団員たちは忙しそうに走り回っている。

 

 俺たちはそんな街の様子を横目に見ながら、再び西風騎士団本部へ向かっていた。

 

「また騎士団か」

 

 隣を歩くおじさんが言う。

 

「まあ、昨日のことがあったからな」

 

「そうか」

 

「たぶん、今度はちゃんと事件について説明されるんじゃない?」

 

「なるほど」

 

 相変わらず反応が薄い。

 

 俺としては、もう少しくらい緊張してほしい。

 

 何しろ俺たちは異世界から来たばかり。

 

 しかも、おじさんはこの世界には存在しない精霊魔法まで使っている。

 

 騎士団からすれば、どう考えても気になる存在だ。

 

 そんなことを考えているうちに、本部へ到着した。

 

「来てくれましたね」

 

 中に入ると、ジンが俺たちを迎えてくれた。

 

 その隣にはガイアとリサもいる。

 

 そして、アンバーもいた。

 

「今日はモンドの現状について、改めて説明したいと思います」

 

 ジンが席を勧める。

 

 俺たちはそれぞれ椅子に座った。

 

「まず、昨日の襲撃についてです」

 

 ジンが話し始める。

 

「襲撃してきたのは、風魔龍トワリン」

 

 その名前を聞いた瞬間、俺は反応しそうになった。

 

 トワリン。

 

 ゲームで知っている名前だ。

 

 風魔龍。

 

 モンドの序章で重要になる存在。

 

 俺はある程度の情報を知っている。

 

 だけど。

 

 それをそのまま口にするわけにはいかない。

 

『それ、ゲームで知ってるから』

 

 なんて言えるわけがない。

 

 そもそも、そんなことを言ったら、今まで隠してきた俺たちの事情まで全部説明することになる。

 

 だから黙って聞く。

 

「トワリンが、なぜ突然モンドを襲撃したのかは分かっていません」

 

 ジンが続ける。

 

「しかし、単なる暴走とは考えにくい」

 

「背後に誰かいるってことか?」

 

 俺が聞く。

 

「その可能性があります」

 

 ガイアが答えた。

 

「そして、今のところ有力視されているのがアビス教団だ」

 

 アビス教団。

 

 またゲームで知っている名前が出てきた。

 

 俺は思わず黙り込む。

 

 知っている。

 

 だけど、知っているからこそ言えない。

 

 ゲームではこうだった。

 

 でも、ここはゲームじゃない。

 

 俺たちが来たことで、すでにいくつものことが変わっている。

 

 だから、ゲームの展開をそのまま話すのは危険だ。

 

「アビス教団が、トワリンに何かした可能性がある」

 

 ガイアが説明を続ける。

 

「その証拠を探しているところだ」

 

「なるほど」

 

 おじさんは腕を組んだ。

 

「つまり、龍そのものが原因とは限らないわけだな」

 

「そういうことだ」

 

 ガイアが頷く。

 

「事件の裏側を調べる必要がある」

 

 ガイアはそう言いながら、机の上にいくつかの資料を並べた。

 

「目撃情報、魔物の動き、襲撃地点。それぞれを整理している」

 

「かなり調べてるんだな」

 

「騎士団だからな」

 

 ガイアが笑う。

 

「情報がなければ、何も判断できない」

 

 その言葉には、冗談とは違う真剣さがあった。

 

 昨日までの軽い態度とは少し違う。

 

 この人はこの人で、ちゃんと事件を追っている。

 

 俺は資料を眺めた。

 

 ゲームで知っている情報と比べれば、まだ断片的だ。

 

 でも、現実の事件として考えれば当然だ。

 

 全部の情報が最初から揃っているわけじゃない。

 

「私は街の安全を優先します」

 

 ジンが言う。

 

「市民の避難や警備体制の確認、騎士団の配置を整える必要があります」

 

「うん。それが一番大事だと思う」

 

 俺も頷いた。

 

 ゲームではイベントを進めれば状況が動いていく。

 

 でも、現実では街の人たちがいる。

 

 怪我をする人もいるし、家を失う人もいる。

 

 そう考えると、ゲーム画面で見ていた出来事とは全然違って見える。

 

「私は偵察に出るよ!」

 

 アンバーが元気よく手を挙げた。

 

「周辺の様子を確認して、魔物の動きや怪しい場所を探すの」

 

「頼みます」

 

 ジンが頷く。

 

「何かあれば、すぐに報告してください」

 

「任せて!」

 

 アンバーは胸を張った。

 

 それぞれの役割が決まっている。

 

 ジンは街の安全。

 

 ガイアは情報収集と事件の調査。

 

 アンバーは偵察。

 

 リサは――。

 

「私は精霊魔法について調べたいわね」

 

 やっぱりそこか。

 

「昨日の話を聞いてから、ますます興味が出てきたの」

 

 リサが俺を見る。

 

「たかふみ君。あなたたちの世界では、あの魔法は一般的なのかしら?」

 

「……俺たちの世界でも、誰でも使えるものじゃないです」

 

「そう」

 

 リサは楽しそうに笑う。

 

「それなら、なおさら調べる価値がありそうね」

 

 おじさんを見る。

 

「おじさん。あとでまた詳しく聞かせてもらってもいい?」

 

「構わない」

 

「ありがとう」

 

 即答だった。

 

「おじさん、ほんとに警戒心ないよな……」

 

「必要なことなら話す」

 

「そういうところだよ」

 

 俺がツッコむと、アンバーが笑った。

 

「二人って本当に仲いいんだね!」

 

「まあ、叔父と甥だから」

 

「なるほど!」

 

 そんなやり取りをしている間にも、話は進んでいく。

 

「そして」

 

 ジンが、おじさんを見る。

 

「おじさんにもお願いがあります」

 

「なんだ」

 

「昨日の戦闘で見せてもらった力を考えると、今後の調査や戦闘に協力していただけると助かります」

 

「協力?」

 

「はい」

 

 ジンは頷いた。

 

「正式な騎士団員という意味ではありません。ですが、モンドの危機に対して協力してくれるのであれば、騎士団としても非常に助かります」

 

 おじさんは少し考えた。

 

「分かった」

 

 あっさり答えた。

 

「いいの?」

 

 俺が聞く。

 

「何がだ」

 

「いや、騎士団の仕事を手伝うんだぞ?」

 

「困っているなら手伝えばいい」

 

「……まあ、おじさんらしいけど」

 

 ジンも少しだけ表情を和らげた。

 

「ありがとうございます」

 

 その言葉を聞いて、俺は少し不思議な気持ちになった。

 

 異世界から来たばかり。

 

 身元もよく分からない。

 

 使う魔法も、この世界には存在しない。

 

 それなのに。

 

 おじさんは少しずつモンドで頼られ始めている。

 

 どうしてだろう。

 

 たぶん、特別なことをしているわけじゃない。

 

 おじさんは必要なときに助ける。

 

 昨日だって、風魔龍が襲ってきたとき、まず人を守ろうとした。

 

 戦うときも、無駄に暴れたりしない。

 

 必要なところだけ攻撃する。

 

 そして、終わればいつも通り。

 

「昼飯はどこだ」

 

 みたいなことを言っている。

 

 ……まあ、それはそれでどうなんだと思うけど。

 

「おじさん」

 

「なんだ」

 

「なんか、もう騎士団に普通に馴染んでない?」

 

「そうか?」

 

「そうだよ」

 

 本人は本当に気付いていないらしい。

 

 ジンから協力を頼まれ。

 

 ガイアから情報を共有され。

 

 リサから魔法について質問され。

 

 アンバーからも普通に話しかけられている。

 

 つい昨日まで、俺たちはただの異世界人だった。

 

 それが、今ではモンドの事件に関わる協力者になっている。

 

 少し変な感じがする。

 

 でも。

 

 悪い感じはしなかった。

 

「では、これからも情報を共有しましょう」

 

 ジンが言う。

 

「トワリンとアビス教団について、何か分かったことがあればすぐに知らせます」

 

「分かった」

 

 おじさんが頷く。

 

「俺たちも、何か見つけたら伝える」

 

 俺も答えた。

 

 部屋を出る。

 

 廊下を歩きながら、俺は考えていた。

 

 ゲームなら、この先に起こることをある程度知っている。

 

 でも。

 

 ここでは、その知識だけに頼るわけにはいかない。

 

 おじさんがいる。

 

 精霊魔法がある。

 

 俺たち自身も、この世界に来ている。

 

 ゲームにはなかった要素が、もういくつも増えている。

 

「たかふみ」

 

「ん?」

 

「次はどこへ行く」

 

「……事件の調査じゃない?」

 

「そうか」

 

「いや、おじさんが協力者になったんだから、ちゃんと働こうな」

 

「分かった」

 

 おじさんはいつもの調子で頷いた。

 

 俺はその横を歩きながら、苦笑する。

 

 こうして俺たちは、少しずつモンドの一員として事件に関わっていくことになった。

 

 そして。

 

 風魔龍トワリンを巡る事件も、まだ始まったばかりだった。

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