原神転移 異世界おじさん   作:ところてんの

17 / 17
第17話「二人の剣士」

 森の中に、先ほどまで響いていた戦闘の音が消えていた。

 

 ヒルチャールたちの雄叫びも、武器がぶつかる音も、もう聞こえない。

 

 残っているのは、木々の葉が風に揺れる音だけだった。

 

 たかふみは大きく息を吐いた。

 

「……結構いたな」

 

 森を抜けた少し開けた場所。

 

 近くにあった岩へ腰を下ろし、持っていた水を飲む。

 

 冷たい水が喉を通っていく。

 

 ようやく身体から力が抜けていくような気がした。

 

「うん」

 

 隣では蛍が剣を収めていた。

 

 服についた土を軽く払ってから、周囲を確認する。

 

 戦闘の跡はあちこちに残っていた。

 

 踏み荒らされた草。

 

 折れた枝。

 

 地面に残った足跡。

 

 少し離れた場所には、倒れたヒルチャールたちの姿もある。

 

「でも、思ったより早く終わった」

 

「それは二人の連携がよかったからだろ」

 

 たかふみは、おじさんと蛍を見る。

 

 さっきの戦いを思い返す。

 

 最初は、それぞれが自分の判断で動いていた。

 

 蛍は前に出て敵を引きつけ、おじさんは周囲を見ながら動いていた。

 

 けれど、戦いが進むにつれて二人の動きが変わっていった。

 

 蛍が敵を動かす。

 

 おじさんがその隙を突く。

 

 おじさんが敵の動きを止めれば、蛍が攻撃する。

 

 まるで最初から一緒に戦っていたような動きだった。

 

「特に途中から、かなり自然に動いてたよな」

 

「そうか?」

 

 おじさんは特に気にした様子もない。

 

 戦闘が終わったからといって、気を抜いているわけでもない。

 

 森の奥へ視線を向け、まだ敵が残っていないか確認している。

 

「そうだよ」

 

 蛍もおじさんを見る。

 

「おじさんの戦い方、少し分かってきた」

 

「俺も蛍の動きは分かってきた」

 

「へえ」

 

 たかふみは二人を交互に見る。

 

 この二人、本人たちが思っている以上に息が合っているんじゃないだろうか。

 

 そんなことを考えながら、たかふみは口を開いた。

 

「じゃあ、ちょっと聞いていい?」

 

「何?」

 

「蛍は元素を使って戦うんだよな?」

 

「そう」

 

 蛍が答える。

 

 彼女は腰の剣へ手を添えながら、簡単に説明した。

 

「剣を使って、元素の力も使う」

 

「なるほど」

 

 たかふみは頷いた。

 

 これは、ゲームで知っていることと変わらない。

 

 旅人である蛍は、元素の力を使って戦う。

 

 だが――。

 

「おじさんは?」

 

 たかふみが振り向く。

 

「精霊魔法と剣だ」

 

「やっぱりそこだよな」

 

 たかふみは、さっきの戦闘で見た光の剣を思い出した。

 

 おじさんが手にした剣。

 

 刃そのものが淡く光っていて、普通の武器とは明らかに違っていた。

 

 少なくとも、元素で作られたものではない。

 

「おじさんの剣って、元素じゃないんだよな?」

 

「ああ」

 

「どうやって出してるんだ?」

 

「精霊に頼んで出している」

 

「……」

 

 たかふみは数秒黙った。

 

 おじさんは何でもないことのように答えている。

 

 その顔には、これ以上説明するつもりがあるようには見えない。

 

「また説明が短い」

 

「必要か?」

 

「いや、必要だろ」

 

 思わず突っ込む。

 

 おじさんにとっては、精霊に頼んで出している。

 

 それで説明終了なのだろう。

 

 だが、聞いている側からすれば疑問しか残らない。

 

 そもそも精霊とは何なのか。

 

 どうやって契約しているのか。

 

 なぜ剣になるのか。

 

 どうして光っているのか。

 

 聞きたいことはいくらでもある。

 

 蛍とパイモンも、少しだけおじさんを見る。

 

「おじさんって、そういうところあるよな」

 

 パイモンが呆れたように言った。

 

「別に隠してるわけじゃないぞ」

 

「でも説明してないぞ!」

 

「聞かれなかったからな」

 

「いや、今聞いただろ!」

 

 たかふみが頭を抱える。

 

「今まさに聞いてるだろ!」

 

「そうだったか?」

 

「そうだよ!」

 

 おじさんは少し考えた。

 

 だが、結局それ以上詳しく説明することはなかった。

 

 たかふみは諦めた。

 

 昔からそういう人なのだ。

 

 必要なことは話す。

 

 だが、本人が必要ないと思ったことは、とことん説明しない。

 

 そんなやり取りを見て、蛍が小さく笑った。

 

「でも、戦い方は分かりやすかった」

 

「そう?」

 

「ああ」

 

 おじさんは蛍を見る。

 

「お前は元素を使って敵の動きを変える」

 

「うん」

 

「その隙を俺が狙う」

 

「私も、おじさんが敵を止めたら攻撃する」

 

「なるほど……」

 

 たかふみは、先ほどの戦闘を思い返した。

 

 最初に蛍が前へ出た。

 

 敵の注意を引きつける。

 

 ヒルチャールが蛍へ集中したところで、おじさんが横から入る。

 

 そして、精霊魔法で敵の動きを止める。

 

 そこで蛍が攻撃する。

 

 逆に、おじさんが前に出たときには、蛍が敵の注意を引きつける。

 

 互いに同じことをしているわけではない。

 

 それぞれが違う役割を持っている。

 

 その違いが、むしろ噛み合っている。

 

「意外と合ってるな……」

 

 たかふみが感心する。

 

「そうみたい」

 

 蛍も頷いた。

 

 蛍はおじさんの戦い方を思い出すように、少しだけ考える。

 

「おじさんは、あまり無理に攻撃しないんだね」

 

「必要以上に動く必要はないからな」

 

 おじさんは周囲を見る。

 

 戦闘が終わったあとでも、その視線は森の中を追っている。

 

「敵の数、地形、距離を確認する。それから必要な力を使う」

 

「確かに」

 

 たかふみも頷いた。

 

 思い返せば、さっきもそうだった。

 

 おじさんはヒルチャールが出てきた瞬間、すぐに突っ込んだわけではない。

 

 まず敵の数を確認した。

 

 武器を見た。

 

 こちらとの距離を見た。

 

 周囲の地形も確認していた。

 

 その上で、必要な精霊魔法を使っていた。

 

 光の剣を出したのも、その後だった。

 

 最初から派手な攻撃を繰り出すわけではない。

 

 相手を見て。

 

 状況を見て。

 

 必要なものだけを使う。

 

 おじさんの戦い方は、そういうものだった。

 

 精霊魔法も、ただ敵を倒すためだけに使っているわけではない。

 

 敵の動きを止める。

 

 移動する。

 

 距離を取る。

 

 相手の位置を変える。

 

 自分たちが有利な場所へ移動する。

 

 そうやって状況そのものを変えていく。

 

 そして最後に、光の剣で仕留める。

 

 一方、蛍は状況に応じて元素を使い分ける。

 

 剣だけでは対応できない相手には元素を使い、攻撃の隙を作る。

 

 必要なら元素反応も利用する。

 

 たかふみは二人を見ながら思った。

 

 同じ剣士でも、戦い方はまったく違う。

 

「二人とも、全然違うんだな」

 

 たかふみが言う。

 

「そうだな」

 

 おじさんが答える。

 

「でも、それでいいと思う」

 

 蛍が言った。

 

「違うから、補える」

 

「……確かに」

 

 たかふみは納得した。

 

 もし二人とも同じ戦い方なら、同じ弱点を抱えることになる。

 

 近距離戦が得意なら、遠距離への対応に苦労するかもしれない。

 

 元素に頼るなら、元素が通じにくい相手への対応が必要になる。

 

 逆に、精霊魔法に頼るなら、その魔法が使いにくい状況もあるだろう。

 

 けれど、二人にはそれぞれ違う力がある。

 

 蛍には元素。

 

 おじさんには精霊魔法。

 

 そして二人とも剣を使う。

 

 同じ部分がありながら、違う部分もある。

 

 だからこそ、相手が作った隙をもう一人が利用できる。

 

「次からも一緒に戦えそうだね」

 

 蛍がおじさんを見る。

 

「ああ」

 

 おじさんは短く頷いた。

 

「よろしく」

 

「こちらこそ」

 

 二人は自然に頷き合った。

 

「……」

 

 たかふみは、その様子を見ていた。

 

 つい少し前まで、おじさんと蛍は一緒に戦うことすら決まっていなかった。

 

 最初は、それぞれが自分の判断で動いていた。

 

 それが今では、互いの戦い方を理解し始めている。

 

 まだ完全に息が合っているわけではない。

 

 戦闘になれば、予想外のことも起きるだろう。

 

 それでも、さっきの戦いを見る限り、この二人が一緒に戦うことには大きな意味がありそうだった。

 

(この組み合わせ……結構強いんじゃないか?)

 

 たかふみはそんなことを考えた。

 

 ゲームで知っている蛍。

 

 そして、ゲームには存在しないおじさん。

 

 本来なら交わるはずのなかった二人が、今は同じ場所で剣を握っている。

 

 しかも、それが少しずつ自然になっている。

 

 たかふみは妙な感覚を覚えた。

 

 自分が知っている原神の世界。

 

 そのはずなのに、知らない光景が増えている。

 

 風魔龍の事件が終わったあとも、魔物の活動は続いている。

 

 自分たちは調査のために森を歩いている。

 

 そして、蛍とおじさんは新しい戦い方を身につけ始めている。

 

 ゲームの中では存在しなかった組み合わせ。

 

 それが現実になっている。

 

「たかふみ、そろそろ行こう」

 

 蛍が立ち上がった。

 

「ああ」

 

 たかふみも立ち上がる。

 

 座っていた岩から離れ、服についた土を払う。

 

 おじさんも腰を上げた。

 

 そして、森の奥へ視線を向ける。

 

「調査を続けるぞ」

 

「了解」

 

「分かった」

 

「オイラも行くぞ!」

 

 パイモンも元気よく飛び上がった。

 

 四人は再び森の中へ歩き出す。

 

 さっきまで戦っていた場所を離れ、さらに奥へ進む。

 

 木々の隙間から差し込む光が、地面に細長い影を作っている。

 

 風が吹けば、葉が一斉に揺れた。

 

 戦闘が終わったことで、森は再び静けさを取り戻していた。

 

 だが、たかふみは完全には安心できなかった。

 

 ここは、まだ調査の途中だ。

 

 先ほどのヒルチャールたちが、この森にいるすべてとは限らない。

 

 むしろ、風魔龍の襲撃以降に魔物の活動が広がっているなら、別の場所にも同じような集団がいる可能性がある。

 

 おじさんも同じことを考えているのか、歩きながら何度も周囲を確認している。

 

 蛍も時々足を止め、森の奥へ目を向ける。

 

 パイモンだけは、そんな二人を見ながらいつもの調子だった。

 

「なあ、次はどこを調べるんだ?」

 

「もう少し奥だな」

 

 おじさんが答える。

 

「まだ何かあるのか?」

 

「分からない」

 

「分からないのかよ!」

 

 たかふみが思わず言う。

 

「だから調べている」

 

「そりゃそうだけどさ」

 

 蛍が小さく笑う。

 

 たかふみも苦笑した。

 

 結局、分からないことを確かめるために来ている。

 

 ゲームの知識があったとしても、目の前の森で何が起こるのかまでは分からない。

 

 だから、自分たちで確認するしかない。

 

 たかふみは歩きながら、ふと前方を見た。

 

 木々の向こうに、細い道が続いている。

 

 その先はまだ見えない。

 

 何が待っているのかも分からない。

 

 それでも四人は歩いていく。

 

 元素を使う旅人。

 

 精霊魔法を使う異世界人。

 

 二人の剣士の戦い方は、まったく違う。

 

 けれど、その違いが互いの力を補っていた。

 

 今日の戦いは、そのことを確かめる機会になった。

 

 そして――。

 

 この組み合わせは、これからの旅でも少しずつ形を変えていくことになる。

 

 まだ始まったばかりの旅。

 

 モンドで起きている異変も、終わったわけではない。

 

 四人は森の奥へと進んでいった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。