異世界おじさん、原神の世界へ   作:ところてんの

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第18話「奔狼領」

 風魔龍の襲撃から、しばらく。

 

 モンドの街は少しずつ日常を取り戻しつつあった。

 

 壊れた建物の修復。

 

 散らばった瓦礫の撤去。

 

 負傷した騎士たちの治療。

 

 大きな事件が終わったからといって、すぐに何もかも元通りになるわけではない。

 

 そして、街の外では別の問題が起きていた。

 

 魔物の活動が増えている。

 

 風魔龍の襲撃以降、モンド周辺ではヒルチャールを中心とした魔物の目撃情報が相次いでいた。

 

 西風騎士団も各地へ調査隊を派遣している。

 

 その一環として、たかふみたちはモンドの北西。

 

 森林地帯――奔狼領へ向かっていた。

 

「……ここまで来ると、だいぶ雰囲気が変わるな」

 

 たかふみは周囲を見回した。

 

 モンドの街中とは違う。

 

 人の声も、建物の音もない。

 

 代わりに聞こえるのは、木々の葉が風に揺れる音と、遠くで鳥が鳴く声だけだった。

 

 木々は密集している。

 

 地面には草が生い茂り、ところどころ木の根がむき出しになっていた。

 

「森って感じだな!」

 

 パイモンが辺りを見回す。

 

「でも、静かすぎないか?」

 

「そう?」

 

 蛍が首を傾げる。

 

「うん。もっと動物とかいそうな感じなのに」

 

 たかふみは答えながら、周囲を見る。

 

 ゲームで知っている奔狼領。

 

 画面の中では、何度も歩いた場所だった。

 

 けれど。

 

 実際に立ってみると、印象がかなり違う。

 

 木々の一本一本が大きい。

 

 足元の草も妙に生々しい。

 

 風が吹けば枝が揺れ、葉が擦れる音まで聞こえる。

 

 ゲーム画面では数メートル先まで普通に見えていた場所も、今では木々が邪魔をして視界が通らない。

 

 そして何より。

 

 ここには、危険がある。

 

 ゲームなら敵が出てくる場所として認識していた。

 

 だが、今は違う。

 

 実際に敵が出てきたら、本当に襲われる。

 

「……」

 

 たかふみが黙っていると、隣を歩いていたおじさんが足を止めた。

 

「……いるな」

 

「え?」

 

 たかふみが振り返る。

 

「何が?」

 

「魔物」

 

「どこ?」

 

「少し先」

 

 おじさんは森の奥を見ていた。

 

 まだ、何も見えない。

 

 たかふみも目を凝らす。

 

 木。

 

 草。

 

 木。

 

 また草。

 

 それだけだ。

 

「俺には何も見えないけど」

 

「まだ見えない」

 

「じゃあ、どうして分かるんだよ」

 

「気配」

 

「……相変わらずだな」

 

 たかふみは小さく息を吐いた。

 

 おじさんは、こういう時だけ異様に鋭い。

 

 ゲーム知識がある自分でも分からないことを、普通に感覚で見つける。

 

 おじさんは周囲を確認すると、ゆっくりと目を閉じた。

 

「探る」

 

 精霊へ意識を向ける。

 

 風そのものを操る元素魔法とは違う。

 

 精霊との意思疎通を通して、周囲の気配を拾っていく。

 

 おじさん独自の感知。

 

 森の中へと、その感覚が広がっていく。

 

 しばらくして、おじさんが目を開けた。

 

「……複数いる」

 

「ヒルチャール?」

 

 蛍が尋ねる。

 

「ああ」

 

「何体?」

 

「十体以上」

 

「十体以上!?」

 

 たかふみが思わず声を上げる。

 

 パイモンも慌てて辺りを見回した。

 

「そんなにいるのか!?」

 

「近づいてる」

 

「おいおい……」

 

 たかふみは剣を持っていない自分の手を見る。

 

 自分が戦闘要員ではないことは分かっている。

 

 だからこそ、敵の位置を伝える。

 

 それが今の自分にできることだ。

 

 木々の向こうから、音が聞こえた。

 

 草を踏む音。

 

 何かを引きずる音。

 

 そして――。

 

 ギャッ。

 

 ギャッ、ギャッ。

 

「来るぞ!」

 

 蛍が剣を抜く。

 

 森の奥から、ヒルチャールたちが姿を現した。

 

 棍棒を持った個体。

 

 弓を構えた個体。

 

 盾を持った個体。

 

 一体だけではない。

 

 次々と木々の間から現れる。

 

「右に四!」

 

 たかふみが叫ぶ。

 

「左は三!」

 

「分かった」

 

 おじさんが右を見る。

 

 蛍は左へ。

 

 同時に、ヒルチャールたちが一斉に走り出した。

 

「おじさん、右!」

 

「ああ」

 

 おじさんの手に光が集まる。

 

「キライド ルギド リオルラン――光剣顕現」

 

 光が凝縮する。

 

 一本の剣。

 

 淡い光を放つ剣身が、森の中に現れた。

 

 ヒルチャールが棍棒を振り下ろす。

 

 おじさんは真正面から受け止めなかった。

 

 半歩だけ横へ。

 

 棍棒を紙一重で避ける。

 

 そのまま光剣を横へ払った。

 

 ガッ!

 

 ヒルチャールの武器が弾き飛ばされる。

 

「一体!」

 

 たかふみが叫ぶ。

 

「左に二!」

 

 蛍が駆ける。

 

 向かってきた二体のヒルチャールへ、一気に接近。

 

 剣を振る。

 

 風の力が刃にまとわりつき、二体の動きを崩した。

 

 片方が体勢を崩す。

 

 蛍はその隙を逃さない。

 

 踏み込む。

 

 一撃。

 

 そして、もう一体へ。

 

「……!」

 

 蛍が敵を倒す。

 

「蛍、後ろ!」

 

 たかふみが叫んだ。

 

 振り向く。

 

 弓を構えたヒルチャール。

 

 矢が放たれる。

 

 しかし、その前におじさんが動いた。

 

 光剣を振る。

 

 飛んできた矢を弾き飛ばす。

 

「助かった」

 

「気をつけろ」

 

「うん」

 

 短いやり取り。

 

 それだけで二人は再び別々の敵へ向かった。

 

 たかふみはその様子を見ながら、少しだけ驚いていた。

 

 昨日までなら、もっと声を掛け合っていた。

 

 今は違う。

 

 相手が何をするか。

 

 どこへ動くか。

 

 それが、ある程度分かるようになっている。

 

 蛍がおじさんの作った隙を利用する。

 

 おじさんが蛍の動きに合わせて敵を押し込む。

 

 二人の戦い方が、少しずつ噛み合ってきている。

 

 ――その時だった。

 

「……待って」

 

 たかふみが顔を上げる。

 

「何かおかしい」

 

「どうした?」

 

 パイモンが聞く。

 

「数が……」

 

 森の奥。

 

 新しい影が動いた。

 

「……増えた!」

 

「ええ!?」

 

 パイモンが叫ぶ。

 

 さらにヒルチャールが現れる。

 

 一体。

 

 二体。

 

 三体。

 

 その後ろから、さらに別の個体。

 

「数、多くないか!?」

 

「さっきより増えてる!」

 

 パイモンが慌てる。

 

「まだいる」

 

 おじさんが冷静に答えた。

 

「まだいるのかよ!」

 

 たかふみが思わず叫ぶ。

 

 おじさんは周囲を見る。

 

 敵は散らばっている。

 

 このまま一体ずつ相手にするのは面倒だ。

 

 なら。

 

「まとめる」

 

 おじさんが手をかざした。

 

 地面が淡く光る。

 

「レグスウルド スタッガ――縛動 拘鎖」

 

 次の瞬間。

 

 地面から光の鎖が伸びた。

 

 まるで生き物のように地面を走り、ヒルチャールの足へ絡みつく。

 

「ギャッ!?」

 

 逃げようとした個体が転倒する。

 

 別の個体にも鎖が絡みつく。

 

 さらにもう一体。

 

 敵の動きが一気に鈍った。

 

「今だ」

 

 おじさんが言う。

 

「うん!」

 

 蛍が駆けた。

 

 拘束された敵へ一気に接近。

 

 剣を振る。

 

 ヒルチャールが倒れる。

 

 次。

 

 さらに次。

 

 おじさんは鎖で敵の動きを抑え、蛍がその隙を突く。

 

 たかふみは後方から状況を確認する。

 

「右、あと二!」

 

「分かった!」

 

「左の盾持ち、まだ動ける!」

 

 蛍が方向を変える。

 

 盾持ちのヒルチャールが盾を構えた。

 

 正面からでは攻撃が通りにくい。

 

 蛍が足を止める。

 

 その瞬間。

 

 おじさんが横から入り込んだ。

 

 光剣が盾を叩く。

 

 ガンッ!

 

 盾がわずかに浮く。

 

 その一瞬。

 

 蛍が踏み込んだ。

 

 斬撃。

 

 ヒルチャールが倒れる。

 

「残り一!」

 

 たかふみが叫ぶ。

 

 最後の一体が逃げようとする。

 

 だが。

 

 その足元に、再び光の鎖。

 

「レグスウルド スタッガ――縛動 拘鎖」

 

 逃走を阻止。

 

 おじさんが距離を詰める。

 

 光剣で武器だけを弾く。

 

 蛍が最後の一撃を入れた。

 

 ドサッ。

 

 森が静かになる。

 

「……終わった?」

 

 パイモンが恐る恐る辺りを見る。

 

「終わった」

 

 おじさんが答えた。

 

「ふう……」

 

 たかふみが息を吐く。

 

「思ったより多かったな」

 

「うん」

 

 蛍も周囲を見る。

 

 倒れたヒルチャール。

 

 折れた木の枝。

 

 踏み荒らされた草。

 

 戦闘の痕跡が残っている。

 

「やっぱり増えてる」

 

「風魔龍の影響かな?」

 

 パイモンが言う。

 

「可能性はある」

 

 蛍が答える。

 

 だが。

 

 おじさんは何も言わなかった。

 

 地面を見ている。

 

「どうした?」

 

 たかふみが尋ねる。

 

「……魔物だけじゃない」

 

「え?」

 

「森の奥に、別の気配がある」

 

 おじさんが森の奥を見る。

 

「別の?」

 

 たかふみの表情が変わる。

 

 パイモンも身構えた。

 

「ヒルチャールじゃないのか?」

 

「違う」

 

 おじさんは光剣を消さず、そのまま構えた。

 

「気をつけろ」

 

 蛍も剣を構える。

 

 森の奥。

 

 何かがいる。

 

 低い音が聞こえた。

 

「……グルル……」

 

「……!」

 

 全員がそちらを見る。

 

 しかし、何も出てこない。

 

「今の、何だ?」

 

 たかふみが小声で言う。

 

「分からない」

 

 蛍も警戒している。

 

 パイモンが後ろへ少し下がる。

 

「なんか怖いぞ……」

 

 その時。

 

 木々の向こうから、人影が現れた。

 

 少年だった。

 

 銀色の髪。

 

 鋭い目。

 

 大きな剣。

 

 普通の少年とは明らかに違う雰囲気を持っている。

 

「……人?」

 

 パイモンが首を傾げる。

 

 少年はこちらを見る。

 

 視線が、おじさんの光剣へ向いた。

 

 次に、倒れているヒルチャールを見る。

 

「……誰?」

 

 蛍が答える。

 

「私たちはモンドから来た。魔物の調査をしている」

 

「モンド……」

 

 少年は少し考える。

 

 そして、ヒルチャールを見る。

 

「ここ、俺の場所」

 

 大剣を握り直す。

 

「ヒルチャール、出ていけ」

 

「いや、もう倒してるけど……」

 

 たかふみが思わず呟く。

 

 少年がこちらを見る。

 

 そして。

 

 地面を蹴った。

 

「速っ!」

 

 たかふみが叫ぶ。

 

 少年――レザーが一気に距離を詰める。

 

 大剣が振り下ろされた。

 

 おじさんは光剣を構える。

 

 ――ガキィン!

 

 激しい金属音。

 

 おじさんの足元の土が沈む。

 

「……!」

 

 わずかに後ろへ下がった。

 

 レザーは止まらない。

 

 大剣を横薙ぎ。

 

 おじさんは身を低くして避ける。

 

 そのまま距離を取った。

 

「おじさん!」

 

「大丈夫だ」

 

 おじさんは冷静だった。

 

 レザーを見る。

 

「力があるな」

 

 少年は大剣を構えたまま、おじさんを見ている。

 

「お前……変な力」

 

「そうか?」

 

「風?」

 

 レザーの目が光剣へ向く。

 

「風、使ってる?」

 

「風に近い」

 

 おじさんは答える。

 

「精霊魔法だ」

 

「精霊……?」

 

 レザーが首を傾げる。

 

「元素と、違う?」

 

「ああ」

 

「……不思議な力」

 

 レザーは警戒しながらも、興味を持ったようだった。

 

 たかふみは少し驚いた。

 

 初対面で、そこまで違いを感じ取ったのか。

 

「分かるのか?」

 

 思わず口に出す。

 

 レザーがたかふみを見る。

 

「何が?」

 

「いや……なんでもない」

 

 たかふみは口を閉じた。

 

 ゲームで知っているレザー。

 

 元素を扱う存在。

 

 狼と共に暮らしている少年。

 

 それくらいの知識はある。

 

 でも。

 

 実際に目の前にいるレザーは、ゲームの設定資料ではない。

 

 ちゃんとこちらを見ている。

 

 ちゃんと会話している。

 

 そして、さっきの一撃は本気で重かった。

 

「オイラはパイモンだぞ!」

 

 突然、パイモンが前へ出た。

 

「お前、名前は?」

 

「レザー」

 

「レザーか!」

 

 パイモンはすぐに笑顔になった。

 

「よろしくな、レザー!」

 

「……よろしく」

 

 レザーは短く答えた。

 

「オイラたちはモンドから来たんだ。最近、魔物が増えてるから調べてるんだぞ」

 

「魔物、多い」

 

 レザーは森の奥を見る。

 

「最近、ヒルチャール、多い」

 

「やっぱり?」

 

 蛍が聞く。

 

「うん」

 

「この辺だけ?」

 

「分からない」

 

 レザーは首を振る。

 

「でも、前より多い」

 

 たかふみは黙って聞いていた。

 

 騎士団から聞いた話とも一致する。

 

 やはり、奔狼領でも魔物の活動は増えている。

 

「他にもいる」

 

 レザーが言った。

 

「まだいるのか?」

 

 たかふみが聞く。

 

「いる」

 

 レザーは頷いた。

 

「森の奥」

 

「案内できる?」

 

 蛍が尋ねる。

 

「できる」

 

 レザーは即答した。

 

「俺、森、知ってる」

 

 そこで、おじさんが口を開いた。

 

「助かる」

 

 レザーが、おじさんを見る。

 

「お前、名前は?」

 

「ああ」

 

 おじさんは少し考えた。

 

 たかふみは嫌な予感がした。

 

「……ウルフガンブラッド」

 

「…………」

 

 たかふみの顔が固まった。

 

「……は?」

 

 パイモンも首を傾げる。

 

「ウルフ……なんだって?」

 

「ウルフガンブラッド」

 

「いや、おじさん」

 

 たかふみが即座に割り込む。

 

「なんでそこでそれなんだよ」

 

「必要だからだ」

 

「いや、必要だからって……」

 

「身元を隠す」

 

「だったら、せめてもう少し普通の名前にしろよ!」

 

 おじさんは真顔だった。

 

「普通の名前を名乗る意味がない」

 

「そういう問題じゃない!」

 

 蛍が二人を見る。

 

「……偽名?」

 

「ああ」

 

 おじさんが答える。

 

「念のためだ」

 

「念のためねぇ……」

 

 たかふみは額を押さえた。

 

 この人は本当に昔からこうだ。

 

 異世界での経験からなのか、知らない人間に本名を教えないことだけは妙に徹底している。

 

「おまえは?」

 

 レザーが尋ねた。

 

「俺?」

 

「名前」

 

「ああ。俺は、たかふみ」

 

「たかふみ」

 

「そう」

 

 レザーが頷く。

 

 そしておじさんを見る。

 

「ウルフガンブラッド」

 

「ああ」

 

 おじさんが頷く。

 

「……長い」

 

 レザーが言った。

 

「だろ?」

 

 たかふみが即座に返した。

 

「おい」

 

「いや、俺もそう思うから」

 

 パイモンが腕を組む。

 

「オイラも覚えにくいぞ!」

 

「必要なら覚えればいい」

 

「そこは普通に短くしろよ!」

 

 おじさんは気にしていない。

 

「問題ない」

 

「いや、問題あるから!」

 

 たかふみのツッコミが森に響いた。

 

 蛍は少しだけ口元を緩めた。

 

 レザーは三人を見比べている。

 

「……おじさん?」

 

 レザーが言った。

 

「え?」

 

 たかふみが振り返る。

 

「どうした?」

 

「お前、ウルフガンブラッド?」

 

 レザーが尋ねる。

 

 たかふみは答える。

 

「そう。……たぶん」

 

「たぶんじゃない」

 

 おじさんが淡々と訂正する。

 

「いや、おじさんって呼ばれてるじゃん」

 

「それはたかふみが呼んでるだけだろ」

 

「でも、もう俺にはおじさんだし」

 

 パイモンが笑う。

 

「オイラもおじさんって呼ぶぞ!」

 

「……」

 

 おじさんは少し考える。

 

「好きにしろ」

 

「いいのかよ!」

 

 たかふみが突っ込む。

 

 こうして。

 

 おじさんが偽名を名乗ったにもかかわらず。

 

 結局、本人以外はいつも通り「おじさん」と呼ぶことになった。

 

 レザーもそれ以上、名前について追及しなかった。

 

「行く」

 

 レザーが森の奥へ向かう。

 

「案内する」

 

「分かった」

 

 蛍が後に続く。

 

「待ってくれよ!」

 

 パイモンも追いかける。

 

 たかふみも歩き出した。

 

 その隣を、おじさんが歩く。

 

「なあ、おじさん」

 

「何だ」

 

「偽名、必要なのは分かったけどさ」

 

「うん」

 

「今後も毎回変えるつもり?」

 

「場合による」

 

「統一しろよ……」

 

「必要なら使い分ける」

 

「そこだけ妙に合理的なのやめてくれ」

 

 おじさんは答えない。

 

 ただ、前を歩くレザーを見る。

 

 森の中。

 

 魔物の気配はまだ消えていない。

 

 むしろ奥へ進むほど、濃くなっている。

 

「……まだいる」

 

 おじさんが呟いた。

 

「分かる?」

 

 蛍が聞く。

 

「ああ」

 

「何体?」

 

「まだ正確には分からない」

 

 たかふみは周囲を見る。

 

 木々の間。

 

 足跡。

 

 折れた枝。

 

 そして、何かが通ったような跡。

 

 ゲームなら、ここから何かが起きる。

 

 そういう知識が頭をよぎる。

 

 でも。

 

 もう、簡単には信じられない。

 

 風魔龍の件もそうだった。

 

 自分が知っている世界。

 

 自分が知っている物語。

 

 それが、そのまま現実になるとは限らない。

 

 隣を見る。

 

 おじさんがいる。

 

 前には蛍とパイモン。

 

 さらにその先には、レザー。

 

 ゲームの中では存在しなかった組み合わせだ。

 

 だからこそ。

 

 これから何が起きるのかは分からない。

 

「まあ……」

 

 たかふみは小さく呟いた。

 

「考えても仕方ないか」

 

「何が?」

 

 パイモンが振り返る。

 

「いや、なんでもない」

 

「変なたかふみだな!」

 

 パイモンが笑う。

 

 たかふみも苦笑した。

 

 そのまま、四人はレザーの後を追う。

 

 森の奥へ。

 

 奔狼領のさらに深い場所へ。

 

 魔物が増えた理由を探るために。

 

 そして――。

 

 そこで待っている、まだ知らない何かへ向かって。

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