異世界おじさん、原神の世界へ   作:ところてんの

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第23話「ベネットの冒険団」

 モンドから少し離れた場所。

 

 草原を抜けた先に、古びた遺跡があった。

 

 崩れかけた石壁。

 

 苔の生えた柱。

 

 入口には長い年月の間、誰にも使われていないような重い扉がある。

 

「ここだ!」

 

 ベネットが遺跡を指差した。

 

「俺が前から目をつけてた遺跡なんだ!」

 

「へえ」

 

 たかふみは入口を見る。

 

「ずいぶん古そうだな」

 

「ああ!」

 

 ベネットは嬉しそうだった。

 

「中に何があるのか、まだ分かってないんだ!」

 

「だから調査するの?」

 

「そう!」

 

 ベネットは拳を握る。

 

「これぞ冒険って感じだろ?」

 

「まあ、確かに」

 

 たかふみは頷いた。

 

 ただし。

 

 隣にいるおじさんを見る。

 

「おじさんは?」

 

「遺跡なら罠がある可能性が高い」

 

「だよな」

 

「慎重に進む」

 

 おじさんは入口を見ながら言った。

 

「ベネット」

 

「ん?」

 

「先頭は俺が行く」

 

「え?」

 

 ベネットが少し驚く。

 

「俺が案内するんじゃないのか?」

 

「お前は危ない」

 

「大丈夫だって!」

 

「昨日も転んだ」

 

「それは……」

 

 ベネットが少し黙る。

 

「たまたまだ!」

 

 たかふみがため息をついた。

 

「その『たまたま』が多いんだよ」

 

「ははは!」

 

 ベネットは気にしていない。

 

「じゃあ、俺が先に行く!」

 

「話聞いてた?」

 

 たかふみが突っ込む。

 

 結局。

 

 ベネットが先頭。

 

 その後ろにおじさん。

 

 さらに蛍、たかふみ、パイモンという順番になった。

 

「……これ、大丈夫かな」

 

 たかふみが呟く。

 

「大丈夫だ!」

 

 ベネットが振り返る。

 

「俺がちゃんと案内するからな!」

 

 そう言った直後だった。

 

「こっちだ!」

 

 ベネットが遺跡の中へ走り出す。

 

「おい、待て!」

 

 たかふみが声を上げる。

 

 しかし。

 

 ベネットは止まらなかった。

 

 数歩進んだところで――。

 

 パキッ。

 

「ん?」

 

 ベネットが足元を見る。

 

 石床に亀裂が入った。

 

「……あ」

 

 次の瞬間。

 

 ガラガラガラッ!

 

「うわああああっ!」

 

 床が崩れた。

 

 ベネットの身体が落下する。

 

「ベネット!」

 

 蛍が駆け出す。

 

 だが、その前に。

 

 おじさんが手を伸ばした。

 

「スタッガ マグナ――牽操」

 

 見えない力がベネットの身体を引き寄せる。

 

「うおっ!」

 

 落下していたベネットが空中で止まった。

 

 そのまま床の上へ引き戻される。

 

 ドサッ。

 

「……」

 

 ベネットが仰向けになる。

 

「助かった!」

 

 おじさんはベネットを見る。

 

「前を見て歩け」

 

「気をつけてたんだけどな!」

 

「どこを見ていた」

 

「前!」

 

「床は見ていない」

 

「……」

 

 ベネットが黙った。

 

 たかふみは苦笑する。

 

「それ、気をつけてるって言わないからな」

 

「次は大丈夫!」

 

「さっきも聞いた気がする」

 

 パイモンが呆れたように言う。

 

「ベネットって、いつもこんな感じなのか?」

 

「うん!」

 

 本人だけは元気だった。

 

「でも、死ぬようなことは今までなかったぞ!」

 

「それは周りが助けてくれたからじゃないのか?」

 

「……そうかも!」

 

 ベネットは笑った。

 

 おじさんは何も言わず、崩れた床を確認する。

 

「下は深い」

 

「え?」

 

 たかふみも覗き込む。

 

 暗闇の中に、崩れた石と古い柱が見える。

 

「落ちてたら危なかったな……」

 

「だから言った」

 

 おじさんが立ち上がる。

 

「今度から俺が先に行く」

 

「分かった!」

 

 ベネットが素直に頷いた。

 

 今度こそ。

 

 おじさんが先頭に立った。

 

 遺跡の奥へ進む。

 

 内部は薄暗く、外から入る光もほとんど届かない。

 

 壁には古い紋様が刻まれている。

 

「何の遺跡なんだろう?」

 

 蛍が壁を見る。

 

「分からないな」

 

 たかふみも見回す。

 

 ゲームに登場した遺跡とは少し違う。

 

 少なくとも、自分の知っている場所ではない。

 

「この先に仕掛けがあるかもしれない」

 

 おじさんが足を止めた。

 

「仕掛け?」

 

「床の形が違う」

 

 おじさんが指差す。

 

 数枚の石板。

 

 その一つだけ、わずかに沈んでいる。

 

「踏むなよ」

 

 全員が止まる。

 

「分かった!」

 

 ベネットが返事をする。

 

「じゃあ、こっちだな!」

 

「待て」

 

 ベネットが別の石板へ足を乗せようとする。

 

「そこも罠かもしれない」

 

「あっ」

 

 ベネットが足を止める。

 

「危なかった!」

 

 たかふみが額を押さえた。

 

「……本当に危なかったな」

 

「おじさんがいなかったら、どうなってたんだろう」

 

 蛍が言う。

 

「さあ」

 

 おじさんは淡々としている。

 

「だから慎重に進む」

 

 少しずつ進んでいく。

 

 いくつもの仕掛けを避ける。

 

 床の沈み。

 

 壁の穴。

 

 動く石像。

 

 古い遺跡には、侵入者を拒むための仕掛けがいくつも残されていた。

 

 そして。

 

 ベネットがまた見つけた。

 

「なあ、これ何だ?」

 

「触るな」

 

 おじさんが即答する。

 

「まだ何もしてないぞ!」

 

「触ろうとしている」

 

「……」

 

 ベネットが手を引っ込める。

 

 たかふみが笑う。

 

「おじさん、よく分かるな」

 

「動きで分かる」

 

「なるほど」

 

 そのとき。

 

 ベネットが別の場所へ視線を向けた。

 

「じゃあ、これは?」

 

「待て」

 

 カチッ。

 

「……」

 

 ベネットが固まった。

 

「押したな」

 

「……押した」

 

 次の瞬間。

 

 ゴオオオオッ!

 

 壁から炎が噴き出した。

 

「うわあああっ!」

 

 炎が一行へ迫る。

 

「蛍!」

 

 たかふみが叫ぶ。

 

 蛍が剣を構える。

 

 しかし。

 

 おじさんが前へ出た。

 

「ワーグレント・マグナ――疾風操作」

 

 風が巻き起こる。

 

 正面から吹き付ける炎の流れが横へ逸れていく。

 

 ゴォッ!

 

 炎は誰もいない壁へ向かって流れた。

 

 壁が赤く染まる。

 

「助かった……」

 

 たかふみが息を吐く。

 

「すごい!」

 

 ベネットが目を輝かせる。

 

「風で炎の向きを変えたのか!」

 

「ああ」

 

「便利だな!」

 

「使い方次第だ」

 

 おじさんが装置を見る。

 

「この遺跡はまだ機能している」

 

「つまり?」

 

 たかふみが尋ねる。

 

「奥にも罠がある可能性が高い」

 

「……」

 

 たかふみはベネットを見る。

 

 ベネットもたかふみを見る。

 

「俺、触らないほうがいい?」

 

「絶対に触らないほうがいい」

 

「分かった!」

 

 ベネットは真剣な顔で頷いた。

 

 しばらく進むと。

 

 今度は広い部屋に出た。

 

 中央には大きな石の台座。

 

 その周囲には、古い装置が並んでいる。

 

「何もいないな」

 

 ベネットが言う。

 

「静かすぎる」

 

 蛍が剣を握る。

 

「何かいる」

 

 おじさんが言った。

 

 その瞬間。

 

 部屋の奥から音がした。

 

 ガシャッ。

 

「来る!」

 

 たかふみが叫ぶ。

 

 石の陰から魔物が姿を現した。

 

 複数のヒルチャール。

 

 さらに、その奥には大型のヒルチャールが一体。

 

「敵か!」

 

 ベネットが剣を抜く。

 

「蛍!」

 

 蛍が前へ出る。

 

「分かった!」

 

 ヒルチャールが一斉に襲いかかる。

 

 蛍が攻撃を受け止める。

 

 一体。

 

 二体。

 

 三体。

 

 敵を引きつけながら、少しずつ後退する。

 

「おじさん!」

 

「分かっている」

 

 おじさんが手を掲げる。

 

「レグスウルド スタッガ――縛動 拘鎖」

 

 魔法の拘束がヒルチャールの身体を縛る。

 

 動きが止まった。

 

「これなら行ける!」

 

 ベネットが突っ込む。

 

「はあっ!」

 

 炎をまとった剣を振り抜く。

 

 ヒルチャールが吹き飛ぶ。

 

「もう一体!」

 

 たかふみが叫ぶ。

 

 ベネットが振り返る。

 

 炎が弾ける。

 

「任せろ!」

 

 ベネットの剣が敵を捉える。

 

 炎元素が傷口へ広がり、ヒルチャールが怯む。

 

 蛍がそこへ追撃する。

 

 敵が倒れた。

 

「いい連携!」

 

 パイモンが叫ぶ。

 

「まだいる!」

 

 大型のヒルチャールが棍棒を振り上げた。

 

「ベネット、下がって!」

 

 蛍が叫ぶ。

 

「分かった!」

 

 ベネットが横へ飛ぶ。

 

 棍棒が床を叩く。

 

 石片が飛び散った。

 

 おじさんが距離を取る。

 

 大型のヒルチャールがこちらへ向かってくる。

 

 おじさんは敵の動きを見る。

 

 正面からの攻撃。

 

 速度は遅い。

 

 だが、当たれば危険。

 

「蛍」

 

 おじさんが短く呼ぶ。

 

「うん」

 

 蛍が意図を理解する。

 

 正面から蛍が攻撃。

 

 敵の意識がそちらへ向く。

 

 その瞬間。

 

「レグスウルド スタッガ――縛動 拘鎖」

 

 大型のヒルチャールの動きが止まった。

 

「今!」

 

 ベネットが突っ込む。

 

「いけえええっ!」

 

 炎をまとった剣が振り抜かれる。

 

 大型のヒルチャールが怯む。

 

 蛍が続く。

 

 一閃。

 

 そして、おじさんが最後に光剣を振る。

 

 敵が倒れた。

 

 部屋に静寂が戻る。

 

「終わったな」

 

 おじさんが言う。

 

「やった!」

 

 ベネットが拳を握る。

 

「みんな強いな!」

 

 たかふみはベネットを見る。

 

 戦闘中のベネットは、本当に頼りになる。

 

 炎元素。

 

 剣術。

 

 仲間との連携。

 

 少なくとも、戦っている間は不運の少年という印象を忘れるくらいだ。

 

「能力は普通に強いんだよな……」

 

 たかふみが呟く。

 

「ん?」

 

 ベネットが振り返る。

 

「何か言った?」

 

「いや」

 

 たかふみは苦笑した。

 

 おじさんもベネットを見る。

 

「こいつ、戦えるぞ」

 

「だろ?」

 

 ベネットが嬉しそうに笑う。

 

「俺だって冒険者だからな!」

 

「戦闘では問題ない」

 

「おっ!」

 

「問題はそれ以外だ」

 

「……」

 

 ベネットが固まる。

 

 たかふみが吹き出した。

 

「そこは否定できないな」

 

「ひどいな!」

 

 ベネットは笑った。

 

 けれど。

 

 不思議と空気は悪くない。

 

 人数は少ない。

 

 ベネット一人。

 

 蛍。

 

 おじさん。

 

 たかふみ。

 

 パイモン。

 

 それだけだ。

 

 それでも。

 

 戦闘になれば自然と役割が決まる。

 

 蛍が前に出る。

 

 おじさんが敵の動きを止める。

 

 ベネットが炎元素で攻撃する。

 

 たかふみが周囲を確認する。

 

 パイモンが状況を伝える。

 

「なんか……」

 

 たかふみが周囲を見る。

 

「意外と息が合ってるな」

 

「そうだな」

 

 おじさんも頷いた。

 

「冒険団みたいだ!」

 

 ベネットが嬉しそうに言う。

 

「これでベニー冒険団の仲間が増えたな!」

 

「いつの間に」

 

 たかふみが苦笑する。

 

「いいじゃないか!」

 

 ベネットは楽しそうだった。

 

 しかし。

 

 遺跡はまだ終わっていない。

 

 部屋の奥には、さらに続く通路がある。

 

 そこには今までより複雑な装置が並んでいた。

 

 壁にはいくつもの扉。

 

 床には複数の石板。

 

 天井には巨大な機械。

 

「……これは面倒そうだな」

 

 たかふみが呟く。

 

「おじさん、分かる?」

 

「まだ分からない」

 

 おじさんが周囲を確認する。

 

「仕掛けが連動している可能性がある」

 

「つまり?」

 

「一つ動かすと、別の場所も動く」

 

「うわ……」

 

 ベネットが真剣な顔になる。

 

「今度こそ、絶対に触らない!」

 

「それがいい」

 

 おじさんが答える。

 

「任せてくれ!」

 

 ベネットが胸を張った。

 

 その直後。

 

 ベネットの背中に何かが当たった。

 

「ん?」

 

 カチッ。

 

 たかふみが振り返る。

 

「……」

 

 ベネットも振り返る。

 

 壁の装置が動き始めた。

 

「……ベネット」

 

「……」

 

「何をした?」

 

「何もしてない!」

 

 ガコン。

 

 奥の扉が開いた。

 

 その先には、さらに深い遺跡が続いている。

 

「……」

 

 全員が沈黙する。

 

 ベネットが恐る恐る笑った。

 

「開いたから、結果オーライってことで!」

 

 たかふみは頭を抱えた。

 

「それでいいのかよ……」

 

 おじさんは開いた扉を見る。

 

「進むぞ」

 

「おう!」

 

 ベネットが元気よく返事をする。

 

 こうして。

 

 一行は、さらに遺跡の奥へ進んでいった。

 

 このときはまだ誰も知らなかった。

 

 ベネットの不運が。

 

 この遺跡で、思わぬ形で役に立つことになるとは――。

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