異世界おじさん、原神の世界へ   作:ところてんの

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第24話「運の悪い日」

 遺跡の奥へ進む。

 

 通路は、先ほどまでとは明らかに違っていた。

 

 壁に刻まれた紋様は増え、床には複雑な石板が並んでいる。

 

 天井には古い機械。

 

 壁際には用途の分からない装置。

 

 どれも長い年月が経っているはずなのに、まだ動く気配を残していた。

 

「ここ、かなり深いな」

 

 たかふみが周囲を見る。

 

「俺もここまで来たのは初めてだ」

 

 ベネットが答えた。

 

「だから楽しみなんだ!」

 

「楽しみなのはいいけど、絶対に何か触るなよ」

 

「分かってる!」

 

 ベネットは元気よく返事をした。

 

 おじさんが先頭を歩く。

 

 その後ろを蛍。

 

 ベネット。

 

 たかふみ。

 

 パイモンが続く。

 

 しばらく進んだところで、通路が開けた。

 

「……広い」

 

 たかふみが呟く。

 

 そこには巨大な扉があった。

 

 高さは数メートル。

 

 古びた石で作られ、中央には見たことのない紋様が刻まれている。

 

「これが一番奥の扉か?」

 

 ベネットが近づく。

 

「たぶんな」

 

 おじさんが扉を確認する。

 

 周囲にもいくつか装置がある。

 

「この装置を動かせば開くのかもな」

 

 ベネットが一つの装置を見る。

 

「触るな」

 

 おじさんが言った。

 

「分かってるって」

 

 ベネットが手を伸ばす。

 

「……」

 

 たかふみが嫌な予感を覚える。

 

「ベネット」

 

「大丈夫だって!」

 

「いや、だから――」

 

 カチッ。

 

「……」

 

 ベネットが固まった。

 

 装置が動く。

 

 ゴゴゴゴゴ……。

 

「え?」

 

 地面が揺れ始めた。

 

「おじさん」

 

「まずいな」

 

 揺れが大きくなる。

 

 壁から砂埃が落ちる。

 

 天井から小石が降ってくる。

 

「やっぱり俺のせいか!?」

 

 ベネットが叫ぶ。

 

「たぶんそう」

 

 たかふみが即答した。

 

「即答!?」

 

 その瞬間。

 

 ゴォン!

 

 巨大な扉が動いた。

 

「開いた?」

 

 パイモンが声を上げる。

 

 違った。

 

 扉は閉じ始めていた。

 

「え?」

 

 ベネットが振り返る。

 

「待って!」

 

 蛍が走る。

 

 しかし間に合わない。

 

 ドォン!

 

 巨大な扉が完全に閉じた。

 

「……」

 

 全員が扉を見る。

 

「閉じ込められたな」

 

 おじさんが淡々と言う。

 

「いや、冷静すぎるだろ!」

 

 たかふみが叫ぶ。

 

「どうするんだよ!」

 

「出口を探す」

 

「それだけ!?」

 

「他にない」

 

 おじさんが周囲を見渡す。

 

 そのとき。

 

 カチッ。

 

 別の装置が作動した。

 

「……」

 

 たかふみの顔が引きつる。

 

「今度は何?」

 

 ゴオオオッ!

 

 壁から炎が噴き出した。

 

「うわっ!」

 

 ベネットが飛び退く。

 

「炎!」

 

 蛍も横へ移動する。

 

 おじさんが手を伸ばす。

 

「ワーグレント・マグナ――疾風操作」

 

 強い風が吹き抜けた。

 

 炎の向きが変わる。

 

 壁際へ流れていった。

 

「右へ」

 

 おじさんが言う。

 

 蛍がすぐに移動する。

 

「たかふみ、パイモンも!」

 

「分かった!」

 

 全員が右側へ移動する。

 

 直後。

 

 ゴゴゴゴッ!

 

 天井が震えた。

 

「次は何だ!?」

 

 たかふみが叫ぶ。

 

 天井の一部が崩れる。

 

「落石!」

 

 ベネットが叫ぶ。

 

「走れ!」

 

 蛍が前へ出る。

 

 おじさんが周囲を見る。

 

「左」

 

 蛍が左へ移動する。

 

「次は?」

 

「止まれ」

 

「え?」

 

 蛍が急停止した。

 

 その直後。

 

 ドゴォン!

 

 巨大な岩が、目の前を通過した。

 

「……」

 

 たかふみの顔から血の気が引く。

 

「今の、当たってたら……」

 

「危なかったな」

 

 おじさんは淡々としている。

 

「危なかったな、じゃないよ!」

 

 たかふみは冷や汗を拭う。

 

「死んでたぞ!」

 

「だから止まれと言った」

 

「それはそうだけど!」

 

 さらに。

 

 カチカチカチッ。

 

 壁の奥から音がする。

 

「またかよ!」

 

 ベネットが叫ぶ。

 

 壁が開いた。

 

 そこから巨大な刃が飛び出してくる。

 

 ギィン!

 

 ギィン!

 

 鋭い刃が高速で回転している。

 

「刃!?」

 

 パイモンが叫ぶ。

 

「下がれ!」

 

 蛍がベネットを引っ張る。

 

 おじさんは風を操り、刃の動きをわずかに逸らす。

 

「走るぞ」

 

「どこへ!?」

 

「正面」

 

 おじさんが進む。

 

 炎。

 

 落石。

 

 回転する刃。

 

 次々と仕掛けが作動する。

 

 おじさんはそのたびに周囲を確認し、精霊魔法を使って一行を誘導していく。

 

 炎を風で逸らす。

 

 落下する石を避ける。

 

 危険な場所を見極める。

 

「右へ」

 

 蛍が動く。

 

「次は?」

 

「三歩前」

 

 蛍が進む。

 

「止まれ」

 

 蛍が止まった。

 

 足元の石板が沈む。

 

「……」

 

「今のも罠か」

 

 たかふみが呟く。

 

「ああ」

 

 おじさんが答える。

 

「よく分かるな」

 

「見れば分かる」

 

「俺には全然分からないけど……」

 

 たかふみは周囲を見渡す。

 

 罠だらけだった。

 

 どこを歩いても危険。

 

 少し間違えば、炎が飛んでくる。

 

 石が落ちる。

 

 刃が迫る。

 

「こんなの、ゲームだったら初見殺しだろ……」

 

 たかふみが呟く。

 

「ゲーム?」

 

 ベネットが聞く。

 

「なんでもない」

 

 たかふみは首を振る。

 

 そのとき。

 

「おじさん!」

 

 蛍が叫ぶ。

 

 前方から巨大な岩が転がってきた。

 

「走れ!」

 

 全員が走る。

 

「うわあああ!」

 

 ベネットも必死に走った。

 

「右!」

 

 おじさんが叫ぶ。

 

 蛍が右へ。

 

 たかふみも続く。

 

 パイモンも飛ぶ。

 

 ベネットだけが――。

 

「うわっ!」

 

 足を滑らせた。

 

「ベネット!」

 

 たかふみが叫ぶ。

 

「止まれ!」

 

「無理!」

 

 ベネットの身体が前へ滑っていく。

 

「うわああああ!」

 

 そのまま。

 

 ドン!

 

 壁際にあった装置へ突っ込んだ。

 

 カチッ。

 

「……」

 

 全員が止まった。

 

 ゴゴゴゴゴ……。

 

 動いていた遺跡の仕掛けが止まる。

 

 炎が消える。

 

 回転していた刃も止まる。

 

 落石も止まった。

 

 遺跡全体が静まり返った。

 

「……」

 

 たかふみが目を瞬かせる。

 

「……止まった?」

 

 パイモンが呟いた。

 

 蛍も周囲を見る。

 

「止まったみたい」

 

 おじさんが装置へ近づく。

 

 しばらく確認する。

 

「解除されたな」

 

「え?」

 

 たかふみが装置を見る。

 

「本当に?」

 

「ああ」

 

 おじさんが頷く。

 

 ベネットは装置の前で倒れていた。

 

「……痛てて」

 

 ゆっくり起き上がる。

 

「みんな、大丈夫か?」

 

「大丈夫だけど……」

 

 たかふみはベネットを見る。

 

「お前、何した?」

 

「何って……」

 

 ベネットは装置を見る。

 

「転んだ」

 

「それは見れば分かる」

 

「そしたら、これにぶつかった」

 

「それも見れば分かる」

 

 ベネットが笑う。

 

「やっぱり俺、持ってるだろ?」

 

「どこが!?」

 

 たかふみは思わず叫んだ。

 

「どう考えても運が悪いだろ!」

 

「でも止まったぞ?」

 

「結果だけ見ればな!」

 

 パイモンも呆れる。

 

「ベネットの不運って、たまにすごいな……」

 

「だろ?」

 

「褒めてないぞ!」

 

 ベネットは楽しそうに笑っている。

 

「でも、助かったじゃないか!」

 

 たかふみは言い返そうとして。

 

 やめた。

 

 実際に助かった。

 

 ベネットが転ばなければ、あの装置にぶつかることもなかった。

 

 そして。

 

 仕掛けが止まることもなかった。

 

「……」

 

 たかふみは改めてベネットを見る。

 

 ゲームでは。

 

 不運なキャラクター。

 

 面白い設定。

 

 そう思っていた。

 

 でも。

 

 現実で見ると、とんでもない。

 

「おじさん」

 

「なんだ」

 

「これ、本当に偶然?」

 

「偶然だろう」

 

「だよな……」

 

 おじさんは余計なことを考えず、装置の周囲を調べ始めた。

 

「ここから出る」

 

「出口、分かるの?」

 

 蛍が尋ねる。

 

「探す」

 

 おじさんは目を閉じた。

 

 周囲の気配を探る。

 

 精霊へ意識を向ける。

 

「……」

 

 たかふみには何も見えない。

 

 もちろん、おじさんにも精霊そのものが見えているわけではない。

 

 ただ、周囲の気配を感じ取っている。

 

「北側」

 

 おじさんが言った。

 

「向こうに空気の流れがある」

 

「出口?」

 

「可能性が高い」

 

 おじさんが歩き始める。

 

「行くぞ」

 

「おう!」

 

 ベネットも立ち上がる。

 

「今度は転ばないようにする!」

 

「それ、さっきも聞いた」

 

 たかふみが言う。

 

「今度は本当に!」

 

「……」

 

 たかふみは不安そうにベネットを見る。

 

 だが。

 

 今度はおじさんが先頭。

 

 その後ろを蛍。

 

 ベネット。

 

 たかふみ。

 

 パイモン。

 

 慎重に進んでいく。

 

 おじさんは精霊から得た気配を頼りに、通路を選んでいく。

 

「左」

 

「こっち?」

 

「ああ」

 

 進む。

 

「次は右」

 

 進む。

 

「その石板は踏むな」

 

「分かった!」

 

 ベネットが大きく避ける。

 

「今の、俺だったら踏んでたな」

 

「踏まなくていい」

 

「だよな!」

 

 やがて。

 

 薄暗かった通路の先に、光が見えた。

 

「外だ!」

 

 ベネットが叫ぶ。

 

 走り出そうとする。

 

「待て」

 

 おじさんが止める。

 

「罠が残っている可能性がある」

 

「あっ」

 

 ベネットが止まった。

 

 最後の仕掛けを慎重に避ける。

 

 そして。

 

 外へ出た。

 

「……」

 

 全員が立ち止まる。

 

 外の風が気持ちいい。

 

「出られた……」

 

 たかふみが息を吐く。

 

「やったー!」

 

 パイモンが飛び上がる。

 

 ベネットも大きく伸びをした。

 

「いやー、すごい冒険だったな!」

 

「誰のせいであんなことになったと思ってるんだよ」

 

 たかふみが言う。

 

「俺?」

 

「そう」

 

「でも、最後は俺のおかげだろ?」

 

「……」

 

 たかふみは言葉に詰まる。

 

 確かに。

 

 最後に仕掛けを止めたのはベネットだ。

 

「……そこだけは否定できない」

 

「だろ!」

 

 ベネットが嬉しそうに笑う。

 

 蛍も少し笑った。

 

「結果的には助かった」

 

「よし!」

 

 ベネットが拳を握る。

 

 おじさんは遺跡を見る。

 

「今日は十分だ」

 

「もう帰る?」

 

 たかふみが聞く。

 

「ああ」

 

 おじさんが歩き始める。

 

 蛍たちも続く。

 

 たかふみは最後に遺跡を振り返った。

 

 そして、隣を歩くベネットを見る。

 

「……不運って、すごいな」

 

「何か言った?」

 

「なんでもない」

 

 ベネットは気にせず前を向いている。

 

 ゲームでは、ただの設定だった。

 

 運が悪い少年。

 

 何をしてもトラブルに巻き込まれる冒険者。

 

 けれど。

 

 現実では、その不運が命を危険にさらすこともある。

 

 そして時には。

 

 その不運が、あり得ない形で仲間を助けることもある。

 

「……本当に、とんでもない奴だな」

 

 たかふみは小さく呟いた。

 

 ベネットが振り返る。

 

「呼んだ?」

 

「呼んでない」

 

「そっか!」

 

 ベネットは笑った。

 

 一行はモンドへ向かって歩いていく。

 

 その背後で。

 

 古い遺跡だけが、静かに佇んでいた。

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