異世界おじさん、原神の世界へ   作:ところてんの

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第25話「皇女と従者」

 遺跡を出た一行は、モンドへ続く街道を歩いていた。

 

 先ほどまでいた遺跡の中とは違い、外は穏やかだった。

 

 青い空。

 

 遠くに見える草原。

 

 風に揺れる木々。

 

 ――少なくとも、今のところは何も起きていない。

 

「いやー、今日はすごかったな!」

 

 隣を歩くベネットが、楽しそうに笑っている。

 

「遺跡の罠が全部止まったのも、俺の運が良かったからだよな!」

 

「……まあ、結果だけ見ればな」

 

 たかふみは苦笑する。

 

 実際、ベネットが余計なところに触ったせいで罠が作動した。

 

 炎。

 

 落石。

 

 回転する刃。

 

 普通なら、とても笑って済ませられる状況ではない。

 

 だが最後には、ベネットが偶然装置を作動させたことで、すべての罠が停止した。

 

「でも、もう少し慎重にしたほうがいいと思うぞ」

 

 蛍が言う。

 

「うっ……それは反省してる」

 

 ベネットが肩を落とした。

 

「次からは気をつける!」

 

「本当に?」

 

「……たぶん!」

 

「そこは『絶対』だろ」

 

 たかふみがツッコむ。

 

「ははは!」

 

 ベネットは笑っている。

 

 ――相変わらず元気だ。

 

 ゲームで知っていたキャラクター。

 

 そのベネットが、今は目の前で笑っている。

 

 最初は不思議だった。

 

 ゲームの中では設定として知っていた性格も、ここでは一人の人間として存在している。

 

 運が悪い。

 

 でも、その運の悪さを本人はあまり気にしていない。

 

 むしろ楽しそうに冒険をしている。

 

 そんなことを考えていると――。

 

「……ん?」

 

 前方に、人影が見えた。

 

 一人の少女。

 

 その隣には、大きな黒い鳥が飛んでいる。

 

 少女は、こちらに気づくと立ち止まった。

 

 そして、堂々とした姿勢でこちらを見つめる。

 

「我が名はフィッシュル!」

 

 突然、少女が名乗った。

 

「この世界の闇を見通す断罪の皇女なり!」

 

「……」

 

 たかふみの足が止まった。

 

「……え?」

 

 知っている。

 

 もちろん知っている。

 

 フィッシュル。

 

 原神に登場するキャラクター。

 

 隣にいるのはオズ。

 

 ゲームの知識そのままの姿だった。

 

「……フィッシュル?」

 

 思わず名前が口から出る。

 

 すると、フィッシュルがこちらを見る。

 

「ほう……」

 

 紫色の瞳がたかふみに向けられた。

 

「汝、我が名を知っているのか?」

 

「あ、いや……」

 

 たかふみは一瞬言葉に詰まる。

 

 ゲームで知っている。

 

 そう説明するわけにはいかない。

 

「……有名なんじゃないか?」

 

「フフ……当然であろう!」

 

 フィッシュルは満足そうに胸を張った。

 

「我が名はテイワットに轟いているのだから!」

 

 その横で、オズが軽く頭を下げる。

 

「失礼しました。お嬢様はフィッシュル。そして私はオズです」

 

「よろしく」

 

 蛍が答える。

 

「オイラはパイモン!」

 

「俺はベネット!」

 

「……たかふみ」

 

 最後にたかふみが名乗る。

 

 そして――。

 

「俺は……」

 

 おじさんが口を開いた。

 

 一瞬だけ間がある。

 

「ウルフガンブラッドだ」

 

「いや、なんでその名前なんだよ!」

 

 たかふみが即座にツッコんだ。

 

「身元を隠すためだ」

 

「いや、だからって!」

 

 フィッシュルは少し驚いたようにおじさんを見る。

 

「異界の者か……」

 

 その言葉に、おじさんは特に反応しなかった。

 

 ただ、淡々と答える。

 

「必要だから使っている」

 

「絶対なんかおかしいだろ……」

 

 たかふみは小さくため息をついた。

 

 どうしてよりによって、その名前なのか。

 

 もっと普通の名前はなかったのか。

 

 ――まあ、おじさんに普通を期待するほうが間違っている。

 

「ところで」

 

 フィッシュルが、おじさんへ視線を向けた。

 

「先ほどから気になっていた。汝から感じる力……この世界の元素とは異なるな」

 

 おじさんは少しだけ考える。

 

「精霊魔法だ」

 

「精霊……?」

 

 オズが興味深そうに反応した。

 

「なるほど……精霊と意思を通わせ、その力を借りているのですか」

 

「そうだ」

 

 おじさんは短く答えた。

 

「元素とは違う」

 

「やはり……」

 

 オズは静かに頷く。

 

「異界の魔術師。その力は、我々の元素とは明らかに異なるようですね」

 

「まあ、そうなるな」

 

 たかふみは横から口を挟んだ。

 

「おじさんの精霊魔法って、この世界の元素とは別物だから」

 

「興味深い……!」

 

 フィッシュルの目が輝いた。

 

「異界より伝わりし秘術……まさしく禁断の魔導ではないか!」

 

「禁断かどうかは知らない」

 

 おじさんは淡々としている。

 

「精霊に頼んでいるだけだ」

 

「いや、それで済ませるなよ……」

 

 たかふみは思わずツッコんだ。

 

 だが、フィッシュルとオズは笑わなかった。

 

 むしろ真剣におじさんを見ている。

 

 どうやら、本当に興味を持っているらしい。

 

「それで」

 

 蛍がフィッシュルに尋ねた。

 

「あなたたちは、ここで何をしていたの?」

 

「我らは闇の動きを追っている」

 

 フィッシュルが答える。

 

 オズが補足する。

 

「最近、この周辺でヒルチャールの動きが妙に活発になっているのです。それに、一部ではアビスの魔術師らしき姿も確認されています」

 

「アビスの魔術師……」

 

 たかふみの表情が変わった。

 

 ゲームでも知っている敵だ。

 

 そして――。

 

 この時期に動きが活発になるのは、風魔龍の事件と無関係ではない。

 

「西の森で特に動きが多い」

 

 オズが続ける。

 

「まだ確かなことは分かりませんが、何かが起きている可能性があります」

 

 おじさんが周囲を見る。

 

 森の方向。

 

 風の流れ。

 

 街道の先。

 

 しばらく黙っていた。

 

「……俺たちも調べている」

 

 おじさんが言う。

 

「風魔龍の後から、魔物の動きが変だ」

 

「ほう」

 

 フィッシュルが反応する。

 

「ならば、目的は同じということか」

 

「そうなる」

 

 おじさんは頷いた。

 

 フィッシュルが一歩前に出る。

 

「ならば我も同行しよう!」

 

 たかふみは少し驚いた。

 

「一緒に来るのか?」

 

「当然であろう!」

 

 フィッシュルは胸を張る。

 

「闇を追うことは、断罪の皇女たる我の使命なのだから!」

 

 オズが静かに続ける。

 

「私も同行いたします。お嬢様一人で行かせるわけにはいきませんので」

 

 おじさんはすぐには答えなかった。

 

 フィッシュルとオズを見る。

 

「何を調べている?」

 

「先ほど申し上げた通り、この周辺のヒルチャールとアビスの魔術師の動きです」

 

 オズが答える。

 

「風魔龍の事件との関連も考えています」

 

「……なら、構わない」

 

 おじさんが言った。

 

「目的が同じなら、一緒に調べたほうが早い」

 

「決まりだな!」

 

 フィッシュルが満足そうに頷く。

 

「我が力を貸そう!」

 

「よろしく」

 

 蛍も頷いた。

 

「オズも」

 

「ええ。こちらこそ」

 

 オズが丁寧に頭を下げる。

 

 たかふみも二人を見る。

 

 フィッシュル。

 

 オズ。

 

 ゲームで知っていたキャラクターが、今は目の前にいる。

 

 しかも、ただゲームの設定通りに動いているわけじゃない。

 

 自分たちの意思で行動している。

 

 そのことを、たかふみは改めて実感した。

 

「じゃあ、西の森に向かうんだな」

 

「そうだ」

 

 おじさんが答える。

 

「近い」

 

「よし!」

 

 ベネットが拳を握る。

 

「俺も行く!」

 

 たかふみが振り返った。

 

「ベネットも?」

 

「もちろん!」

 

 ベネットは笑う。

 

「冒険は人数が多いほうが楽しいからな!」

 

「……まあ、そうだけど」

 

 たかふみは少しだけ不安になった。

 

 このメンバー。

 

 大丈夫なのか。

 

 おじさん。

 

 蛍。

 

 パイモン。

 

 ベネット。

 

 フィッシュル。

 

 オズ。

 

 どう考えても、普通の調査隊ではない。

 

「ところで、おじさん」

 

「なんだ」

 

「フィッシュルのこと知ってた?」

 

「名前は知らなかった」

 

「じゃあ、さっき普通に対応してたのは?」

 

「そういう人だと思っただけだ」

 

「判断早すぎるだろ」

 

 たかふみが呆れる。

 

 すると、フィッシュルがこちらを振り返った。

 

「異界の旅人よ」

 

「俺?」

 

「汝もまた、我らとは異なる知識を持っているようだな」

 

「……まあな」

 

「ならば、その知識も頼りにさせてもらおう」

 

「分かった」

 

 たかふみは頷いた。

 

 ゲームの知識。

 

 それが役に立つことは多い。

 

 でも最近は、それだけでは足りない。

 

 この世界では、ゲームにはなかったことが起きる。

 

 遺跡の罠もそうだった。

 

 ベネットの不運もそうだった。

 

 そして――。

 

 フィッシュルやオズとの出会いも、本来の記憶とは少し違っている。

 

「……また変わってきたな」

 

 たかふみが小さく呟く。

 

「何か言った?」

 

 蛍が尋ねる。

 

「いや」

 

 たかふみは首を振った。

 

「なんでもない」

 

 前を歩くおじさんが振り返る。

 

「行くぞ」

 

「分かった」

 

 たかふみも歩き出す。

 

 フィッシュルとオズも、その後に続く。

 

 向かう先は、西の森。

 

 風魔龍の事件以降、活発になったヒルチャール。

 

 そして、その背後にいるかもしれないアビスの魔術師。

 

 何が起きているのか。

 

 まだ分からない。

 

 ただ一つ確かなのは――。

 

 ここから先は、ゲームで知っている物語とは少しずつ違っていく。

 

 そんな予感が、たかふみにはあった。

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